『マスとネットはもっと協業できる』シナプス稲着達也が語る体験型コンテンツの未来

2015.10.13 09:00

90年代、4大マスメディアが全盛を極めていた時代。当時の子どもたちは学校に行けば、 前日に見たテレビの話題で盛り上がり、その日の夜に好きな番組を見ることを最高の楽しみにしていた。

「誰もが同じものを見て、同じ音楽を聞いて、感想を共有し合う。そんな時代のポップカルチャーこそが至高だった。」

そう語るのはオンラインサロンを運営するSynapse社の稲着達也(いなぎ たつや) 氏だ。稲着氏は早稲田大学を経て、最大手広告会社や外資系コンサルティングファームの内定を得るも、独立の道を選び、Synapseをローンチした過去を持つ。その後、兼務でドワンゴにて新規事業開発、統合サービスデザインに従事し、現在はSynapseに本格復帰し、COO/プロデューサーとしてその手腕をふるっている。

テレビビジネスの新境地を目指すSENSORS は、オールドメディアの良さを理解しつつも 新しい挑戦をする稲着氏に注目した。Synapse以外にも、ファッションショーや国際映画祭等の興行プロデュース、アイドルコンテスト審査員、音楽ライターまで、幅広く活動し、 ポップカルチャーに精通する稲着氏はメディア・コンテンツの未来をどのように見据えているのだろうか。

■コンテンツは「体験型」しか生き残らない

Synapse(Synapse) - オンラインサロン・プラットフォーム(https://synapse.am)より

Synapseは、特定の人物や話題によって区切られたオンライン上の空間(サロン)を企画・運営しており、そこではクローズドな場で質の高い情報発信や様々なインタラクションが為されている。Synapse上で個々に運営されるサロンには有料で入会することができ、作家、アスリート、テレビタレント、実業家、学者、政治家、特定領域のスペシャリスト等、様々なラインナップを展開している。堀江貴文氏が開設するサロンでは月額10,800 円で600 名を超える会員が集まり、サッカー日本代表元監督の岡田武史氏や元東京都知事の猪瀬直樹氏らもSynapse上でサロンを開設している。

稲着氏は「オンラインサロン」にどのような可能性を感じているのだろうか?

稲着:
Synapseは「体験型消費」である、というところに可能性を感じています。まず、コンテンツの進化の歴史は、コンテンツ消費がインスタント化していく歴史と捉えることが出来ます。昔は劇場で演じられたり、口頭伝承で直接伝えられていたものが、グーテンベルグによる活版印刷技術の発明以降、大量にコピーし頒布できるようになった。情報革命もその延長線上で、とうとうコピーと頒布にかかるコストがほぼゼロになった。そうなるとコンテンツに価格がつかなくなる。完成されたパッケージや「情報」でしかないものにはもう価格はつきません。

稲着:
でも、そうではなくて、もっと素晴らしいコンテンツがたくさん生まれる世の中であって欲しいし、創り手がちゃんと儲からないとそういう世界は実現できない。良いコンテンツをつくる人が、今後どうやって食べていけるかを考えると、音楽領域におけるライブ市場の活況を見ての通りで、「体験」や「体感覚」が伴う消費に回帰してくるのだと思います。情報が溢れているからこそ、体験が伴う価値が相対的に高まっていて、それは絶対に消えない価値だなぁと。娯楽以外でも、知識・情報の分野でも同じことが起きています。「勉強会ブーム」は良い例で、「人間は社会的動物である」とアリストテレスが言ったように、人間はたとえ利己的な自己実現であっても、それを他者との関わりの中で実現したいという生き物。他者との関わりや体感覚を伴う形で知識や情報を得、娯楽を得られる。そして、その体験はコピー不可能なもの。それが「サロン」に可能性を感じている部分です。

--Synapseは"オンライン"サロンですが、「体感覚」が伴う体験を得る仕組みはあるのでしょうか?

稲着:
まず、クローズドであるため熱狂がそこに蓄積しやすく、共感も形成しやすい。そしてインタラクションがあるためそれが共鳴の輪となり広がっていく体験も得られる。また、当初は元気が無かったサロンでも徐々に活気を帯びていく過程を見ていると「リアルイベント」の開催も肝になっています。小規模の交流会でも対面で顔を合わせると、その後のオンラインでの自発的なやり取りが増えますね。ユーザーが自主的に動くことでサロンの中のコンテンツが深まっていくという現象も確認できます。そういう人たちは「分科会」を立ち上げて、オーナーが提供するコンテンツに付加価値をつけていく。例えば、 堀江貴文さんのサロンでもいくつかの分科会があって、「畜産」をテーマにしたものでは、サロン内で自主的に北海道に行くツアーが汲まれ、堀江さんも一緒に同行するといったことも起きています。そういった体験はまさに「コピー不可能」なものですし、ユーザーが自発的な行動を起こしやすくする仕組みづくりには今後も力を入れていきます。

■テクノロジーで「劇場の熱狂体験」をネット上につくりたい

稲着氏はこれからのサービスの差別化要因はビジネスモデルやテクノロジーよりも「文化」や「UI」が占める部分が大きくなっていくといい、劇場やライブで体験できるような熱狂をオンライン上に再現していきたいと意気込む。

稲着:
例えば「2ちゃんねる」や「ニコニコ動画」と同じサービスをつくることはできても、同じ文化を再現することは難しい。テクノロジーの部分はお金をかければできる部分が多いけど、2ちゃんねるとまったく同じ掲示板、ニコニコ動画と まったく同じサイトをつくろうと思っても絶対にできないですよね。

--テクノロジーはサービスの差別化要因にはならないということでしょうか?

稲着:
活用の仕方次第です。例えば、いまの日本のWEB 系スタートアップを見ていると、テクノロジーは基本的にものごとを 「安価」で「手軽」にするために利用されています。情報革命の価値は結局はそこに集約されますが、逆に言うと"それ"しか出来ていない。でも、例えば配信音楽は今CDよりも安く売られていますが、それが本当にリッチな体験であるならば本来CDよりも高価でも良いわけです。テクノロジーの力を使ってコンテンツの消費体験を拡張することで、リアルで得られる熱狂をネット上に再現できれば、そういった新しい売り方も考えることができます。

「体験拡張のためのテクノロジー」こう考える背景には、レガシーなポップカルチャーのリスペクトが存在しているようだ。

稲着:
そもそも自分はテクノロジーを憎んでいました。90年代のポップカルチャーこそ至高だと思っていて、当時はみんなが同じテレビ番組を見て、同じ音楽を聞いて、学校でその話をするというのが超楽しかった。テクノロジーの進化はその同期性や熱狂が解体されていく歴史です。 昔はインターネットは敵だと思っていた時もありました。だから学生の時も就活でネット企業は受けていないんです。

■熱狂を生むコンテンツづくりに何が必要か

稲着氏がこれほどまでテレビをはじめとしたオールドメディアのコンテンツを評価している理由として「純粋な質の高さ」をあげている。多くの視聴者が見落としてしまっているけれども「バラエティ番組でのひな壇のやり取りなんかは神業の連発」。参考にしているクリエイターとして土屋敏男氏や小室哲哉氏の名前を挙げ「テレビやラジオで経験を積んだクリエイターがネットでもヒットを量産している」ことも指摘。体験型のコンテンツしか生き残らないとすると、テレビ局が社屋で開催するイベントを例に「テレビ局はこれから汐留やお台場といった"場所"を重視していくべきだ」という話も飛び出す中、今後、稲着氏は「熱狂を生むコンテンツ」はどのようにつくられていくべきと考えているのか。

--コンテンツの価値を担保していくために必要なことはなんでしょうか?

稲着:
自分はコンテンツの「高単価化」に取り組んでいきたいと思っています。そのためにはコンテンツを、本やCDのような完成された「パッケージ」としてとらえるのではなく、「サービス」として捉えることが必要です。本やCDを1枚買ったところからファン同士のコミュケーションが広がってコミュニティが出来たり、それに付随する価値を付与していかなくてはいけません。例えばAKB商法は売り方のイノベーションだと思ってます。CD を1枚買うところからどんどん楽しみが広っていく。

--質の高いコンテンツを提供していくために、Synapseではどんな編集者を求めているのでしょうか?

稲着:
特定のジャンルにめちゃくちゃ精通している人ですね。普通の人が絶対に知らないけど、 その世界では有名な鉄道オタクとか、美食家とかを知っていて「この人がこうやればファンはこのくらいお金払いますよ!」というのがわかること。ビジネススキルや編集力というよりは、そのジャンルのファンであることが大事。Synapseにおける企画とは、特定のテーマや人とそのファンとの幸せな関係性を再構築すること。「好き」ということが何よりの力になります。また、特定のメディアに特化するのではなく、媒体を越境できる感覚を持った人が欲しい。本を買って、トークショーに言って、その人のソーシャルメディアに耳を傾けて、出演媒体をチェックして...その一連の体験こそが「コンテンツ消費」なので。ネットを軸にする場合でも、今後は「インターネットが大好きです!」というだけの人は厳しいと思います。僕もここ数年はテレビや雑誌を意識的に見るようにしています。

■マスメディアは「夢の舞台」に!オンラインサロンとの補完関係を築く

Synapseの今後の展望を尋ねてみると、キーワードとして出てきたのは稲着氏のルーツとも言える「マスメディア」だ。ユーザーの体験を深めることができるサロンとの連動を強化していく狙いを語る。

稲着:
Synapseを今後どうしていきたいかというと、もっとマスメディアとの接続を図っていきたい。これからの時代は、漫画家にしても同人誌で人気が出てきたり、ミュージシャンにしても配信で儲かる人がでてくる世界になっていきます。 ただ、そうなったとしてもクリエイターの夢はそこにはありません。結局は「ジャンプの連載作家になる!」とか「紅白歌合戦に出る!」とか、そういうシーンを自分で描くことがクリエイターのモチベーションになるんだと思うんです。ビジネスの覇権を今後ネットが握っていくことはあると思うけど、 クリエイター達の「夢の覇権」はマスメディアが握っていると思うし、それは正しいと思う。だから、そこの接続ができるような存在になりたい。例えば局所的な人気があるブロガーさんにはSynapseで稼いでもらいつつ、離陸先としてマスメディアの文化人枠を狙ってもらう。逆にテレビに出てはいるけど実はそんなに稼げてないミュージシャンにはSynapseをマネタイズツールに使ってもらう。そんな世界を作りたいですね。

「テレビの時代は終わり」「ネットのコピペ編集記事は最悪」ここ長らくメディア・コンテンツを語る際のテーマとなる常套句だが、稲着氏の頭の中にはサービスの「文化」や「体験」を軸としたマスメディアとネットメディアが相互に補完し合う世界があった。これまでの活動歴から「事業家」として語られることの多い稲着氏だが、これからは「企画家」として良質なコンテンツを生産することに注力していきたいと意気込む。Synapseが切り開くメデ ィア・コンテンツの新しい形は今後も目が離せない。

取材:石塚たけろう

ベンチャーキャピタルやデジタルマーケティング企業複数社での業務を経験後、EIR(=客員起業家)として複数の大手企業、スタートアップの新規プロジェクトに参画。面白法人カヤック所属。@takerou_ishi

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