インターネットが変えるワークスタイル。仕事と遊びの境界線はどうなる?〜「INNOVATION TOKYO 2015」

2015.10.21 13:30

10月14日、「未来の都市とライフスタイルをつくるイノベーション」をテーマに、六本木ヒルズアリーナで行われたオープンイベント"INNOVATION TOKYO 2015"。
私たちの生活に欠かせないものの一つにインターネットがある。インターネットは21世紀に情報革命をもたらし、ライフスタイルを変え、新興企業にとってイノベーションの源泉であり続けている。パネルディスカッション「インターネットが変える働き方と遊び方」では井上健(Evernote 日本法人代表)をモデレーターに、西村琢氏(ソウ・エクスペリエンス株式会社 代表取締役社長)、佐藤裕介氏(株式会社フリークアウト 取締役COO)が登壇。ネットにより所属や所有の概念にも再定義が迫られる中、変わるワークスタイルのあり方とは?

20世紀の終わりに誕生したインターネットを分水嶺に、人々の暮らしは様変わりした。スマートフォン一つ持って出かければ、自由に他人と連絡を取り合うこともできれば、必要な情報を調べたり、決済を行うことさえできてしまう。

仕事といえば、定時にオフィスに出勤し、定時に退社するのが当たり前だった。ところが、その社会常識に変化が訪れつつある。
ここ数年"ノマドワーク""クラウドソーシング""リモートワーク"など、場所を選ばずに仕事を遂行するワークスタイルが注目を浴びている。
リクルートホールディングスが全社員を対象に上限日数のない在宅勤務を導入したのも記憶に新しい。

今回モデレーターを務めた井上氏が提供するクラウドサービス「Evernote(エバーノート)」も個人の自由な働き方をサポートし、作業の生産性を高めるサービスである。広告配信技術を提供するフリークアウトの佐藤氏、体験ギフトを企画・販売するソウ・エクスペリエンスの西村氏。インターネットをベースにビジネスを展開する三者が語った新しい時代の働き方とは?

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【左から】井上健氏(Evernote 日本法人代表)、佐藤裕介氏(株式会社フリークアウト 取締役COO)、西村琢氏(ソウ・エクスペリエンス株式会社 代表取締役社長)

■"初対面はバーチャル"でも、盛り上がることの出来る時代

井上:
まず皆さん、簡単に自己紹介をしていただけますか?
西村:
2005年に体験ギフトの企画・販売を行う「ソウ・エクスペリエンス」を創業しました。"体験ギフト"とはモノではなくて、いろいろな体験をカタログギフトの形にして、選んで体験できるというものです。例えば、茶道体験、パラグライダー、陶芸などが人気ですね。

ソウ・エクスペリエンスHP(https://www.sowxp.co.jp/experiencegift)より

佐藤:
僕は2010年に広告技術を取り扱うソフトウェア会社「フリークアウト」、スマートフォン向けエンターテイメントアプリを開発する「イグニス」という二つの会社を創業し、この5年経営しています。
皆さん、広告の仕事は創造性が高いというイメージをお持ちかもしれません。ところが広告の仕事にも面白いものとそうでないものがあるんですね。面白くない方の仕事をソフトウェアで全部自動化して、それをやらなくてもいいようにしようとしているのがフリークアウトですね。スマートフォンが出てきたことで、1分、10秒暇という可処分時間ができてきました。そういう短い時間を豊かに過ごすためにアプリケーションを開発しているのがイグニスという会社です。昨年、この2社が上場しまして、現在に至るというところです。今日はよろしくお願いします。
井上:
私は「Evernote」というクラウドサービスの日本代表をしています。実は、西村さんに会うのは今日が初めてなのですが、初対面という感じがしません。というのも、昨晩Facebookのグループを作って三人で盛り上がっていたんです。バーチャルで出会ってもそこで盛り上がれるという時代ですよね。

■インターネットは人間の多面性を許容する空間である

井上:
今回のテーマは「インターネットが変える働き方と遊び方」ということなんですが、ネットは当然皆さんの人生を変えていると思うんです。私自身も変わっていますし、お二方も起業なされているので、何らかの形でネットの影響は多大に受けていますよね。佐藤さんなんかはネットネイティヴだと思うのですが、ネット以前と以後なんて感覚ありますか?
佐藤:
今は若い子もたくさん出てきているので、30歳の僕はあまり偉そうなことは言えませんが、小学生の頃からインターネットがあって使っていましたね。
井上:
西村さんはいかがですか?
西村:
体験をいつも開拓して売っているので、どちらかというとドブ板営業に近いです。今でこそ小売店でも売っているのですが、一番最初に商品を売ったのはインターネットですし、インターネットがあったからこそだと思っています。
井上:
私はバブル期に社会人になったのですが、その頃はまだインターネットは知らなかったですね。初めてパソコンを買ったのが1995年。それまでは何をするにも携帯電話がないので、事前に予定しておかないといけない。働き方ももちろん、一定の時間会社に拘束されてオンとオフが明確に分かれている。今はそんなことないですよね。いつでもどこでも仕事ができるようなクラウドの世界になってきていると思います。お二人はご自身の働き方、遊び方、どのような影響を受けていますか?
西村:
何をしていてもインターネットから離れられないと思うんですね。一番最初に僕はインターネットに触れたのは高校2〜3年生の頃。どうしても株式投資をやりたかったんです。丸紅などは先進的で、財務諸表を開示していたんですね。そういうものを必死にダウンロードしたりしていました。そういうところから始まって、2000年くらいからずっとブログを10年くらい書き続けていました。僕は発信できることのありがたさは今でも感じています。発信できることは本当に素晴らしいことだと思います。
佐藤:
人間の多面性を許容するのがインターネットらしさだと思います。昔は物理的な距離に応じて生活や人間関係が設計されていくので、複数の自分って出しにくかったんですよね。インターネットだったら、Twitter、Facebook、さらにはTwitterの裏アカウントで全くキャラが違ったりします。人間の多面性や多義性を許容する空間なので、それが僕の考え方や働き方にも染みついているんだと思います。

■リモートワークの可能性が高まるからこそ、感じるオフィスの重要性

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井上:
ソーシャルだと仕事とプライベート、両方の面が混じっちゃうことがありますよね。先ほども申しましたように、ネットを使えばどこでも仕事ができるし、休日だってできてしまいますよね。オンとオフの切り替えがないような気さえします。私自身はワーカホリックと言われようが仕事大好きなので、オンもオフも全く関係ないし、それが楽しいんですね。お二方はどうですか?
佐藤:
オンとオフの境界が融け合っていくというのはよく聞くんですが、僕はわりとパリッと割っている方ですね。仕事はちゃんと生産性高くやる必要があるし、家族との時間も大事なので、けっこう区別をつけているかもしれないです。遊ぶように働くというのは当然ありますけど、僕が仕事っぽく遊んでいるときは、それは完全に遊びと認識してやっていますね。
西村:
僕は常にどっちか割り切れない状態が続いてます。唯一、ご飯を食べるときはオフラインでいようと思うくらいですね。
井上:
オン/オフの話でいうと、今はいつでもどこでも働ける環境になってきていますよね。極端な話オフィスなんか要らないのではないか。私は一応、日本代表なのですが自分の机っていうのはないんです。話をちょっと大袈裟にすると都市もインターネットによって変わってきているんじゃないかと。わざわざ混んでいる休日じゃなくて、平日も休もうと思えば休めるわけですしね。そうすると都市の人の動き方も変わってきます。そういったものを意識して自分の会社を運営したり、制度の整備をしたりっていうのは考えたことありますか?
佐藤:
昨今ある"リモートワーク"のような世界観は、まだおおよそ現時点の企業体においては全く向いていないと思います。前提として、ソフトウェアエンジニアにはあらゆる企業内の情報を常に透明性高く共有して、ログを残す文化があります。対して、それ以外の営業や管理部門の人には情報を共有し続けたり、作業のログを取り続ける癖は一切ないので、そういうケースではリモートワークは本当に向かないんですよ。なので、うちの会社ではオフィスが楽しげになっているのですが、それは会社に来ることが楽しくなるためですね。
井上:
うちも本社に開発チームがいるんですけど、やはり定期的にフェイストゥーフェイスで集まるのは重要だと感じますね。

■ソウ・エクスペリエンスが実践する「子連れ出勤」−再定義が求められる所属と所有

西村:
僕らもオフィスはいい場所にしたいと、こだわっています。僕は創業の頃からずっと入り口から一番近いところにいるんですよね。入ってきた人に対して「いらっしゃいませ」と迎えたいんです。「どこで仕事をしてもいいよ」とは言いつつ、目指すべくは青臭いですが、結局みんな来ることですよね。
ここ半年くらいソウ・エクスペリエンスは子連れ出勤ができる会社としても注目を集めて頂いているんです。毎日子供がゴロゴロ転がっているんですね。別に子供を見る担当がいるわけではなく、みんなでみている感じなんです。ある種、オフィスが社会実験の場になっているわけです。

子連れ出勤の様子。(ソウ・エクスペリエンスのブログより)

西村:
待機児童の問題はなかなか解決されていませんよね。この試みは各家庭にとって救いかもしれないし、採用にも役立っています。子供がいない社員も毎日子供を間近でみるというのはすごくいい経験だと思うんですよね。おじいちゃんは老人ホーム、子供は保育園と世代が分断されがちな世の中じゃないですか。特に日本はそういった傾向が強いと思うので、そうした融合はすごくいいことだと思っています。
井上:
素晴らしいですよね。家庭全体が幸せになるというのは企業、社会全体で整備していかないといけないと思います。佐藤さんは、会社の制度で従業員により働きやすくするために心がけていらっしゃることはありますか?
佐藤:
難しいですね。インターネットに近しい仕事の場合、「これが正解でした」っていう賞味期限がすごく短いんですよね。製造業においては「これがうまくいくルールです」みたいなものが数年とか、場合によっては二桁年にわたって賞味期限が存在します。ソフトウェアの世界だとうまくいったパターンやルールの強度を保ち続けるのは3年なかったりします。そう考えると、社員の人にうまくキャリアを形成していってもらうには学習をしていってもらわないといけない。学習の継続は楽しくなければ続かないんですよね。気合いで頑張ろうみたいなのは絶対に成り立ちません。なので、どうやったら楽しく学習を続けてもらえるかとか、学習するテーマを好きになってもらえるかみたいなものは会社としてやるべき役割が大きいと思っています。
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井上:
アメリカなどでは今は2, 3年で転職するのが当たり前になってきていますよね。エンジニアだったら1年、場合によっては1プロジェクト終えたら次に移るみたいな感覚。それは自分が絶えず学習していくような環境というか、そこでキャリアップして、新しいものにチャレンジしていくという背景もあると思います。一緒に社員である期間が1年や2年であったとしても、その短い期間にお互い成果を出し合って、別の会社に行ってもネットワークがあって、またいずれビジネスができるかもしれない。
最近、良いなと思って一読をオススメしたいのがリード・ホフマン(LinkedIn共同創業者)が書いた『ALLIANCE アライアンス―人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』という書物。インターネットをきっかけに我々の働き方や遊び方、そして社会への関わり方が変わってきています。企業に所属せずとも働けたり、生活に多様性が出てきたり、こうした時代にいられる我々は幸せだなという風に思います。

時間と場所を部分的に無化したインターネットは、私たちのライフスタイルを根底から変えた。さらに、雇用のあり方さえも一変させようとしている。仕事と遊びの境界も融解しつつある潮流の中で、私たちは"所有と所属"の再定義を迫られているのかもしれない。

取材・文:長谷川リョー

1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。
Twitter:@_ryh

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