"投資される起業家"の共通点とは--小笠原治×千葉功太郎 エンジェル投資家対談

2017.10.25 10:00

「投資家とスタートアップ」をテーマに行われたSENSORSサロン。ゲストは投資家・起業家であるABBALab代表取締役 小笠原治氏と、個人投資家・起業家であり、今年6月にDrone Fundを立ち上げた千葉功太郎氏だ。

4回にわたってお届けする第1弾記事では、ゲストのお二人に「投資家に選ばれる起業家の共通点」について伺った。MCの齋藤精一が「日本にスタートアップは根付かないのではないか」と語るように、国内の起業率は欧米諸国に比べて依然として低い。しかし1999年に始まったインターネットバブル以降、日本にもエンジェル投資家が生まれ、起業のハードルは着実に低くなりつつある。

ドローンやIoTなど最先端テクノロジーに投資する二人は、どのような視点で起業家を判断しているのだろうか?

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(左より)小笠原治氏、千葉功太郎氏(右より)番組MC落合陽一、齋藤精一

まず『SENSORS』MCの二人は、今回のテーマ「投資家とスタートアップ」をどのように捉えているのだろうか。

落合陽一(以下、落合):
日本はインターネットバブル以降、成功した起業家たちが次世代の起業家の育成を目的に投資する機会が増えました。
ここ4〜5年くらいで「エンジェル投資家」という言葉をよく聞くようになったと思います。一方、起業が盛んなアメリカの西海岸では、1980年代からエンジェル投資家は当たり前の存在です。
齋藤精一(以下、齋藤):
起業家にとって、エンジェル投資家が身近な存在になったのは最近のことですよね。
僕は「日本にスタートアップは根付かないのではないか?」と思っています。モノづくりが得意な国なので、クリエイターは育つけれど起業家は育ちにくい。クリエイターのスキルと起業家のスキルは別物で、両方のスキルを併せ持つ人材は稀有です。「スタートアップが盛んになっている」と聞いても、まだ半信半疑でいます。本日のゲストは投資家になる以前に起業を経験しているそうなので、ここ数年に起こった文化の変化について伺いたいです。

MCの落合、齋藤はどちらも起業家。落合が初めて会社を創業したのは学生時代、齋藤がライゾマティクスを創業したのは11年前である。当時から日本のスタートアップ文化はどのように変化しているのだろうか?

ここから、今回のゲストである小笠原治氏と千葉功太郎氏を交えて議論が行われた。起業家から投資家へと転身した両ゲストの自己紹介から話は始まる。

■ 起業家から投資家へ。転身の理由は、次世代にバトンを渡すため

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--どのような事業を展開しているか教えてください。

千葉功太郎(以下、千葉):
現在は訪日外国人観光客をターゲットにした旅館「The Ryokan Tokyo」を経営しつつ、投資家をしています。
以前までは個人投資家としてスタートアップを支援していましたが、今年の6月に投資ファンド「Drone Fund」を立ち上げました。個人とファンドの投資先を合わせ、現在およそ70社の企業に投資を行っています。
小笠原治(以下、小笠原):
投資家として個人でインターネット企業に数百万円単位の出資をしつつ、投資ファンド「ABBALab」を設立してIoT領域で事業を展開するスタートアップに投資をしています。
いくつか例を挙げると、今年3月にLINEに買収されたGatebox、不動産業界向けのスマートロックを手がけるtsumugなどに出資を行いました。

--起業家から投資家に転身した理由を教えてください。

千葉:
25歳で初めて会社を立ち上げたときに、個人投資家から出資を受けました。
当時「エンジェル投資家」という言葉はありませんでしたが、自分のお金を若者に託し、次世代の起業家を支援する姿に感銘を受けたことを覚えています。会社がイグジット(株式売却)するまでサポートしていただき、将来は自分も投資家になって若者を支援したいと考えたことがきっかけです。
小笠原:
26歳の頃、ホスティングサービスを展開するさくらインターネットを立ち上げました。
その立ち上げ前に同社とは別に個人でも事業を行っており、後にさくらの共同創業者となる田中邦裕に出資を受けました。当時、彼は弱冠20歳です。彼の姿を見て「日本にも若い投資家が増えたらいいな」と思い、まずは自分が体現しようと投資家になりました。

■ 「自分がやらないといけない理由」がある起業家が、投資を受ける

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--「起業家の見極め方」というテーマについてお話していきたいと思います。

齋藤:
僕が11年前にライゾマティクスを創業した当時、そもそもエンジェル投資家が一般的な存在ではありませんでした。
日本はまだケーススタディが少ないと思いますが、日本人は事業の質だけではなく、人間性も投資の判断材料にしていると伺っています。ゲストのお二人は、投資する起業家をどのような基準で選んでいますか?
小笠原:
欲望が明確な人は投資しやすいです。
たとえばtsumugを創業した女性起業家は、元彼に無断で合鍵を作られていたことが起業のルーツ。鍵を閉めることは安全だと思われがちですが、物理的な鍵はコピーされるリスクがあり、不法侵入される危険性があります。世の中から物理鍵をなくし、もっと安全な世の中にしたいという強烈な想いがあるのです。

Gateboxは、もともとコミュニケーションが苦手な人同士が共通の趣味を見つけるサービスを展開していた企業です。しかし販売が伸びず、あきらめるか、自分が本当にやりたい事業で再挑戦するかを迫られていました。そのときに初めて、自分は生身の人間とコミュニケーションが取りたいのではなく、好きなキャラクターとコミュニケーションを取りたいのだと気づいたそうです。

二人の共通点は、目指したい世界や作りたいプロダクトがはっきりしていること。モチベーションが自分の中から出てくる人は信頼できます。
千葉:
自分がやらなくてはいけない理由が明確にある人材を選んでいます。僕が投資した酪農・畜産向けクラウドサービスを展開するファームノートの創業者は、祖父が農業を営んでいたが、経営上の都合で父が離農してしまった生い立ちがあります。「農家を復活させたい」という想いは、農家に生まれたからこそ出てくるものです。

もう一つは、「いい奴」であること。起業家は経営的に事業が苦しい局面を迎えることがあります。そうしたときに、グレーゾーンに手を出す人も少なくありません。しかし投資家の仕事は、投資して終わりではありません。長い付き合いをするので、やはり誠実な人材が望ましいです。
齋藤:
具体的に、どれほどの期間でお付き合いをするんですか?
小笠原:
10年とは言わないまでも、追加出資を行い、数千万〜数億円の投資をしながら何年も付き合うケースもあります。千葉さんがおっしゃるように、投資して終わりということではないんです。
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落合:
僕が創業した会社は、シード期に投資をいただいた投資家と今でも週に一度ミーティングを行うほど密接な関係です。
IPO(新規株式公開)を見据え始めるステージA以前は、会社をどのように運営したらいいのか分かっていないことが多いですし、パートナーを紹介してもらおうにも人脈がありません。ある程度事業が軌道に乗るまでは、経営以外のことまでサポートしてくれる"兄貴肌"の投資家が必要になると思います。

■ ステージごとに変わる、投資家の役回り

千葉:
僕は「餅は餅屋」の考え方を重視しています。つまり、起業家が万能である必要はない。たとえば落合さんなら、モノづくりにフォーカスすべきなんです。起業家はプロダクトを作ることに徹し、投資家はそれを支える"高度な雑用係"であるべき。
落合:
シード期だと、生活の面倒までみることもあります。たとえば事業が回りはじめ人手不足になったときは、投資家が人材派遣業者に掛け合ったり。
千葉:
僕は不動産物件を紹介したこともあります。起業家に「安い家賃で住める物件を知りませんか?」と相談され、不動産業者に問い合わせました。
齋藤:
お話を伺い、投資家の印象が変わりました。
というのも、知人のスタートアップは海外から投資を受けている人が多いのですが、海外の投資家は比較的放置するのが基本。コミュニケーションを取るとはいえ、事業の調子について尋ねるくらいです。
千葉:
ステージによって関わり方は変わります。
シード期以前に投資を行うのであれば、投資家は「一緒に会社を経営する」感覚で仕事をします。逆にIPOが視野に入ってくるステージBやステージCになると、「数年で何倍の規模まで成長するか」という計画を立てることが仕事になるんです。


続く「ICOは投資の概念を覆す。仮想通貨がもたらす"個人投資社会"とは?」では、仮想通貨にフォーカスを当て、現金に頼らない資金調達の方法を掘り下げる。
ゲストの千葉氏が「ICO(新規仮想通貨公開)は株式上場以上のインパクトを生む」と語るように、仮想通貨は国境を超えた投資を可能にする。
また、トークン発行によるアート市場の振興にまで議論は及んだ。

【「投資家とスタートアップ」 --小笠原治×千葉功太郎 エンジェル投資家対談】
①"投資される起業家"の共通点とは--小笠原治×千葉功太郎 エンジェル投資家対談

②ICOは投資の概念を覆す。仮想通貨がもたらす"個人投資社会"とは?--小笠原治×千葉功太郎 エンジェル投資家対談

③地方都市におけるスタートアップコミュニティの現状--小笠原治×千葉功太郎 エンジェル投資家対談

④起業後進国日本には"ROI視点"が必要不可欠--小笠原治×千葉功太郎 エンジェル投資家対談

構成:オバラミツフミ

秋田県湯沢市出身。趣味は商店街を歩くことと喫茶店を巡ること。
Twitter:@ObaraMitsufumi
Mail: obaramitsufumi[アット]gmail.com


編集:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
編集者・ライター。リクルートホールディングスを経て、独立。修士(東京大学 学際情報学)。
Twitter:@_ryh
Mail: ry.h0508[アット]gmail.com

カメラマン︰松平伊織

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