起業後進国日本には"ROI視点"が必要不可欠--小笠原治×千葉功太郎 エンジェル投資家対談

2017.11.17 15:00

「投資家とスタートアップ」をテーマに行われたSENSORSサロン。小笠原治氏(ABBALab)と千葉功太郎氏(Drone Fund)を迎え、MC落合陽一×齋藤精一が日本における投資家と起業家の動向をディスカッションした。

4回にわたってお届けする最終回、第4弾記事では、起業家に必要なリターンの概念、「ROI(Return On Investment)」について議論した。千葉氏が「日本には投資教育が足りない」と指摘し、失敗が許容されない日本の文化にまで話は及ぶ。投資家として活躍する二人から次世代の起業家に向けたアドバイスも最後に紹介する。

■ 虚勢を張ってもシラけない雰囲気が、優秀な起業家を生む

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(左より)小笠原治氏、千葉功太郎氏

--孤独になりがちな起業家を支えるコミュニティは今後更に必要になりますか?

小笠原治(以下、小笠原):
スタートアップは短期間で圧倒的な成長を成し遂げなければ生き残ることができません。
周囲の人から少しおかしいと思われるくらいに頑張らなければいけないので、なかなか理解を得られないんです。
千葉功太郎(以下、千葉):
一生懸命虚勢を張り、自分を鼓舞していますが、もちろん落ち込んだり、孤独感を感じさみしくなることもあります。
「もう辞めよう」と思ったときに、弱音を吐ける関係性が必要ですよね。
小笠原:
全く同意見です。量が質へ転換することもあるので、起業家の数を増やせば優れた起業家が生まれます。量はawabarで確認できますが、量から質へと転化するシステムが千葉道場なのかなと思います。
千葉:
システムの中で質の高い起業家が現れると、周囲が刺激されます。「自分も頑張ろう」と奮起し、全体の質が上がるんです。
実際に千葉道場でも、成功した起業家に感化され、小さくビジネスを展開していた起業家が事業を拡大するケースがありました。
小笠原:
私はその現象を良い意味で"浮かれ感"と表現しています。
地方と東京では様相が違っており、田舎で「世界を変えたい」と言うと、周囲にシラけた目を向けられてしまう。でも、東京なら「日本一になりたい」と宣言しても不自然なことだとは捉えられない。その雰囲気作りが大切だと思います。人間の能力は大差ないので。
千葉:
シリコンバレーの起業家が異常に優秀なのかと問われれば、そんなことないですからね。
小笠原:
落合君ほどのある種の天才は、海外を見渡しても見つからないですけどね。

■ 日本人はもっとROIを考えるべき。失敗を許容し、投資する文化を

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(右より)落合陽一、齋藤精一

--続いて、次のキーワード「リターン」に移りたいと思います。

落合陽一(以下、落合):
僕は大学で研究室を持っており、起業家目線を持った研究をするよう心がけています。研究とはリサーチで、ビジネス視点で考えれば、リサーチしたところで有益な施策が見出せなければ要した時間や費用は水の泡です。

しかし日本の研究者のほとんどは公務員だったので、投資した資本でどのくらい利益を生んでいるかを計るROIの視点が欠けています。
税金を使って研究することが当たり前だったので、リターンまで考えが及ばないケースも少なくありません。今後はどうやって投資を入れ、かつどれほどのリターンを返せるのかというROI視点がなければ研究者は生き残れない。いわんや、起業家やクリエイターも淘汰されていきます。
千葉:
日本は投資教育に力を入れるべきです。
なんとなく「投資」と聞くと、いやらしいイメージを持たれてしまうと思います。投資をしてリターンを得る感覚を早い時期から磨けば、日本はもっと稼げる国家になるはずです。
齋藤精一(以下、齋藤):
投資の概念を根付かせるには、失敗を許容する文化を育む必要があるのではないでしょうか。
日本人はすごく真面目で、失敗することを恐れています。そのため、プロダクトを作るにしても少しずつ積み重ねていくので、結果的に動き出しが遅くなってしまっていると思うんです。
小笠原:
日本の良いところでもあり、成長を阻害する要因でもあります。失敗が許容されない世の中ではないし、失敗しても次のステップに進めばいいのに、日本人特有の「恥の概念」がブレーキをかけているように感じるのです。たとえ失敗しても、その結果が事業が好転する要因になることもあるのに、アウトプットがいつまでたっても出てこない。

私は大学で教授をしていますが、高卒です。スポーツ推薦で高校に進学しているので、勉強をしたことはほとんどない。ましてやファーストキャリアも親戚が経営する設計事務所で、就職活動もしていません。今では投資家ヅラしてますが、もしかしたら田舎でヤンキーのままだったかもしれない。こんなヤツもいるのだから「自分にはできない」なんて思わず、積極的に挑戦し、何度でも失敗しリカバリしてほしいです。

■ 常識を捨てた非常識な若者が、日本の未来を担う

齋藤:
ずっと「スタートアップは日本に根付かない」と思っていましたが、今日お話を伺って投資家のイメージが変わりました。
兄貴肌の投資家がいれば、挑戦する若者が増える気がします。
またインフラが整えば、地方都市もスタートアップの集積地になり得ると感じました。
落合:
10年単位で実現できると思います。
日本人は思考が近い統一民族なので、コミュニケーションコストが低く、一度型が出来てしまえば文化の浸透も早い。起業家が増えれば投資家が投資をする機会も増え、幅広い人脈を持つ投資家と起業家のネットワークが広がっていきます。
いずれ日本も起業大国と肩を並べる日がやってくるのではないでしょうか。

--最後に、これからビジネスを始めようとしている若者に、ゲストのお二方からアドバイスをお願いします。

千葉:
「理系的な視点を育み、テクノロジーに興味を持て」と伝えたいです。
今後起業する若者は、テクノロジーに関わることを避けられません。得意不得意に関係なく、「なぜそのプロダクトが動作しているのか」に興味を持てば、ビジネスのヒントを得ることができます。
小笠原:
千葉さんと同じように、興味を持つことが一番大切なことです。
若いうちに一つのことを掘り下げる必要はないので、いろいろなことに挑戦してほしい。その中で興味を持てることがあれば、追求してください。


投資家たちは、踏みならされたキャリアパスから逸脱し、世界を変えたいと本気で願う若者たちを求めている。彼らもまた、ありきたりな日常を超えた巨大なアイディアに投資し、世界を変えたいと本気で願っているからだ。
千葉氏が「今後は個人が自分の価値を提供し、お金を集め、自分のやりたいことを実現していく社会になる」と熱弁するように、もはや既存の社会制度が機能しなくなる日もそう遠くないのかもしれない。
10年後に"起業先進国・日本"を創るのは、常識を差し置き、自分の尺度で世界を捉える非常識な人間ではないだろうか。

今回登場いただいたゲスト二人とMC落合陽一×齋藤精一のディスカッションから成功する起業家の本質、起業家が変える日本の未来が垣間見えた。

【「投資家とスタートアップ」 --小笠原治×千葉功太郎 エンジェル投資家対談】
①"投資される起業家"の共通点とは--小笠原治×千葉功太郎 エンジェル投資家対談

②ICOは投資の概念を覆す。仮想通貨がもたらす"個人投資社会"とは?--小笠原治×千葉功太郎 エンジェル投資家対談

③地方都市におけるスタートアップコミュニティの現状--小笠原治×千葉功太郎 エンジェル投資家対談

④起業後進国日本には"ROI視点"が必要不可欠--小笠原治×千葉功太郎 エンジェル投資家対談

構成:オバラミツフミ

秋田県湯沢市出身。趣味は商店街を歩くことと喫茶店を巡ること。
Twitter:@ObaraMitsufumi
Mail: obaramitsufumi[アット]gmail.com


編集:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
編集者・ライター。リクルートホールディングスを経て、独立。修士(東京大学 学際情報学)。
Twitter:@_ryh
Mail: ry.h0508[アット]gmail.com

カメラマン︰松平伊織

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