テクノロジーの進化により、音楽の楽しみ方は"原点"に近づく〜「INNOVATION TOKYO 2015」

2015.10.28 18:00

10月14日、「未来の都市とライフスタイルをつくるイノベーション」をテーマに、六本木ヒルズアリーナで行われたオープンイベント「INNOVATION TOKYO 2015」。イベントの中では、音楽とITの新たな未来を考え、発信するプロジェクト「THE BIG PARADE」協力の元パネルディスカッション「音楽/エンタメの未来」も実施。モデレーターのユニバーサル ミュージック合同会社 イノベーション担当ゼネラルマネージャー/THE BIG PARADE 鈴木貴歩氏のもとに、PARTY クリエイティブディレクターの川村真司氏、音楽プロデューサー/DJのkz氏、株式会社しくみデザイン代表取締役 中村俊介氏が集った。日々移り行きながら、生活者を唸らせるエンタメを提供し続けるクリエイター達は、イノベーションを生む時何を考え・何に挑戦しようとしているのだろうか。音楽・エンタメシーンの最先端を行く、彼らの頭の中を少しだけ覗いてみよう。

日々多くの人が触れるであろう、音楽などのエンターテイメントコンテンツ。多くのサービス・メディアの出現により、それらが生活に密着し身近になった現在、人々はこれからどんなエンターテイメントに魅了されるのだろうか。

中でも音楽は、今年になって名だたる定額制音楽配信サービスが多くローンチされた。人がいつでもどこでも好きな"音楽"が聴ける世界を実現されつつある中、次に注目されるのは聴くだけには留まらない"音楽体験"。

今回「音楽/エンタメの未来」を探るべく、モデレーターのユニバーサル ミュージック/THE BIG PARADE・鈴木貴歩氏のもとに集まったのは、3人のクリエイター。安室奈美恵の新曲『Golden Touch』のミュージックビデオが圧倒的注目を集めたPARTYの川村真司氏、初音ミクなどVOCALOIDを使った楽曲制作を手掛けるkz氏、身体を動かすだけで楽器を演奏出来る「KAGURA」の開発者の中村俊介氏だ。

【左から】中村俊介氏(株式会社しくみデザイン 代表取締役)、kz氏(音楽プロデューサー/DJ)、川村真司氏(PARTY クリエイティブディレクター)、鈴木貴歩氏(ユニバーサル ミュージック合同会社 イノベーション担当ゼネラルマネージャー/THE BIG PARADE Co-founder)

テクノロジーを駆使し、音楽を"五感で楽しめるもの"へ転換した彼らが、次に目指す音楽・エンタメの未来とは。

■クリエイターがイノベーションを起こすまでの思考プロセス

鈴木:
はじめに、みなさんがモノを生み出す時に、大切にしている思考プロセスを掘り下げていこうと思います。まず、川村さんから。今年、川村さんが作られた、安室奈美恵 さんの『Golden Touch』のミュージックビデオが話題になったと思うのですが。ミュージックビデオを作られた経緯をお聞かせ頂けますか。
川村:
楽曲名の名前の"touch"からとって、触っているような体験が出来るビデオを作ろうと思ったのが始まりです。ただレーベルの方から、ビデオをDVDに入れるとの話が上がったので、(DVDというフォーマット上)インタラクティブなコンテンツには出来ないと思ったんです。そこで、似たような体験が出来るモノを作ろうと思い、実際は画面には触っていないけど、あたかも触っているような気分になれるものにすると新しくなるかなと。
鈴木:
インタラクティブな取り組みって、多くは実際に触ったり、押す力で何か動いたりするものが多いですからね。
川村:
インタラクティブの機能自体は面白いし、より深い体験が出来ます。ただ参入障壁が高く、エンドユーザーはその体験を面倒くさいと感じる。それなら触った気分になれるようなビデオにすることで、もっと簡単に五感で楽しめるような映像にしたいと考えました。
music09.jpg

川村真司氏(PARTY クリエイティブディレクター)

鈴木:
"触れていないけど、触れている"点が、『KAGURA』と似ていると思いました。中村さんが『KAGURA』を作られた時、楽器は弾けないけど楽器を弾いてみたい、という想いがあったということですが、そのモチベーションはどこから来たのでしょうか。
中村:
やっぱり楽器弾きたいじゃないですか!(笑)ただ、楽器を弾こうとなると、難しい感じがするんですよね。やりたいのは、練習ではないと。そこで、いかに演奏したような気持ちになるかが大切だと思ったんです。
鈴木:
カメラを使って、画面に映るものを演奏しようというアイデアになった経緯は何でしょうか。

INNOVATION TOKYOでの中村氏による『KAGURA』パフォーマンス

中村:
ダンスってかっこいいイメージがあったのと、踊って演奏できたら気持ちよさそうだと思って。そこで、踊っている動きを検出して音に変えようと思いました。
一番最初にKAGURAを作ったのは2002年の大学院生の時だったのですが、その当時動きを検出できるものはカメラだけ。そこでとりあえず作ってみたものの、不協和音ばかり流れて困っていた時、研究室のバンドマンの後輩に「コードでやればいい」と言われ、可能性を感じました。
鈴木:
では次に、『初音ミク』の声を使った楽曲がエポックメーキングとなったkzさん。当時、『初音ミク』を使うに至った思考プロセスを教えてください。
kz:
2007年にソフトウェア『VOCALOID2』が出たんですよね。Daft Punkなどに代表される声を機械的に変えるエフェクト「オートチューン」にハマッてて。自分も好きでヴォーカルに使ってたりしてたんですが、その時ふと、機械的な音声に機械的なエフェクトを合わせたら、面白そうと思って。

kz氏(音楽プロデューサー/DJ)

鈴木:
『オートチューン』はボーカリストが歌った曲を、後で音程を変え、音程をなぞって録音出来るソフトですよね。本来の目的は音程の補正のためのもので。
kz:
そうですね。そのソフトを過剰にかけると逆にロボットっぽい音色になるんです。数多くのミュージシャンが使用してますけど、一般に広まったのは2007、8年くらいですかね。Perfumeで一気に浸透しました。
鈴木:
『初音ミク』のユニークな部分とはkzさんにとってなんでしょうか。

鈴木貴歩氏(ユニバーサル ミュージック合同会社 イノベーション担当ゼネラルマネージャー/THE BIG PARADE Co-founder)

kz:
ボーカルは感情表現ですが、そういった機械的な音は、ソフトウェアで出来ているので、感情が一切ないんです。面白いのは、歌い手に何かを伝えたいという"エゴ"がない所です。だからこそ、作曲者の想いをダイレクトに伝えることが出来るツールだなと思います。

■「新しい」と「古い」を掛け合わせると、手に取ってもらえるモノになる

鈴木:
機械的や無機質という点で言うと、川村さんも最近、天文台の無機質な音を拾うというプロジェクトをやられていたと思いますが、そのお話についてもお聞き出来ますか。
川村:
国立天文台さんと一緒にやらせていただいたアルマ望遠鏡のプロジェクト「ALMA MUSIC BOX」ですね。このプロジェクト自体スケールの大きいものだったのですが、電波望遠鏡でとれるデータが、電波という単なる数値やグラフだったこともあり、認知が広まらないという課題がありました。そこで音楽やアートを絡めることで、より広い層に知ってもらおうというものでした。
最終的に作ったのは、集めた星のデータをオルゴールのディスクに作り直して、オルゴールで聴くというもの。データをただ単に映像でビジュアライズするようなやり方では、データが持つ無機質さを越えられない気がして。
そうではなくて、"最先端の技術"を使ったアルマ望遠鏡を、"古い"オルゴール音楽機器に変換して、生音を聴くというフィジカルな体験に落とし込んであげる。そうすることで、何光年も先の宇宙のデータを、身近に感じられると思いました。

ALMA MUSIC BOX HPより(http://alma.mtk.nao.ac.jp/musicbox/)

鈴木:
なるほど。みなさんのお話をお聞きしていると、何かしらモノを生み出す時に、"制約"があるのかなと感じました。その制約を越えよう、そのためにどうしたら面白いかを考えながら、"制約"を越えるための何かを付加することで、イノベーションが起こっていると感じます。

■トップクリエイター達が見る未来にある、重要キーワードとは

鈴木:
ここからはさらに先の未来を見据えて、みなさんが今注目している領域やキーワードをお聞きしていこうと思います。では、まず中村さんからお願いします。

中村俊介氏(株式会社しくみデザイン 代表取締役)

中村:
今は音楽を楽しむには演奏出来るか・聴くかの二層しかない中で、その間の領域が一番簡単で楽しい所だと思うんです。『KAGURA』のテクノロジーによって、音の素材をユーザーがいじれる機能が音楽配信サービスに加わったとしたら、リスナーはその音楽に少し参加出来ますよね。ゼロから音楽を作るのではなく、好きなアーティストの曲を少しアレンジしながら聴くことが出来る、そんな領域を作りたいです。

INNOVATION TOKYOでの中村氏による『KAGURA』パフォーマンス

鈴木:
面白そうですね。例えば、kzさんが次回新曲をリリースされるとして、その時に『KAGURA』の中にもkzさんの曲の音源が入っていて、『KAGURA』をインストールすると、そのまま弾けるようになるということですか。

INNOVATION TOKYOでのkz氏による『KAGURA』を使ったライブ

kz:
そうですね。これまでの音楽でいうと、例えばボーカルのアカペラや、トラックのギターデータ・ピアノデータなどが配信されることはよくありましたが、結局そういったデータは、ソフトを使える上級者しか使いこなせないんですよね。その点で、演奏することと聴くことの間の体験が出来るようになれば、面白いですね。

■ライブ"という音楽体験が持つ、シンプルさと強い発信力

鈴木:
kzさんのお話の中で、"ライブ"というキーワードが出ていましたね。kzさんのパフォーマンスは、DJプレイなど比較的テクノロジー寄りだと思うのですが、今"ライブ"というワードに注目されているんですか。
kz:
そうですね、VOCALOIDだったり、DJだったり、あらかじめ緻密に作り込んだ音でパフォーマンスするのはそれはそれで魅力があるんですが、やはり一回性という点ではライブだなと。特にVOCALOIDは100%同じ歌になりますし。その場その瞬間をオーディエンスとより共有したい気持ちが大きくなってきたこともあって、今はライブを軸に考えてますね。SNSやストリーミングなど、テクノロジーの進化もそうした『共有』をより強固なものにしてくれる時代になったことも背景にあります。

kz氏(音楽プロデューサー/DJ)

鈴木:
そこに、新たなテクノロジーはどのように絡んでいくのでしょうか。
kz:
パフォーマンスは、テクノロジーが含まれることで変化していくと思います。しかし一番大事なのは、今話したように音楽を支える環境。よりマスに訴求出来る、マスメディアで発信しながら、ソーシャルも双方的に・上手く、利用していく必要があると感じています。そこにテクノロジーが必要だとも考えています。

■"お祭り文化"にみる、日本人の持つクリエイティビティーとは

鈴木:
川村さんはいかがでしょうか。

川村真司氏(PARTY クリエイティブディレクター)

川村:
一つは、"楽"。イノベーションは、何も難しいことをするのが目的ではなく、日常生活やエンターテイメントの享受の仕方のハードルを下げるものだと思っているので、そこにテクノロジーを利用していきたいです。
あとは"ライブ感"。何でもコピー・ブックマーク出来てしまう現在、どこで差や価値を付けていくかを考えた時、一期一会の体験が重要かと。
鈴木:
川村さんは、普段ニューヨークにいらっしゃるということで、ニューヨーク視点からだとモノを生み出すという点で違いはありますか。
川村:
日本の方々は、体感型エンターテイメントを生み出すことが上手いですよ。アメリカはハロウィーンなど数限られたお祭り事がある中で、日本は狭いのになぜこんなにもお祭りがたくさんあるのだろうと思いました。これは日本人が、リアルな場に集まって何かを生み出すエナジーやポテンシャルがあることなのかと。そのクリエイティビティーを上手く活用したら、面白いものが出来ると感じます。
鈴木:
お三方のお話から、"新しい"モノはプリミティブな"原点"から生まれる、そんな結論が出せた気がします。

コンテンツとしての音楽が、数々のサービスの出現によってより身近な存在になっていく中で、リスナーとの接点のあり方を変え、エンターテイメント性がより強く求められるようになる音楽。

より多くの人をワクワクさせるような、イノベイティブな音楽体験を作るヒントは「ライブ」や「楽」といった、意外と身近なキーワードにあると語るクリエイター達。音楽を「聴かれる」ものから、「五感を使って楽しまれる」ものへ転換した彼らは、今後いかなる音楽の楽しみ方の潮流を生むのだろうか。

取材・文:長谷川輝波

フリーライター、慶應義塾大学法学部4年在籍。@tkinakoo_mochii

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