kz(livetune)×KAGURAライブ ―「INNOVATION TOKYO 2015」で感じた、音楽を"作る"ことの変化

2015.10.28 10:00

10月14日、「未来の都市とライフスタイルをつくるイノベーション」をテーマに、六本木ヒルズアリーナで行われたオープンイベント「INNOVATION TOKYO 2015」。イベントの中では、音楽とITの新たな未来を考え、発信するプロジェクト「THE BIG PARADE」協力の元、音楽クリエイター・kz(livetune)氏と、何にも触れずに音楽を演奏することが出来る"KAGURA"を開発した、しくみデザイン・中村俊介氏がコラボしたライブ「KAGURA×kz(livetune) Special live!」も行われた。まったく新しい楽器KAGURAを用いてkz(livetune)氏はどのような演奏をし、それが一体何を示唆していたのか。

■音楽クリエイターkz(livetune)と次世代楽器KAGURA

kz(livetune)という人物をご存知だろうか。kz(livetune)とは、既に多くの人が知っているであろう『初音ミク』を使用して数々の音楽を作りあげ、ボカロ(ボーカロイド)ブームを牽引してきたインターネット発・新進気鋭の音楽クリエイターである。彼の代表曲というと、2011年にGoogle ChromeのCMで使用された『Tell Your World』が有名。

聴いたことのある人も多いだろうが、聴いたことのない人はぜひ一度聴いてみて頂きたい。この曲は2011年12月16日にYouTubeで公開された5日後の21日には、再生回数100万回を突破。大きな話題性をもって多くの人に広がり驚異的な人気を誇っている曲だが、実際に聴いてみると中毒性のあるエレクトロチューンと初音ミクの可愛らしい歌声、エモーショナルに響く歌詞とが良く混ざり合って体に染み渡る。

Tell Your World / livetune feat.初音ミク

"KAGURA"はご存知だろうか。以前SENSORSでも取り上げたこともあるKAGURAとは、何にも触れずに音楽の演奏が出来てしまうという次世代楽器である。しくみデザインの中村俊介氏の「楽器は演奏したいんだけど、練習はしたくない」というシンプルな想いから、「楽器を手に入れ、練習して、演奏できる」という通常の流れの真ん中部分をスパっと省略した実に効率的な楽器だ。

こんな2人がこのINNOVATION TOKYO 2015でコラボライブを行ったのだから、音楽ファンならワクワクしないわけがない。ライブはまず、kz(livetune)の『Tell Your World』の演奏から始まった。kz(livetune)のキーボード演奏と合わせて流れだしたメロディは、このイベントオリジナルアレンジだったのか、通常曲と比べてややスローテンポでゆったり耳を傾けることが出来た。

■惹き込まれる演奏と不思議な体験

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ところでkz(livetune)は、今年も大きな話題となった『ULTRA JAPAN』でも2014年にDJとして出演していた。HardwellやMartin Garrix、AfrojackやSteve Angelloなど世界的も超有名DJたちと同じメインステージステージ肩を並べ、2万人のオーディエンスを熱狂させた経験の持ち主なのだ。

私はその当時も会場で観ており注目していたのだが、今回初めて聴いた彼の生キーボード演奏は新鮮さと同時にULTRAとは全く異なる良さがあった。普段アニクラ系のイベントでおこなっているDJが人を躍らせる音楽だとしたら、今回のライブは人に聴かせる音楽と言えるだろう。この手の音楽には普段興味を持たない人たちでも、いつの間にかゆったり引きこまれてしまうような魅力と厚みのある演奏だった。

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『Tell Your World』の演奏が終わると、次はKAGURAのデモライブだ。会場のセットが変わり中村氏が登場すると、説明と同時進行で早速演奏が始まった。KAGURAについては、開発背景も含め先にも述べたこちらの記事で詳しく御覧頂きたいと思う。初めてKAGURAを目にする人は、PC画面に向かってなにやら手を振っている中村氏をさぞかし不思議に思っただろう。物理的な接触がないにも関わらずリズムに合わせた音が流れるのは、視覚的にも非常に不思議で興味深い体験であった。

■音楽を享受する立場から作り手へ

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最後に行われたのは、kz(livetune)とKAGURAのコラボ演奏だ。これはkz(livetune)が『Tell Your World』のメロディに合わせながらキーボードを弾きつつKAGURAで音を足していくというもので、とても器用かつ高度な演奏技術が求められる。初めてとなる試みのせいか、ライブが始まる直前まで表情に笑みを浮かべていたkz(livetune)だったが、演奏が始まるとやはりプロの凄さを見せつけられた。

キーボードを弾きながらリズム良く画面に手をかざしドラムやシンセの音を足していくその様を見ているうちに、なんだか急に「音楽を作る」という行為がすごく身近なものになったような気がした。一般の人々にとって音楽とは聴くものであり自分で作って演奏するものではないし、作曲となると物凄く専門的で高尚な作業のようにさえ感じるだろう。DTMが広く普及しつつある今でこそ作曲は環境さえあれば誰でも行なうことが出来るが、まだまだDTMによる作曲も一部の層によるものであるという印象は拭えない。

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そんな中、私はこの演奏を聴いていて、作曲や音楽のRemixをするという行為のハードルをぐんと下げている一翼を担っているのがKAGURAであると感じた。というのも、ライブ冒頭に演奏された『Tell Your World』を聴いた時、とても素晴らしいとは思ったが「自分で演奏出来るかも」とは微塵も思わなかった。むしろ、そう思う余地など一切無いほど高い完成度の演奏と音が織りなす世界観に完全に惹きこまれていた。しかし中村氏のデモ演奏とKAGURAで音を足していくkz(livetune)の姿を観ているうちに「もしかしたら自分にも出来るかも」という感情が芽生えてきたのだ。

そう思ってすぐにできるようになるかどうかは別として、これまで私のような音楽を聴くことが専門の人達にとって「いつか挑戦してみたい」と思いながらもなかなかすることができずにいた作曲やRemixという行為に対して「音楽とは聴くものだけでなく、本当に自分で作れるものなのかもしれない」と思わせることができたこと自体、kz(livetune)×KAGURAコラボライブの大きな功績だろう。

■音楽を「作る」ことの変化の兆し

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言わずもがな、音楽には作り手と受け手が存在する。Apple MusicやGoogle Play Music、日本上陸も間近だろうと言われているSpotifyなどのサブスクリプション型音楽サービスの普及によって「音楽を聴く」環境は現在劇的に変化している中で、「音楽を作る」ことの環境も徐々に変化の兆しが見えている。KAGURAはそのパイオニア的存在として音楽のレイヤーを一段落として一般に広く提示し、多くの人にとってより身近なものとして楽しんでもらえることが出来る環境を作りあげているのだ。

これをきっかけに、音楽を聴くだけでなく聴いた音楽からインスピレーションを受けてさらに新しい音楽を作っていく人たちが増えていき、多様な音楽がたくさん生まれていったら面白い。そんなことを、INNOVATION TOKYOという場でkz(livetune)とKAGURAのコラボ演奏を聴きながら感じたのだった。

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取材・文:石原龍太郎(いしはら りゅうたろう)


ライター・編集者。 テクノロジー・ファッション・グルメを中心に、雑誌やウェブにて執筆。本と音楽とインターネットが好き。@RtIs09

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