テクノロジーが発達しても、"本気"が刺さることには変わらないーー土屋敏男×森泰輝×石井リナ「マスなき分散時代のメディア・コミュニティ・インフルエンサー」(後編)

2019.01.30 18:00

最新のイノベーションが国内外から一堂に会する国際展示会『InterBEE2018』で、「ミレニアルズ ~マスなき分散時代のメディア・コミュニティ・インフルエンサー」をテーマにトークイベントが行われた。

SENSORS編集長の長谷川リョーをモデレーターに、土屋敏男氏(日本テレビ放送網株式会社 日テレラボ シニア・クリエイター)、森泰輝氏(株式会社VAZ 代表取締役社長)、石井リナ氏(株式会社BLAST 代表取締役社長)が登壇。

SENSORSでは、イベントでのトーク内容を、前後編にわたってダイジェストでお届けしていく。後編にあたる本記事では、「テクノロジーで変わるコンテンツ論」、「Netflixはグローバルなマスメディアとなりうるか」をテーマに行われた議論をレポートする。

「スーパーメジャーな存在としてNetflixが躍進してきた」と語る土屋氏は、コミュニティが分散される現代に登場した「新たなるマス」の存在に注目しているという。森氏や石井氏とともに、日本発コンテンツやVRの可能性についても解き明かされた。

1990年生まれのミレニアル世代の有識者2名と、テレビ業界のヒットメーカー土屋氏が、「ミレニアルズ」をキーワードに新時代の動向を深掘りしていく。

(前編はこちら

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(左より)長谷川リョー、土屋敏男氏、森泰輝氏、石井リナ氏

"本気"のコンテンツしか刺さらない。時代を超えた「ヒットの法則」とは?

長谷川リョー(以下、長谷川):続いてのテーマは、「テクノロジーで変わるコンテンツ論」。土屋さんの代表作『電波少年』も、「まさにテクノロジーの進化があったからこそ誕生した」と伺っています。

土屋敏男(以下、土屋):『電波少年』は、当時発売されたばかりのソニー製の家庭用ビデオカメラがあってこそ成立した番組でした。機材がポータブルになったことで、ディレクター1人だけでも番組映像が撮れるようになり、お笑いコンビ「猿岩石」の2人と一緒に海外でヒッチハイクを行う画が実現したんです。

一方で、インターネットの登場に起因する革新的なコンテンツの変化は、未だ起きていないように思います。テクノロジーが進化したにも関わらず、コンテンツに影響がないのはもったいないですよね。

長谷川:VAZでは所属インフルエンサーを通じてネットメディアと関わることも多いと思いますが、森さんはコンテンツの変化を感じていますか?

森泰輝(以下、森):スマートフォンの普及に伴い、個人でのコンテンツ発信量は爆発的に増えてきました。しかし、コンテンツの中身自体にはあまり変化が起きていないと思います。たとえば最近大流行中の「TikTok」も、数年前に流行った「Vine」とコンテンツの形式やジャンルはほぼ同じ。TikTokがここまで伸びているのは、コンテンツの見せ方やAIによるパーソナライズ技術の発展によってユーザー体験が向上したからに過ぎません。

ただコンテンツ発信者の行動には変化が起きています。「YouTubeでいきなり有名になるのは難しいので、まずは初心者でもファンが増えやすい仕組みが整ったTikTokで有名になることを目指そう」というように、メディアを横断して活動する人は増えてきていますね。

長谷川:最近は17 LiveやSHOWROOMといったライブ配信サービスも盛り上がっています。

森:ライブ配信はニコニコ生放送など数年前から存在していましたが、最近はユーザーが動画配信者に直接課金ができる「投げ銭モデル」のサービスが主流になりました。

土屋:マスメディアとネットでの人気に、相関関係があるとは限らないのはなぜなのでしょう。元SMAPの草彅さんの方がテレビでの認知度は高いはずなのに、YouTubeの再生数を見るとキングコングの梶原さんの方が勢いがあることは不思議に思えます。

森:インターネットでは「本気で投稿しているかどうか」が可視化されやすいためだと思います。梶原さんは、片手間でYouTube配信を行なっている芸人さんが多いなかで、「芸人を辞めてYouTuberに専念する」と宣言し、ほぼ毎日投稿しているんですよ。人気YouTuberのもとに足を運んでコラボすることも多く、本気度が伝わってきます。

土屋:いつの時代も、本気のコンテンツしか刺さらないんですね。

日本の勝ち筋は『テラスハウス』にあり?Netflix時代のコンテンツづくり

長谷川:次のテーマは、「Netflixは、グローバルなマスメディアとなりうるか」。日本だとNetflixはまだ情報感度が高い人ばかり観ている傾向にある一方、世界ではメジャーなメディアになりつつあります。

土屋:Netflixは「200ヶ国に配信します、制作費も200億出します」と言っていますが、テレビ番組を制作してきた人間からすると、憧れを禁じ得ません。グローバルにコンテンツを配信することで収益を上げ、それをまたコンテンツ制作に投資するモデルが確立していること意味しているからです。

マスメディアの衰退と共に、"みんな"という概念も消え、すべてが分散していく...と思いきや、今度はNetflixのようなスーパーメジャーが出てきた。どのプラットフォームがメジャーになっていくかも、今後注目していきたいと思います。

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土屋:Netflixがなど海外には成功例が多い一方、日本から突出したプラットフォームは出てきていない。

そこで希望を感じているのは、Netflixと同様にメジャーなサービスのAmazon Primeで配信されている、松本人志さん主演の『ドキュメンタル』、『FREEZE』といった日本発コンテンツ。Amazon Primeが日本で普及した大きな要因にこれらのオリジナルコンテンツの存在があったように、コンテンツひとつでプラットフォームの形勢が逆転することがあります。

森:Amazon Primeに限らず、強力なコンテンツはプラットフォームのシェアに影響を与えていますね。

土屋:国内でプラットフォームづくりに挑戦していくのも一つの手ですが、『テラスハウス』、『火花』のようなヒットコンテンツを海外のプラットフォームに提供していく戦略に絞るのもアリかもしれません。

長谷川:VRは今後、マスメディアのような存在になると思いますか?

土屋:いまはニッチですが、ここ数年で急激にスマホが普及してきたように、デバイスの価格が下がれば一気に広まるはずです。

石井リナ(以下、石井):VRでは、テレビやネットとは違ったコンテンツづくりをしていくことになるのでしょうか?

土屋:意外かもしれませんが、コンテンツをVR化したとしても、あまり手を加える必要性はないです。最初は多くの人が真後ろを観たがりキョロキョロしますが、慣れてくると前面しか観なくなるので(笑)。

実際にハリウッドではVR上でのコンテンツ配信が実験されており、今までと同じコンテンツをVR化するだけで、熱中し、感動できることが分かってきている。VRにはユーザー体験を増幅させる作用がありますが、必要以上に「360°」であることを意識する必要はないのです。

「はじめての携帯がスマホ」が一般化していく時代へ

長谷川:締めに入っていきたいと思います。最後に、これから仕掛けていきたいことを一言ずつお願いします。

土屋:僕はこれまでと変わらず、新しいテクノロジーをどんどん取り込んでコンテンツを制作していきます。いま面白いと思っているのは、3Dスキャナ。モデリングのスピードと精度が日々進化してきているので、この技術を利用した世界初のコンテンツをつくりはじめていて、来年の春には発表する予定です。

森:僕は従来のテレビのように、YouTubeの番組でスポンサーをつけるモデルを展開していきたい。「はじめての携帯がスマホ」である人口が増えるにつれ、Youtubeでかつてのテレビと同様の現象が起こってくると思っています。

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土屋:テレビタレントの歴史を紐解くと、お笑いブームによって明石家さんまさんや北野武さんが登場し、それを見たダウンタウン世代が生み出されることになった。そしてダウンタウン今度はダウンタウンに憧れて吉本がつくった学校に行く若者が増え、毎年何千人もの若者が芸人になっていった。YouTuberも今後はいまのスターに憧れる後続世代が現れ、ますます業界が盛り上がっていくことでしょう。

石井:BLASTは、日本の女性たちが制約なく自由に活躍できるようになることをゴールにしています。プラットフォームにこだわらず、Podcastやオフラインイベントでも展開していきたいです。

新聞、テレビといったマスメディアの影響力低下が止まらない一方で、インターネットが爆発的に普及しはじめて久しい。今後さらなる発展を遂げていくだろうが、そこではインターネットを中心とした、新興メディアの存在・コミュニティという概念・タレントに代わるインフルエンサーの姿、3者が混ざり合うことで醸成される文化の価値も問われていくだろう。マスメディアが消失していくなかでネットの発展はどこに向かっていくのか、今後も目が離せない。

執筆:川尻疾風

1993年生まれ、同志社大学卒。在学中に、メルマガ・生放送配信やプロデュース・マネジメント支援を経験。オウンドメディアやSNS運用などに携わったのち、現職へ。起業家やクリエイターといった同世代の才能と伴走する存在を目指す。
Twitter:@shippu_ga



編集:小池真幸

ビジネス・テクノロジー領域を中心に取材・執筆・編集を重ねる。東京大学で思想・哲学を学んだのち、AIスタートアップのマーケター・事業開発を経て、現職。1993年、神奈川県生まれ。「人文知とビジネス・テクノロジーの架橋」に関心があります。
Twitter:@masakik512

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