市原えつこ「セクハラ・インターフェイス」のルーツを語る 【後編】"技術とスピリチュアルの距離"を縮める次の一手

2015.07.15 08:30

"セクハラ・インターフェース"をコンセプトに、「喘ぐ大根」や「ペッパイちゃん」など話題のプロダクトを生み出し続ける注目のクリエイター・市原えつこ氏。SENSORSは市原えつこ氏の自宅でロングインタビューを敢行。【後編】では文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門審査委員会推薦作品にも選出された「妄想と現実を代替するシステムSRxSI」、「仏界のネオカリスマ HIROSHI♂」、乳首搭載ロボ「ペッパイちゃん」など最近の作品を中心に作品が生まれた経緯や裏話を伺い、インタビューの最後には「技術と宗教の距離を縮めたい」と今後に見据える野望に迫った。(【前編】性と身体を巡る表象とテクノロジーの出会い

■「妄想と現実を代替する」SRの開発へ

市原えつこ氏(ポートフォリオサイト

大学を卒業し、社会人となってから仕事の傍らで新たに始めた取り組みが「代替現実(SR)システム」とのコラボレーションだ。
このきっかけになったのが「これからの性とアートの話をしよう」という新年イベント。2012年末にニコニコ学会βのナイトセッションとして「ニッポンの恥性」というタイトルで本格的なイベントを座長として主宰したのを皮切りに、性と技術をテーマにしたイベント開催に興味を持ち、それが乗じて友人らと自主的にイベントを開催した。

青山裕企氏、橋本直氏、福地健太郎氏、かむたろー氏など豪華なメンバーが出演した。市原氏は当時、「社畜系アーティスト」を名乗っていた。(http://niconicogakkai.jp/nng3/yorunico

このイベントをキッカケに、代替現実システム(SR)の研究開発を進める藤井直敬氏に出会い、セクハラ・インターフェースとSRシステムと掛けあわせた作品の開発を試験的に行うこととなった。 (SENSORSでは藤井氏が代表を務め開発を進める「ハコスコ」についてのインタビューも行っている:VRの主戦場はスマートフォンへ、『ハコスコ』藤井直敬の先見

SRの体験は視覚と聴覚に対してうったえるもの。ここに「セクハラ・インターフェース」を援用し、新たに触覚をSRに持ち込んでみるというものだ。 藤井氏、SI共作者の渡井氏とのブレストを挟んだのち、すぐに実験に移った。コンテンツの構成を考案しながら女優を血眼で探し、AR三兄弟が主催したパーティーで出会った女優・藤崎ルキノさんをパフォーマーとして起用することになった。

現実と虚構の区別をなくす《SRシステム》体験する人は恍惚の表情をしているが、端から見ると、ニヤニヤしながら大根を触っているヤバい人に映るという。(https://vimeo.com/80230775

コンテンツにはバリエーションがあり、体験者の心拍数によって場面が分岐していく。ドキドキしていると、幸せなルートが生じ、ルキノさんが出てきて、「恥ずかしい」と言いながらキスをしてくれるシークエンスが流れる。対して興奮しすぎた場合に出現する悪夢ルートもあり、ここでは仕込みiPhoneでもお馴染みの森翔太氏がキスシーンで登場する。名付けて「妄想と現実を代替するシステムSRxSI」。この作品は第18回文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門 審査委員会推薦作品に選ばれた。

男性向けコンテンツだけではなく、女性向けに森翔太氏が最高のプロポーズを繰り出し続けるコンテンツも制作した。

もともと演技もやっていたという森翔太氏は迫真の演技で、完全にサイコホラー映画のようだったそう。(https://vimeo.com/103974412

■露出支援ロボットから仏界のネオカリスマへ、「ひろし(28)」がたどった顛末

ここまで紹介した作品を含め、人が不在の長期展示はあまりしてこなかった。なぜなら「喘ぐ大根」や「SR×SI」など、これまでの作品は現場に操作者を必要とするものだったからだ。

次に作品展示が決まった「シブカル祭。」では展示場所がファッションビルである渋谷パルコということもあり、「ウェアラブル・セクハラ・インターフェース」を制作するつもりだった。セクハラ・インターフェース共同制作者の渡井大己氏とともに、もともとは露出狂がジッパーを下ろす音に合わせシンバルの音を出すといったアイデアを構想していたが、その展示のために購入した「マネキン」の存在自体に2人とも魅せられてしまい、マネキン本体に面白さを見出したという。マネキンが配送された際の渡井氏の「名前はひろしね」という一言により、「ひろし」という生命が誕生した。

1年目の作品タイトルは「露出支援システムHIROSHI♂」。設定は超カリスマファッションマネキンのひろしが、トレンディなファッションを纏う一方で本当は服ではなく自分の肉体を見てほしいという欲望を募らせていた、というもの。本作品はひろしの夢が叶った瞬間を輝かしく演出する装置として開発された。ひろしの下にはゆっくりと回転する台座があり、「威風堂々」がBGMとして流れながら、局部をエレガントに光らせたひろしが回っているというものをパルコ1階のエントランスに置いた。

「#ドリームひろし」というハッシュタグをつけて写真をとると夢が叶う」という立て看板を取り付けたところ、撮ってくれる人が想像以上に多かったという。

マネキンといえば、本来は服の引き立て役であり、いわば何者でもない無名の象徴である。あえて、そのマネキンに「ひろし(28)」というアイデンティティを与えることで、街中の人も興味を持つようになったという。

そして、2年目、ひろしは仏になった。
着想はベトナムを訪れたときの記憶が発端。ベトナムでは仏の後方部にLED電飾がピカピカと光っているというクレイジーな風景に出会った。電気と宗教が融合したその風景が忘れられず、またしても渡井大己氏のテクニカルディレクションによりヒロシに後光システムを実装。前年のシブカル祭で露出の夢を叶えた後、みんなに感謝を伝えるため、社会貢献の手段として「仏界のネオカリスマ」へひろしは進化を遂げたのだという。

企画段階では、音楽をつけ、みなとみらいでイメージムービーを撮影する予定だったという。(http://hiroshi.sexy/

■ニコ超で観客が殺到、乳首搭載ロボ「ペッパイちゃん」

触り過ぎたらペッパイちゃんが怒り出し、顔写真が撮影され、顔認識で年齢と性別を割り出し、けたたましいサイレンと共に通報してしまうという。

現在、市原氏の最新作となるのがPepperの操作用タブレットを女性の胸部として前景化させ、タッチすると喘ぐプログラムが組まれている「ペッパイちゃん」。触る位置によってリアクションは6種類用意されているが、触りすぎると取り付けられたカメラ、通信、そして顔認識によって特徴を割り出し、通報されてしまうプログラムが仕込まれているので要注意だ。

--これはどういった経緯で作られたんですか?

市原:
もともと仕事でPepperのアプリを作っていて、その勉強のためにPepperを使ったハッカソン(開発イベント)に参加にしたんです。当日までノーアイデアだったのですが、Pepperのタブレットが明らかに卑猥な場所にあることが前から気になっていたことをオリエンテーションを聞きながらふと思い出しました。「Pepperのタブレットに乳首を表示させて、触ったら喘ぐアプリをつくりたい」と提案してみたところ、かなり優秀な技術者の方がチームに集結してしまい、自分の当初の想定を超えたアイデアが次々と生まれ、ハイスペックなロボットアプリが半日で出来上がったんです。個人的には「喘ぐ大根のロボット版」ぐらいのイメージだったのが、顔認識を利用した通報機能などかなり高機能なロボットアプリになりました。Pepperの悶えモーション開発を手がけたチーム唯一の女性エンジニア「ちかっぺちゃ」さんいわく「通常何週間もかけて行う開発を半日で仕上げなければならない壮絶なタイムプレッシャー。人類がおっぱいにかける情熱はすさまじいことが証明されました」とのことです。

--ニコニコ超会議で会場の方はどういうリアクションでしたか?

市原:
好評でした。面白かったのは、年代と性別でリアクションが全然違ったことですね。若い男の子だと、しばらく遠巻きにじーーっとみて、ちょっと触って恥ずかしがってニヤニヤしながら立ち去ってしまうんですが、女の子は「なにこれー」「かわいい」と笑いながら気に入って何度も触りにきてくれたりして。おじさんなんかだと「うわー、いいね」って。(笑)

(5月30日に行われた「Engadget 例大祭」でも"市原えつこのさわやか秘宝館"として披露された)

■「技術とスピリチュアルを縮めたい」今後、取り組みたい領域は"宗教"

市原氏は以前から妖精や占いなどスピリチュアルなものに関心を抱いてきたという。現在は占星術を勉強。神社に行って絵馬を眺めるのも好きなのだとか。資本主義が発展し、これだけテクノロジーを使いこなしてもなお、絵馬に心からの神頼みをしている事実に人間の根源的な祈りへの欲求を垣間見るのだという。今後取り組んでみたいテーマとして、科学とは切り離されていることをやりたいと挙げたのが「宗教」だった。

市原:
「信仰」や「宗教」に絡めたことがやりたいと思っています。一見テクノロジーと信仰は真逆なもののような感じがするのですが、意外と何かを信仰する気持ちはテクノロジーと親和性が高いのではないかと思っています。人間の死生観にまつわる分野は主に宗教が扱う領域でテクノロジーが介入していませんが、この分野でも何かできないかと考えています。あとはインターネットに溢れる想念やネガティブな気持ちをテクノロジーでどうやって浄化するか、とか。

--具体的に考えていることはありますか?

市原:
前に思ったのは、亡くなった人のソーシャルアカウント。最近まで生きていた人の突然更新の止まったツイッターとかを見ると妙にリアルな断絶が感じられて、辛くなるじゃないですか。ツイッターだったり、フェイスブックだったりにポストされたその人の発言や人格を人工知能化して、死者の言葉を自動的に生成するプログラムが作れるんじゃないか。それを家庭用のロボットに宿らせれば、ロボットをイタコ化して、生命をロボットに乗り移らせたものが実現できる気がします。

--なるほど。映画『トランセンデンス』ではまさしくそういった世界観が描かれていましたよね。他にもありますか?

市原:
新しい葬り方というのも一つあるのではないでしょうか。最近、身内のお葬式に行ったのですが、「お葬式」という方法は亡くなった人と距離感を取るのにすごく優れた仕組みだと思いました。みんなで感情を爆発させて号泣しながら、お花を添え、それを焼く。そのプロセスを通して大事な人の死を受け入れられるというか、あれはすごく心に優しいなと思って。死は絶対に避けられない身近なものだと思うので、それをうまく優しくしてあげられるようなものを作れないか。死者とコミュニケーションする手段を増やすための、テクノロジーを用いたライトな宗教をやりたいと前から思っています。

大根が艶かしく喘ぐデバイス「セクハラインターフェース」、虚構の美女と触れ合えるシステム「妄想と現実を代替するシステムSRxSI」など日本独自の性文化への問題意識をテクノロジーを使いながら具現化してきた。人体部位の擬人化、仮想世界での性表現などある意味でメタファーとして"エロ"を使ってきた市原氏だが、「信仰」という重たい課題に対しどんなアプローチから、技術とスピリチュアルの距離を縮めていくのか、今後の活動からも目が離せない。

【前編】性と身体を巡る表象とテクノロジーの出会い

【プロフィール】

市原えつこ| ETSUKO ICHIHARA
市原えつこ
1988年、愛知県生まれ。早稲田大学文化構想学部表象メディア論系卒業。学生時代より、日本特有のカルチャーとテクノロジーを掛け合わせたデバイス、インスタレーション、パフォーマンス作品を手がける。主な作品に、大根が艶かしく喘ぐデバイス《セクハラインターフェース》、虚構の美女と触れ合えるシステム《妄想と現実を代替するシステムSRxSI》、脳波で祈祷できる神社《@micoWall》等がある。2014年《妄想と現実を代替するシステムSRxSI》で文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門審査委員会推薦作品に選出。 (ポートフォリオサイトより)


取材・文:長谷川リョー

1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。@_ryh

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