フリーターからマーケターへ!クラウド会計「freee」を支える"三番目の社員"・鈴木ユキナオ

2016.03.01 10:00

2015年、計45億円の資金調達を行い、IT系のベンチャーとしては最大規模の投資を受け急速な成長を遂げている「クラウド会計ソフト freee(フリー)」。現在、約160名の社員がいる freee に"三番目の社員"として入社し、急速な拡大を続ける同社のマーケティングを支えている鈴木ユキナオさんに話を伺った。freeeに入社する前はフリーターだったという鈴木さんのキャリアから、ベンチャーで活躍するためのマインドセットと磨くべきスキルのあり方について考えてみたい。

「スモールビジネスに携わるすべての人が創造的な活動にフォーカスできるよう」をミッションに掲げるfreeeは「クラウド会計ソフト」の他にも「給与計算」や「会社設立」のためのツールなどバックオフィス業務を効率化するサービスを提供する。

主力サービスである「クラウド会計ソフト freee」は、中小企業・個人事務所のための会計ソフト。"freee"を使うことで簿記の知識がなくとも、クラウドで簡単に会計業務を行うことができるのだ。

2012年の創業以来、急速に拡大を続けるfreeeに三番目の社員として入社した鈴木幸尚氏は同社のマーケティングを支えている。聞くところによれば、鈴木氏は入社前までフリーターだったそうだ。バーグハンバーグバーグやカヤックと手を組んで行いバズった企画も鈴木氏の発案によるそう。入社の経緯からマーケターとして活躍する現在までのキャリアを伺い、ベンチャーで活躍するために必要なスキル/マインドセットを探っていく。

鈴木幸尚氏:freee マーケティング

■学生時代に"バイラルメディア"と"動画編集"をやっていたことが、マーケターとしての資質につながった

鈴木氏がfreeeに入社した経緯は同社社長・佐々木大輔氏のブログ「元フリーターが大活躍。スタートアップで「経歴」よりも大切な5つのこと。」に詳しい。
「どんなふうにfreeeで活躍できると思う?」との問いかけに対し、「...まあ、イメージのつく範囲では、掃除とか。」と答えた鈴木氏だった。しかし、その翌日以降に見せた行動で佐々木氏は鈴木氏の中に5つのスタートアップに必要なスキル/マインドセットを看破した。

1.あらゆる手口を試してみる
2.謙虚な姿勢と好奇心
3.気合いのリサーチ
4.「アイデアは量」と考えられる
5.一体感を呼ぶ力

引用:クラウド会計ソフト freee - 佐々木大輔のブログ内記事「元フリーターが大活躍。スタートアップで「経歴」よりも大切な5つのこと。

ーーそもそもどういった経緯でフリーターからfreeeに入社することになったのですか?

鈴木:
警備の派遣の仕事をしていたのですが、「OCN家計簿(現Kakeibon)」など当時出始めていた自動でデータを取り込んでいくサービスに関心を持っていたんです。クレジットカード情報や口座の情報が連結され、自動で計算してくれるのは便利だなと。そうした背景の中、情報収集をしているときに見つけたのが「freee」だったんです。

ーーそれで当時まだ数名だったfreeeへ面接に行ったんですね。社長の佐々木さんとの面接はいかがでしたか?

鈴木:
「freeeを広めて、売っていくためにはどうする?」という質問を受けて、色んなアイデアを出したんです。まずは、「面を増やすこと」。そのために、誰かとタイアップしたり、記事を作ったり、SNS をやったり接触面を増やすことをメインに話したと思います。ターゲットは、個人事業主だったので、税務署さんとコラボするようなアイデアもありました。 面接時間は30分ほど。面接を終えた後、歩きながら「あー、これもあったな」「あれはどうだろう」と考えて、翌日、プレゼンシートにまとめて佐々木社長に翌日送りました。

鈴木氏が入社して数ヶ月の写真。もともとは25畳ほどの小さなアパートから始まったfreeeだが、現在に至るまで3度の移転を鈴木氏は経験している。

3番目の社員として入社した鈴木氏だが、当初は"マーケティング"のスキルを持ち合わせていなかった。ベンチャーで自分に求められる"スキル"についてはどのように考えていたのだろうか。そこには、学生時代の経験が役に立っているのだとか。

鈴木:
今で言う...バイラルメディアっていうんですかね...。面白い記事を書いてバズるサイトをやった経験がありした。やっぱりアクセスを伸ばしたいじゃないですか。そんなこんなで、色んな分析と実験をしました。
「なんで、このサイトはこんなアクセスあるんだろう?」と分析したり、ユーザーの求めるモノを分析して、記事としてアウトプットしていきました。予想があたって数字が伸びたときは楽しかったですね。当時は、「マーケティング」という意識は全くなかったのですが、今振り返ると、この経験が今のマーケティングに活きていると思います。

ーー学生時代以前にやっていたことで現在の仕事の役立っていることはそれ以外にありますか?

鈴木氏が一人で制作した「freee」の事例を説明する動画。鈴木氏は社史編纂室にも属し、毎年その年を振り返る動画を作ることが恒例となっているのだとか。
鈴木:
"動画編集"ですかね。PR動画を作ったり会社に貢献できることはもちろんなのですが、動画編集ってかなり思考プロセスを研ぎ澄ます作業なんです。元々、そんなに深く考えられる人間ではないと思いますが、動画編集によって考える力が少しはついたかなぁと思います。動画編集では、見る人の期待を超えるものを出すように努力するのですが、その期待をどうやって超えるか、裏切るかみたいなことを考えたり...そういうプロセスが、今のマーケティング活動にも役に立っているとは思います。

ーーつまり、バイラルメディアを運営していたことと、動画制作をやっていたことが今のマーケティングに役立っているわけですね。学生時代は特段、マーケティングを勉強していたわけではないということですか?

鈴木:
今では笑い話ですが、学生時代にマーケティングの授業で落ちていまして...しかもその時の講師が佐々木さんの先輩の方だったんですよ(笑)
なので、入社当初は、Web や本だったり、その道に詳しい方を紹介していただいたりして学んでいきました。現在のマーケティングチームの体制としては個人・法人・税理士と3つのチームに分かれていて、「freeeの価値を届け、使ってもらい、創造的な活動にフォーカスしてもらう」というのをゴールに設定しています。

■バーグハンバーグバーグ、カヤックとのコラボ企画:"バズ"は問題解決の手段でしかない

freeeのマーケターとして三年が経過した鈴木氏だが、最も印象に残っている仕事はWebでも話題になったバーグハンバーグバーグとのコラボ企画「どこまで経費で落ちるか税理士に聞いてみた」、「35歳無職でも起業したら1週間で社長になれることが判明」やカヤック、格闘ゲーマー・梅原大吾氏とのコラボ「格ゲー世界王者、梅原大吾 会計士に挑戦」だという。
一連のコラボ企画はただ"面白い"で終わりではなく、あくまでも課題解決の手段に過ぎないのだとか。

バーグハンバーグバーグとのコラボ企画「どこまで経費で落ちるか税理士に聞いてみた

鈴木:
以前からバーグハンバーグバーグさんが作るコンテンツが好きだったというのもありますが、ただ面白い記事を上げるのではなく、あくまでも課題解決の手段なんです。freeeは「スモールビジネスに携わるすべての人が創造的な活動にフォーカスできるよう」を掲げていますが、会計の知識が乏しく困っている人は少なくないはずです。こうした方に対して硬派な記事だと、教科書みたいになって読みにくいですよね。
バーグさんと組むことで、面白いコンテンツかつ、しっかりとメッセージを伝えられたのではないかと思います。多くの反響をいただくことができました。

ーーヨッピーさんも登場してる続編「会社設立」の後に、カヤックさんとコラボしたプロゲーマー・梅原大吾さんの記事がありましたよね。梅原さんにご登場いただいたのは何か意図があったのでしょうか?

カヤックとのコラボ企画「格ゲー世界王者、梅原大吾 会計士に挑戦

鈴木:
いや、これはエイプリルフールに出した企画で、まず冗談です(笑)ただ、僕も長らくゲームをやっていて、とにかく梅原さんのスタイルが好きなんです。梅原さんの著書『勝ち続ける意志力』に詳しいですが、長期的に勝ち続けていくためのマインドが素晴らしいなと思うんですね。この企画で課題に設定したのはやっぱり難しいというイメージを持っている"会計"というものの敷居を下げること。freeeとしてはもっとカジュアルに会計を体験してほしくて、こうした企画をその架け橋として実現しました。
今後もこうしたタイアップ企画は継続してやっていきたいです。

■デジタルマーケターとしてユーザーの悩みを解決していきたい

ーー最後に今後の目標を教えてください。

自由な服装で出社する鈴木氏。一部コスプレで業務に取り組むことも少なくないのだとか。それもあってか、freeeオフィスの雰囲気はきわめて和やかだ。

鈴木:
先日、弟がある格闘ゲームのオンラインランキングで1位になったんです。年末に家でテレビでも観ながらゆっくりしようかと思っていたのですがそれを聞くなり、「自分も頑張らなくちゃ」とファミレスに駆け込み、マーケティングに関する本を読み漁りました(笑)
それは置いておいて、今後は世の中の変化に応じて変わるユーザーの行動の変化の中で、デジタルマーケティングの潮流をしっかりと抑えつつ、freeeの成長を支えていきたいです。例えば、freeeのユーザーにも色々な状態の方がいます。取引の登録でつまづいているユーザー、決算書の作り方がわからないユーザーなどなど。こういった方達にどういうコミュニケーションをマーケティングとして取れるのか、より突き詰めて、ユーザーの悩みを自動的に解決できるように取り組んでいきたいと思っています。

佐々木大氏のブログでは経営者の目線からベンチャーで活躍する社員の資質が語られている。エンジニアリング・デザイン・マーケティングなど個別のスキルの裏には、必ず属人的な経験・志向・感情があるはずだ。
鈴木氏の場合で言えば、メディアを運営していたこと、動画編集に長けていたことなどが上記に当たるが、そこから得られた経験をマーケティングに応用することでfreeeの成長を支えてきたと言える。自分にとっては何気ないことでも、経験を抽象化することでスキルに生かすことができるのかもしれない。

取材・文:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。『SENSORS』や『WIRED.jp』などで編集者/ライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。東京大学大学院学際情報学府にてメディア論を研究。最近は「人工知能」にアンテナを張っています。将来の夢は馬主になることです。
Twitter:@_ryh

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