ICOは投資の概念を覆す。仮想通貨がもたらす"個人投資社会"とは?--小笠原治×千葉功太郎 エンジェル投資家対談

2017.11.02 15:00

「投資家とスタートアップ」をテーマに行われたSENSORSサロン。
小笠原治氏(ABBALab)と千葉功太郎氏(Drone Fund)を迎え、MC落合陽一×齋藤精一が日本における投資家と起業家の動向をディスカッションした。

4回にわたってお届けする第2弾記事では、仮想通貨にフォーカスを当て、現金に頼らない資金調達の方法を掘り下げた。
千葉氏が語る「ICO(新規仮想通貨公開)が秘める株式上場以上のインパクト」とはどのような世界観なのだろうか?

■ 21世紀は"個人投資社会"

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(左より)小笠原治氏、千葉功太郎氏

--ここからは「仮想通貨」についての考えを伺っていきます。

千葉功太郎(以下、千葉):
打ち合わせ中に落合さんが「ビットコインが暴落している」と言った途端、4人全員がビットコインを購入した光景を目の当たりにし、仮想通貨も至極日常的な通貨になっていると感じました。
投資家は、リスク管理のために自らの資産を複数の金融商品に分散する必要があります。自分の資産をどのようにポートフォリオしていくかを考える上で、仮想通貨の割合を本気で考え出す時代に入ってきたのかなと思いました。
落合陽一(以下、落合):
仮想通貨の信用は国に紐付いていなく、個人に紐付いているところが面白い。
僕は仮想通貨の値上がり・値下がり予測をTwitterでしています。Twitterのタイムラインで採掘所を持っている人が何を呟くかを見ていれば、ある程度の動きは予測できるからです。

世界は国境線によって国という単位に分けられていますが、そこに住むのは全員人間ですよね。その感覚に近く、より細分化された単位で信頼を担保できる時代になっています。

たとえば、僕はインターネット上で完全に通貨化しています。
個人の価値を企業の株価に見立て仮想通貨で売買するサービス「VALU」が分かりやすい例です。僕の時価総額はビットコインの価格と反比例しており、常時値動きしています。
小笠原治(以下、小笠原):
仮想通貨を発行し、それを販売することで資金調達を行う「ICO」も話題になっていますよね。ファンドで現金を集めるだけではなく、ICOを利用して仮想通貨を募り、投資をすることが可能になるかもしれません。
法的な事情で必ずしも実現できるとは言い切れませんが、着実にお金の集め方が変わってきています。
千葉:
「個人投資社会」がキーワードになると思っています。今までは組織や会社が投資を募るなどして資金調達を行っていました。
今後は個人が自分の価値を提供し、お金を集め、自分のやりたいことを実現していく社会になるのではないでしょうか。東京証券取引所に上場する流れとは違い、ICOによって上場以上のインパクトを生む時代が来るかもしれません。

■ トークンエコノミーが、日本のアートを活性化させる?

--ICOに絡め、ゲストのお二人が考えている新たな仕組みはありますか?

小笠原:
私が教授を務める京都造形芸術大学で、ICOを利用してアート作品の価値向上を目指す取り組みを始めようとしています。
たとえば"造形大コイン"を発行し、所属するアーティストの作品はそのコインでしか売買できないようにする。
作品は誰の手に渡ろうともブロックチェーンによって履歴管理され、売買が行われる度にアーティストと大学にコインが還元される仕組みです。
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齋藤精一

齋藤精一(以下、齋藤):
アートの分野は評価するのが難しいですよね。アーティストがメディアに多く取り上げられるほど作品のバリューが高くなりますが、それ以外にもっと個人的観点で評価できる指標が必要だと思います。
小笠原:
グローバルでみると、アートはおよそ7.3兆円の市場があります。
しかし日本は、世界3位の経済大国であるにもかかわらず2300億円ほどの市場しかありません。ギャラリーに支配されてる市場であるにも関わらず、一般的にギャラリーと接点のある人はそう多くないですよね。ただ、50万円以下で直接アーティストから作品を購入する市場は、200億円ほどあります。ここには可能性を感じており、その際の取引通貨にICOを利用するのは美術界にとって有益なのではないかと感じています。
落合:
確かにその通りですね。ギャラリーで作品を販売する際、多くの場合は作品のコピーを売ることになります。たとえば、「インスタレーションを5つコピーする権利があり、そのうちの1つを売る」。しかしこの販売方法は作品1つ1つが通貨とみなされるんです。

アート作品は替えのきかないアーティストのキャリアパスから生まれた商品なので、本当なら"僕コイン"のようなトークンを発行し、永続的に利益を得られるようにした方が綺麗な仕組みになります。
小笠原:
芸大でやるからこそ意味があると思っています。学生とはいえアーティストやその卵として作品を販売する人もいますが、その作品の多くはセカンドマーケットで高値になるケースがあるんです。
その際、アーティストには一切利益が入ってきません。もし仮想通貨で作品を売買する仕組みが整えば、美術界の振興、アーティストの育成に寄与できる。
齋藤:
激しく賛同します。アーティストはスタートアップの起業家に似ており、モノを作るのに特化している人たち。
お金を稼ぐスキルがあまりないんです。起業家に投資家が伴走してくれるように、アーティストたちを支援する仕組みがあれば理想的ですよね。
千葉:
タニマチの新しい形と言えるかもしれません。
一時金を出すのではなく、長期間応援する。まさに株主と同じで、支援したアーティストがヒットすれば、タニマチも稼げます。
小笠原:
仮想通貨と聞くと短期的に投機するイメージを持たれることも少なくないので、もしかするとギャップを感じる人がいるかもしれません。
トークンを発行する意義は、そのトークンがどれほど値上がりするかよりも、それによって何が成し遂げられるかが本質なんです。

■ 仮想通貨は国境を越える。国の権力が揺らぐICOの可能性

齋藤:
僕はキーワードに「国境」を挙げており、先ほどの落合君の話ではないですが、仮想通貨的な発想は国境という概念を超えると思います。
たとえば南アフリカに住んでいる人のアイディアに共感したら、どれだけ距離が遠くても投資ができます。投資の概念も変わってくるのではないでしょうか。
千葉:
以前、ICOを行うスタートアップに投資をお願いされました。
その会社は本拠地をスイスに置いていますが、本社には誰もいません。
メンバーはシンガポールとロシア、ルーマニア、中国とそれぞれ拠点がバラバラなんです。給料も彼らが発行するICOのコインで支払っています。

先進的で興味深いのですが、投資のリターンもICOなんです。株式であれば法によって保護されていますが、トークンは発行主の定めたプログラムでしか規約がなく、言ってしまえば何の保証もない。投資家としてまだ心の切り替えができないでいます。
小笠原:
非改竄性を証明するプロトコルがあることが大事です。ブロックチェーンの仕組みはビットコインに限定された話ではなく、さまざまな分野に応用できます。

仕組みを設計すれば、国の法定通貨がベースにならない仮想通貨がたくさん出てくる。
それが個人のアイディアやサービスに紐付けば、将来的にそのコインだけで生計を立てる人が生まれるかもしれません。
千葉:
今後は法定通貨と仮想通貨の定義も変わってくるのではないでしょうか。
仮想通貨も既にリアルな通貨です。国の役目は法定通貨を発行することと法律を作ることだと思っているので、もし仮想通貨が法定通貨よりも流通すれば、国の権力も揺らぐ可能性があります。

納税が分かりやすい例で、仮想通貨だけでやり取りされる社会になれば、納税する人がいなくなります。
そうした世界観においては仮想通貨上のルールが最も重い規約になるため、国よりも強い権力が誕生するかもしれません。
落合:
仮想通貨が優れている点は、誰がブロックの処理を行っているかが常に意識されていること。
誰かが作った仕組みの中で処理され、仕組みを作った人にもリターンがある。非常に民主的で経済合理性があり、健全だと思います。


続く「地方都市におけるスタートアップコミュニティの現状」では、起業しやすい都市の共通点と起業家に必要なコミュニティについて議論された。
ゲストの二人は「起業家は圧倒的に孤独な仕事」と語り、起業家をサポートする取り組みを紹介。
MC齋藤が語る「日本が起業大国になるための分散理論」にまで議論は及ぶ。

【「投資家とスタートアップ」 --小笠原治×千葉功太郎 エンジェル投資家対談】
①"投資される起業家"の共通点とは--小笠原治×千葉功太郎 エンジェル投資家対談

②ICOは投資の概念を覆す。仮想通貨がもたらす"個人投資社会"とは?--小笠原治×千葉功太郎 エンジェル投資家対談

③地方都市におけるスタートアップコミュニティの現状--小笠原治×千葉功太郎 エンジェル投資家対談

④起業後進国日本には"ROI視点"が必要不可欠--小笠原治×千葉功太郎 エンジェル投資家対談

構成:オバラミツフミ

秋田県湯沢市出身。趣味は商店街を歩くことと喫茶店を巡ること。
Twitter:@ObaraMitsufumi
Mail: obaramitsufumi[アット]gmail.com


編集:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
編集者・ライター。リクルートホールディングスを経て、独立。修士(東京大学 学際情報学)。
Twitter:@_ryh
Mail: ry.h0508[アット]gmail.com

カメラマン︰松平伊織

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