日本中の子供にプログラミング体験を届ける〜「みんなのコード」立ち上げの狙い

2015.12.10 16:00

12月5日、世界的なプログラミング教育推進週間に先駆け、子供向けプログラミング教育のキャンペーン「Hour of Code」が開催された。会場のエンジニア向けイベントスペース「dots.」には、参加者の子供50名が集まり、ゲーム感覚で基礎的なプログラミングを学習した。今回は、日本のプログラミング教育を変えるべく、「一般社団法人みんなのコード」を立ち上げた利根川裕太氏に詳しくお話を伺った。

Hour of code当日の様子

◼日本中︎すべての子供に、コンピューター教育の機会を提供するために

Hour of Codeは、アメリカで発足された「code.org」が始めたキャンペーンだ。ビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグ、オバマ大統領の支援のもと、2013年に初めて開催されて以来急速に広がりを見せている。学習コンテンツはインターネット上で無償提供され、受講者数は昨年で6000万人を超える。みんなのコード代表利根川氏は、「Hour of Code」の日本における普及を通じ、日本に良質なプログラミング教育を根付かせたいと語る。

--はじめに、「みんなのコード」がどのような活動に取り組んでいるのかについて教えていただけますか?

利根川:
日本中のすべての子供にコンピューター教育の機会を提供するという目標で活動しています。主にIT系と、事業立ち上げ経験者が集まり、今年の7月に法人として立ち上げました。

去年までの日本国内の「Hour of Code」の展開は、主に各地のボランティアや外資系IT企業が各企業内でワークショップを開催する等、散発的に開催されていました。みんなのコードの設立を機に、今年は日本国内で元々Hour of Codeに取り組んでいる企業に加えて、プログラミング教育に興味を持つ企業や学校を巻き込んでいる形です。

また、みんなのコードがワークショップを主催するというよりも、各地の教育機関やNPOさんと連携し、彼らのワークショップ開催を「指導方法のレクチャー」、「エンジニアボランティアのマッチング」、「子どもの集客」等の開催の支援に重点を置いています。

日本でも、プログラミング教育に対するニーズはありますが、どのようなカリキュラムや体制で臨むべきかが明確になっていない状況です。 そのため、みんなのコードの活動は大まかに二つに分かれています。一つ目は、本日も開催しているHour of codeの日本国内推進を含めた、「プログラミング教育の普及啓蒙活動」です。二つ目は、日本国内の教育機関や政府機関に対し、「プログラミング教育に関する研究実証実験・政策提言」を行っています。

--何故、子供のプログラミング教育が世界的に広まっているのでしょうか。

利根川:
今後プログラミングに対する理解が求められる傾向がより強まっていくと考えられているからでしょう。例えば、過去10年間のデータを見ていくと、IT業界は他の業界の約3倍の成長率で成長しています。現在起こっていることとしては、ITを活用することで新たに成長しているIT以外の業界もあり、ITの発展がIT業界だけでなく、世の中全体を変えていると言って良いでしょう。また、10年後を考えると、もう既に実用化に向けて実験されている自動運転技術や人工知能がより一般的になっていくと考えられ、「21世紀の共通スキル」としての「コンピューターの仕組み」への理解が重視されると考えています。

かつてグローバル化が叫ばれ、日本の教育に英語学習が取り入れられました。同様に日本政府も「2020年に一人一台タブレット普及」を目指し、プログラミング教育・ICT教育を取り入れる方針で動いています。パワーポイントやエクセルを扱えることが必須であるように、基礎的なプログラミング言語に対する理解が求められるようになっていくのではないでしょうか。

◼︎「プログラミングを活用する」教育に向かうアメリカ

Hour of Codeキャンペーン以来、米国においてプログラミング教育が教育機関に実際に取り入れられ始めているという。code.orgによって提供されているプログラミング学習コンテンツは、日々改善され続けている。現在は英語版のみの提供だが、JavaScriptをブロックプログラミングで理解できるコースを終了すると、大人向けの一般教材を学習する入り口に立てるそうだ。

利根川氏は、日本のプログラミング教育はアメリカと比較すると正直遅れを取っていると語る。

利根川:
これはアメリカの中学校での先進的な事例ですが、「プログラミングを活用した学習」が行われているそうです。例えば、理科の時間にプログラミングを使って地球温暖化について学ぶ。温暖化現象を実験や観察で学ぶのは難しいため、コンピューター上でシミュレーションを行います。事前に簡易なプログラミング技術を教え、地球温暖化シュミレーションプログラムを配布します。生徒は地球温暖化の仕組みを学んだ後に、シミュレーションプログラムを操作して学習を深めることができる。つまり、プログラミングを「世の中を理解するためのツール」として活用しています。

--一方、プログラミング教育推進にあたって、日本の教育現場はどのような課題を抱えているのでしょうか?

利根川:
まず、この問題に興味を持っている方が教育現場において少数派です。学校の先生のほとんどはプログラミングを体験したことがありません。学校教育に英語を組み込んだ時は、多かれ少なかれ英語に関する知識がある先生が居ました。しかし、全く親しみがないプログラミングを教えることに対するハードルは非常に大きいです。

現場の先生も、教育委員会も文部科学省も「どのようにプログラミングを教えるのが正解なのか」がわからない。ただ、本日のチューター陣の中にも学校の先生や、元先生の方が参加してくださっているように、IT系の人と現場の方を巻き込んで一歩ずつ前進しています。

--現状、どのような形でプログラミング学習が学校教育に組み込まれているのでしょうか?

利根川:
教育指導要領に定められていないため、現場の先生が上手く時間を見つけて取り組んでいるというのが現状です。例えば、総合学習の時間や、自由参加のイベントとして開催する場合。あるいは、小学4年生の総合学習の時間での「1/2成人式」や、小学5年生の「情報化社会と私たち」といった単元を使う方針で動いている機関もあります。まずは、1年間に1回、1時間のプログラミングを体験してもらえるようにしたいです。

みんなのコード代表 利根川裕太氏

◼︎テクノロジーを怖れず、興味を持つためのステップを超えてほしい

利根川氏は、慶應義塾大学経済学部を卒業後、新卒で森ビル株式会社に入社。その後、ラクスル株式会社の立ち上げに参画し、みんなのコード設立に至る。自身のキャリアを経て、子供の頃からプログラミングに触れることが重要だと、利根川氏は語る。

利根川:
私は25歳からプログラミングを始めました。エンジニアとしては正直遅いスタートです。会社を立ち上げる時に必要で、何とか形にはなったんですが、本当に凄いプログラムを書く人はやっぱり小学生・中学生の頃から始めている人が多い。私は一人のエンジニアとしてキャリアを積んでいくよりも、世の中に大きなインパクトを与える仕事がしたいと考え、子供の頃からプログラミングに触れる人が増えれば、さらに多くの世の中を良くする人材が日本から生まれるのではないかと思い、みんなのコードを設立しました。

--プログラミングを早期に学ぶことの効果は非常に大きいと思いますが、他の選択肢と比べてどのような魅力がありますか?

利根川:
プログラミングは、試行錯誤しながら新しいものを生み出すことの繰り返しです。論理的思考や試行錯誤して問題を解く力、創造性などを子供のうちに身につける上で効果的だと思います。ただ、全員が全員プログラマーのような思考回路を身につけなければいけないとは考えていません。

個人的には、「パソコンの黒い画面を怖がらない」というのが第一ステップだと思っています。プログラミングができるようになる必要はありませんが、新しい技術が出てきた時に、怖がらずに活用しようと思える心は身につけるべきだと思います。ITに親しむための第一歩として、より多くの子供にプログラミング学習を経験して欲しいです。

--最後に、今後の活動方針について教えていただけますか?

利根川:
今年度の日本国内のHour of Codeは、合計約150のワークショップが開催され、2000人以上の子供にプログラミング学習の機会が提供されました。

最近までは、どちらかというとIT系の企業に関係のある方がプログラミング教育に興味を持っていました。少しずつではありますが、一般のご家庭にも、プログラミング教育の必要性が伝わってきているように感じます。今後は、プログラミング教育・コンピューターサイエンス教育の活動をITメディアだけでなく、一般紙にも取り上げていただけるような流れを作っていきたいです。

みんなのコードの長期的なゴールはあくまで、義務教育課程に効果的な教育プログラムを提供することです。

子供の頃のわずか1時間の経験が、やがて彼らを突き動かす原体験になるかもしれない。Hour of codeを体験した50人の子供達は、お互いに助け合いながらゲーム感覚でプログラミングを楽しんでいた。日本の教育を変えるべく尽力するみんなのコードの活動に、今後も注目したい。

取材・文:神田ゆうき

フリーライター
1993年生まれ。早稲田大学国際教養学部在籍。カリフォルニア大学バークレー校に長期留学後、教育機関向けサービス「うさぎノート」立ち上げに従事。最近の興味はデータ活用・デザイン思考など。

Twitter:@93yu_ki

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