堀江貴文が見据える、人工知能と共存する近未来【前編】〜人工知能は、人間らしい"非合理性"を実装できるのか

2015.10.16 13:00

9月7〜8日「Wearable Tech Expo in Tokyo 2015」で行われたパネルディスカッション「AI(人工知能)とロボットのある社会、人の存在はこうなる」。通称"ホリエモン"ことSNS株式会社 ファウンダー 堀江貴文氏、農家学者/医学博士/認知科学者 中野信子氏、そしてロボット開発者 林要氏が登壇(モデレーターは湯川鶴章氏)。実業家、脳科学者、ロボットクリエイターという異なったジャンルのトップを走る3人がそれぞれの分野の知見を生かし、来たるべきAI以後の近未来風景を描いた。

■︎AIは人間を超えているとも、超えていないとも言える

今注目を集めている「AI(人工知能)」。あらゆる分野・文脈でその可能性が模索されている。とりわけ、ディープラーニング(深層学習)−機械学習の新しい手法−が技術的なブレークスルーとして期待を集め、「人工知能がいよいよ人間を超越するのではないか?」という疑問が盛んに議論されている。

登壇者【左から】林要氏、中野信子氏、堀江貴文氏

--定義はその都度していく必要があると思うのですが、堀江さんは30, 40年後にAIが人間を超えると思いますか?

堀江:
コンピュータって明確な記憶容量があるので、記憶を消さなくても良かったりして、人間より性能で優れている部分もありますよね。そういう意味では、すでに超えているとも言えるし、超えていないとも言える。今日、ちょうど飛行機の中で『インサイド・ヘッド』というディズニー映画を観たのですが、脳の仕組みをすごく分かりやすく表現していたんですよね。記憶が二度と戻らなかったり、壊れていく感じがすごく上手かったです。
中野:
"悲しみ"や"喜び"、教育映画としてすごく良くできていますよね。
堀江:
ここ10年、AIの一分野で音声認識や翻訳が急速に進化し始めた理由の一つは"クラウド"なんですよ。これはGoogleが先鞭をつけたといいますか、Googleの検索の結果で失敗や間違いをたくさん蓄積していった結果。重要なことはどうやら正解を見つけることではなくて、失敗や間違いを膨大に蓄積することだった。二歳児、三歳児が言葉を獲得していく過程に近いのですが、とにかく失敗を重ねながら学習を進めていく。最近、Siriの性能ってすごいじゃないですか。あれも膨大な失敗のデータベースから正解を見つけ出すアプローチ。まだ黎明期ではありますが、やっとその糸口が見つかってきた。
中野:
ディープラーニングにも関連すると思うのですが、私が面白いと思ったのは、"アンラーニング(学習棄却)"です。色んなデータベースを重ねていって、知識を膨大にしていけばそれで正解に近づく。そして、前に学習したものを忘れた方が実はシステムとしてはより良くなる。
堀江:
『インサイド・ヘッド』でもありましたね。お掃除屋さんみたいなのが出てきて、「これは要らない、これは要らない」って。
中野:
私も取材で「暗記ができなくて困ってます」「記憶力を高めるにはどうすれば良いですか?」と聞かれることが多いのですが、疑問でした。本当は忘れた方がいいから「忘れる」機能があるのに、皆さん自分の脳の性能が悪いせいだと思ったりするんですね。コンピューターはそれを補完するためにあるわけで、「人間を超える」という表現はちょっと変な気がしています。

■︎︎意識を持ったとしても、身体性のないAIは人間になりえない

--全ての面でAIが優れていて、全てをAIコンピュータに任せて人間は遊んでいるだけの生活、いわば"ユートピア"は訪れると思いますか?

【左】中野信子氏(脳科学者)【右】堀江貴文氏(SNS株式会社ファウンダー)

堀江:
もうそのユートピアは来ているんじゃないですかね?今日も僕は仕事で来ている気がしないんですよ。林さんはロボットクリエイターということで分かると思いますが、ロボットって単純に人間との"トレードコスト"なんですよ。例えば、Amazonの倉庫ではまだ人間が作業していますが、それはまだ人間の方が安いから。ただそれだけの話です。
林:
堀江さんがおっしゃったように、人工知能は繰り返しの作業を行うのは上手くなってきました。僕らが今問題としているのは、利害関係が一致しない人たちの間をいかに仲裁するのかという部分。人工知能は"身体性"を持っていないが故に、人間とは全く同じには発達していかないし、役割が全く違うと思うんです。やはり「人間を超える、超えない」という話ではないと思います。
堀江:
ロボットということで、僕もちょうど"身体性"の話をしようと思っていました。脳神経は手の先までずっとつながっているんですよ。よくハリウッド映画などで、監視カメラのネットワークで容疑者がどこに逃げているかを追跡できる描写があるじゃないですか。全地球規模でネット網が張り巡らされて、一つの神経のような働きをすることもあり得ると思うし、コンピュータが「自分は自分である」ということをシミュレーションできるようになるような気がしています。
中野:
「受動意識仮説」という説を唱えているロボット学者の方がいて、これは無意識というのが自分のメインのパートで、意識をしているのはあくまでサブの部分であるというものです。自分が喋っているのは無意識下で、言語化できている部分を喋っているだけで、自分の中にはもっと多くの情報処理がされているという仮説なのですが、これを前提にすればロボットが意識を持つというのは可能だと思うんです。でもそれは必ずしも人間と一緒ではない。その理由は、人間はどうしても生殖をするという本能があって、それによって種を保存していきたい。対してロボットやAIというのは生殖といいますか、増殖の仕方が全く違うので、おそらく考え方も変わってくる。だとすればそれは「超える超えない」ではなくて、「違う存在が出てくる」ということですね。

■︎人は遊び、田んぼは機械が耕す−タイでみえた一つの近未来風景

【左】林要氏(ロボット開発者)【右】中野信子氏(脳科学者)

--一方で、同じものを作ろうとする試みもありますよね?人間の脳をスキャンしてそのまま使おうとか、あるいは人間が何世紀もかけて経験してきた"進化"というものをシミュレーションして、人間と同じように村社会で生活させることで、今の人間と同じようなものを作れるんじゃないかとか。

中野:
私はそもそも脳が優れた器官だとは思っていないんですね。人間には最初に生き延びなければいけない、そして次の世界を生み出していかなければならないという二大ミッションがあります。これを完遂するためになんとか建て直し、建て直しで大きくなってきた器官が脳ですから。ならば、その器官を設計し直して、作った方がいいんじゃないかというのが私の考えです。
林:
人工知能が人間を凌駕して、人類が滅亡するというのはよく聞く話です。でも人工知能がちゃんと意志を持っていたとしたら、そもそも人間を殲滅する理由がないと思うんですよね。今起きている議論って、ほとんど天動説から地動説に変わった時のような話かと思っています。みんな自分が世界の中心だと思っていたのに対して、プレイヤーが増えるのを恐れているだけに過ぎなくて、実は人工知能にとって僕らがいない方がいいなんてことはないはず。
堀江:
関連して働き方の話にもなってきますよね。今は過渡期なので、辛い仕事を我慢しないと生きていけないと思っている保守的な人が多いけど、実は全然そんなことない。タイでは豊かなお布施のせいで、お坊さんが肥満になって、糖尿病が社会問題になっているらしいんですよ。
中野:
実は余剰ってけっこうあるんですよね。
堀江:
食糧なんてほとんど廃棄してるんですよ。ロス分をITを使って効率よく廃棄しないようにするビジネスが出てきていたりしますが、シェアリングエコノミーで車を共有したり、こんなの絶対シェアでいいじゃないですか。そうすれば土地も余るし、駐車場もいらなくなる。アメリカの農業なんて人間が介在することなく、ほとんどが自動化されています。「働かざる者、食うべからず」だとか、憲法の労働の義務とかっていうのは、150年前の常識。

--今、堀江さんがスローガンを立てるとしたらどんなものを立てますか?

堀江:
「ずっと遊んでればいいんじゃないの」ってずっと言ってますよ。だから僕が今、投資先として注目しているのは"エンターテイメント産業"なんですよね。これからは遊んでる人たちがヒーローになる。先日、タイのウェイクパークってところに行ってきました。そこでは「ウェイクボードの神」になれれば、自分の好きなことをやりながら、人に教えて仕事にできる。そういったことがウェイクボード以外にもいっぱい出てくると思います。ウェイクパークの風景って、周りは全部田んぼ。田んぼには自動の機械が走っていて、無人で米を作っている。それで人は一日中ウェイクパークで遊んでいますというのが近未来の風景。
林:
やはり感動させることができるという意味では、エンターテイメントだと思うんですよね。まさにロボットが浸透した最後に残る仕事がそこになると思います。
中野:
ゲームをやっていて思いますが、ゲームが面白くてやっているというよりはハイスコアを取ったことを自慢するためにやっているというか。実はゲームというのは感覚を刺激する喜び以上に自己実現的な欲求を満たしてくれるんですよ。
林:
ペッパーをやっていたときに要望として多かったのが、話を聞いてほしいというもの。重要な話は親や友達にするけど、もっとくだらない話を聞いてほしい。
堀江:
ペットの役割はまさにそれですもんね。
林:
そうなんですよね。ロボットの究極の姿ってひょっとしたら仏像のような、キリストのようなものなんじゃないか。ストーリー性が背景にあると話しかけたり、感情移入できたりします。そこをもう少し補完してあげて人の存在感を認めてあげたり、やる気を出させたりっていうのはできると思います。

■︎イノベーションの核心にある"非合理性"を人工知能は実装できるのか

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--AIが進化していく過程で、社会はどのように変化していくべきでしょうか?

堀江:
"べき"っていうのはなくて、答えはいっぱいあると思います。例えば、義務教育なんてなくていいと思います。
中野:
アメリカだと「週休二日より週休三日の方が教育効率が上がった」という教育学の面白いデータがあるんです。できる子にとっては一人でeラーニングでもした方が早いですよ。「なぜイノベーションが日本で起こらないか?」とよく言われますが、「合わせる」教育をしているんだから当たり前ですよね。
林:
「非合理性をベースにしているから、イノベーションが起こる」のではないかと、この間アメリカに行って思いました。大企業ではどうしても失敗を含めた可能性を介したありきたりなものしか出てこない。対して、人間がAIと違う部分っていうのは"非合理性"、感情的に思い込むような突破力にあるんじゃないかと思うんですよ。すごいパワーとかパッションを持った人間にしかない非合理性が、人工知能と最も違う部分だと思います。
中野:
非合理性の最たるものとして、宗教のパラダイムがあるわけですね。必ずしも自明でないものを、自明のものとして受け止めることなど。そういうものを人工知能に果たして実装できるのかどうかは気になるところですね。

ディスカッションの中で浮かび上がってきた人間と人工知能の境界に横たわる"非合理性"というキーワード。
【後編】「完全な答えがない世界における人工知能の役割」ではロボットクリエイターの近藤那央を聞き手に、人工知能を中心により広範に渡るテクノロジーの行方を堀江氏が語った。

文:長谷川リョー

1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。
Twitter:@_ryh

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