未踏天才プログラマー・西野順二が考える「AIと共生する未来・ヒト」

2017.09.12 17:00

『SENSORS』でこれまで何度も取り上げてきたテーマである「人工知能(AI)」。 今回は、電気通信大学で「ファジィ理論」の研究を行う西野順二助教に、「AIと共生する未来・ヒト」について話を伺った(※ファジィfuzzyは「曖昧」を意味する)。ファジィ理論を応用することで、人によって異なる感覚や感情にAIがパーソナライズすることが可能になるという。「五感と人間が繋がることで、AIはさながら"ドラえもん"のような存在になるのではないか」。未踏天才プログラマーである西野氏が語る、ポジティブな人工知能論とは。

■ 「人間がやるべきことは生活と遊びだけになる」 楽観的AI論

--AIによって未来の社会、具体的には街・働き方・生活はどのように変わっていくと考えられていますか?

西野順二
(以下、西野):
最近「シンギュラリティ(AIが人間の能力を超える技術的特異点)」という言葉を聞くことが多くなったのに伴い、「AIが仕事を奪う」といった悲観論を耳にすることも増えました。ただ、私自身はAIの発展に楽観的です。AIが何でもやってくれるようになれば、人間がやるべきことは普段の生活と遊びだけになっていきます。要するに、より余裕のある社会になっていくのです。
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西野順二氏(未踏天才プログラマー 電気通信大学大学院助教)
人間の柔らかな知的情報処理をファジィ理論で表現するシステム科学研究者。人に寄り添う身近なAI を実現する安価高有用システムを提唱しミニ四駆AI大会を主催。多次元ファジィ集合、ソフトコンピューティング、ゲーム情報学、協調システム研究としてロボカップサッカーや大富豪、ターン制戦略ゲーム等を通じた、人間の知的活動の研究と実装を行っている。文部科学大臣表彰、人工知能学会研究賞、山下記念研究賞など受賞。博士(工学)

西野:
時間に余裕ができると、人は一層人と人との繋がりを求めるようになるでしょう。今のインターネットで考えてみても、SNSを使いたいのではなく、その先にいる人と繋がりたいのです。これから進化するAIにおいても、人と繋がることが重要であり、それが新たなライフスタイルを生み出すのではないかと考えています。

--では長期的にみると、「労働」自体はなくなっていくでしょうか?

西野:
例えば、僕が小さい頃は改札の前に切符を切る係の人がいましたが、今では自動改札機に代替されています。これは典型的な例ですが、今後も体力を要する仕事は減っていくでしょう。

--一方で仕事から自己肯定感を得ている人もいますよね?

西野:
今は仕方なく働いている人も多いですが、今後は仕事がやりがいや楽しみを得られるもの、つまり趣味に近づいていくと思います。

■ 「価値は人間にしか作れない」 AIの技術的現在地

--現状のAIはどの程度のレベル感なのでしょうか?

西野:
専門家からすれば、全然進んでいないのが現状です。ディープラーニングを用いた「アルファ碁」は目覚しい活躍をしていますが、技術そのものは20年前からそれほど変わっていません。

何が変わったのかといえば、技術の背後にあるコンピュータとネットワーク。「アルファ碁」の場合は、ネットワークに繋がった数千台のコンピュータを同時に使用しています。一説によると、電気代だけで1時間数十万円ほどかかるそうです。つまり、AI技術そのものは進んでいないのですが、役立つ形にはなってきた。
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西野:
ここより先のAIは、皆さんが想像する、自ら考えるSFのようなAI。ただ、感情を持つAIの実現は不可能ではないかと考えています。

--何が障壁になるのでしょうか?

西野:
アメリカのゲーム会社「アタリ」が発表しているゲーム50数タイトルのうち、6割ほどをAIはこなすことができるようになっていて、ゲームによっては人の50倍以上のパフォーマンスをあげています。しかし、残りの4割は全然こなせていないのが現状です。なぜなら、「風が吹けば桶屋が儲かる」ような複雑な未来を予測することができないから。

これは少し残念な話ですが、「アルファ碁」が強くなったことは、囲碁が意外と反射的なゲームであったことを示唆しています。新しいビジネスを立ち上げるような、ゼロの仕組みから作らなければいけないものは今のAIにはまだ難しいのです。

--逆に言えば、向こう数年、数十年はそこに人間の介在価値があるということですか?

西野:
はい。価値を作ることは、AIには難しいと言えます。

■ 「自動運転は今日から実用できる」 課題は法律の裏にある文化

--現在、チャットボットやスマートスピーカーなど、AIを活用したサービスやプロダクトが続々と登場しています。これらの次に来るものとして西野先生が期待されているものはありますか?

西野:
一番大きいのは冒頭でもお話した、人と人を繋ぐAIでしょうか。チャットボットはどちらかと言えば省力化なので、人をどけようとする技術。僕が期待したいのはその逆の、人と人のすれ違いや情報格差を埋めてくれるようなAIです。

--どのようなインターフェースになるのでしょうか?

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西野:
形を明言するのはなかなか難しいですね。ロボットのような実体があるかもしれませんし、「Siri」のように形がないかもしれません。いずれにしても、秘書のような役割を果たしてくれるようなものになるでしょう。単なるスケジュール調整のみならず、諸々の条件を鑑みた上で、プランを立ててくれる。秘書を雇うのは高額ですが、AIが自動化してくれれば、人に会う時間を増やせるようになるのではないでしょうか。

---AI関連で最もホットなトピックの一つに「自動運転」があると思いますが、西野先生は実用化までにどれくらいの時間を要すると考えられていますか?

西野:
技術的には、やろうと思えば今日からできるはずです。ただ、現状は法規制や倫理の問題が追いついていません。最も大きな論点は、コンピュータが勝手なことをした場合に誰が責任を取るのか。これは哲学的な問題にも絡むため、一筋縄ではいきません。

「人を殺してはいけない」といった社会規範も、人間が長い年月をかけて培ってきた共通理解です。もちろん最後は法規制になるのですが、法律の背景にある文化や倫理と折り合いをつけながら、コンピュータとの付き合い方を築いていく必要があります。

■ 人間とAIのきめ細やかで柔らかいコミュニケーションを可能にする「ファジィ理論」とは

--西野先生が専門にされている「ファジィ理論」についてもお聞かせください。こちらはどういった研究になるのでしょうか?

西野:
広くシステム科学を専門に研究を行っています。あらゆるシステムを数式で表現していく中で、一番難しい要素が「人間」なんです。なぜなら、人間には曖昧さが伴うので、数式で表すことができません。例えば気温について考えると、「暑い」と同時に「寒い」と感じるような時があります。コンピュータ制御では背反する「暑い/寒い」に白黒つけるのですが、ファジィ理論では両者の間でバランスを取る考え方をします。

従来のコンピュータであれば、「18度以上は暑い、18度未満は寒い」と明確に定義をしてあげる必要がありました。そのため、「暑いからクーラーを入れて」と頼んでも、「今は17.5度なので入れません」となる。つまり、人間の曖昧な感覚をコンピュータが汲み取れなかったのです。
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西野:
最近ではディープラーニングに見られるように、コンピュータが強力になったため、人間のきめ細やかな感覚に対応した、柔らかなコミュニケーションができるようになってきています。ファジィをコンピュータに活用することで、より滑らかに人の気持ちが伝わるAIが実現できるのです。

--もう既に実装されているのですか?

西野:
はい。20年ほど前に「ファジィ家電」が流行りましたが、現在ではつくばエクスプレスの運転なんかにも応用されています。操縦士による微妙なスピードの加減といった、曖昧な知識をコンピュータに実装し、自動運転しています。

人間はあらゆる情報を五感で感じ取り、それを統合的に一つのものとして受け取っています。対して先ほども説明したように、コンピュータはある明確な境目を基準に判断して動きます。複数の要素から成り立つ複雑な関係を捉えるためには、多次元で考えなければいけないのです。

--ファジィ理論を応用することで、より個人個人の感覚や感情に寄り添うようにパーソナライズされたモノができるということですね?

西野:
現状で言えば、皆が同じ「Siri」を使っていますが、今後はそれがより個人ごとにパーソナライズされていくイメージに近いかもしれません。単なる利便性の向上にとどまらず、人に合わせた心地良い言葉を使うといった、より柔らかなコミュニケーションが実現すると思います。

■ AIが五感とつながることで、"ドラえもん"が誕生する?

--AIが人間の五感と繋がることで、何が実現されるのでしょうか?

西野:
イメージとして一番近いのが、"ドラえもん"です。考えてみれば、ドラえもん自身は何もできません。のび太くんがドラえもんに相談すると、彼は相談に乗ってくれた上で、一番良さそうな道具を出してくれる。

今の世の中にも便利なツールが溢れています。AIがユーザーの表情や声の調子、五感のデータからその人が何を考えているかを判断できれば、ユーザーのニーズに最も合致したものを提供してくれるようになる。AIがまさにドラえもんのような存在になっていくかもしれません。

--コミュニケーションに機械が介在することで、最適化の方向に向かっていく気がします。「ファジィ」が当たり前になった数十年後の世界は、人間が均質になっていく懸念はないでしょうか?

西野:
難しい問題ですが、ローマ時代にヒントがあるかもしれません。当時のローマでは、奴隷が全ての労働を担っていました。そのおかげか、富裕層であるローマ市民は芸術に勤しみ、文化が高度に発達。もちろん、食っちゃ寝に浸る人もいたでしょう。一方で創造的な活動に打ち込む人も必ずいるはずです。期待も込めてですが、労働をAIが代替していく世界においても、それぞれの人間は先鋭化し、それぞれの個性がより発揮されていくと思います。
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--人間とAIが共存する社会はいつ頃訪れるのでしょうか?

西野:
禅問答のような返答になりますが、ある意味、既にその時代にいるとも言えます。皆さんもAI並みのコンピュータを2〜3台持ち歩いているからです。例えば、スマホに入っている囲碁ソフトに僕は敵いません。以前まではネットワークに繋いだスパコンがないと、強いソフトは実現できませんでした。今ではスマホのような小型デバイスでも、十分に強いソフトになっています。

今までは各社が自らの思惑だけで開発を進めてきたため、AIが独自の動きをしていました。今後は人間とAI、AIとAI、それぞれが繋がり一つの価値として人に訴求する方向へ向かっていくと考えています。


「単純労働はAIが担い、拡大した可処分時間で人は余暇に勤しむようになる」。AIの未来を楽観的に捉え、その将来的な可能性と技術の現在地を語っていただいた。インタビューの終盤で西野氏が指摘したように、スマホがある生活が当たり前になった我々とAIの共生は既に始まっていると言える。

五感のような多次元の情報を取り込むファジィ理論の実装がより進んだ社会像は、『SENSORS』番組MCを務める落合陽一氏が提唱する「デジタルネイチャー」にも近いだろうか。

なお、今回インタビューした西野氏は今月19日に行われるイベント「HIP×Quantum "進化するテクノロジーで、5年後のライフスタイルをどう変えたいか!"」にも登壇する予定だ。

取材・文:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。修士(東京大学 学際情報学)。リクルートホールディングスを経て、独立。複数媒体で編集・ライティング、構成、企画、メディアプロデュースなど。『木曜解放区』レギュラー出演中。夢は馬主になることです。

Twitter:@_ryh
Mail: ry.h0508[アット]gmail.com

カメラマン︰松平伊織

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