競争力を高めるキーワードは"Design with a big D" - グロービス・高宮慎一

2016.01.10 01:55

メルカリ、カヤック、ランサーズ、nanapiなど数々の有望なスタートアップに投資を行ってきたベンチャーキャピタリスト・高宮慎一氏。ハーバード大学経営大学院MBAを経て、米国大手デザインファームDesign Continuumでデザイン主導の経営戦略コンサルティングに従事した経験を持つ。日本でも声高に必要性が叫ばれるようになってきたデザイン思考(design thinking)を世界的な事例を交えつつ解説していただいた。大文字の「D」が意味する本質とは。

2000年代前半から徐々に認知され始めた「デザイン思考(design thinking)」という言葉。アメリカのデザインファーム「IDEO」が唱えた概念であり、クリエイティビティを生かしてイノベーションを生み出そうという考え方だ。(そのキーワードとしては「共感」「ストーリーテリング」「プロトタイピング」などが挙げられる。詳しくは「IDEOトム・ケリーが語る、デザイン思考を構成するための3つのキーワード」を参照)

■ジョブズが優れていたのはiPodを発明したことではなく、ビジネス全体を統合的にデザインしたこと

高宮慎一氏(株式会社 グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー:Chief Strategy Officer)

高宮:
戦略思考やロジカル思考は何かベースがあった上で積み上げていく考え方。2000年代前半に企業はこうした考え方でイノベーションを生む限界にぶつかりました。そこで注目されるようになったコンセプトが「デザインシンキング」で、高く積み上げるためにはまず土台を広める必要があるという発想です。ユーザーの動向を深く洞察して、アイデアをブレストしながら生み出していくという、どちらかと言えば発散系の思考法のメソドロジーなんですね。

ロジックだけでクリエイティブなアイデアを生み出すことの困難さから、アイデア発想そのものに力点が置かれる。当初はモノづくりに応用されていたものが、いまではビジネスクリエーション全体に広がっている。プロダクトデザインのみならず、経営全般にわたりデザイン思考が応用され、成功した事例として高宮氏はまずAppleを挙げる。

高宮:
スティーブ・ジョブズが優れていたのはiPodという新しいプロダクトを出したことではないんですね。iPodというハードに対してiTunes、そしてMusic Storeをハード/ソフト、統合的にデザインした。ビジネスモデルとしてハード売り切りではなく、iTunesのMusic Storeで曲をダウンロードしてもらうことまで包括的に考えていたんですね。単なる矮小化された外観のデザインではなく、ビジネス全体をデザインする考え方。これがまさしく"Design with a big D"という大文字の"D"が意味するところです。

■途上国の困難な問題をデザイン思考でアプローチした「100ドルPC」

プロダクトベースではなく、ビジネス全体をエコシステムとして"デザイン思考"をテコにイノベートした例として高宮氏が例示するのが「OLPC XO-1(通称"100ドルPC")だ。高宮氏も以前所属していたアメリカのデザインファームContinuumとMITが共同開発した低コストのラップトップはAppleの例と同様にデザイン思考を用い、明確な課題を統合的な手法で解決する画期的なアイデアだった。

発展途上国の子供たちはPCをはじめとしたハイテク機器に触れる機会が少ない。そのためにますます先進国との格差が拡大していくという負の連鎖。ではどうすれば子供達にパソコンを届けられるかという問題意識の元に始まったプロジェクトが「100ドルPC」である。ただし、問題は山積みだった。単に安いPCを作っても購買が難しかったり、そもそも電力がなかったり、窓もないような学校に置いても砂埃が溜まったり、阻害要因が複合的に存在していた。

高宮:
(そうした問題群に対して)プラスチックの堅牢なパソコンを作って、さらに電気ハンドルで自家発電ができる。当時Windowsが全盛期だったのですが、完全にLinuxのオープンソースを採用し、低価格に抑えることで途上国でも回り得るモデルを構築したんですね。先進国で100ドルPCを売るときには「途上国の子供達にPCが届きます」といううまいマーケティングキャンペーンを行いつつ、実は原価は50ドルだったんです。どういうことかというと、先進国の人が100ドル払うことで、先進国の人はPCを1つもらえる。さらに一個途上国の子供にもPCが届くという形で、支援している人も単なるボランティアではなく、バリューを提供しつつ、自分もイノベーティブなプロダクトを貰えるというサステナブルな仕組みを作り上げたんですね。

個別のパーツに対してA/Bテストなどの手法を用いながらUI/UXを改善していくという局所的なデザインではなく、全体のモデルを通してイノベーションを起こしていくのは当然難易度も高い。そうした高いレイヤーにある課題を定型化した手法でアプローチするのがまさしく"デザイン思考"なのだという。

高宮:
マーケティングやデザインにしても各機能で切り出すとその部門のトップが、縦割り、タコ壷的にマーケティングだけを最適化しちゃうとか、モノの外観としてのデザインを最適化しちゃうなどとなってしまいがちです。そうではなく、それを経営のレベルのイシューに高めていって、全体最適を図ろうというのがデザインシンキング。こうした手法や思想がP&Gをはじめとした大企業から、最近ではスタートアップにまで降りてきている印象があります。

■近年流行りをみせるリーンスタートアップは"デザイン思考"そのもの

リソースやアセットが限られたスタートアップにあって、近年注目を集める手法にリーンスタートアップ(lean startup)がある。そこではMVP(Minimum Viable Product:検証に必要な最低限の機能を持った製品)を早期に作り、マーケットにぶつけるという工程が重要となる。こうしたプロセスを設計することをラピッドプロトタイピング(rapid prototyping)というが、コンセプト自体はデザイン思考と全く一緒なのだとか。

高宮:
日本でも知られるようになってきたコンセプトですが、一歩引いたときに全体最適をとってデザインをしたり、オーケストレーション(統合、編成)するような思想がどうしても抜けがちになってしまいます。スタートアップにはこうした思想や行動パターンが必要だと感じています。僕のデザインに対する解釈はシンプルで、「モノづくりにおいても、経営においてもどういうバリューをどうやってユーザーに届けるか」だと思っているんですね。

日々ベンチャーキャピタリストとして新進気鋭のスタートアップへ投資を行う高宮氏。日本のスタートアップは起業家もクリエイターも自分が作りたいモノを作って世に出す傾向が強い。その原因はプロダクトやサービスを届ける先のユーザーが何を求めているのか?ユーザー視点でモノを考えるプロセスを疎かにしてしまうことが挙げられる。結果としてローンチ後に大ゴケするパターンも多数あるという。

高宮:
ローンチ前にまずはコンセプトベースの紙芝居をつくりユーザーにぶつけてみる、本格的にコーディングする前にワイヤーを手で書いてヒヤリングしてみる、あるいはα版でミニマムの機能だけを作ってぶつけてみる。まさにラピッドプロトタイピングのコンセプト通り途中でユーザーにぶつけ、本当に刺さるバリューになっていくのか確認していくプロセスが必要不可欠です。

高宮氏が具体例に挙げたのが、最近名前を聞くことの多いアプリがメディアミックスに成功していることだ。最初にブースト系の広告を使い、ダウンロード数を稼ぎながらAppStoreにオーガニックに流入させていく。それを100万、200万規模に持っていくためネット広告をうまく使い、今度はテレビCMにシフト。

高宮:
投資先のメルカリがすごく上手くやっているのですが、CMを打ちつつ、裏でネット広告を走らせる。テレビで認知と興味を喚起しつつ、裏で実際のコンバージョンを刈り取るのはネット広告。というようにマーケティングのキャンペーン全体を設計するのに秀でています。色々なところでパーツパーツのノウハウを持ち寄りながら全体をオーケストレーションしていくのは今後必要だと思います。

SENSORSがメディアパートナーを務めたスタートアップ × デザイン × マーケティングをフィーチャーしたイベント「HEART CATCH 2015」で高宮氏がモデレーターを務めた「Design with a Big "D" デザインと経営」(登壇者:takram・田川欣哉氏、IDEO・野々村健一氏)と「デザインと経営、経営者に必要なマーケティングセンス」(登壇者:面白法人カヤック・柳澤大輔氏)の模様もあわせてどうぞ。

取材・構成:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。最近は「人工知能」にアンテナを張っています。将来の夢は馬主になることです。
Twitter:@_ryh

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