"スキッパブル"なインターネットから、「文化」は生まれるか?ーー土屋敏男×森泰輝×石井リナ「マスなき分散時代のメディア・コミュニティ・インフルエンサー」(前編)

2019.01.29 18:00

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(左より)長谷川リョー、土屋敏男氏、森泰輝氏、石井リナ氏

最新のイノベーションが国内外から一堂に会する国際展示会『InterBEE2018』で、「ミレニアルズ ~マスなき分散時代のメディア・コミュニティ・インフルエンサー」をテーマにトークイベントが行われた。

SENSORS編集長の長谷川リョーをモデレーターに、土屋敏男氏(日本テレビ放送網株式会社 日テレラボ シニア・クリエイター)、森泰輝氏(株式会社VAZ 代表取締役社長)、石井リナ氏(株式会社BLAST 代表取締役社長)が登壇。

SENSORSでは、イベントでのトーク内容を、前後編にわたってダイジェストでお届けしていく。前編にあたる本記事では、「マスなき分散時代のメディア論」についての議論をレポート。

「インターネットには文化が生まれていない」と語る土屋氏は、テレビ文化との比較からインターネット文化の可能性を考察する。一方で森氏は「SNSでは暇つぶしコンテンツがヒットしやすい」点を指摘し、石井氏は"スキッパブル"なネットの性質から文化の定着自体に疑問を呈した。

1990年生まれでミレニアル世代の有識者2名と、テレビ業界のヒットメーカー土屋氏が「ミレニアルズ」をキーワードに、新時代の動向を深掘りしていく。

長谷川リョー(以下、長谷川):今回のテーマは「ミレニアルズ ~マスなき分散時代のメディア・コミュニティ・インフルエンサー」。ミレニアルズとは、2000年以降に成人を迎えた人たちの総称です。

2000年代までは、人びとの話題の中心にテレビがありました。僕よりも下の世代になってくると、そもそもテレビを持っていなかったり、YouTubeやTwitterを見ていたりと、多用なプラットフォームに関心が分散する時代になっています。そうした時代背景のもと、今後どう時代が変化していくのか。ミレニアルズのトップランナーである森さんと石井さん、さらには平均視聴率17.8%、最高視聴率30.4%のヒット番組『電波少年』を10年間ほど手がけられ、長年テレビ業界で活躍されてきた土屋さんと一緒に議論していきます。

土屋 敏男氏(以下、土屋):僕はテレビ業界でずっと働いていまして、いまは日テレラボのシニアクリエイターとして活動しています。『電波少年』の他にも、テレビ局初のネットテレビとされている第2日本テレビを立ち上げたり、YouTubeを活用して間寛平の『アースマラソン』を3年間配信したりしてきました。一般社団法人1964 TOKYO VRを設立し、ライゾマティクスの齋藤精一さんとVR分野でのコンテンツ制作も行なっています。

森泰輝氏(以下、森):インフルエンサープロダクションVAZを設立し、代表を務めています。最近流行りのTikTokerを抱えるプロダクションとしては日本最大、YouTuberを抱えるプロダクションとしては日本最大級に位置している事務所で、所属タレントの力で企業のマーケティングを支援するインフルエンサーマーケティング事業を手がけています。

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石井リナ氏(以下、石井):エンパワーメントメディア『BLAST』を設立し、編集長を務めています。「日本の女性を応援し、解放する」をテーマに、InstagramやYouTubeといった動画メディアでコンテンツを展開する分散型メディアです。「みんな違って、みんないい」の世界観を実現したく立ち上げました。元々はインターネットの広告代理店で働いていて、Instagramのマーケティング本を執筆したこともあるので、SNSマーケティングやミレニアルズの文脈でイベントに呼ばれることも多いです。

長谷川:テレビは、日本全体のボリュームゾーンに適した情報を優先して発信してきました。BLASTのように多様な価値観の存在を肯定するメディアは、新たな時代の潮流を表していると思います。

土屋:かつてのミニコミや、ライブハウスに置いてあった小さな冊子のような文化が、ネットで誕生しているということでしょうか。今日は、テレビや新聞やラジオといったマスメディア以外のメディアが次々と大きくなってきている現象について、お話をしていけたらと思います。

インターネットからは、「文化」が生まれていない?

長谷川:最初のトークテーマは、マスなき分散時代のメディア論。テレビ業界のトップランナーとして走ってきた土屋さんの目に、今のテレビやネットの関係性はどのように映っていますか?

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土屋:かつてテレビがラジオや映画をリプレイスしてきたように、テレビの役割はネットに取って代わられようとしている。だけど、ネットはまだまだビジネス優先で、「文化」が生まれていないように見えます。

森:たしかにテレビにおけるビジネスの話は営業サイドの人が考え、制作サイドが面白いコンテンツづくりに集中できる体制が整っており、「文化」が生まれやすい状況にありました。

しかし、インフルエンサーが制作費をかけずに面白いことを仕掛けてSNS上で注目を集めるなど、インターネット独自の文化が醸成されつつあることも事実だと思います。

土屋:もしかしたら、昭和のテレビ文化と今のインターネット文化が置かれている状況は似ているのかもしれません。テレビが出てきたとき「一億総白痴化」とバカにされていたように、YouTubeもここ10年近くが勃興期だからこそ、私を含め多くの人に甘く見られやすいのではないでしょうか。

森:またインターネットは比較的少ない制作費用しかかけていないにも関わらず、日々面白いものが生まれている点に、僕は注目しています。潤沢な予算のもとで番組制作を行うなかで、独自の文化を発展させてきたテレビとは対照的です。

土屋:制作費がクリエイティブの面白さに比例しないのは面白いよね。最近「テレビ東京の番組が面白い」と言われていますが、テレ東も他のテレビ局よりも制作費が少ないにも関わらず、魅力的なコンテンツを量産している。

ただスマホゲームのように、一つヒットすると形だけ変わった類似コンテンツが増えるのは、ネットコンテンツの現段階での弱点かもしれないね。

現代は"スキッパブル"な時代。もはや「暇つぶし」コンテンツしか流行らない?

石井:そもそも現代は"スキッパブル"な時代なので、インターネットから「文化」が生まれたとしても、根づきにくいのではないかと考えています。

土屋:"スキッパブル"?

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石井:たとえば、Twitterを見て物が欲しくなったらすぐにECサイトへ移ったり、YouTubeでかわいい子を見つけたらInstagramでの投稿を見に行ったりしますよね。

土屋:なるほど。ネットコンテンツが「暇つぶし」と割り切って消費されているからこその現象かもしれませんね。

そういえばテレビの存在意義について特集を組んで番組にした際、「テレビは暇つぶし」と言われてショックを受けたことがあります。一生懸命コンテンツを作ってきた人間として、やりきれない気持ちでした。

とはいえ『電波少年』を放送して、「番組を観て海外旅行したら、人生が変わりました」と視聴者から声をいただけたことも事実です。そうした「人びとを感動させるコンテンツ」は、もう流行らないのでしょうか。

森:正直わかりません。僕もYouTubeでコンテンツを作る際、なにかメッセージを伝えようと頑張るほど上手くいかないことが多く、頭を抱えてきました。インターネットでは、「暇つぶし」と割り切ってコンテンツをつくる方が、ユーザーに見てもらいやすい傾向がある。つくり手のエゴが出ていると、ウケにくくなってしまうのです。

土屋:次世代のクリエイターが、暇つぶしのためだけに才能を発揮するのは嫌だよね。 BLASTのようなメディアが出てくることからも分かるように、暇つぶしだけがネットコンテンツのすべてではないと思います。だけど、ネット文化の課題についてはクリエイターも考えていくべき問題のはずです。

続く後編では、「テクノロジーで変わるコンテンツ論」、「Netflixは、グローバルなマスメディアとなりうるか」をテーマに行われたトークの模様をお伝えする。マスが消失しメディアが分散化したいま、「スーパーメジャーな存在としてNetflixが躍進してきている」と語る土屋氏。また森氏や石井氏とともに、テレビ文化とインターネット文化の類似性や、VRの可能性を手がかりも解き明かされる。

執筆:川尻疾風

1993年生まれ、同志社大学卒。在学中に、メルマガ・生放送配信やプロデュース・マネジメント支援を経験。オウンドメディアやSNS運用などに携わったのち、現職へ。起業家やクリエイターといった同世代の才能と伴走する存在を目指す。
Twitter:@shippu_ga



編集:小池真幸

ビジネス・テクノロジー領域を中心に取材・執筆・編集を重ねる。東京大学で思想・哲学を学んだのち、AIスタートアップのマーケター・事業開発を経て、現職。1993年、神奈川県生まれ。「人文知とビジネス・テクノロジーの架橋」に関心があります。
Twitter:@masakik512

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