「イグ・ノーベル賞」特別講義で語った、発明王・ドクター中松が挑む人生を賭けた発明

2015.07.21 08:30

6月30日に東京大学にて、イグ・ノーベル賞創立者マーク・エイブラハムズ氏、2005年に同賞を受賞したドクター・中松が日本に初めて招致した特別講義「世界を動かす知的ユーモアの世界」。過去の受賞者を交えてイグ・ノーベル賞の魅力が語られた。昨年、突如現代医学では治癒不可能とされる「導管がん」を宣告され、余命宣告を受けたドクター・中松。SENSORSでは講演前に独占取材を行い、命を賭けた発明に迫った。

■世界最高の知的エンターテイメント「イグ・ノーベル賞」

イグ・ノーベル賞のロゴ。オーギュスト・ロダン「考える人」の像が転がっている。(イグ・ノーベル賞HPより)

1991年に創設された、「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」に対して与えられる、イグ・ノーベル賞。世界中の研究者・政治家・経済人らの実在の研究の中から選考される。毎年9000以上の候補の中から10名だけに厳選され授与されるこの賞から、後のノーベル賞受賞者となる研究者も輩出している。ハーバード大学で行われる授賞式には、プレゼンターとして多くのノーベル賞受賞者も同席し、会場は熱気に包まれる。

2005年に同賞を受賞したドクター・中松をはじめ、これまで多数の日本人が同賞を受賞しており、今回の特別講義にも3組の受賞者が登壇した。

■賞金は10兆ドル!? 科学をユーモラスに捉える

イグ・ノーベル賞の模様は毎年WEBキャストで放送されるため、誰でも見ることができる。このWEBキャストは20年前に始まったという。(https://www.youtube.com/watch?v=LfpbEjs5umk)

ノーベル賞受賞者には1000万クローネ(日本円で約1億2,000万円)が贈られるが、イグ・ノーベル賞では現金が贈られることはない。それでも創立者マーク・エイブラハムズは受賞者に10兆ドルを授与する方法を見つけたという。それがハイパーインフレで桁数が膨れ上がったジンバブエ・ドル紙幣で払うというものだ。

ジンバブエの10兆ドル札。(IMPROBABLE RESEARCHより)

なお、「1セントから100兆ジンバブエ・ドルまで幅広い額面の銀行券を印刷させることによって、非常に大きな数字にも対応できるための、簡単で毎日できるトレーニング法を国民に与えたこと」に対して2009年、ジンバブエ中央銀行のギデオン・ゴノ総裁にイグ・ノーベル賞数学賞が与えられた。

■2014年受賞研究は:バナナの皮、キリストの顔のトースト、止まらない鼻血

イグ・ノーベル賞は10分野(物理、神経科学、心理、公衆衛生、生物、芸術、医学、経済学、北極科学、栄養学)に授与される。2014年の受賞研究の中から、とりわけユーモアに満ちた研究をエイブラハムズ氏がデモを交えて解説してくれた。

参加者にバナナの皮を踏みつけさせ、滑ってみる実験を行うマーク・エイブラハムズ氏。

バナナの皮と靴底と床の比較の摩擦係数を測定し、実際に滑りやすいことを学術的に証明したとして物理学賞を受賞した、日本人グループの研究。(これにより日本人の受賞は8年連続となった)
主催者が用意したバナナを使って実演。ツルりと滑った参加者の姿に会場は笑いに包まれた。

Google画像検索をすると、キリストの顔を模したいくつものトーストの写真が見つかる。(検索結果

神経科学賞を受賞した、カナダとCHINAの研究チームのテーマが「トーストの焦げ跡がイエス・キリストに見える人の脳内で何が起こっているのか」を研究したもの。(論文詳細
なんの変哲もない一枚のトーストの表面に人の顔を1つ見つける人、2つ見つける人、何も見つけない人が居るが、顔一つの人が正常な証。

続いて医学賞「止まらない鼻血の治療のために『塩漬け豚肉を一切れを添えた鼻腔タンポンの挿入』という手法を用いたこと」。バナナに引き続き、こちらも主催者が用意したベーコンをマーク氏が、ボランティアを募り、実際に鼻の中に塩漬け豚肉を詰め込んだ実演が行われた。

スクリーン上の男性はハーバード大学でのイグ・ノーベル賞授賞式の様子。豚肉を鼻腔に詰めたこの男性の写真は翌日、世界中のメディアの朝刊のトップを飾ったそう。

■過去の日本人受賞者たちのプレゼン:玉ねぎと涙、鳩が寄らない銅像、オペラとネズミ

研究主幹の今井真介氏は催涙成分合成酵素によって、中間体分子 1-プロペニルスルフェン酸が催涙成分へと変化することを明らかにした。

また、今回の講義では過去にイグノーベル賞を受賞した三組の日本人によるショートプレゼンも行われた。それらについてもご紹介しよう。(個々の研究も奥深いものなので、気になったものがあれば調べてみることをオススメする)

最初にプレゼンを行ったのは2013年に化学賞を受賞したハウス食品ソマテックセンターの研究。タマネギ涙の化学反応を仲立ちする酵素を発見したことで、酵素の設計図となる遺伝子の機能を押さえ込み、涙の出ないタマネギの開発も可能であると証明した。

2003年の受賞内容は、兼六園にある日本武尊の銅像に鳩が寄り付かないことの研究。

次にプレゼンを行ったのが、2003年に「ハトに嫌われた銅像の化学的考察」で化学賞を受賞した金沢大学大学院の廣瀬幸雄特任教授。
現在は、水素の研究に力を入れているそうで、水素焙煎珈琲などを開発しているそう。

イグ・ノーベル賞受賞のリリースが出てから、授賞式までの三日間は電話やメールが鳴り止むことなく、一睡もできなかったんだとか。

最後にプレゼンしたのが2013年に医学賞を受賞した帝京大学の新見正則教授。心臓移植をしたマウスに、オペラ「椿姫」を聴かせたところ、モーツァルトなどの音楽を聴かせたマウスよりも、拒絶反応が抑えられ、生存期間が延びたことを発見した研究だった。「石川さゆりの『津軽海峡冬景色』でも、モーツァルトでも、エンヤでもなくオペラだった」のだとか。

■1940年に「ドローン」を開発したという発明王、ドクター・中松

「現代の発明王はいかにして世界の評価を勝ち取ったか」をテーマに、幼少期から現在に至るまでの数々の発明をユーモアを交えながら語るドクター・中松氏。

そして、言わずと知れた発明王、ドクター・中松。フロッピー・ディスクや石油ポンプなどエジソンを超える3000件以上の発明を生み出してきた。34年間、自分の食事を写真に撮影し、食べた物が脳の働きや体調に与える影響を分析したことに対して、2005年にイグ・ノーベル賞栄養学賞が授与された。これは東京大学唯一の受賞者である。そして今回主催者として、又、基調講演者として登場。イグノーベル賞創立者のマーク・エイブラムズ氏が「地球上で最も偉大な人」として紹介。

とりわけ会場が沸いたのが、おもむろに中松氏が会場の中でドローンを飛ばしたときだ。

世田谷・ドクター中松ハウスに世界初のドローン練習場が造られ、一時間1,000円で使用可能とのこと。

世界で初のドローン練習場をドクター中松ハウスに造ったというドクター・中松は、1940年すでに自身でドローンを開発していた。

中松:
ドローンは1940年、12歳のときに発明しました。最近、ドローンにまつわるトラブルが起こっていることで、どんどん規制が多くなり、飛ばせなくなっている。練習不足でますますトラブルが増えるという悪循環。雨天でも使用できるが、GPSも効くという相反性を可能にした屋根、ドローン下りカメラ用の床にマーカーを設けるなど世界初の、ドクター中松ハウスに練習場を造りました。練習場を造るに当たっては、高さ15mを確保するため、地下を5m掘り下げるなど工夫を施しました。

■ガン闘病ー人生最期の発明が、生死を分ける

別室で行われたドクター・中松への単独取材の様子。

「144歳まで生きる」研究でイグノーベル賞を受賞したドクター・中松だが、去年「導管がん」を発見。残りわずかの余命を宣告された。この病は症例が少なく、治癒が不可能とされた。なにもしなければ命は年内まで。そこでドクター・中松がとった行動は告げられた余生を甘受せず、自らの発明の才で不治の病に挑むことだった。

中松:
誰もやらなかった治療法を発明するというチャレンジをやっています。失敗すれば死ぬし、成功すれば生きる、まさに命を賭けた発明の研究をしているわけです。

ドクター中松氏がガン撲滅のために研究開発した治療法が10個の項目からなる「DNT(ドクター中松セラピー)だ。

中松:
まずは「心」です。癌を宣告された患者は心を痛めることが多く、ときに発狂したり、ヤケを起こしたりします。これは本を読んだり、話を聞いても治らない。じゃあどうすればいいのか。癌の心に対抗するには前頭葉に働きかける必要があります。これをアクティベートさせる周波数と言葉を組み合わせて治療具として「歌」の発明をしたのです。6月24日に「ガンの顔つき悪くても」(英語詩"Even Cancer Face Very Bad")というCDを出し、歌手として世界デビューしました。

会場ではドクター・中松が創った「ガンの顔つき悪くても」の全員合唱が行われた。

これに加え、7月1日に出版されたのが『ドクター・中松の最終講義 打ち破る力』だ。これがDNT-2で、この本では30項目にわたり、「強い心」を持つための心得が説かれている治療法である。残るDNT-3は飲み物、DNT-4はサプリメント、DNT-5は食べ物、そして体の鍛錬などDNTを研究中だ。。

象牙の塔にこもることなく、いくつもの発明で世の中を驚かせてきたドクター・中松。育毛剤「まかしと毛」やフライングシューズなどユーモアたっぷりの研究も数多い。イグ・ノーベル賞受賞者にふさわしく、まさしく"知的エンターテイメント"の体現者であるドクター・中松が、「命を賭けた発明」を成し遂げることを心から祈念したい。

取材・文:長谷川リョー

1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。@_ryh

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