人間の「遊び」はクリエイティビティの最終地点 ~Kabuku稲田氏が語る伝統工芸と3Dプリンターが創りだす世界~

2015.03.02 16:26

3Dデータをアップするだけで、誰もが簡単にデジタル製造技術用いたモノの製造・販売・発送を行うことができるプラットフォームrinkak(リンカク)。そのrinkakが日本刀や藍染といった伝統工芸とのコラボレーションを実施し、これまでに無いコンセプトの製品を生み出している。その狙いをrinkakを運営するKabuku(カブク)代表の稲田雅彦(いなだ まさひこ)氏に尋ねた。


kabuku_1.jpg

Kabuku稲田氏。着用しているネクタイは3Dプリンターによって作られたものだ。


■日本の職人が持つCMFの技術を取り入れて世界初・世界一を目指す。


rinkakは3Dデータのマーケットプレイスだ。作り手は、3Dのデータをrinkak上にアップするだけで、rinkakが提携している3Dプリンターを持つ工房を通じて作られた製品をユーザーに届けることができる。そんなrinkakは「SUMISAYA(澄鞘)」や「KUMO(雲)」といった日本の伝統工芸の技術とコラボレーションした製品を生み出している。 「SUMISAYA」は、職人の手よって伝統的な技法で鍛えたれた日本刀と、3Dプリンターによって作られた透明な鞘を合わせた工芸品。透明にデザインされた鞘によって日本刀が本来持つ「刃紋」の美しさを堪能することができる。 「KUMO(雲, 現在は終了)」では3Dプリンターで出来上がった製品に岡山県児島の伝統工芸である藍染(あいぞめ)の加工を施している。このような伝統工芸と3Dプリンティング製品のコラボレーションを実施する目的を稲田氏は次のように語る。


kabuku_4.png

KUMOの飾りボタン -YAE-。藍染によって3Dプリンター製のボタンが後加工されている。(画像引用: https://www.rinkak.com/moment/kumo)


稲田: 根本的に世界初や世界一のものをつくりたいという思いがあります。ところが今の日本の3Dプリンティングの技術は、実はそんなに尖ったものはありません。そこで日本の伝統工芸に注目しました。その中でも特にCMF(Color=色, Material=素材, Finish=加工)と呼ばれる表面を加工する技術では、日本は素晴らしいものを持っています。例えば、iPodに隠されてる日本の伝統的な技術はご存知でしょうか?それは「磨き」です。iPodの裏側の鏡面は日本の職人によって磨かれたものです。伝統工芸の中でも、後工程やCMF領域では日本は世界に誇ることができます。「KUMO」ではrinkakを使えば世界中のクリエイターがワンクリックで伝統工芸のフィニッシュを実現できるようにしたんです。「SUMISAYA」では金型や切削といった従来の伝統工芸の技術ではできないような加工が3Dプリンターではできてしまいます。この日本の伝統工芸と3Dプリンターという組み合わせならば世界に出て行くことができるのではないでしょうか。


こうした施策は狙い通り国内よりも海外で人気を集めているそうだ。特に「SUMISAYA」はドバイの富裕層の評価が高いとも稲田氏は語る。


■伝統工芸の職人達が意識しはじめた「マーケティング」や「グローバル」。


こうした新しい施策には、職人さん達の協力が欠かせない。伝統工芸の職人さん達は3Dプリンターをはじめとしたデジタル製造技術のことをどう考えているのか。すでに二代目三代目と代変わりが行われている職人さん達の中でも「マーケティング」や「国際化」といった意識が芽生えはじめているという。


稲田: 実は伝統工芸というのは、10のうちで9.5くらいまでの工程は決められて、自由度は0.5しかありません。そうするとその残り0.5の中でクリエイティビティを発揮するしかない。職人さんの中でも二代目や三代目という方とやりとりさせていただくことが多かったのですが、それに対して限界意識を感じている方が多かったです。ただこれは如何ともしがたいことなので、発想を切り替え、別のセールス方法として、製品のポジショニング、デザイン、また国際展開などで対処しようとしているところでした。 ですから、今回の私たちとの取り組みに関しては「渡りに船」みたいで、皆さん乗り気でしたね。


最新テクノロジーによって、伝統と歴史が培ってきた枠組みは崩すことなく新しい境地に踏み出すことができる。伝統工芸の職人さん達の中でも最新のデジタル製造技術への関心は高いようだ。


kabuku_3.png

SUMISAYA。通常の刀であれば鞘に隠れて刃紋は見えないが、SUMISAYAは鞘に収まっていても刃紋の美しさが際立つデザイン。(画像引用:https://www.rinkak.com/us/sumisaya)


■人間ならではの不確かさがクリエイティブの最終地点。


一方で、伝統工芸の技能そのものをテクノロジーによって再現する研究も進んでいる。そうした中で「職人」にしかできないことはなんだろうか。稲田氏は学生時代は人工知能の研究に勤しみ、博報堂に在籍していた際にはカンヌライオンズをはじめとした様々な広告賞の受賞歴を持つ。そんな稲田氏が見出した人間のクリエイティビティの最終地点とは。


稲田: 職人さんはものすごく正確なところもあれば、人間ならではの遊びの部分も持っています。それが風合いという形になって表現される。ある種のバラつきが生きてくるのが伝統工芸の世界です。すべてが完璧にシミュレーションできてしまうのであれば伝統工芸の世界は無くなります。「遊び」の部分が最後は生き残る。人間ならではの不確かさといったものがクリエイティブの最終地点なのではないでしょうか。


合理性の追求とも言える最新デジタル製造技術で生まれた製品に、職人の遊びや風合いが生きる日本の伝統技術を組み合わせ、今まで見たことのないような新しい製品を展開するKabuku。 テクノロジーによって社会がスマート化されていく一方で、人間の不完全さは普遍であり、そして魅力的である。その不完全さこそが、テクノロジーをより一層面白くしていくのではなかろうか。


(SENSORS編集部 取材:石塚たけろう)

石塚たけろう:ベンチャーキャピタルやデジタルマーケティング企業複数社での業務を経験後、広告会社にてスタートアップと大企業の共同事業開発モデルであるコーポレート・アクセラレーターの運営に携わる。フロントエンドエンジニア。


<参考記事>

Kabukuが企てる【ものづくりのオープン・イノベーション】 ~米国自動車スタートアップも実践する超速の開発手法~

最新記事