ハードウェアスタートアップが「量産」の壁を突破する方法とは

2016.03.09 10:00

昨今では、数々のハードウェアスタートアップが誕生し、斬新な製品コンセプトとそれを端的に表現したプロモーション動画に触れる機会が日に日に多くなった。しかし、私たちの手もとに"実際の製品"が届いたことはどれだけあっただろうか。ハードウェアスタートアップが抱える問題、そしてそれをどう乗り越えるべきか。2月26日(金)虎ノ門ヒルズにて開催された「SENSORS IGNITION 2016」内のセッション「ハードウェアスタートアップのつくり方」の模様をお伝えする。【Sponsored by 株式会社リクルートホールディングス】

本セッションの登壇者は、笠井 一貴氏(株式会社リクルートホールディングス Media Technology Lab. )、中西 敦士氏(トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社 代表取締役オーガナイザー)、梶原 健司氏(株式会社チカク 共同創業者兼代表取締役)、Brain Lee氏(AKA LLC CSO) 。

左から笠井氏、中西氏、梶原氏、Lee氏

■ハードウェアスタートアップに待ち構える困難の壁

笠井氏が開口一番に切り出した数字「84%」。

一般的なハードウェアスタートアップが製品の企画から販売まで、「企画」→「設計」→「試作開発」→「量産試作」→「量産」→「販売」の6つにステップをたどる。クラウドファンディングなどを利用して「試作開発」に成功したハードウェアプロダクトのうちの「84%」が次のステップの「量産試作」で問題が起き、出荷できなかったり、プロジェクト中止という事態に陥るという。

具体的には、3Dプリンターでつくれた設計が、量産に必要な金型では実現できない。そもそもどの工場に発注すればいいのかわからない。量産に必要な資金はクラウドファンディングで集めたものだけでは足りない、といった問題。

東京都内だけでも多くのものづくりスペースが開設され、クラウドファンディングが徐々に一般化し、良いアイデアであれば、一定の資金を集めて「試作開発」までを行うことはとりわけ難しいことではなくなったが、「量産」に成功し、商品化、事業化までたどり着くまでの困難さを「84%」という数字が示している。

■「量産」に必要な資金をどう集めるのか

「量産」が困難な理由の一つとしてあげられるのが「資金不足」。クラウドファンディングで調達しただけでは足りず、一定額まとまった金額を別途調達する必要がある。本セッションの中で触れられたクラウドファンディング以外での資金調達の方法はベンチャーキャピタルや個人投資家からの投資と、創業融資という2つ。

Webサービスやアプリをベースにしたビジネスでは、実際に最低限の機能でリリースをしてみてユーザーの反応を見てからその結果をベースに投資家にぶつけることができるが、ハードウェアの場合、どのようにして事業可能性を示すことができるのか。AI搭載の英会話ロボット「Musio」を開発し、実際にベンチャーキャピタルからの調達に成功したBrain Lee氏は以下のように語る。

Lee:
「Musio」のような新しいコンセプトのコミュニケーションロボットは、アーリーアダプターには受け入れるかもしれないが、一般ユーザーにどのように広げていくのかという投資家の質問に明確に答えてなくてはいけませんでした。そこで私たちが考えたのは「金銭的なメリット」をユーザーに対して訴求すること。Musioと会話をすることで英会話の練習をすることができます。それも24時間ずっと使えます。他の英会話サービスを使うのに比べ、どれだけユーザーが得をするかを割り出し、それでベンチャーキャピタルを説得しました。

排泄を予知するウェアラブルデバイス「D Free」も投資家からの援助を受けており、開発者の中西氏は「気合い。投資家にやれと言われたことはすぐやることが資金調達には大事」。ハードウェア分野の起業は難易度が高く、仔細に思えるような事柄であっても誠実に迅速に対処することは、実行力を示したり、信頼を得るという意味でも決して侮ってはいけないと言う。

スマホで撮った子どもの動画と写真を、そのまま実家のテレビへ送ることができるデバイス「まごチャンネル」を手がける梶原氏は、個人投資家からの援助の他、「創業融資」を受けているようだ。

梶原:
私たちベンチャーキャピタルから調達はしておらず、個人投資家からの出資、クラウドファンディング、創業融資という3つの方法で資金繰りをしています。「融資」を受けるポイントとしては、実績を示すことです。クラウドファンディングで多くの支援を集めることができるというのも実績になりますし、私たちの場合、Makuakeさんと伊勢丹さんがコラボしたイベントで伊勢丹新宿本店に「まごチャンネル」展示させてもらったということも大きかったですね。

■スタートアップと工場を結びつける「BRAIN PORTAL」

資金調達に成功し、量産発注をかける段階において、自分たちのアイデアを実現できる工場はどこなのか、どのような流れで取引きをすればよいのだろうか。こうした問題を解決するために立ち上がったのが笠井氏が中心になって立ち上げたリクルートホールディングスの「BRAIN PORTAL」だ。

リクルートのビジネスとの基本形ともいえるマッチングビジネスを、ものづくり分野に応用し、スタートアップと工場・専門家を結びつける。スタートアップは、最適なパートナーを探すことができる他、契約面やプロジェクト管理の支援を受けることができる。「D Free」の中西氏は、量産に必要なのは「情報力」というほど、パートナー選定はプロジェクトの命運を左右する。

登壇者たちからは「もっと早くつくって欲しかった」との声があがるこの「BRAIN PORTAL」は、現在は国内外のスタートアップを対象に事業を拡大している。

ハードウェアスタートアップを志す最前線の起業家の知見と、「BRAIN PORTAL」のような新たな取り組みへの期待が交差するセッションとなった。各登壇者の取り組みが今後のハードウェアビジネスの発火装置(= IGNITION)となることを期待したい。

取材:石塚たけろう

ベンチャーキャピタルやデジタルマーケティング企業複数社での業務を経験後、メディアディレクターとして複数の大手企業、スタートアップの新規プロジェクトに参画。現在は、面白法人カヤックで面白事業開発を担当。@takerou_ishi


写真:萩野格

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