IDEO×takram デザインとマーケティングのキャッチボールが成功への近道

2016.01.10 01:55

スタートアップ × デザイン × マーケティングをフィーチャーしたイベント「HEART CATCH 2015」(2015年12月12日開催)。グロービス・高宮慎一氏がモデレーターを務めたセッション「Design with a Big "D" デザインと経営」に田川欣哉氏(takram)と野々村健一氏(IDEO)が登壇。国内外でデザインをリードするトップランナーたちが語った"デザインと経営"のあるべき関係とは。

ロジカルな経営戦略やスペックのみで差別化を図ったり、イノベーションを起こすことが困難となりつつある今、"デザイン"に注目が集まっている。単体のプロダクトデザインという捉え方ではなく、ビジネス全体を統合的にデザインする考え方が"Design with a big D"で大文字の"D"が意味するところなのだと高宮氏はいう。(詳しくは「グロービス・高宮慎一が解説する「デザイン思考」 Design with a Big "D"の本質」参照)

「デザイン思考(design thinking)」というコンセプトを提唱し始め世界に広めたデザインファーム・IDEOから東京オフィスでディレクターを務める野々村健一氏、"デザインエンジニアリング"という手法でハード/ソフトウェアからインタラクティブアートまで幅広く手がけるtakram代表の田川欣哉氏が登壇。経営というビジネスの上段で"デザイン"が果たすべき役割とはいかなるものなのだろうか。

■IDEOとtakramが考える大文字のD〜Design with a Big "D"

【登壇者、左から】高宮慎一氏(グロービス・キャピタル・パートナーズ)、田川欣哉氏(takram design engineering)、野々村健一(IDEO Tokyo)。三者が一堂に会するのは初めてだという。

高宮:
今「デザイン」という言葉を色んな人が色んな意味で使い、一人歩きしている印象があります。デザイン思考やいわゆる大文字のDに対して、IDEOやtakramではどう解釈していらっしゃいますか?
田川:
僕らtakram design engineeringではクリエイティブとテクノロジーの両方が交差するところにモノづくりのコアの部分を設定しています。さらに俯瞰すると、ビジネス(Business)テクノロジー(Technology)クリエイティブ(Creative)を結びつける、"BTCトライアングル"という考え方です。非分業的なアプローチでインテグレーションによる価値の創造を目指していこうと考えています。
野々村:
IDEOは、最近色々なところで言われるようになってきた「デザインシンキング」というアプローチを30年近く使い続けている会社です。平たく言うと、必ず人のニーズに立ち返って、何かを作っていくというデザインのアプローチです。日本では「デザイン」というとモノの見てくれ、色や形にフォーカスしがちになります。そうしたcosmetic(化粧的)なデザインではなく、何か新しいモノを作り出す全てのことを言っています。例えばビジネスモデルを作るでもいいですし、体験やサービスでもいい。何を作るにしても意志を持って作るということを我々は"デザインする"というふうに呼んでいます。
高宮:
お二人のデザインという言葉のイメージはイノベーションに近いですよね。いわゆる日本で言われているデザインと、今ここで語られているデザインはどう違うんでしょうか?

野々村健一氏(IDEO Tokyo Director, Business Design & Development)

野々村:
日本で感じるのはやっぱり「餅は餅屋」みたいな世界がどうしてもあって、デザインはデザイナーだけのもので、ビジネスはビジネスパーソンのもの、というような。IDEOではそこを崩して、ある意味真逆にみんなで作っていくアプローチをとっています。例えばチームにビジネスパーソンがいて、プロダクトデザイナーがいて、その隣にもしかしたら雑誌の編集者や建築家、お医者さんみたいな人がいる。違った分野の人が一緒にやっていくというは違った意味のデザインかもしれません。
田川:
日本企業の組織構造はサイロ型が主流です。20世紀、大企業が引っ張ってきた日本の産業はBT型の産業でした。ビジネスとテクノロジーの種を密結合させるところに巨大なビジネスがあり、そこに教育側も人材を出してきた。一方、21世紀ポストITの時代では商品やサービスが人の手に届くロジックが大きくシフトし、ユーザーエクスペリエンスと言われるものが台頭してきました。今日の来場者の皆さんもエクスペリエンスを創り出す力としての"クリエイティブ"に目覚めた人が多いのではないでしょうか。

■デザインを上流に入れるとは"後出しジャンケン"に近い

高宮:
デザインには大事なことが二つあると思っていて、一つは縦割りにマーケティングとか製品開発とか複数の機能を横串通して統合的すること。もう一つが、個別の現場が最適化を図るのではなく、経営レベルの上のレイヤーでオーケストレーション(統合、編成)していくのが重要だということ。とはいえ抽象的で分かりにくいと思うので、お二人の会社でやられた代表的な事例があればご紹介いただけますか?

Googleによる「マテリアルデザイン」の基本プリンシプル。
https://www.google.com/design/spec/material-design/introduction.html#introduction-principlesより)

野々村:
"デザインシンキング"って言葉で説明するとすごく普通のことだったりするんですよね。例えばGoogleが数年前に「Material Design」というデザインガイドラインを発表しました。これによって何が起きたかというと、デザイナーの仕事が楽になったんじゃなくて、他のメンバーがその共通言語を使って同じ土俵で議論できるようになったんです。こうした具合で横のコラボレーションを増やしていくことを"デザイン"を通して行っています。

野々村氏がIDEOの代表的な事例として挙げたのが、90年代中盤にサムスン電子が行った大きな戦略転換だった。当時サムスンには商品が店頭の片隅に追い込まれてしまうという問題があった。これを解決するためにデザインシンキングを取り入れたユーザー起点の経営戦略へシフト。デザインセンターを設置するなど抜本的な改革を断行することで、デザイナー比率が大幅に上がり、商品開発のプロセスや組織自体も変わった。

田川:
takramで手がけたスタートアップ系のプロジェクトの中に、Sansan株式会社の「Eight」という名刺管理サービスの立ち上げがあります。当時からSansanは優秀なビジネスとテクノロジーの力を持っていました。そこに、僕らがクリエイティブを持ち込み、BTCが入り乱れる形でエクスペリエンスを構築していきました。僕らは毎週プロトタイプを作り、ビジネス仮説やテクノロジーの制約と付き合わせながら、アプリケーションの形に落とし込んでいきました。Eightは今、日本で名刺管理アプリのデファクトのポジションを獲得しつつあります。

田川欣哉氏(takram design engineering 代表 / Royal College of Art客員教授)

田川:
プロジェクトの上流でビジネスモデルを作り、それを仕様に落とし、最後にデザインを付けるという流れでは、最終的にユーザーの手元に届いた時に、元々の想定と大きく離れたところに着地してしまうことがあるんです。それはスケジュール上の手戻りや、コスト上の手戻りを意味します。デザインが上流から関わることで、プロジェクトの初期からプロトタイプを作り、エクスペリエンスを確かめていく。そうすることで、サービスが成功するかどうかを早い段階から察知しながらモノを作ることができるようになります。そうするだけで成功確率はかなり上がります。

■「プロダクトが悪くて、良い経営はあり得ない」デザインと経営の関係

高宮:
デザインが経営そのものに近くなっていますよね。ビジョンをデザインする、ビジョンをベースに経営戦略をデザインして、事業戦略に落としていって、マーケティング戦略・プロダクト戦略まで降ろしていく。二人はデザインと経営はどういう関係になると考えていますか?
田川:
B2CなのかB2Bなのか、それともC2Cなのかでもちろんデザインは変わってくると思いますが、作るモノがコンシューマー向けということであれば、やっぱりプロダクトが最重要だと思うんです。プロダクトが悪いまま成功する経営って、エクスペリエンス時代にはあり得ないじゃないですか。マネジメント視点でストラテジーを組んで、それを仕様化して、その残りカスがプロダクトになっているようなパターンがすごく多い気がします。結局はプロダクトの強さと、そのポテンシャルを最大化する経営というものが一番強いんじゃないでしょうか。
高宮:
IDEOもユーザー中心のアプローチですよね。背後には同じような思想があるんですか?
野々村:
最近、経営者の方々とお話していて思うのが、経営戦略とデザイン戦略は同じ話だということです。経営戦略に正解がないように、デザインにも正解はないですよね。マーケットに出すまでは本当の意味での正解は分からない。だけれども主観的に仮説を立てて進めていくという意味では実は経営もデザインも近いですよね。

■スタートアップはデザインといかに向き合えばいいか?鍵は"プロトタイプ思考"

高宮:
今までの話はなんとなく大企業が前提になっていたと思うのですが、じゃあスタートアップはどう展開していけばいいのか。例えば僕はスタートアップに投資して事業面での支援もしているのですが、1億円かけてプロダクトを作ったのにいざユーザーにぶつけてみたら100ダウンロードしかいかない、1億円溶かしてしまったみたいなことが多いんです。かといってスタートアップがIDEOやtakramを雇うのは難しいと思うのですが、リソースの制約があるなかで現実解としてどうデザインの思想をどう取り入れたら良いと思いますか?

高宮慎一氏(株式会社 グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー、Chief Strategy Officer)

野々村:
大企業にも共通することですが、最初からでかいロケットを飛ばそうとしないことですよね。それこそすぐに叩き台をつくってプロトタイプ思考で早い段階からどんどんユーザーにぶつけていく。どんどんフィードバックを入れながらそれを高速回転で磨いていく。こうすることでモチベーション維持にも繋がりますしね。
田川:
ユーザーセントリックなアプローチ×その企業のコアな部分。後者は誰からも理解されないくらいコアなものでも良くて、それを創業者なり会社の中から見つけて、磨きをかけていく。その掛け算でプロダクトが規定されるべきと思います。その後に野々村さんがおっしゃったような手法で回していく。ベクトルとしてはその企業のミッションやビジョンをプロダクトと呼応させながら洗練させていく。これをどの深度で考え続けられるかというのは経営者にとっては我慢比べに近いものでもあります。マーケットからの誘惑に安易にたなびかずに、プロダクトのここだけは譲れないという部分と、軽やかにピボットしていく部分をどうバランスさせていくかがポイントになります。

■デザインとマーケティングのキャッチボールが成功率を高める

高宮:
経営はビジネスと人間との接点のデザインなので、デザイナーが行っている、モノと人間との接点をデザインするということを抽象化して昇華しているとも言えます。さて、今回のテーマであるマーケティングとデザインについては、どのような関係性と捉えれば良いでしょうか?
田川:
デザインを先に行いマーケティングが後に出てきたパターンと、マーケティングが先にありデザインが後追いするパターンを両方経験しています。その中で強く思うことは、デザインとマーケティングは同時にスタートするしかない、ということ。チャネルを決めて、価格帯を決めて、母数を決めた後にデザインが入っていくこともできますが、ヒットする商品はもっと緻密にプロダクトとマーケィングが連動していると思います。デザインもPDCAを回してマーケティングが設定している的にかなり狭い領域でヒットしていくものを作らないといけない。同時にプロダクトとしては成立しないところに的が設定されている可能性があるので、そのときはマーケティングの的を絞らないといけない。この理想と現実を擦り合わせるマーケティングとデザインのキャッチボールを上流工程で実施すべきと思います。
野々村:
僕も同じ意見です。マーケティングって"モノを作る"側面とモノを売る際の"伝え方"という側面があると思います。この"伝え方"ですが、従来通りの広告宣伝費を使うマーケティングが通用しなくなってきている中で、"モノを作る"ところから"伝え方"も考えていく世界にシフトしていってます。なので今のベンチャーは自然とデザインとマーケティングを並走させて上流から進めていかざるを得ないのですが、大企業でも見直され始めていることを強く感じます。

モデレーターを務めた高宮氏が強調していたのは、デザイン思考は現場の業務レベルでのプロダクト改善ではないということだ。"ビジネスと人との接点をデザインする"という経営に限りなく近い上流のレイヤーでこそその力を発揮する。経営者はデザインを、デザイナーは経営を学ぶことが今後求められていくのかもしれない。

高宮氏の単独インタビュー「競争力を高めるキーワードは"Design with a big D" - グロービス・高宮慎一」、高宮氏が柳澤大輔氏(面白法人カヤック)と対談した「有象無象のスタートアップから抜け出すために必要なクリエイティブ〜カヤック×グロービス」もあわせてどうぞ。

取材・文:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。最近は「人工知能」にアンテナを張っています。将来の夢は馬主になることです。
Twitter:@_ryh

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