平野啓一郎・落合陽一・齋藤精一が徹底討論!創作の要は、ファーストインスピレーションではなく"セカンドステップ"

2018.07.04 18:00

「クリエイターとコミュニティ」をテーマに行われたSENSORSサロン。ゲストは作家の平野啓一郎氏だ。

全5回にわたってお届けする第1弾記事では、MCのお二人とゲストに、自身の創作プロセスを語ってもらった。平野氏は、「日常の中での"生活実感"をもとにクライマックスシーンを思い浮かべ、そこに向けて逆算的に物語を紡いでいる」と語る。

言語・抽象・物理的現象のうちどこからインスピレーションを得て、そのインスピレーションをいかにして作品として結実させるのか?小説から評論まで幅広い創作活動を行う平野氏と、クリエイション論を深掘りしていく。

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(左より)平野啓一郎氏、齋藤精一、落合陽一、草野絵美

--まず、MCのお二人は普段小説はお読みになられますか?

齋藤精一(以下、齋藤):
あまり小説は読みません。読むとしても、80年代くらいまでの古めのものが多いです。
落合陽一(以下、落合):
僕は、人並みには読みますね。王道に村上春樹さん・東野圭吾さんの新作が出たら読みますし、芥川賞・直木賞の受賞作品にも目を通すようにしています。
齋藤:
あれだけお忙しそうなのに、本を読む時間なんてあるんですか?
落合:
大抵はお風呂で読みますね。読むスピードもものすごく早いです。
草野絵美(以下、草野):
お風呂で読むんですね(笑)。私も齋藤さんと同じで、あまり小説を読みません。作曲のためのインスパイアを得るために新書や社会論を読むことが多いです。

ちなみにお二人は、電子書籍と紙の書籍どちらで読むことが多いですか?
齋藤:
献本していただいたものは紙の書籍で読みますが、自分で買うものは電子書籍が多いですね。
落合:
僕も同じです。そもそも、自宅に本棚がないんですよ。読み終わった本は閉架式のクローゼットに収納しているので、紙の書籍だと読み返すのにも一苦労で。

以下、作家の平野啓一郎氏をゲストに招いた議論が行われた。平野氏は、小説や評論など多岐にわたるジャンルで作品を発表するクリエイターだ。メディアアートを手がける落合、齋藤との対話を通じ、平野氏のクリエイションの源泉を紐解いていく。

研究とアートを分かつ、抽象的な感覚の先にある"セカンドステップ"

草野:
作家の平野啓一郎さんです。学生時代の1998年に『日蝕』で芥川賞を受賞、さらに2014年には、フランス芸術文化勲章も受賞されています。大人の恋愛を描いた小説『マチネの終わりに』も現在ヒット中で、『私とは何か』『自由のこれから』など、多数の評論も発表されています。

ちなみに私は、平野さんの作品で語られていた「分人主義」にインスパイアされ、主宰する音楽ユニット「Satellite Young」で一曲作ったことがあります。というわけで、本日はよろしくお願いします。
平野啓一郎(以下、平野):
よろしくお願いします。落合さんとは、以前六本木で開催されていた個展にお邪魔して対談させていただいたとき以来でしたよね?
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落合:
そうですね、朝から対談していた記憶があります(笑)。「クリエイションにおいて、いかに抽象表現から具体表現に落とし込むか」というテーマで盛り上がりましたね。
齋藤:
僕は初対面ですね。よろしくお願いします。
平野:
こちらこそ、よろしくお願いします。

--最初のトークテーマは「言語・抽象・物理現象」。創作活動のインスピレーションの源泉は、言葉・抽象的なイメージ・具体的な物理現象のうちどれなのか、お聞かせいただけますか?

齋藤:
僕の場合、一番最初のインスピレーションは、言語でも抽象的なイメージでも物理現象でも、なんでもいいんです。インスピレーションの源泉よりもむしろ、アイデアがイベントや作品といった物理現象として結実し、それを鑑賞者が受け取ったときに再び抽象的なイメージに戻るサイクルに興味がありますね。
落合:
僕も齋藤さんと同じく、最初のインスピレーションはなんでもいいと思っています。むしろ、重要なのはセカンドステップです。
僕は研究者兼メディアアーティストなのですが、研究にせよアートにせよ、最初は「この佇まいがいいな」といった抽象的なイメージから入る場合がほとんどです。しかし、その後のセカンドステップが2通りに分かれます。

研究の場合は、物理的現象を数式的に理解する過程を経て、最終的には論文という言語に着地します。アートの場合は真逆で、途中で言語的な思考は挟むんですが、最終的には佇まいの良さ...すなわち物理的なものから染み出してくる抽象性を最重視しています。
平野:
最初に思いついた抽象的なイメージに研究とアートどちらのアプローチで取り組むかは、どの段階で決めているのでしょうか?
落合:
開始時点で完全に分かれてますね。抽象的なイメージが浮かんだ時点で、研究とアートどちらのアプローチをとるのか決めて、そこからは全く違う頭の使い方をしています。
齋藤:
アート作品を作っている過程で、「やっぱり論文にした方が面白いかも」と思って方向転換することはありますか?
落合:
あります。ただ方向転換というよりは、その時点から新たな研究プロジェクトがスタートするイメージですね。

小説の出発点は"生活実感"。クライマックスに向け、物語を紡ぐ

草野:
平野さんはどこから着想を得られているのですか?
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平野:
僕の場合は生きているなかで感じたこと、すなわち"生活実感"ですね。そのうえで、小説で表現した方がいいのか、評論にした方がわかりやすいのかを判断しています。
齋藤:
先ほど落合さんに聞いたことと同じ質問になりますが、小説を書いている途中で評論に方向転換されたりすることはありますか?
平野:
ないですね。小説は評論と全く違った手順で作り上げていくので。

ある生活実感を感じ、それが象徴されるようなシーンが思い浮かんだら、そこに向けた展開を考えます。たどり着きたいクライマックスシーンに向けて、構造的に物語を紡いでいく。ストーリーではなく、クライマックスシーンから考えるんです。音楽でいうと、まずサビを思いついてそこから作曲していくイメージに近いと思います。

続く第二弾「明快なプロットの下層に"複雑性"を横たわらせる。平野啓一郎が追求した、小説ならではのバリューとは?」では、本記事に引き続き、MCのお二人とゲストに自身の創作プロセスを議論してもらう。

平野氏は、小説を書く際に"レイヤー"を意識しているそうだ。分かりやすいプロットの一段下のレイヤーに、複雑性を横たわらせ、物語に深みを与えているという。

創作中に移り変わっていく興味にどう向き合い、最終的にどういったレイヤーを構築していくのか。小説から評論まで幅広い創作活動を行う平野氏と、クリエイション論を深掘りしていく。

↓↓↓OA動画は下記よりご覧いただけます。↓↓↓

("芥川賞作家"平野啓一郎氏が答える「本のタイトル」が決まるタイミングとは?)

構成:小池真幸

93年生まれのライター・編集者。AI系スタートアップのマーケターを経て、現職。関心のベクトルは、人文知をバックグラウンドにビジネス・テクノロジーを考えること。
Twitter:@masakik512



編集:オバラミツフミ

1994年、秋田県出身。2016年からフリーランス。各種メディアでのインタビュー連載・ブックライティングがメイン。
Twitter:@obaramitsufumi

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