VRの主戦場はスマートフォンへ、『ハコスコ』藤井直敬の先見

2015.04.16 15:16

OculusやGear VRなどのヘッドマウントディスプレイ(HMD)は没入感のあるリッチな体験を提供できるデバイスとして注目集める一方、一般の生活者が容易に入手できるものではない。もっと手軽にVR体験ができれば...。そんな思いを叶えるのが「ハコスコ」だ。ハコスコの開発者、藤井直敬(ふじい なおたか)氏に開発秘話やVRビジネスの今後を尋ねた。

ハコスコ代表の藤井氏。理化学研究所に所属する研究者(脳科学)でもある。

■ダンボール+スマートフォンでVR体験

ハコスコは1000円で購入できる段ボール製のビューワーに専用のアプリをダウンロードしたスマートフォンを差し込むことで手軽にVR体験ができるスマホVRサービスだ。360度のパノラマ画像に加えて映像・動画を楽しむことができる。

ハコスコの製品画像と利用イメージ写真

既に博報堂やポニーキャニオンといった広告代理店・レーベルとも提携しており、大手企業のプロモーションでの活用や、アイドルグループ「ベイビーレイズ」やダンスボーカルユニット「Lead」のライブ映像や、楽屋で撮影した特典映像を楽しむことができる。驚くほどの没入感で、自分が楽屋やステージ上に居るような気分になる。

■藤井氏が研究してきたSR(Substitutional Reality:代替現実技術)システム

ハコスコ代表の藤井氏は理化学研究所でSRの研究をしてきた。SRとは目の前で起きていると信じている映像の中に、過去に記録した仮想的な現実(=代替現実)の映像を差し込める技術。被験者は今自分の見ているものは本物なのか仮想なのかの区別が曖昧になってしまう体験をする。VRの場合、被験者は現実と仮想の境を認識することができるため、SRはVRの延長上に存在する技術と言える。

藤井氏がSRの研究をはじめたきっかけは「人間の社会性」への探究心。人間は誰と一緒にいるかによって取る行動が変わってくる。社会的な条件を意図的に操作して人間の行動変化を観測する実験装置としてSRの研究に力を入れていた。SRを世の中に普及させていくにはどうすればよいか。そう考えた時に、誰もが持っているスマートフォンに着目して、家庭でもSRに近い体験(≒VR)ができるアイデアとして「ハコスコ」が生まれた。

■研究者と起業家の二つの面を持つ藤井氏

藤井氏は研究者と起業家としての2つの顔を持つ。タイプの違う2つの仕事を兼業していて、どのような違いを感じているのだろうか。

藤井:
研究をしていて嬉しいのは自分なんです。僕たちが研究していることの成果は、100年先の時代に役に立つことかもしれない。時代を越えるくらいスケールの大きいことをしているという自負はある分、今、役に立つことをしているという実感や手応えはあんまりないんです。一方で会社を作ったことで、自分の作ったもので喜んでくれる人たちを直接見ることができます。研究にはないスピード感を持った仕事もとても面白いですね。研究者と起業家、違う種類の楽しみがありますね。

研究の成果を世の中に発信するために会社を起こす研究者は多くいるが、ハコスコ社は独立系のベンチャーキャピタル「ANRI」からも投資を受けており、プロダクトを本気で世の中に普及させていくことへの気概を感じとることができる。

■HMDの既存VRコンテンツはスマートフォンに移行する

ハコスコのダンボール製ビューワーは既に9万台以上売り上げている。個人購入の他にも、広告代理店や大手企業がイベント会場で配布するなどのプロモーション用に大量発注するケースが増えているそうだ。こうしたプロモーションでの活用を経て、生活者一人一人の手元にハコスコのダンボール製ビューワーがある状態になると、スマートフォン向けのVRコンテンツの市場が拡大してくる。現在HMD向けに提供している既存VRコンテンツの8割方はスマートフォンに移行するだろうと藤井氏は語る。

ハコスコ ストア

スマートフォン上の新しいVRコンテンツのプラットフォームとしてハコスコ社が仕掛けるのが「ハコスコ ストア」だ。ユーザーが制作したVRコンテンツを自由にアップロードすることができる。Youtubeも360度のパノラマ映像に対応したが、「ハコスコ ストア」の構想を藤井氏は次のように語る。

藤井:
Youtubeは広告配信のビジネスモデルですが、僕らはVimeoのような存在になることを目指しています。クリエイターの方々が自分達の作品を上げてポートフォリオのように使ってもらう。自分の作品を売りたければ「ハコスコ ストア」で売れる仕組みを作りたい。

既に「ハコスコ ストア」にはユーザーがオリジナルで作ったホラー映像やドローンの空撮映像などのコンテンツがアップされている。今後はストアの専用アプリもリリースする予定。VR/ARの市場規模は2020年には1500億ドルに上るとも概算されている(出典:http://www.digi-capital.com/reports/)。また、藤井氏は自身が主催でVRのコンテンツや技術の普及を目指す「VRコンソーシアム」の立ち上げも行った。今後は、クリエイターとの関係も強化していくそうだ。新しいビジネスや表現の可能性を感じさせるハコスコの挑戦は今後も必見だ。

取材:石塚たけろう

石塚たけろう: ベンチャーキャピタルやデジタルマーケティング企業複数社での業務を経験後、大手企業とスタートアップの共同事業開発支援や、VR領域のスタートアップに参画。Webデベロッパー。@takerou_ishi

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