地方都市におけるスタートアップコミュニティの現状--小笠原治×千葉功太郎 エンジェル投資家対談

2017.11.09 15:00

「投資家とスタートアップ」をテーマに行われたSENSORSサロン。小笠原治氏(ABBALab)と千葉功太郎氏(Drone Fund)を迎え、MC落合陽一×齋藤精一が日本における投資家と起業家の動向をディスカッションした。

4回にわたってお届けする第3弾記事では、起業しやすい都市の共通点と起業家に必要なコミュニティについて議論された。ゲストの二人は「起業家は圧倒的に孤独な仕事」と語り、起業家をサポートする自身の取り組みを紹介。MC齋藤が語る「日本が起業大国になるための分散理論」にも注目だ。

■ 日本は世界で最も起業しやすい国。起業先進都市、福岡にみる地方起業の可能性

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(左より)齋藤精一、落合陽一

齋藤精一(以下、齋藤):
以前、千葉さんの経営される湯河原の旅館「The Ryokan Tokyo」に宿泊したことがあります。襖に富嶽三十六景が描かれ、鳥居が並び、外国からみた日本のイメージをそのまま形にしたようなエンタメ性の高い旅館です。それなのに、宿泊客のほとんどは日本人だったんです。これは想定外の出来事ですか?
千葉功太郎(以下、千葉):
そうですね。設立当初はほとんどのお客さんが日本人でした。「The Ryokan Tokyo」ではアクティビティを提供しており、いくつか例を挙げると、お琴の練習会やコマ回し。他には無料で手持ち花火をプレゼントしています。都心では気軽に花火ができないので、日本人の方がとても喜んでくださるんです。ようやく訪日外国人観光客の方にも認知していただき、現在は6割くらいが海外のお客さんです。
落合陽一(以下、落合):
逆に海外展開しても人気が出そうですね。サンフランシスコなんか相性が良さそうです。
千葉:
海外展開も視野に入れていますが、国内にも力を入れていきたいと考えています。
インバウンド事業を展開している理由の一つでもありますが、僕は日本が大好きなんです。日本は海外と比較し法人税が高い国ですが、それでも日本に籍を置いているのは日本が好きだから。
「The Ryokan Tokyo」は空き家をフルリノベーションして作っているので、地域活性にも寄与していると思います。
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小笠原治氏

小笠原治(以下、小笠原):
日本という枠組みを越えて、地域として盛り上げていくのも面白いですよね。現在、福岡市がスタートアップ都市として売り出しています。海外からスタートアップの人が福岡に訪れてくれるよう「スタートアップビザ」を発行し、福岡市で起業するならビザを取得しやすくする取り組みです。
千葉:
ビジネス視点で考えると、福岡はアジア各国から物理的な距離が近く地の利が良いですよね。
小笠原:
おっしゃる通りです。福岡市の職員には、大企業のイノベーション担当者よりもスタートアップやイノベーションに精通している人が多く、公共機関のなかでは圧倒的に先進的な取り組みをしています。
福岡市には「大名エリア」と呼ばれる、東京で例えるなら渋谷に似た地域があり、現在使われていない小学校の校舎をスタートアップのインキュベーション施設にしています。100社以上のスタートアップがそこで活動し、オープン半年で入居企業の資金調達が20億を超えており、海外から起業をするために福岡に拠点を移す人もいるくらいです。
千葉:
海外の起業家たちには、日本で起業するということを検討してほしいです。
日本は生活コストも起業するコストも安いんです。それでいて、衣食住すべてのクオリティーが安定しています。また日本は世界的にみてもIPOしやすい国であり、東証マザーズはIPOしやすい取引市場として有名です。世界的にはM&Aぐらいしか出口がないところを、日本ではM&AとIPOの二つの出口があります。

■ 地方以上、東京未満。起業しやすい都市の条件

--起業する拠点として日本を選び、そしてどこの地方に拠点を置くかという選択肢があるのは魅力です。東京と地方、起業しやすいのはどちらだとお考えですか?

齋藤:
政府が"世界で一番ビジネスがしやすい環境"を創出する国家戦略特区構想を打ち出していますが、その多くは東京都です。今後もインキュベーションセンターが生まれ続けスタートアップの数は増えていくでしょうが、思惑ほどスタートアップは生まれていないと感じています。

地方創生が各地で叫ばれている現状を鑑みても、地方の地場産業に合わせてインキュベーションセンター作るなど、分散させていく方針を取った方がいいのではないかと思っています。
小笠原:
分散は大事ですが、ある程度の都市でなければ機能しません。利便性が確保され、一定のコミュニティが生まれる規模感は必要です。
たとえばアーティストやデザイナーのためのシェアスペースをリノベーションによって形だけ作ったところで、そもそもシェアスペースとして機能するように設計・建築されていない時点で効果は限定的でしょう。 ただ地方を再開発する際に、最初からシェアスペースとして設計すれば可能性はある。東京よりも地方の方がコストは低いので、特色も出しやすいと思います。
齋藤:
法整備も必要になりますよね。福岡市は免税を行っていますが、そうしたシステム設計まで踏み込んだ施策を打つのが必須だと思います。
具体的に「ある程度の都市」の規模感とはどれくらいでしょうか?
小笠原:
100万人前後、もしくはそれよりも少し多いくらいの地域には大きな可能性があります。福岡市の人口は156万人(2017年9月現在)で、とても扱いやすいスケールです。必要なインフラが揃っているので、方向性をしっかり決めるリーダーさえいれば問題なく機能します。
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落合:
公共機関がニーズを追えていないのも感じています。
たとえば、IPOを控えるシリーズB、シリーズCを迎える企業よりもシリーズA、シード期の企業の方が多い。要するに、家賃を抑えたオフィスにより需要があるのに、現状はそうなっていません。
「この国、この地域に籍を置く起業家はどのフェーズにいるのか?」を把握すれば問題は解決できますが、意外にもトラッキングできてないのです。
齋藤:
たしかに、実利的に機能する段階には至っていないですよね。オープンデータもそうで、結局エクセルのシートをネット上に公開しているだけだったり。
オープンといえばオープンかもしれないですが、求められているニーズとは合致していません。
落合:
ブロックチェーンを応用することで、綺麗にトラッキングできます。そうした動きをしていかないと、結局のところ海外諸国のようにスタートアップ文化は根付いていかないんです。

■ "圧倒的に孤独"な起業家に、投資家ができること

--スタートアップのための「千葉道場」について教えてください。

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千葉功太郎氏

千葉:
千葉道場は、起業家を育成するコミュニティです。
起業家は最初、右も左も分からないところから会社を作ります。事務能力もなければ、資金調達の方法も知らない。教えてくれる人もいないということで、起業家同士で学び合う場所が必要だと思い、私が教えながら半年に一回オフラインで議論する場を提供しています。
小笠原:
私もコミュニティ作りの一環としてスタンディング・バー「awabar」を経営しています。
千葉:
僕の取引先の方も、小笠原さんの経営するawabarによく足を運んでいます。コミュニティというと堅苦しいですが、結局は「友達作りをしよう」ということなんです。

起業家は想像以上に孤独な仕事。
私が投資を行うインターネット業界は競合が多く、いつ自分のアイディアを盗まれるかも分かりません。
カンファレンスで談笑していても、実は内心ドキドキしているんです。スタートアップは今日喜んだら明日には泣いているような世界ですし、心をさらけ出して自分の悩みを相談できる友達がいません。
小笠原:
起業家あるあるですね。私は「辛いことは飲んで忘れよう」くらいの感覚でコミュニティを提供しています。
千葉:
それでいいんです。仲間がいないと心が折れてしまうので、コミュニティを提供することも投資家の仕事だと思います。


続く「起業後進国日本には"ROI視点"が必要不可欠」では、起業家に必要な「リターンの概念」について議論された。
千葉氏が「日本には投資教育が足りない」と指摘し、失敗が許容されない日本の文化にまで話は及ぶ。
投資家として活躍する二人から、次世代の起業家へ向け直々にアドバイスも頂戴した。

【「投資家とスタートアップ」 --小笠原治×千葉功太郎 エンジェル投資家対談】
①"投資される起業家"の共通点とは--小笠原治×千葉功太郎 エンジェル投資家対談

②ICOは投資の概念を覆す。仮想通貨がもたらす"個人投資社会"とは?--小笠原治×千葉功太郎 エンジェル投資家対談

③地方都市におけるスタートアップコミュニティの現状--小笠原治×千葉功太郎 エンジェル投資家対談

④起業後進国日本には"ROI視点"が必要不可欠--小笠原治×千葉功太郎 エンジェル投資家対談

構成:オバラミツフミ

秋田県湯沢市出身。趣味は商店街を歩くことと喫茶店を巡ること。
Twitter:@ObaraMitsufumi
Mail: obaramitsufumi[アット]gmail.com


編集:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。修士(東京大学 学際情報学)。
Twitter:@_ryh
Mail: ry.h0508[アット]gmail.com

カメラマン︰松平伊織

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