未来ロボット技術研究センター所長・古田貴之氏が超小型モビリティ「ILY-A」で創る未来

2015.06.11 10:00

千葉工業大学とアイシンが手を組んで開発されたパーソナルモビリティ「ILY-A(アイリーエー)」はシーンに合わせ4つの形態にトランスフォームする。「モノづくりよりも、モノゴトづくり」。開発を主導したロボットクリエイター・古田貴之博士に開発背景を伺ったところ、話は死生観・文明論・生きる意味にまで及んだ。「ILY-A」は世界、そして日本の衣・食・住にイノベーションを起こすための序章にすぎなかった、壮大な構想の全容とは。

■超小型電動パーソナルモビリティ「ILY-A」

パーソナルモビリティ「ILY-A(アイリーエー)」<千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)HPより(http://www.furo.org/ja/robot/ily_a/index.html)>

千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター (fuRo)が開発し、アイシン精機株式会社がデザインを施したパーソナルモビリティ「ILY-A(アイリーエー)」。生活シーンに合わせ、4つのスタイル(ビークル、キックボード、カート、キャリー)に変形する。当機には知能化安全技術、知能化自己診断監視機能など最先端のロボット技術が応用されている。

【ビークル】モードのデモ(fuRoホームページより:http://www.furo.org/ja/robot/ily_a/movie.html

当プロジェクトを先導した未来ロボット技術研究センター所長・古田貴之氏はこれまでにもヒューマノイドロボット「morph3」(2002年)、自動車技術とロボット技術を融合させた「ハルキゲニア01」(2003年)、ロボット操縦システム「WIND Master-Slave Controller」(2005年)など産学連携で先進的な研究開発を行ってきた。加えて、著名工業デザイナー山中俊治氏(リーディング・エッジ・デザイン)との共同研究により、ロボットのプロダクトデザイン研究も行う。

今回、SENSORSでは未来ロボット技術研究センター(fuRo)を訪ね、古田氏に「ILY-A」の開発秘話、ロボット技術へかける想いを訊ねた。またインタビュー終了後には、ILY-Aにも試乗させていただいた。氏の開発思想のバックボーンにはインドで過ごした幼少期、難病を乗り越えたからこそ抱くに至った死生観、日本再生への情熱、そして家族への揺るぎない愛があった。

■未来を創るためには、「モノづくりよりも、モノゴトづくり」

千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)所長・古田貴之氏

先述のように、古田氏は2003年に未来ロボット技術研究センター(fuRo)を立ち上げ、所長に就任してから数多くの産官学連携プロジェクトに取り組んできた。論文を書くことへの執着は全くないと言い切る古田氏。当研究センターで彼がこれまでに行ってきたことを一言で表すならば、「未来を創ること」だという。単に最先端のロボット技術を探求するのではなく、産官と連携しながら、プロダクトを開発し、法規制やマーケティングまで含め、世の中に変化をもたらすことが重要だと繰り返し説く。インタビューのなかで繰り返されたキーワードが、「モノづくりよりも、モノゴトづくり」だ。

古田:
日本がはまっている罠は"モノづくり"に囚われていること。例えば、皆さんがよくお使いのiPhone。モノづくりだけでいうなら、日本はもっと良いスマートフォンを作れますよ。薄くて電池長持ち、高スペックなものを。日本はモノづくりで勝てても、モノゴトづくりで負けたんです。iPhoneが作り出したのは、新しいモノの価値、そして文化です。今までになかったカテゴリーを作り出したわけです。iTunesを軸に、クラウド、音楽配信、映像配信まで、全部まるまるで、新しい"モノゴト"を作った。つまり、日本は未だに人様が決めたルールでゲームをやっている。

古田氏が指摘するように、近年日本の電機メーカーの苦戦は周知の通り。加えて、国としての日本が直面する問題も山積している。その中でも、古田氏が最も力を入れて取り組むテーマが「少子高齢化」だ。

古田:
本当の少子高齢化とは何か。寝たきりの人をどう介護するか。これで解決する問題だと思いますか?介護は問題のあくまでワンオブゼム。本質的な問題は、若者からお年寄りまで世代を通貫して考えないといけない。特に"アクティブシニア"と呼ばれるような体力のあるシニアを引っ張り、経済活動・文化活動の主役にすることですよ。ようは、高齢者の方を世の中の土台にする。世の中のほとんどが高齢者になったときに、その高齢者が世の中を引っ張っていって、社会を元気にするのが本当の高齢化社会。

今年、三月末に財務省が発表した国の負債は実に1053兆円にのぼる。数字だけ見ると、これはたしかに由々しき問題だが、古田氏はもう一つの重要な数字を挙げる。それがいわゆる"塩漬け"と言われる、60歳以上の預貯金額で、この数字が日本の負債と同額程度あるというのだ。

古田:
厚労省が喧伝することもあり、みな医療費に備えて、使わないんです。アクティブに動かないと、本当に具合が悪くなってくる。廃用症候群。身体が機能不全になってくるんですね。そうじゃなくて、お金をちゃんと使って経済活動を謳歌させる。これが本当の高齢化社会。そうすると、「衣食住」がキータームとして浮かび上がる。「ILY-A」はその内の一部にすぎない。

日本が直面する少子高齢化。古田氏はロボット技術を用い、「衣食住」という多面的なアプローチからこの問題に挑んでいる。今回発表された「ILY-A」は、そのうちの"住"と連結している。そして、問題の全容知るために話は文明論にまで及んでいく。

■ロボットクリエイターが語る"衣食住"の文明論

古田:
太古の昔から人間は、葉っぱで前を隠し、洞穴で生活し、骨付き肉を喰らえば生きていけたんです。そこから文明が進んでくると、洞穴と洞穴の交通まで含めて街全体が"住"になってくる。とにかく動けば、世の中も動く。でも今って高齢者が動けないんですよ。だって、車の免許も返納しちゃいますよね。じゃあ自転車に乗れるかというと、厳しい。だから僕は、まず家と交通と街を変えようと思った。

古田氏が目指す「高齢化社会」において、主役となるのは元気に生活を謳歌する高齢者たちだ。国内経済の消費活動を牽引してもらうためにも、広義のメーカーは"モノゴトづくり"重視へ早急にシフトする必要があると説く。

古田:
皆さん、最近衝動買いしたことあります?ほとんどないでしょ。だって、昔は心動かされるものがあったんですよ。今じゃ、価格ドットコムで「安い!」っていって買うくらいでしょ。安かろうの方向に皆さんを動かそうとしたのが日本のメーカーの間違え。フェラーリとまでは言わなくても、高くても欲しいダイソンの世界。僕のポリシーの二つ目は、「心を動かすこと」。

ロボットクリエイターとして、ロボット技術を応用したプロダクト開発で研究のトップを走ってきた古田氏だが、氏が大切にしているというポリシーはどんな職業にも等しく当てはまることなのだという。

古田:
映画監督だったら「あー、面白かった。これだったら1,500円で映画館に来てよかった」。野球選手だって「スーパープレイを観れて、S席でよかった」。料理でも「おお、美味しかった。これだったら2万円のコースでも良かった」。全ての仕事の本質は「心を動かすこと」だから、僕は"欲しい""いいな!"と思うロボットを作らないといけない。

現在、シニア層の移動手段は限られていると言わざるを得ない。古田氏の90歳近くの父親も「シニアカーなど、あんなもの死んでも乗らんわ」と忌避しているという。しょうがなくではなく、欲しいから乗る。これが"未来の乗り物"には不可欠だという。古田氏がプロダクト開発でもっとも重視している視点の一つが"ユニバーサルさ"だ。

■近距離乗り物の再定義"本当のユニバーサル"という視点

取材に際し、研究員の方にデモを見せていただき、実際に試乗も体験させていただいた。こちらは【ビークル】モード

【キックボード】モード

古田:
本当の"ユニバーサル"というのは、若者からお年寄りまでみんな欲しくなるもの。だって、うちの親父だって若者がつけるようなかっちょいいメガネですしね(笑)時計だって、ポルシェだって、ハーレーだって、チンピラが乗るよりも、60, 70代のオッチャンが乗るからカッコイイ。

古田氏が開発した「ILY-A」にも同様の哲学が込められている。500m先のコンビニに行くのに、体力的に自転車やバイクは厳しく、仕方ないからシニアカーに乗っている人がいる。健康だけど、体力は弱まってきた人たち。彼らの活動範囲を広げ、社会全体を元気にするために「ILY-A」は生まれたのだという。

【カート】モード

【キャリー】モード

古田:
「ILY-A」はあらゆる世代の、あらゆる生活シーンで行動範囲を広げられる"次世代の足"。生活ツール。つまり、これは新しいライフスタイルの提案なんです。間違っても、モノそのものを作りたかったわけではなく、これを使って世の中を活性化して、皆さんの行動範囲を広げたい。

異なる世代や生活シーンに合わせ、4つのスタイル(ビークル、キックボード、カート、キャリー)に自由自在に変形する「ILY-A」。シニアカーや自転車の代わりになったり、ショッピングカートやベビーカーの代わりにもなる。そして、若者がスポーティに乗れるキックボードにまで形態変形する。あらゆる近距離移動乗り物を融合し、再定義を図ったハード・モビリティとしての優れたプロダクトにとどまらず、"ソフトウェアの再生機"になるまでのイメージを描いているという氏の構想とは。

古田:
将来的に「ILY-A」はもしかしたらインフラと連動し、クラウドと連動し、その他色んなサービスやソフトウェアの再生機になります。そして世界で初めてスマートストップのような知能化技術が入っている。故障の自動診断システムのようなものです。

--この技術は車で用いられているものと一緒なんですか?

古田:
全く違います。車で用いられている技術は、車道でただ車を認識するだけなので、簡単なんです。車以外は想定していないので、横から飛び出して来た人は轢いてしまいます。「ILY-A」で使っている技術では、どんな動いているものでも、静止しているものでも、環境認識して止まる。

--なるほど。全て自動制御しているということですね。

古田:
ロボット技術で制御しています。ソフトウェアの技術だけで、電源が入っているのに足漕ぎできるんです。普通に蹴ると、外力を判断して、タイヤが自動的に動くかのように回る。人の押した力をキャンセルするように。蹴っ飛ばしたら蹴っ飛ばした量だけクルクル回るから、乗っかっている人が空回りしているかのような錯覚を受ける。もちろん、色んな制御系が壊れたり、断線したりとかを、人工知能の自己診断システムで全て内部監視しています。

■モノづくりよりも、ルール自体を変える思考法

自動車でも、自転車でもない、あらゆる近距離移動乗り物を融合・再定義した「ILY-A」。マイクロEVが静かに活況を見せる中、「ILY-A」は社会でいかなる位置付けを狙っているのだろうか。

古田:
マイクロEVは結局、車を小さくしただけのもので何ら本質的な問題は解決していない。例えば駐車場の問題にしても、電車内への持ち込みの問題にしても、ハードルは高い。更に安全の問題。車を小型化しただけでは、事故が起きますよ。技術が未熟だと人に厳しい。あれは運用安全といって、道路交通法とか免許の教習所みたいなシステムで何とか安全を保っているだけ。本質的には危ない刃物なんですよ。でも、技術が高度になると人に優しくなる。事故も起こさないし、操作も容易になる。技術が未熟だとたくさんボタン操作させるけど、iPhoneなんかはシンプルでしょ。人も技術も高度になると、人に優しいんです。

今年4月には、7月から公道でセグウェイが走行可能になるとの国交省の発表があった。この法改正にも古田氏は尽力していたという。法規にまでコミットするのが、「モノづくりではなく、モノゴトづくり」という氏の真意なのだろう。

古田:
法規から何から何まで全部やります。我々は経産省の「生活支援ロボット実用化プロジェクト」というので、ずっと筑波で実証実験してたんです。その成果が今回の法改正につながった。ただこれはまだ序章に過ぎません。もうすぐ、「L6」「L7」といった新しい車のカテゴリーが生まれるんです。

現行の自動車カテゴリーは「L1,L2,L3...」と車両区分が種分けされている。古田氏がいう「L6」「L7」とは新たに導入されようとしている小型モビリティのカテゴリーで、通称"クワイクル"と呼ばれる四輪バイクだという。(国土交通省参考資料)例えばL6では、車重350kg以下、最高速度45km。セグウェイが公道走行可になる道路交通法改正についても、全て連動した話だということだ。当然、「ILY-A」も含めた小型の1,2人乗りのパーソナル・ビークルが続々と世の中に出てくる中で、「L6」「L7」という新カテゴリーの市場が形成されるという見立てになる。この潮流が世界で加速化する背景には、もう一つの要因がある。それがエコカー隆盛の理由にもなった、「ゼロエミッション車規制(ZEV)」だ。この法制にアメリカのしたたかな"ルールを変える思考"が見えると古田氏は指摘する。

古田:
アメリカは時として、ルールを書き換えます。バレーボールを9人制から6人制にしたのも一緒で、「こりゃ、かなわん」となるとルールそのものを変えちゃうんです。車も同様で、日本の燃費の世界、エンジンのクオリティ・コントロールにアメリカは敵わない。「ガソリンのエンジンを伏せさせれば、俺たちは勝てる」とルールを変えた。それで始まったのが、「ゼロエミッション車規制」。これはもうカリフォルニアで始まっています。ゼロエミッションの販売比率を守らないと、一台も売れなくなる。この比率が年々上がっている。つまり、着々と電気自動車の世界が築かれているわけです。

--なるほど。そこまでの背景を押さえた上で、「ILY-A」は開発されたということですね。

古田:
そういうことです。日本の"モノづくり"を高めるために、「ILY-A」で成功例を作りたかった。「L6」「L7」の車重、最高速度などの規定に則った車はアジア諸外国みんな作れるんですよ。でもそこに圧倒的な競争力をつけるために、自動操縦のようなセーフティ機能、自己診断のようなものを入れてお手本を呈示したかった。

■人生は『自己満足劇場』、お金よりも愛を

ここまでの話で「ILY-A」が生まれるに至った社会的背景が明らかになった。ここから古田氏が独りよがりにロボットの最先端技術を追うのではなく、あくまで開発したプロダクトを世の中にアウトプットし、人々の生活を変えることにこだわる理由が明らかになっていく。そこにはインドで幼少期を過ごした生い立ち、死の瀬戸際をさまよった病の記憶、溢れる家族への愛がある。

古田:
僕はお金はいらない。ありゃ、ないよりはいいかもしれないけど、必要最低限の1.3倍あればいいというのが僕のポリシー。僕が欲しいものは二つだけあって、どちらも売ってないんですよ。一つは娘と奥さんの愛。もう一つは未来のロボット技術。売ってないから、僕が作るしかない。

--古田さんは昔、脊髄が麻痺し、車椅子生活を余儀なくされたというお話を聞きました。こういった体験も「ILY-A」を開発される理由にもなっているのですか?

古田:
あのときの想いはあります。車椅子って乗ってるだけで可哀想に思われるじゃないですか。人はね、得意不得意あるんです。みんな体内時計が不正確だから、時計をする。体毛が薄いから服を着る。視力が弱い人はメガネをかける。でもそれもファッションになったじゃないですか。車椅子だってそうですよ。いつか、この車椅子をカッコイイものにしたいと当時思いました。

--やっぱり人の役に立つプロダクトにこだわりが?

古田:
いや、別に僕は偽善でやってるわけじゃないんです。たぶん、みんな死を考えたことがないからですかね...。僕は幸か不幸か、14歳で死に直面した。僕も最後、不治の病ということで、見放されたこともある。人間はね、1年生きようと、200年生きようと変わらないんですよ。死ぬ瞬間はみんな一緒だから。どれだけお金を稼いだって、最後はリセットされる。地球や宇宙の悠久の歴史から考えると、全部一瞬だしね。

--古田さんの人生観とは?

古田:
僕は「自己満足劇場」って言ってるんだけど、死ぬ瞬間にどれだけ満足したのかっていうのが人生で、それに尽きるんですよ。死ぬために生きている。僕の価値観では、人間ができることは二つだけなんです。一つは生物として子孫を残すこと。もう一つは自分の仕事を残すこと。種の保存と個の保存。ガウディは死んだけど、サグラダファミリアはにょきにょき伸び続けているじゃないですか。でも一つうちの研究員が僕が健康の理由以外で研究をやめてしまう唯一の理由として恐れてることが一つだけあるんです。

--というのは?

古田:
娘です。彼女が「パパー、ロボットやめて、一緒にケーキ屋さんやろうよ」と言ったら、何の躊躇もなく明日やめますよ。

自信満々に、そして愛嬌良く壮大な構想を語る古田氏。幼少期から大病を乗り越えるなど、壮絶な過去を持つ氏だが、これまで一度も挫折はしたことがないという。

古田:
僕が挫折したことないのは、簡単な話で、人間は諦めた瞬間に挫折するんです。喧嘩だってね、どんなに殴られても死なない限り、起き上がれば絶対に勝ちなんだから。みんな自分から降参しちゃうんですよね。

--そういえば、幼少期はインドで過ごされたんですよね?

古田:
インドというより、アメリカンスクールだったんですよ。どちらかというと、欧米のアメリカンスクールの文化。外国人はカーストでは上位なんです。学校は、欧米の個人主義にインドのスパルタ主義が混ざったような教育でした。幼稚園児でインドの国家を英語とヒンドゥー語で歌えるようにし、二桁の掛け算を全部覚えるように厳しく教えられます。当時はイギリスの統治下にあったので、まさに大英帝国の厳しいスパルタのような。計算を間違えると竹の棒で叩かれる、そんな世界でした。

■最終ゴールは「コミュニティの再生」

「ILY-A」の開発背景には社会的理由としての「少子高齢化社会」、自身の生い立ちから人々の生活をよりよきものにしたいという個人的な想いがあった。複合的な理由の元、開発されたプロダクトだが、古田氏が最終的なゴールとして最後に挙げたのが"コミュニティ再生"への熱い想いだった。

古田:
世の中を元気にするためには、最終的に人と人とのつながりになる。コミュニティを再生しないといけない。つまり、どんなにすごい乗り物があっても、会いたい人や行きたい場所がないと使わないでしょ。携帯電話もLINEも相手がいてはじめて成り立つ。この世の営みは人の身体と心のつながりからできている。「ILY-A」もいつかFacebookのようなものと連動して、街じゅうを動き回り、人とつながり、コミュニティを再生させるようなものにしたい。"モノゴトづくり"というのはそこまで考えてやらないといけない。

今回のインタビューでは繰り返し"モノゴトづくり"の重要性が語られたが、古田氏によればメーカーだけではなく、多くの研究者が"モノづくり"の陥穽にハマってしまっているという。

古田:
研究者の多くは手段と目的を勘違いしがちなんです。映画でいうと、良い作品を撮ることが目的なのに、いつのまにか作品を撮るカメラづくりにばかり一生懸命になっちゃう。はっきり言って、料理で、人参やキャベツや大根は素材なんです。ロボット技術も一緒。大事なのは食べる人が美味しいと思ってくれるかどうか。そして食文化が根付くかどうかが大事なんです。数多ある仕事の全てに言えることだと思うんですけど、手段と目的の優先順位は変えちゃいけないと思うんです。だから場合によっては、すごいパワードスーツよりも気の利いた杖が一本あった方が良い。

--たしかにそれが逆転してしまう人は少なくないですよね。

古田:
仕事って何だろうってことをもう一度問い返してほしいですね。僕はゴールのためならなんだってしますよ。100%僕が悪くない場合でも、プロジェクトを成功させるためだったら何十回だって土下座します。目的が何かっていうことを徹底的に考える。普通のやり方をしたんじゃ、普通の結果しか生まれないですからね。半沢直樹で大騒ぎされてましたが、土下座なんて日常茶飯事ですよ。100回ゴマをすったって、死ぬときに気持ち良く死ねるなら安いもんじゃないですか。昔マクドナルドがやっていた「スマイル0円」と同じですよ(笑)土下座0円。

--若い研究者や社会人にメッセージはありますか。

古田:
人間の脳みそは情報処理装置です。人間は気がついたらロボットになっちゃうんです。「おはよー」「行ってきまーす」家から職場まで通勤して、普通に言われたことをやって帰る。ルーティンワークになってからは脳みそが動いてない、自動操縦ロボットになってしまう。いつも同じことをやっていると、入ってくる情報も同じだから、その処理も同じだった場合、頭で考えることをスルーして条件反射的に動くだけになってしまう。普通と同じことをすると、同じ結果しか生まれないから、時として全然違うことをやらないといけないんです。

--古田さんはどういった実践をなされてるんですか?

古田:
うちの研究員にもよく言うんです。「間違っても職場と研究所を行き来するな。頼むから色んなところを回れ」って。とにかく色んな大脳を刺激しろっていうことです。情報化社会なので、ウェブで色んなものが見えますけど、五感で使われるのってせいぜい視覚と聴覚だけですよね。人間のセンサーをフル活用して情報処理するには現場の生の情報を拾いにいかないといけないんですよ。ウェブなんかの情報はフィルタリングされていますし、みんなと同じ情報を仕入れていても、何も新しいものを生み出せない。何か難問に突き当たったら、とにかく動け、と言いたいです。動くことで、自分の考えも変わり、状況も変わるはずだから。

日本が直面する"少子高齢化"という社会問題をピンチではなく、チャンスと言い切り、自身の卓越したロボット技術と壮大なビジョンで開発に奔走する古田氏。今回発表された超小型モビリティ「ILY-A」は単なる新しい乗り物ではなく、氏が描く大きな絵の一部にすぎないということがインタビューを通して明らかになった。少年のような笑顔で軽妙に、ときに鋭い眼光から発せられるビジョンと実行力。生粋のエンジニアにも関わらず、決して技術決定論に寄りかからない。シンギュラリティ(技術的特異点)に到達するのも間近と囁かれる今だからこそ、人間・技術・社会の関係性を改めて考え直したい。

取材・文:長谷川リョー

1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。@_ryh

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