『シン・ゴジラ』樋口監督、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』前田監督が語るSFの可能性〜映画『メッセージ』監督来日レポート

2017.04.26 08:00

5月19日(金)より全国ロードショーのSF映画『メッセージ』。アカデミー賞受賞含む8部門ノミネート、世界が驚愕した異色のSF感動作である。監督はSF映画の金字塔『ブレードランナー』の続編を手がけることで話題となったドゥニ・ヴィルヌーヴ。4月14日、東京都内でその公開を記念しドゥニ監督が来日、スペシャル会見イベントが行われた。イベントには『シン・ゴジラ』の樋口真嗣監督、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の前田真宏監督が応援に駆けつけ、3人の監督によるトークが行われた。今回、そのトークの模様とイベント終了後に、SENSORSのために特別に樋口監督、前田監督からいただいたコメントをご紹介する。 【PR記事】

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樋口真嗣監督(左)、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督(中)、前田真宏監督(右)

■ 映画『メッセージ』とは

突如 地上に降り立った、巨大な球体型宇宙船。言語学者のルイーズ(エイミー・アダムス)はヘプタポッドと呼ばれる知的生命体が人類にとって平和の使者なのか脅威なのかを判断するため、彼らと接触し言葉を理解してほしいと軍から依頼を受ける。物理学者のイアン(ジェレミー・レナー)とチームを組み、ヘプタポッドが発する表意文字の言語解読に没頭するうちに ルイーズは時間が逆行するような奇妙な錯覚に陥っていく――。そして言語の謎が解けたとき、彼らが地球にやってきた驚くべき真相と、人類に向けた美しくもせつないラストメッセージを知る。言語学者ルイーズが解読した、人類へのラストメッセージとは――。

原作『あなたの人生の物語』(ハヤカワ文庫刊)はテッド・チャンによって1998年に発表された短編SFで、SFの世界的文学賞であるネビュラ賞を受賞。テッド・チャンによると、この作品では話す言語によってその人の世界観や考えが決定づけられるという"サピア=ウォーフの仮説"が取り上げられており、その内容から映像化は不可能と思われていた。

■「対話、文化、謙虚」の大切さをSF映画から伝える

試写を見た日本国内のSFアニメ、映画監督が絶賛している『メッセージ』。樋口監督が特別に用意した応援映像には、押井守監督、樋口監督、前田監督のコメントが寄せられており、会見イベント冒頭で紹介された。

樋口真嗣監督が責任編集した特別映像

応援映像を鑑賞したドゥニ監督より「自分とは違う文化を持つ国のアーティストが、思いを伝えてくれたことに、非常に心を動かされました」との感想が述べられ、トークが始まった。

前田:
非常に知的なSF映画で、一見難しい作品に見えると思うのですが、頭を叩かれたと同時にハートにグサッと来る非常に素晴らしい作品でした。
樋口:
SF映画って大きく分けて2つの流れがあって、一つは争って勝利するタイプと、あとは何かを探して見つけるタイプ、『スター・ウォーズ』と『未知との遭遇』が正にその両極端だったんですけど。その後者の『未知との遭遇』の流れに沿った映画がこの『メッセージ』で、それが21世紀という今の時代にまた新しい形で、映画の文法含めて全てアップデートしている感じが素晴らしいと思いました。

一人でも多くの人に観て、理解してもらいたい映画です。特に今、映画と同じように戦争が起きるかもしれない、というこのタイミングで観てもらいたいですね。
ドゥニ:
そうですね。対話、文化の持つ力、そして謙虚さについての映画でもあると思っています。元々、この物語に惹かれた理由は、主人公たちが今の人類には欠けていると思われる謙虚さをもってエイリアンと交流していく姿でした。
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ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督

樋口:
観ていて非常にストイックさを感じました。ドゥニ監督は作品を作る上で我慢したり、削ぎ落とす努力をされたのでしょうか?
ドゥニ:
没入して見られる作品にしたかったのと、原作同様にルイーズという一人の女性の視点から描くということを大切にしました。個人的に気に入っているのは、人類史上最大の出来事でありながらも、一人の女性の私的な視点で物語が描かれていることです。

非常に気をつけたのは緊張感で、張り詰めた緊張感を作り出すために時間を意図的に引き延ばしたりしました。
樋口:
冒頭の"彼ら"(エイリアン)がやってくるところは、普通だったらもっと欲張って色々見せちゃおうという所なのに、抑えた演出に物凄く知的なものを感じました。
ドゥニ:
観客の想像力はとても力強いので、見えない方がむしろ怖く感じるのです。その演出方法は映画『ジョーズ』を参考にしました。『ジョーズ』も物語の2/3を過ぎてやっとサメが姿を現わしますが、それでも恐怖感は強く持続しています。そういう意味では、『メッセージ』はとってもゆっくり脱いでいくストリップのような映画かもしれません。エイリアンのことを少しずつ明かしていく構造になっているんです。

主人公たちがエイリアンと対話する部屋も同じアイデアに基づいていて、エイリアンと人類との間にある白いプラズマのような霧で、段々姿が見えるというとてもシンプルな仕掛けです。
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左側、樋口監督の後ろにあるパネルのエイリアンの表義文字は、
ドゥニ監督によると『地球』の意味だという。

■日本の禅に影響を受けた『メッセージ』のビジュアルデザイン

--ここで前田さんにビジュアルデザインの面で『メッセージ』で感動した部分というのをお聞きしたいのですが。

前田:
まず、ミニマムなデザインということに感心しました。主人公たちが未知のものへと向かって行くとき、最初は高み・神に向かって上昇するんですが、それがいつの間にか重力が変わって、過去に向かうかのように、氷河時代に住んでいた洞窟の中に入っていくような感じに描かれていて、非常に考え抜かれた、しかもシンプルなデザインで素晴らしいと思いました。
ドゥニ:
ありがとうございます。実は、今回の宇宙船の造形やラインのシンプルさ等のデザインでは、日本の「書」や、禅のデザインなどに影響を受けています。日本の禅的なものに強い存在感、感覚を感じるので、エイリアンにそうしたものを与えるためのインスピレーションとなりました。禅に詳しいわけではないので日本でこの話をするのは恐縮なのですが。
前田:
それはすごく伝わりました。映画を見ている間「あ、僕らはヘプタポッド側だな!」と。言葉というのはこの映画の重要なモチーフなのですよね。最近、ある方とインターネットを介して膨大にやり取りされている言葉がどんどん誤解と溝を生んでいく現在、本当に言葉がコミュニケーションのツールなのか? という疑問を語ったことがあって。ある文化の中に於いて思考を深める際に言葉は有用だが、文化と文化の敷居をまたぐ時には非常に危険なものではないか? 文化と文化に橋を架けるものではなくて、実は深い底なしの井戸のようなものではないか?という話をしていた時に、この映画で穴倉に降りていく様なビジョンを提示されたので、物凄くショックでした。ひょっとしてそうしたことも意識されたのでしょうか?
ドゥニ:
この作品で言葉・言語の限界について触れているという意識はあります。主人公は、そうした知識の限界に直面して自分自身の直感に従います。今の北米ではそうした自分の直感を信じるということが失われていると思うのです。

--最後にドゥニ監督にこれから『メッセージ』をご覧になる日本のファンの皆様にコメントをお願いいたします。

ドゥニ:
僕はこの原作を読んだ時に「生きるということを祝福する物語」だと感じました。また、文化というものが持つ力、それを掘り下げている物語であると感じました。それを感じていただければとても嬉しいです。ありがとうございました。
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ヘプタポッドの表義文字は日本の禅のデザインの影響を受けているという。

■『メッセージ』以後のSF映画はどこへ行くのか?

イベント終了後、樋口監督、前田監督に特別にお時間を頂き、映画『メッセージ』について深く語っていただいた。

--ドゥニ監督がおっしゃっていたように『メッセージ』では人間の対話、文化、謙虚さについて語られており、人間とは何なのか?考えさせられます。SF映画は人間性を掘り下げるものなのでしょうか?樋口監督は特別映像の中で、「ここから先に、新しい映画のひとつのジャンルになるのではないか?」と仰っていましたが、詳しく教えていただけますか?

樋口:
SFってどちらかと言えば、ドンパチやったり派手な仕掛けでやっている印象が日本では強いけど、文学の形としての内向きなものも海外では多いです。そういうものが映像化され商売として成立するという意味で突破口を作ったと思っています。しかもアメリカという巨大マーケットの中でこれができている。これまでは興行としての映画向けにアレンジして原作の意味が変わってしまうものが多かったのが、今回の『メッセージ』は原作の良さを壊していないところが凄いんです。この規模なら日本の映画でも出来るぞ!と思えます。
前田:
出来ないことはないですよね。文化の違いとかロケーションの違いとか、巨大な雲がなだれ落ちくるシーンとかは、日本というロケーションで撮るのは難しいかもしれないけど......
樋口:
撮れる所で撮ってくれば良いので、あとは本当に部屋の中とテントの中だけですからね。そう考えると禅の世界ですよね。あの壁面のテクスチャーとかも......
前田:
石庭っぽい、枯山水っぽいですよね。禅だなぁと。
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宇宙船内でホワイトボードを使ってヘプタポッドとの会話を試みる主人公ルイーズ

--最後にお二人が『メッセージ』を観られた後に作りたい映像についてお聞かせいただければと思います。

樋口:
これはやっぱり清らかな映画が作りたい、と思わされました。『メッセージ』はもの凄い清らかじゃないですか。この清廉さというのが、恥ずかしいわけですよ。そうじゃない映画を作り続けてきた人間にとっては(笑)。

--樋口監督の清らかな作品は是非観てみたいです。前田さんはどうでしょう?

前田:
ずーっと、やりたいと思っていることはあるんです。僕自身はそれを滅茶苦茶見たいんだけど、多分これは何ら興行にはならなくて、多分10人中9人は観ても「ふ〜ん」で終わるだろうなという。だから映像ではなくて、何か別のことでやった方が良いんじゃないか?とか、そういうことは思ったりしますね。

--『メッセージ』はそういうようなことをやり遂げた感がありますよね。

前田:
だから、シンちゃん(樋口監督)が恥ずかしいと言ったのはそういうことで、「すいません......」という。たとえば、とある小説がすごく好きで、「読む」ことによってイマジネイティブで空想が伸びていくんだけども、「文章は越えられないな......」と。そこで尻尾を巻いて逃げてしまうことも多々あるので、もうちょっと頑張りたいなと思います。

--日本を代表する監督お二人に本音で語っていただくことが出来、とても感謝しております。また、そのように本音で語るトリガーとなった『メッセージ』の凄さも改めて実感しました。ありがとうございました。

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『あなたの人生の物語』が映画化されると初めて聞いたときは、本当に驚きの一言であった。言語学、物理学といったSF的な要素に加え、現代の世界・社会情勢を反映しつつも、原作と同じく一人の女性という視点からエイリアンとの接触と交流、そして彼女を待ち受ける運命が描かれた、ドゥニ監督による『メッセージ』。一体どうやって?という疑問への答えが、まもなく公開される。

映画『メッセージ』はソニー・ピクチャーズの配給で、5月19日(金)よりTOHOシネマズ六本木ヒルズ他 全国ロードショー。

映画『メッセージ』予告編

取材・文:サイトウタカシ

TV番組リサーチ会社を経て、現在フリーランスのリサーチャー&ライター。映画・アニメとものすごくうるさい音楽とものすごく静かな音楽が好き。
WEBSITE : suburbangraphics.jp

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