サンフランシスコとの連携スタート--福岡市長・高島宗一郎に聞く"行政によるスタートアップ支援"の形

2016.08.04 12:00

福岡市長の高島宗一郎氏がスタートアップ都市宣言をしてから4年。スタートアップ事業に積極的な姿勢を見せ続けてきた福岡市が、市が運営するスタートアップ拠点「スタートアップカフェ」とサンフランシスコのコミュニティ型ワークスペース「D.Haus San Francisco(以下D.Haus)」との連携を発表した。当連携の発表にあたり、高島市長にインタビューを行った。

2015年10月,福岡地域戦略推進協議会(以下FDC)と「D.Haus」を運営するbtrax, Inc.のパートナーシップ協定締結も記憶に新しい中、今回の連携によってどんな新たな可能性が生まれるのか。福岡市が掲げるスタートアップ都市としての未来の形と、福岡市のスタートアップの現状について伺った。

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■首都でなくても拠点を置く利便性を感じることができたシアトル視察

「最初に刺激を受けたのはシアトルを視察したときでした。首都でなくても、遠く離れた港町、シアトルにアマゾン、マイクロソフト、スターバックスなどグローバル企業が誕生して、今も拠点を構えていることに可能性を感じたことがスタートでした。」と、高島市長は語る。 スタートアップ都市宣言以降、福岡市は市内スタートアップやグローバル展開を視野に入れた企業と共に、様々な海外都市へ現場視察を重ねてきた。そして福岡市のスタートアップ情勢が盛り上がりつつある今、本当の意味でスタートアップが成功するためには何が必要なのか。その答えを探るために、再び北米に渡り、市内スタートアップなどと共にシアトルなどの都市の最先端の現場を視察した。その時に最先端の現場を市内スタートアップなどと共に訪問したのがサンフランシスコに拠点を置くbtrax, Inc.だ。

--今回の連携の目的について教えてください。

高島:
国内のスタートアップが海外へ進出する際、まず事業者だけでは現地での繋がりがなく、行った先で情報を思うように得ることが出来ない。これが壁となります。解決するためには、きちんとしたステップを踏んだきっかけ作りがすごく重要です。その架け橋役を福岡市が担おうと考え、今回の連携を実現しました。
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btrax, Inc. CEO Brandon K. Hill氏と

今回の連携によって受けることができる具体的な支援内容についても注目したい。まず、福岡市が運営する「スタートアップカフェ」を拠点に、サンフランシスコ周辺の情報収集や、各事業者のビジネスがアメリカ市場でマッチするかどうかを調査することが可能となる。現地へ飛ぶ前に必要な情報を前もって収集できるスムーズな導線を提供することで、現地訪問時には効率的に動くことができる。

高島:
「海外を拠点に」とは言っても、海外でオフィスをいきなり借りるというのはとにかくハードルが高い。自分たちのサービスを利用してくれる現地の企業があるのか、そもそも興味を持ってもらえるのか、といった点をもう少し事前の段階で情報収集することができないかと考えていました。今回、「スタートアップカフェ」が「D.Haus」と連携することで、スタートアップが福岡にいながらにしてマッチングできそうなパートナーがいるのか、事業展開の見込みがあるかどうかを知ることが可能になりました。 さらに,現地サンフランシスコで調査などビジネス活動をしたいスタートアップは,「D.Haus」内に設置されたFDCサンフランシスコオフィスを利用することもできます。 実際、「スタートアップカフェ」での海外進出に関する相談件数は,従来は月に4件ほどでしたが,今回の連携によるサービスを開始して以来,ひと月平均30件を超えており、海外と繋がるための前情報を仕入れることにニーズがあった証拠だと言えます。こういったステップを踏むことで海外と繋がるきっかけを手にしてもらいたいです。

■都市間でネットワークを構築。"信頼"の糧となる行政のバックアップ

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Google本社にて

--今後はどのような取り組みをお考えでしょうか?

高島:
日本国内ですら、まだ実績の浅さなどから信頼が足りていないと思われることもあるスタートアップ。だからこそ、行政のバックアップが"信頼"となるよう、都市間でネットワークを組むことによってサポートしていきます。さらに、海外スタートアップが入ってくることで、国内でスタートアップに携わるメンバーとの化学反応が起きることを期待しています。新しい人間関係から刺激を受けたり、マッチングすることでグローバルなネットワークを構築してもらいたいですね。刺激を受けるだけでなく、福岡市内のスタートアップで奮闘する方々のスキルアップや、意識のボトムアップになれば、とも考えています。

--今後は、スタートアップがよりグローバルに展開しやすい環境を構築していく、ということですね。

高島:
現状、グローバルに展開することに高いハードルを感じている事業者の方もまだまだ多いです。国境を越える場合、商習慣も全く異なりますから。それに、身近に海外で成功している人やモデルがなければ、イメージも湧かないでしょう。そこで、福岡市が環境を整え、きっかけを作ることで少しでもハードルを低くしていきたいですね。福岡市で創業する方々が、グローバルであることを当たり前に捉えることができるような流れに変えていきたいです。

■"垣根が低い"からプレイヤー同士が化学反応を起こしやすい

サンフランシスコとの連携によって、福岡市のスタートアップの可能性がまたひとつ増えた。今、なぜサンフランシスコなのか。福岡市が目指すスタートアップ都市の現状と未来の形はどういったものなのか。

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--福岡市のスタートアップ支援の現状について教えてください。

高島:
「裾野」と「高さ」、両面で手応えを感じています。スタートアップカフェを利用して立ち上がった会社の数が66社以上。つまり、結果として自分でビジネスを立ち上げることを選択肢のひとつとして検討し、チャレンジする人が増えたと言えます。もう一方の高さという面では、東証マザーズと福証Q-Boardにダブル上場した「ホープ」のように、スタートアップカフェを経て、次のステージへとステップアップする会社がでてきました。これからのキーワードは「グローバル」展開と「スケール」アップです。

--福岡市と今回連携を発表したサンフランシスコ、共通点はありますか?

高島:
まず港町である程度コンパクトな街というのが挙げられますが、正直感じたのは"垣根が低い"ことです。実際に現地に行ってみると、あの人はどこで何をしている人、のように、プレイヤー1人1人が可視化されていて、それぞれが出会う場所がとにかく多い。天才が集まっているというよりはサービスや事業を実現するために必要な才能を持った人たちがきちんとマッチングできて、チームを組んでいく仕組みがありました。 街がコンパクトゆえに実現できる仕組みで、化学反応が起きやすい環境。これこそサンフランシスコの強みだと感じました。福岡は東京と比べてコンパクトな街で、産学官が混じり合う場所もあります。そういった面で、福岡も似たように特徴化していくことができるのでは、と考えています。

■海外のエコシステムとのネットワーク形成を福岡市による研修プログラムでサポート

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さらに福岡市は先日、福岡市内の起業家やその候補者などを対象としたサンフランシスコやシリコンバレーでの海外研修プログラム『Global Challenge!STARTUP TEAM FUKUOKA』を実施することを発表。このプログラムは、福岡市内スタートアップの成長や、海外でのビジネスの実現、さらに海外のエコシステムとのネットワーク形成を図ることを目的とし、現地でのプログラムだけでなく、海外研修・交流プログラムに併せた事前研修、参加したメンバー同士の事後報告会が予定されている。今回、サンフランシスコとの連携発表後の具体的な動きには、どういった意図があるのか。福岡市グローバルスタートアップ課長 的野浩一氏にお聞きした。

--今回の研修プログラムの内容について教えてください。

的野:
まず、事前研修を10月から受けていただきます。事前研修では、有識者の話を聞くだけではなく、自らのビジネスモデルのブラッシュアップ、現地でのPRの方法についても学ぶことができます。 現地では、サンフランシスコやシリコンバレーに拠点を置く企業訪問、現地のスタートアップイベントへの参加、ネットワーキング・ビジネスマッチング等を予定しています。 事後報告会では、実際に現地視察したメンバーで再度集まり、改めて情報のアウトプットとインプットを行う場を設けます。さらに、視察に参加できなかった方向けにも、参加者からの視察報告など、情報共有できる場を用意する予定です。

--今回、業種を問わず募集ということですが、スタートアップ以外の企業にとっては、どういったメリットがあるのでしょうか?

的野:
スタートアップに限らず、海外進出に興味をお持ちの事業者であれば応募することが可能です。まず、本プログラムのメリットは、自分自身のスキルアップ。事前研修や現地プログラムの中で、海外でのマーケティング手法やPRの方法について享受する機会を得ることができます。次に、ネットワーキング。海外拠点でビジネスをする際に、自分がどういった人に会う必要があるのか、そのための足掛かりをどうやって作るのか。その足掛かりに、本プログラムを利用して頂きたいです。最後のメリットは、現地でのビジネスマッチングによって、海外でのビジネス展開をより現実的なものにすることができるという点です。

--このプログラムによって、福岡を拠点に活動する企業にはどういったことが期待されるでしょうか?

的野:
福岡のスタートアップ全てが海外に関心を持っているわけではありませんし、海外展開に向けて積極的に動いている事業者も多くはありません。今回のプログラムを通して、まずは海外に興味関心を持ってほしい。そのためにも、実際に現地に行くことで、海外展開に向けての具体的なイメージができるようなプログラムになるよう工夫していく予定です。 こういったプログラムを経て、先日発表のあったサンフランシスコとの連携によって受けられる支援を利用する方々が増えてくれれば、よりスタートアップ都市として機能していくのでは、と考えています。

本プログラムの募集期間は8月1日(月)〜31日(水)まで。詳細は当プログラムの公式サイトhttp://www.fukuokastartup.com)より。「福岡市のスタートアップ都市としてのプレゼンスは確実に高まってきています。それはビジネスコストの面や、スタートアップビザやスタートアップ減税など支援の面においても。今後も、日本でスタートアップをするなら福岡というような立ち位置を作っていきたいです。」と話す高島市長。今回の連携や、新たに展開される海外研修プログラムなどによって、どのようなイノベーションが生まれるのか。そして他の海外都市との連携にも注目していきたい。

取材・文:小松里紗

福岡のITベンチャー・株式会社エニセンスを経て、Webメディアの立ち上げや運用に携わりながら福岡で会員制バー「Bar Sumica」を経営。Webや飲食業にとどまらず、MCやライターとしても活動。
Twitter:@komatsu_risa

構成:市來孝人

SENSORS Web副編集長
PR会社勤務を経てフリーランスのWebエディター・PRプランナー・ナレーターなどとして活動中。「音楽×テクノロジー」の分野は特に関心あり。1985年生まれ。
Twitter:@takato_ichiki / Instagram:@takatoichiki

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