思想・哲学が力を失ったいま、メディアが伝えるべきことは"問いの立て方"だーー平野啓一郎×落合陽一×齋藤精一

2018.07.24 18:00

「クリエイターとコミュニティ」をテーマに行われたSENSORSサロン。ゲストは作家の平野啓一郎氏だ。

全5回にわたってお届けする第4弾記事では、インターネットにおける分散化時代においてメディアに求められる"集約"機能、そして昨今の出版業界の課題について議論してもらう。

前半では、難解な書籍と格闘する体力が失われたいま、メディアにはかつての思想・哲学が担っていた"問いの立て方"を伝える機能が求められている点を議論する。後半では、デジタル化に向けたトライアンドエラーと、"喋り口調"の本への注力という、今の出版業界に求められる2つのトピックについて語ってもらった。

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(左より)平野啓一郎氏、齋藤精一、落合陽一

思想・哲学が廃れたいま、メディアは"問いの立て方"を伝えるべきだ

--続いてのトピック「視点の分散化と、メディアの集約」についてディスカッションをお願いします。

齋藤精一(以下、齋藤):
インターネットの大きな功績のひとつに、マイノリティ同士がつながれる"分散化"の実現があると思います。

でも音楽や小説も含めた広い意味での"メディア"って、マジョリティを作っていく"集約"機能を持つものじゃないですか。みなさんは"分散"の時代におけるメディアの役割について、どう考えていますか?
平野啓一郎(以下、平野):
表現活動をしていくうえで、自分の仕事が同時代や後世にどのくらい影響を与えるのかは意識していますね。

たとえ100万部売れたとしても全国民の1%にしか読んでもらえないことになりますが、それが100年後まで読まれ続ければ巨大な影響力を持ちます。文学者同士のつながりも、40人のクラスに1人しかいないようなマイノリティの集まりに過ぎないですが、世界中でつながれば結構な影響力になる。
齋藤:
2000年代以降、勢いのある思想・哲学が出てこなくなった気がするんですよね。かつての思想・哲学が果たしていた役割を、強力な思想を持ってメディアを作っていくことで代替すべきなのではないかと思っています。
平野:
やっぱり情報過多なのが問題です。コンテンツの供給ペースが早すぎて、集約的なトレンドを作っていくのが難しい。だからこそ、影響力のある人は、しっかりとした根拠に基づいて「今これを読むべきだ」と思想表明すべきだと思います。
落合陽一(以下、落合):
最近出した新著『デジタルネイチャー』が完全に思想書なのですが、実際に出版してみて、Amazonレビューに"1か5の評価"しかついていないことに驚きました(笑)。「一文字も分からないから評価1」という人と、「すごく面白かったから評価5」という人に綺麗に分かれています。

そうしたことから、「読むのに体力が要る本を体力を使って反芻しながら読む習慣が廃れてしまったんじゃないか」と感じています。結局いまバズっている本も、体力を使わずに読める本がほとんどです。でも、体力を使って読んだからこそインストールされるものもあると思うんですよ。だから『デジタルネイチャー』は、読む体力を取り戻してほしいという想いも込めて書きましたね。
齋藤:
僕は古い思想書が好きなんですが、なぜ好きなのかというと、読めば読むほど分からないからなんですよね。「ドゥルーズは何を言おうとしてたんだろう」とか、「エントロピーって何なんだろう」とか、はっきり言って答えはないじゃないですか。けど答えがないものと格闘するからこそ、自分なりの考えが形作られていく。そういう読み応えのある作品って、思想がないと生まれないと思うんですよね。
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平野:
答えではなく、問いの立て方を教えてくれる本は良い本だと思います。読者の中に渦巻くぼんやりとした感覚に対して、適切な問いを提示することで、考える道筋をディレクションしてくれる本。

あとは、人間の脳の報酬系の観点からみても、難解な本を読むのは楽しいと思います。フィジカルな山登りの気持ち良さがVRでは完全に代替できないように、疲れながら難解なものを読んで、ドーパミンやアドレナリンが出た時にだけ味わえる快感があるのです。

今の出版業界に必要なことーーデジタル化に向けたトライアンドエラーと、"喋り口調"の本への注力

--続いてのキーワード「出版業界の課題」に移らせていただきたいです。いま、出版業界にどんな問題提起をしたいですか?

平野:
業界にいるだけに、難しいですよね(笑)。それでもあえて問題提起をするなら、デジタル化に向けてのディスカッションやトライアンドエラーが不十分な点を提起したいです。

たとえば小説に限っても、きちんとデジタル化が成功しているのってアメリカぐらいなんですよ。ヨーロッパも中国も、特に中国なんてあんなにIT化が進んでいるのに、紙の影響力が絶対的です。この前上海に行った際も、数日の滞在期間で1,000冊ぐらいの本にサインを求められて驚きました。

この状況下で一気にパラダイムシフトを起こすのは難しいので、まずは一部領域だけデジタル化させたうえでそれを全体に敷衍するといった、地道で着実なハンドリングが求められると思います。
草野絵美(以下、草野):
落合さんは多数本を書かれていますが、出版業界についてどう思われますか?
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(左より)落合陽一、草野絵美

落合:
喋り口調の本が売れる傾向にあるのは新しいなと思っています。本来喋り言葉って、粗も多くて反芻に向いていないはずなのですが、そういった文調で書かれた本が売れている。

これはラジオのような音声メディアの勢いが増しているのとも関係すると思っています。たとえばこの番組の録画も、意外と通勤途中にラジオ代わりに聞いている人が多いみたいなんですよね。そもそもビジネス書の普及に伴って世の中には喋り口調の本が増えたと思うのですが、それを補完するための動画や音声メディアが広がって、さらに相補作用で喋り口調の本が売れているのは面白い。

これは出版業界の新しい勝ち筋になるのではないでしょうか。喋りが面白い人の喋り言葉が読みたくて本を買うって、今まであまりなかったと思うので。
平野:
講演とかも、動画だけ公開するよりも、文字起こしした記事をつけた方が見られたりしますよね(笑)。動画の方がストレスが少ないと思っていたのですが、文字起こしがあった方が面白そうな箇所だけ重点的に聴けて好まれるみたいです。
草野:
私も最近よくPodcastやオーディオブックを聴くんですが、ランニングや読書と並行して聴けるところに魅力を感じています。時間を有効活用できている気がするので。

続く第5弾「"本物"のクリエイターが伝えたい"良質な読書習慣"と、未来をつくる珠玉の書籍」では、MCのお二人とゲストに、フィルターバブルにどう向き合えばいいのかをブレストしていただいたうえで、最後にSENSORS視聴者におすすめしたい書籍を各々に紹介してもらった。

フィルターバブルに踊らされ、情報の蛸壺に囚われてしまわないためにどうすればいいのか。そして、本質的に価値のある情報に触れていくために、どんな本を読めばいいのか。視聴者の皆さんへの具体的なアクションの提示をもって、本サロンを締めてもらった。

↓↓↓OA動画は下記よりご覧いただけます。↓↓↓

(落合陽一のamazon購入履歴はオムツと野菜?ゲスト:平野啓一郎)

構成:小池真幸

93年生まれのライター・編集者。AI系スタートアップのマーケターを経て、現職。関心のベクトルは、人文知をバックグラウンドにビジネス・テクノロジーを考えること。
Twitter:@masakik512



編集:オバラミツフミ

1994年、秋田県出身。2016年からフリーランス。各種メディアでのインタビュー連載・ブックライティングがメイン。
Twitter:@obaramitsufumi

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