"本物"のクリエイターが伝えたい"良質な読書習慣"と、未来をつくる珠玉の書籍ーー平野啓一郎×落合陽一×齋藤精一

2018.07.31 18:00

「クリエイターとコミュニティ」をテーマに行われたSENSORSサロン。ゲストは作家の平野啓一郎氏だ。

全5回にわたってお届けする最終回の第5弾記事では、MCのお二人とゲストに、フィルターバブルにどう向き合えばいいのかをブレストしていただいたうえで、最後にSENSORS視聴者におすすめしたい書籍を各々に紹介してもらった。

フィルターバブルに踊らされ、情報の蛸壺に囚われてしまわないためにどうすればいいのか。そして、本質的に価値のある情報に触れていくために、どんな本を読めばいいのか。視聴者の皆さんへの具体的なアクションの提示をもって、本サロンを締めてもらった。

hirano5_01.png

(左より)平野啓一郎氏、齋藤精一、落合陽一、草野絵美

フィルターバブルに翻弄されないために、意義のある偶発性のモデリングが必要

--続いて、テーマに沿ってブレストをしていただくコーナーです。今回のテーマは「フィルターバブルとの向き合い方」。フィルターバブルとは、検索エンジンやSNSのパーソナライズ機能が発展した結果、自分の好む情報ばかり目に入ってしまう現象のことです。"情報の蛸壺化"とも表現されますが、フィルターバブルとどう向き合うべきだと思われますか?

落合陽一(以下、落合):
家族とPCを共有することが有効だと思います。たとえば僕の場合、妻が僕のPCでオムツや野菜を注文するので、Amazonのサジェスト品目が生活感に溢れています(笑)。
平野啓一郎(以下、平野):
分かります。僕もNetflixのアカウントを子供とシェアしているので、ヒーローものばかりサジェストされる(笑)。
齋藤精一(以下、齋藤):
僕もそうです。YouTubeでアンパンマンや子供に人気のYoutuberばかり出てきます(笑)。
草野絵美(以下、草野):
「アカウントを他の人とシェアしたい」という考えを持っている複数人で共有するのはありかもしれませんね。
平野:
昔はお茶の間のテレビが子供と大人の情報共有のためのメディアとして機能していましたが、今はその機能が親子の共有アカウントによって代替されているのかもしれません。

--フィルターバブルによって自分が好む情報ばかり目に入るようになると、アメリカの"トランプ選挙"のときによくいわれたように、フェイクニュースによって社会が分断化されるリスクもあると思います。その点についてはどう思われますか?

平野:
僕は、アカデミックな世界の研究内容に、ある程度のアクセスを持っておくことが非常に重要だと思います。アカデミックとのつながりさえ確保できれば、フェイクニュースが出てきても、「それは医学的に絶対ありえない」といった風にブロックできます。
落合:
そうですね。とはいえ、アカデミックな研究内容にリーチするための語彙を持っている人が少ないから、アカデミック内外の分断がどんどん広がっている問題もあります。

多分これを解決するためには、毎朝しっかりと本を読む人を作るといった、ライフスタイル面からのアプローチが必要だと思います。ただ、さすがに僕一人ではそこまでカバーしきれません。知識人がみんなそこのサポートをするようになるのが理想的です。

--その他、フィルターバブルに向き合っていくうえで有効な手段はありますか?

hirano5_02.png
落合:
自分と対極の属性に位置するような人に積極的に会いに行ったり、そういう人に会えそうな場に参加することは有効だと思います。
草野:
最近相性の良い人とマッチングさせてくれるオンラインデートサービスが流行りですが、その逆のサービスがあっても面白いかもしれません。自分と対極の人とマッチングして、アカウントをシェアさせるとか。
平野:
あとは、オフラインでの偶発的な出会いがモデル化されて、それを誘発するようなシステムが出てくるといいですね。面白い人たちが読んだ本や行った場所についてのデータがある程度貯まれば、どういう偶然が面白い人を作り出すかがモデル化できると思うんですよ。世の中に出回っている情報が膨大すぎて、モデル化でもしないと、偶然そういった出会いに巡り会うことが難しくなってしまっています。

SENSORS MCとゲストが選ぶ、"未来"をつくる珠玉の書籍

--最後はスペシャルコーナーです。視聴者の皆さんへ、MC陣とゲストがおすすめする書籍をご紹介します。まずは齋藤さんからお願いできますか?

齋藤:
僕が推薦するのは、GKインダストリアルデザイン研究所創設者・栄久庵憲司さん著の『道具論』。この本は結構翻訳もされていて、日本で生まれたメタボリズム理論を海外に広めるなど、大きな影響力を持っています。

さっきのフィルターバブルの話にも通じますが、インターネットやデバイスなどの 定義が見直されつつある今だからこそ、「そもそも道具ってなんだろう」という話をしているこの本を読んでほしいですね。特に若い人には。
草野:
私はアメリカでベストセラーになった、アジズ・アンサリ著の『当世出会い事情』。マッチングアプリやテキストによって恋愛がどう変わってきたのかを、統計的・フィールドワーク的に分析しています。

現代のテクノロジーと人間の愛が交差して描かれていて、また日米の恋愛に感する価値観の違いが分かります。単純にルポとしても面白いので、是非SENSORS視聴者の皆さんに読んでほしいです。ちなみに私はこれをテーマに曲も書きました(笑)。
落合:
僕は最近書いた『デジタルネイチャー』。自分で書いた本を自分でおすすめするのは、自分の曲をかけるDJみたいですが(笑)、注釈から何まで非常にこだわっているので、是非読んでほしいです。例えば「ヒト」、「人間」、「人類」、「人」それぞれにキャプションがついてたりします。

あとはこれを書く際に大いに参考にした、グレゴリー・ベイトソンの『精神と自然』もおすすめです。我々の社会では、「精神」はもはや人間の精神だけではない、といったことを論じている思想書です。こういった思想書を17世紀頃のものから読み漁ったうえでコードを書くプログラマーがもっと増えてほしいですね。
hirano5_03.png
平野:
僕は、大江健三郎さんの『死者の奢り・飼育』がおすすめ。大学生時代に書かれた作品なんですが、ザ・文学といった感じの初期短編集です。言葉の密度・緊迫感が桁違いで、いまネット上で流通している言葉とは全然違います。あまりにすごすぎて、読むたびに自信を失いますね(笑)。

この言葉の先に広大な文学の世界が広がっていってることを体験して、打ちのめされてほしい。特に20代の方とかだと、「自分と同い年でこんなものを書ける人がいるのか」と打ちのめされて、良い意味で謙虚な気持ちになれると思います。これからまた頑張ろう、って。

「一億総クリエイター時代」と言われるようになって久しい。ブログやSNS、動画サイトなどで、誰もが手軽に作品を生み出し、発信できるようになった。

その結果、本当に豊かな文化が生み出されたのだろうか?検索エンジンの評価だけを気にかけてコンテンツを量産するキュレーションメディアは一向になくなる気配がなく、SNS上でも「いいね」の数を稼ぐためのフェイクニュースが蔓延っている。

しかし、品質が担保されていなくても誰でもクリエイターを自称できるこの時代だからこそ、"本物"の価値が高まっていることもたしかだ。"偽物"ばかりで溢れかえる世の中だからこそ、"本物"に出会えた時の喜びも大きい。

今回ゲストにお招きした平野啓一郎氏、そしてMCの3人は全員、ジャンルは違えど真摯かつハイレベルに作品づくりに向き合っている"本物"だ。今回のディスカッションから、本物のクリエイターをもっと世の中に増やしていくためにはどうすればいいのか、そのヒントが垣間見えたのではないだろうか。

↓↓↓OA動画は下記よりご覧いただけます。↓↓↓

(落合陽一が今"オススメしたい本"は?ゲスト:平野啓一郎)

構成:小池真幸

93年生まれのライター・編集者。AI系スタートアップのマーケターを経て、現職。関心のベクトルは、人文知をバックグラウンドにビジネス・テクノロジーを考えること。
Twitter:@masakik512



編集:オバラミツフミ

1994年、秋田県出身。2016年からフリーランス。各種メディアでのインタビュー連載・ブックライティングがメイン。
Twitter:@obaramitsufumi

最新記事