「ハイパーリンクチャレンジ2015」立ち上げメンバーが語る、Webメディアにおける"属人性"

2016.02.23 10:00

各人が1年を通じて「これは一番面白かった」と思うWeb記事を紹介しながら、次の人へバトンを渡し、最も輝いていたWebコンテンツを決めるアワード「ハイパーリンクチャレンジ2015」。昨年末SNS上で盛り上がったこの企画は今月、集計結果が発表された(結果発表ページ)
ありそうでなかったこの企画を立ち上げたのは、それぞれがライターもしくは編集者としてWebコンテンツの制作で活躍する藤村能光氏(サイボウズ式)、佐藤慶一氏(現代ビジネス)長谷川賢人氏(北欧、暮らしの道具店)、鳥井弘文氏(灯台もと暮らし)の四氏だ。この四氏にアワードの結果を振り返りつつ、今後のWebメディアの展望を語って頂いた。

前編では、"ハイパーリンクチャレンジ"を始めるに至った経緯が語られた。その背景には、コンテンツの消費速度が加速する中、改めてWebコンテンツの"質"や"価値"を問いたかったという課題意識がある。併せてアワード選考での気づきや、各人がそれぞれベストメディアを選んだ。

後編ではメディアの属人性の重要性が増していく一方、広告や情報の流通経路に変化が起きつつあることが語られる。今話題のnote課金の話や、「ハイパーリンクチャレンジ」の総括から2016年以降のメディア動向を探っていく。

【左から】佐藤慶一氏(現代ビジネス)長谷川賢人氏(北欧、暮らしの道具店)、鳥井弘文氏(灯台もと暮らし)、藤村能光氏(サイボウズ式)

■Webメディアにとっての"属人性"と"不完全さ"

鳥井氏が注目しているというメディア「くらしのきほん」には夜の8時から朝の5時まで限定で読める、"夜のよみもの"がある。松浦弥太郎氏が「泣きたくなった あなたへ」と題して綴るエッセイであるが、あえて"弱み"を包み隠さない優しい筆致に引き込まれてしまう。
メディア研究者・マクルーハンの学説「ホット/クール」なメディアの学説を、藤村氏は「くらしのきほん」に当てはめて考える。

藤村:
マクルーハンの「ホットなメディア、クールなメディア」によれば、人は完成された(ホットな)メディアよりも、未完成なもの(コールドな)メディアを完成に近づけていく性質があります。2ちゃんねるやNewsPicksのコメントはこれに該当するかもしれません。松浦さんのエッセイも読者の方の想像の幅を持たせて、コンテンツを共に完成させていくというアプローチを採っているのかもしれないですね。
長谷川:
ただ、"不完全"を許容してもらうにはある程度の親近感が必要になると思います。一定の認知度や影響力があってこそ成立するスタイルかもしれない。それを間違えると、うまくいかないのではないでしょうか。

ーー松浦さんにしてもそうなのですが、皆さんはWebの世界で個人の色ついてはどのようにお考えでしょうか?"個"をどこまで出すのか、もしくは消すのか。

鳥井:
佐藤さんは個性を消すのがすごく上手いですよね。特に「現代ビジネス」で書かれている記事なんかを読んでているとそれを強く感じます。

佐藤慶一氏が個人で運営するブログ「メディアの輪郭」。海外メディアの最新動向を分かりやすく伝えている。

佐藤:
「現代ビジネス」は大きい媒体ですし、純粋に編集者としてのスキルが求められますからね。一方で、ブログ「メディアの輪郭」では自分の色を出すようにしています。
長谷川:
僕がMediumに投稿した『2016年のウェブメディア運営は「属人性」「特集」「教育」が新たなキーになる』に事例と併せて書いたのですが、2016年以降は"属人性"が絶対に大事になると思います。誰がメディアをやっているのか、誰が記事を書いているのかの重要性は「北欧、暮らしの道具店」を運営していても感じるところが多くあります。
今後は"揺り戻し"が一つのキーワードとしてあると思っていて、現状のウェブメディアでは、ニュースアプリやキュレーションメディアの台頭もあって、記事がバラ売りになり、書いている人が誰かを意識しにくくなった。つまり誰が書いてもいいし、誰が読んでもいいという状況です。ただ、コンテンツはコミュニケーションの一種である以上、作り手と受け手の関係性があやふやなままだと、今後は内容に不安を覚えたり、物足りなさを感じたりするかもしれない。そこで属人性が再び重要になるだろうと。あれほど"バズ"を重視するBuzzFeedでさえライターや翻訳者の名前は必ず出していて、記者単位でファンが付いているそうですしね。

■noteへの課金は"個人"に対してか、"情報"に対してか

属人性が際立ったメディアの事例として長谷川氏は糸井重里氏が主宰する「ほぼ日刊イトイ新聞」と松浦弥太郎氏の「くらしのきほん」を挙げた。
話はここから最近Web界隈で話題となっている「noteでの課金」に移る。藤村氏が提起するのは「課金が"個人"に対してなのか、それとも"情報"に対してなのか」という問いだ。

鳥井:
どっちなんでしょうね...。ただ、まだ確実にファンビジネスというか、より深く知りたい人たち向けのコンテンツが中心となっているように思います。。僕ははあちゅうさんのnoteの運営方針を勝手に「セルフフライデー方式」と呼んでいるのですが、まるでフライデーに載っているかのような赤裸々な内容を、自ら有料マガジン内で見せているところがとてもうまいですよね。

note(ノート)」は文章、写真、イラスト、音楽、映像などを投稿したり販売できるプラットフォーム。

長谷川:
Kindleとの違いとしてはコメントができたり、買った人が分かるということはありますよね。
鳥井:
従来の本屋さんでも同じような傾向ってあると思うんですよ。実用書やノウハウ本が売られている棚もあれば、一方でエッセイや写真集が売られている棚もあるわけですよね。エッセイや写真集の棚はコンテンツのクオリティというよりも、作家に紐付いて買っている方のほうがメインだと思うので、著作者に紐付いて購買されるものはnoteに流れていく可能性はある。一方で実用性や情報性が高いものはしっかりと編集されてKindleに流れていくというような。一つの本屋の中でも棚が別々になってるわけですから、それがウェブ上でも同じようなすみ分けが始まってもおかしくないのかなと思います。

■2016年以降のメディア展望:流行の発信源はマスメディアから個人へ?

note課金の話題から鳥井氏は感じ取るのは単に個人のマネタイズの可能性が広がったことのみならず、メディアを通じて起こるムーブメントの発生の仕方に変化が起きつつあるのではないかという仮説だ。

鳥井:
今回のnoteの盛り上がりはつまるところ、はあちゅうさん、イケダハヤトさん、梅木雄平さんが一緒に動いたことだと思うんですよ。今までって例えば、『anan(アンアン)』、『CanCam』、『王様のブランチ』なんでもいいのですが、マスメディアが一斉に取り上げたら"流行る"みたいなムーブメントの生まれ方があったわけじゃないですか。こうしたメディアが担ってきた流行の発信源みたいなもの、それが個人レベルにまでシフトしてきている。まだ局地的ではありますが、今後はこういった流れがもっと如実になっていくのかもしれません。2016年の始まりと同時にすぐにこの話題があったということはすごく面白いことだと思います。
長谷川:
コピーライターの小西利行さんは『仕事のスピード・質が劇的に上がる すごいメモ。』という著書の中で、「広告」という言葉の変化について書いています。これまでの広告は、基本的にはテレビや新聞で"広く告げる"だった。それがここ数年、SNSやネットが力を持ったことで、今は"面白いことを告げてシェアする"なんじゃないかという話なんです。つまり、「広→告」から「告→広」の時代になったと。そう考えると、今の鳥井さんの話にも関連しますが、シェアしてくれる、あるいはムーブメントをつくる最初の何人、何十人をいかに押さえるのかが重要ですよね。

鳥井弘文氏が運営する暮らしを考えるウェブメディア「灯台もと暮らし」では全国津々浦々で活躍する人々の姿を紹介している。地方においても個人レベルから情報が拡散していくことが往々にしてあるという。

藤村:
インフルエンサーの人にブログを書いてもらって、そこを発信源にするマーケティング手法もありました。でも最近は普通にブログを書いている人同士が繋がっていく感覚があります。この企画を通じても美容師のつながりの厚みが明らかになりました(前編参照)。ソーシャルの世界では1人の大きな共感が周囲の3人に伝わり、それが30人に広がっていくという感じですよね。むしろ、インフルエンサーよりも近しい友達の方がすごく反応を受けているような気もしています。

また、ハイパーリンクチャレンジ全体を通じて長谷川氏は、インフルエンサーによる記事のみならず「普段は絶対に目にすることがなかったであろうブログ記事」と出会えたことも大きかったと語る。

長谷川:
僕が一つ強烈に覚えているのが、愛媛在住のブロガーであるうーとさんが書いた「乳がん検診(マンモグラフィー)に貧乳が行ったらどうなる?」という記事。多分、この企画がなければ僕は絶対に出会うことがなかったであろう面白い記事なんですよね。他にも、「61歳の母親が、初めてフジロックに行った体験記」や佐藤君が推薦していた「」という文章。
ひとつの企画のプラットフォームがあれば新たな「個人」の面白さを知るきっかけは十分にあり得ると学びました。

筆者はWeb記事を1日に少なくとも20〜30記事は読んでいる。「ハイパーリンクチャレンジ」の終盤で自分にもバトンが回ってきたので、印象に残った記事を思い起こそうとしたのだが、はたと思い出すことができない。一年で換算すれば7,000〜10,000記事ほど読んでいるにも関わらずである(だからこそなのかもしれない)。
それでも思い浮かぶ記事の印象は強い。これは自分に限らず、引き継がれていくバトンの記事を追っていけばすぐに分かる。99%が忘却される中で、読者の記憶に刻み込まれた1%のコンテンツの持つ引力は凄まじい。バトンを追っていくと止まらなくなってしまったと同時に、Webという宇宙が内包する"小宇宙"の豊饒さにも改めて気づかされた。

Webメディアにおける属人性が高まっていくにつれ、個人やコンテンツの功績を讃えるWebアワードも間違いなく盛り上がりを見せていくのではないだろうか。

取材・文:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。『SENSORS』や『WIRED.jp』などで編集者/ライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。東京大学大学院学際情報学府にてメディア論を研究。最近は「人工知能」にアンテナを張っています。将来の夢は馬主になることです。
Twitter:@_ryh

聞き手:市來孝人

SENSORS Managing Editor
PR会社勤務ののち、かねてより旅行でよく訪れていたロサンゼルスに在住。帰国後、福岡やシンガポールのラジオDJ、東京でのMC・ナレーター、ライターとして等の活動を経てメディアプランナーとして活動中。また、タレント・企業トップなど個人に特化したPR・ブランディングにも携わっている。

Twitter:@takato_ichiki
Instagram:@takatoichiki

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