日本に"オープンイノベーション元年"は訪れたか?〜孫泰蔵×佐々木紀彦×伊地知天×麻生要一

2016.04.04 09:00

2月26日、虎ノ門ヒルズで行われた「SENSORS IGNITION 2016」。セッション「大企業×スタートアップ オープンイノベーションのインパクト」に孫泰蔵氏、伊地知天氏、麻生要一氏らオープンイノベーションに挑むイノベーターが登壇。NewsPicks編集長・佐々木紀彦氏がモデレーターを務め、日本でも本格化の兆しを見せているオープンイノベーションの可能性を探った。【Sponsored by 株式会社リクルートホールディングス】

登壇したのはYahoo! JAPANの立ち上げに参加し、数多くの起業家・スタートアップ育成のサポート、スタートアップ生態系の発展に貢献しているMistletoe株式会社代表取締役兼CEO・孫泰蔵氏、1800以上のスタートアップが集まるコミュニティを通じて大企業とスタートアップののイノベーションに挑戦するCreww株式会社 Founder & CEO・伊地知天氏、株式会社リクルートホールディングス、Media Technology Lab. 室長・麻生要一氏の三名。モデレーターは株式会社ニューズピックス取締役 NewsPicks編集長の佐々木紀彦氏が務めた。

【写真、左より】モデレーター・佐々木紀彦氏、孫泰蔵氏、伊地知天氏、麻生要一氏

■"オープンイノベーション"に挑んできた3名の経歴

佐々木:
まずは簡単にお三方、それぞれの自己紹介をお願いできますか?
孫:
最近の動きとしてはMistletoeを本格始動させるため、肩書きとしてはMistletoe代表取締役社長兼CEO一本でやって行こうと考えています。我々のミッションは起業家の果敢な挑戦を色んな形で応援することで、世界に大きなインパクトを与えること。具体的には最近新しく青山に400坪のスペースを借りました。ここで共同創業という形で厳選したスタートアップと一緒に技術開発・研究開発を行う。素晴らしい技術をお持ちの方には出資もさせていただく。そうした出資をさせていただいた会社と、共同創業した会社同士の中で更なるシナジーを生み出していきます。"オーケストレーション"(指揮、統合)という言葉がありますが、起業家にとってのメタ的な起業家として頑張っていきたいと思っています。

社名の「Mistletoe」は植物の"宿り木"という意味で、森の生態系において重要な役割を果たすという。

スタートアップの生態系は教育・アクセラレーションのコミュニティ、イベントやムーブメント、そしてベンチャーキャピタルなど複合的な関係主体の存在によって成り立っているという孫氏。こうしたステークホルダーの活動が良い循環をすることで豊かな森は生まれる。

伊地知:
Crewwはスタートアップと大企業のためのオープンイノベーションプラットフォームです。スタートアップが目指しているKPIも大企業の経営資源を使うことで、例えば3年かかるところを1年に短縮できるのではないか。逆に大企業が保有している経営資源をスタートアップが別の使い方をすることによって、新たな価値、ひいては新規事業創造につながるのではないか。こうした両者の利害は一致するのではないかとの思いで2012年にサービスを開始しました。

Crewwでは現在までに315社のスタートアップが大手企業にプレゼンテーションを行い、そのうち150件が実際に採択され、業務提携・出資・M&Aが生まれているという。

麻生:
僕がやっている仕事は大きく3つあります。一つ目はMedia Technology Labというリクルートホールディングス全体の新規事業開発部門の責任者。二つ目の役割はニジボックスというインターネットサービスを開発する、リクルート100%子会社のCEO。なので僕自身も社内ベンチャーを経営する、スタートアップ経営者のような側面もあります。三つ目はTECH LAB PAAKという渋谷にある会員制のコミュニティ・スペースですね。ここでスタートアップの支援を行っています。

TECH LAB PAAKでは4月より第5期会員の募集に「ハードウェアスタートアップ」の会員枠を設けた。適切な製造パートナーや専門家を紹介し、プロジェクトマネジメントを支援する「BRAIN PORTAL」が連携しサポートを実施する。

■ついに"オープンイノベーション元年"は訪れたと言えるか?

佐々木紀彦氏(株式会社ニューズピックス取締役 NewsPicks編集長)

佐々木:
"オープンイノベーション"という言葉を聞かない日がないくらいよく耳にしますが、私の辛口な友人は「言葉はよく聞くけど、成功事例を見たことない」と言ったりしています。シーンを長い間皆さんからみたとき、現在の状況はどれくらい進んできているのか。それともまだまだ未成熟なのか。現場で感じていることを率直にお伺いできますか?
麻生:
リクルートでは日本最大級のハッカソン「Mashup Awards」をもう10年開催しています。毎年秋口に役3,000人のエンジニアの方が参加し、400作品くらい上がってくる巨大なハッカソンです。当初はAPIの数も今ほど多くはなく、Googleマップの上に何かを置く程度のものでした。今では数ある情報技術を組み合わせた中に自分の知恵を入れ込み、かつてなかったプロダクトを生み出すといったイノベーションが生まれてきています。
伊地知:
2012年の創業当初は大企業とスタートアップのマッチングスキームがまだ日本にないこともあって、否定的な見方をする人が多かったです。ただ、2013〜14年に安倍政権が成長戦略にベンチャーの活用を取り入れ出したあたりから潮目が変わりました。欧米でもディズニーがアクセラレータープログラムを始めたりですとか、名の知られた会社も動き出しています。

孫泰蔵氏(Mistletoe株式会社 代表取締役社長兼CEO)

孫:
IT業界に関して言えば、かなり前から実際にイノベーションを生んでいますよね。例えば、Linuxのようなオープンソースはオープンイノベーションそのものではないでしょうか。ただ、ここ2〜3年はそのあり方がよりラディカルに変わってきているように感じます。「Google Glass」にしても「Oculus Rift」にしても、開発段階の未完成のものを販売して市場に出してしまう。そうすることで色々な意見を取り入れながら、みんなで作っていこうという風潮になっている。イーロン・マスクが今進めている超高速輸送システム「ハイパーループ」構想も情報を開示しながら、オープンイノベーションのような形で進行しています。

■ソーシング・コミュニケーション・エグゼキューションという3つの障壁

佐々木:
"オープンイノベーション"が持つポテンシャルは確かに大きいですが、一方で越えなければいけないハードルもまだまだあります。例えば、大企業は情報管理が大変でリスクにも敏感。皆さんが現場で感じるハードルはどのようなものがありますか?

伊地知天氏(Creww株式会社 Founder & CEO)

伊地知:
大きく障壁は3つあると思っています。一つは"ソーシング"。大企業がいかに自分たちにあったスタートアップを見つけるのか。二つ目が"コミュニケーション"。両社にとって実利のある関係性をどうやって構築していくのか。最後は"エグゼキューション(実行)"。大企業の場合、中長期で経営企画部が立てた戦略を今度はどう現場の事業部の人につなげるか。そのためにはスモールテストのモデルを設計して、検証することが非常に重要だと考えています。

麻生要一氏(株式会社リクルートホールディングス Media Technology Lab. 室長)

麻生:
昨年1年間TECH LAB PAAKで約150組のスタートアップ支援をさせていただきました。「これは大企業で使えるんじゃないか」「スタートアップと大企業のアセットと組み合わせると良いのではないか」と思いつくまでの間に「とりあえず支援しましょう」という説明を大企業にするのが難しい。

■IoTパラダイムは日本にとってチャンス〜アントレプレナーとイントレプレナーのタッグが重要

佐々木:
そこのコミュニケーションを怠ってはいけないですよね。一方で孫さんに伺ってみたいのは、日本の企業でここが組んだら可能性がありそうと思う分野はありますか?
孫:
IoTのパラダイムになってくると、日本が世界に果たす役割は大きいと思っています。日本には長年の蓄積で、人材の層は厚いし、技術開発も伝統的に強い分野がある。例えば、建築や自動車産業は世界に冠たる企業があります。それから、再生医療は間違いなく世界でトップ。昨年薬事法改正があって、再生医療では日本がシリコンバレーのような場所になることが確定したんですよ。実際に世界の再生医療のスタートアップが本社を日本に移し始めています。
佐々木:
今後はオープンイノベーターとしてどういった存在が必要になってきますか?
伊地知:
麻生さんみたいな方だと思います(笑)。もちろんアントレプレナー(起業家)も必要ですが、大きい組織の中から変えようとするイントレプレナー(社内起業家)も同じくらい必要じゃないでしょうか。アントレプレナーは外側から、イントレプレナーは内側から改革をしていって、この人たちの出会いを繋げるところにオープンイノベーションの一つの鍵があると感じています。

ディズニー、ナイキ、フォード自動車、GEなど国外では名の知られた大企業が次々とオープンイノベーションに乗り出している。日本においてはまだまだ成功事例が乏しいのが事実であるが、孫氏も指摘するようにパラダイムがIoTに移行していくことはモノづくりを得意とする日本の産業界にとって追い風となりそうだ。2016年が日本にとってのオープンイノベーション元年となるのかもしれない。

取材・文:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。『SENSORS』や『WIRED.jp』などで編集者/ライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。東京大学大学院学際情報学府にてメディア論を研究。最近は「人工知能」にアンテナを張っています。将来の夢は馬主になることです。
Twitter:@_ryh

写真:延原優樹

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