目線で操作できるだけじゃない『FOVE』視線追跡が秘める戦略性

2015.05.20 11:31

視線追跡型VRヘッドセット「FOVE」がKickstarterプロジェクトを開始した。医療や観光、教育といった幅広い分野での活用が見込まれ、SF Japan Nightで優勝、Slush Asiaでは3位を受賞するなど、各方面から期待が高まっている。SENSORSでも過去に取り上げているが、今回はそのアップデートも含め、FOVEの可能性をぐんっと引き上げることに貢献しているある機能にフォーカスしてみたい。

FOVE Kickstarter概要

これまでのヘッドマウントディスプレイ(HMD)では、ユーザーは画面の中の対象物を選択したり動かしたりすることは、両目の視差が影響して難しいものが多かった。その課題を視線追跡技術(アイトラッキング)を導入することで解決し、ユーザーの視線を用いることでコントローラブルなVR世界を実現したのが「FOVE」。

5月19日(火)DMM.make AKIBAにて、メディアを対象とした「FOVE」のKickstarterプロジェクトのキックオフイベントが開催された。Kickstarterでは量産開始に向け25万ドルを募り、349ドル以上の出資で、FOVE本体を特別価格での先行予約が可能になる。VRコンテンツのプラットフォーム「Wear VR」との提携も発表し、量産化と同時にコンテンツの充実化にも力を入れ始める。2015年第3四半期に向けて、デベロッパー向けの開発キッドも配布する予定。

イベントでは、女優の池澤あやか氏、FOVE CEOの小島 由香氏、CTOのLochlainn Wilson氏によるトークセッションなどが催された。開発の経緯、競合品との違いやFOVEの今後など、池澤氏の質問にFOVEの2人が応える形で進行され、その中で「VR」の経験したことのある方ならば"あるある"とも言えるあることが話題に上がった。

■「VR酔い」を軽減するFOVEならではの画面処理

トークセッションの様子。小島氏(左)とLochlainn氏(中央)と池澤氏(右)

VRを体験した時、慣れない画面感や動作感で「酔って」しまうような経験をしたことがないだろうか。現実とは違って仮想現実の中の全ての要素に視線のピントが合ってしまうこと、慣れない首の動きが「酔い」の原因だと推察される。ところが、アイトラッキング機能を持つFOVEは、ユーザーの視線が合う箇所以外の画面をぼかすことで、より現実に近い世界感を演出することができるので、酔いにくいことが特徴の一つ。実際にFOVEを体験した池澤氏も「他のHMDは自分の視界じゃない感がすごくあったけど、FOVEだと自然な視線の世界になる。」と感想を述べていた。

■低スペックのPCやスマートフォンでVRが楽しめる世界に

ピントが合う部分は高解像度に表示( https://www.kickstarter.com/projects/fove/fove-the-worlds-first-eye-tracking-virtual-reality )

FOVEには、ユーザーの注視している箇所にのみ高精度な仮想世界を生成するためのパワーを集中し、見ていない部分には低解像度での生成を行う機能がある。これは現実感を演出することや「酔い」を抑えることに加えて、仮想世界を処理生成する全体的なパワーを抑えることができる(= フォビエイテッドレンタリング)。従来のHMDでVRを楽しむためには、かなり高いスペックを保持したPC装置が必要だった。FOVEのこの機能を改良していけば、家庭用の低スペックPCやスマートフォンに繋げることでVRを楽しむことができるようになる。

フォビエイテッドレンタリングは、一人のユーザーにとって使い心地がよくなるだけでなく、今後「ビジネス」として発展させていくための戦略性を秘めている。

■未発達のVR市場はどのようなステップを経て成長するか

FOVEのビジョンを語る小島氏

「VR」は社会全体でみれば、まだまだ馴染みの薄い言葉だ。そもそもどんなものなのか、なにができるのかも知らない人が山ほどいる。クラウドファンディングを開始したとはいえ、「FOVE」をしっかりとしたビジネスにしていくには、VR自体の認知向上も含め、市場のサイズアップは欠かせない。そのためには、今の生活者に大きな負担をかけることなくVR市場に足を踏み入れるための「小さな入り口」が必要になる。

例えば、ダンボール製のビューワーにスマートフォンを差し込むだけで手軽なVR体験をできるようにするというアイデアは、生活者が小さなステップでVRに踏み入れることができ、まさに「小さな入り口」として機能するように思う。しかし、こうした「手軽なVR」が注目を浴びているのは、単に生活者にとって物珍しいものであるからであり、すぐに飽きられてしまう、という指摘もある。VRをきちんと生活レベルまで根付かせていくためには、高精度の体験ができることの必要性を小島氏とLochlainn氏は説いていた。

小さな入り口をつくるという意味では、フォビエイテッドレンタリングは、より多くの生活者がVRを楽しむためのハードルを下げることに大きな役割を果たし、ビジネス面での成功を収めるには核になる要素だと考えられる。量産化に成功して、実際に販売を開始する時の価格は、400ドル~500ドルを想定。スマートフォンの購入価格を考えれば決して手の届かない値段ではない。そしてそれが特殊な環境を用意することなく楽しめるようになる。

今後、VR領域はどのように市場が形成されていくのか。「FOVE」が生み出す新しい世界と可能性に胸を躍らせつつも、この分野の動向を広い視野を持って捉えていきたいと思う。

取材:石塚たけろう

石塚たけろう: ベンチャーキャピタルやデジタルマーケティング企業複数社での業務を経験後、大手企業とスタートアップの共同事業開発支援や、VR領域のスタートアップに参画。Webデベロッパー。@takerou_ishi

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