ヒーローが救おうとしていた人がいまの世界を救う『ひるね姫』神山監督インタビュー

2017.03.11 08:00

2017年3月18日全国ロードショーのアニメーション映画『ひるね姫~知らないワタシの物語~』。物語は、東京オリンピックが迫る2020 年夏、岡山県倉敷市に父親と二人暮らしをしている女子高生のココネが主人公。最近、同じ夢ばかりを見るというココネが「現実の世界」と「夢の世界」を行き来しつつ、父親に関わる事件や謎を追っていく。

『東のエデン』『精霊の守り人』『攻殻機動隊S.A.C.』『009 RE:CYBORG』など社会に深く切り込む作品を手掛けてきた神山健治監督が『ひるね姫』で描いた世界とは? 作品を完成させたばかりの監督に伺った。

神山監督も登壇!~テクノロジー × エンターテインメント × ビジネス~をテーマにしたイベント「SENSORS IGNITION 2017」が虎ノ門ヒルズにて3/23(木)開催。詳しくはこちらhttp://www.sensors.jp/ignition/)から。

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神山健治 監督

■「何も起きないこと」は得難いファンタジー

--今回の『ひるね姫』はどのような作品になっているのでしょうか?

神山:
ストーリーはとてもシンプルで父と娘のお話です。家族の絆だったり、夢だったりというコトをテーマにしたファンタジー作品ですが、今回の新しい試みとしてデジタル作画を取り入れたコトで、手描きからまた一つ踏み込んだ表現を目指しました。線が命のアニメーションをデジタル化していくコトで、ノイズの少ない綺麗な映像を作れたと思っていますが、それをどうお客さんが受け取ってくれるのか? それも楽しみな部分ですね。

--これまでも神山監督の作品には様々テクノロジーが登場していますが、今回の作品ではテクノロジーはどのように描かれるのでしょうか?

神山:
今回の作品では、テクノロジーそのものを主役にしようということではなくて、いま問題になっている「世代の格差」、そういったものを描く上で、対比する指標としてテクノロジーを入れています。新しいテクノロジーは大抵、映画の中では「悪役」として描かれます。でもそうではなくて、若い世代がテクノロジーを使っていくコトに、未来に対して希望があるんじゃないか?とか、そういうコトを描くためにテクノロジーを出しているというのはあります。

--監督の作品には女性の主人公が多いと思うのですが、今回は主役が女子高生という、普通の女の子にしたのは何故でしょうか?

神山:
今までの作品で描いてきたヒロインたちは、世界を救ってきた強い女性たちだったのですが、今回、そういうキャラクターよりも、身近な誰でもあり得るような立場の主人公の目線で作品を描きたいというのは、僕の中では珍しいパターンなのかなと思います。

背景には、「何も起きないこと」の得難さというのが、もしかしたらファンタジーなのかもしれない、と考えるようになったことがあります。2011年の東日本大震災以降、世の中の価値観が変わったと思っています。それまでは日本はすごく豊かだったし、「何も起きないこと」に対しての不満みたいなことを題材として作品を作ることができました。主人公を問題意識のある人にすることで物語が立ち上がってくる、というのが震災前の時代だったのですが、「何も起きないこと」ということが得難いファンタジーになる時代に変わった中で、僕の中でも意識の変化があった。なので、今回は身近な誰でもあり得るような立場の目線で物語を作ってみようと『ひるね姫』に取り組んだわけです。
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©2017 ひるね姫製作委員会

■「現実の世界」と「夢の世界」の2つの世界

--今回の作品の中では、「現実の世界」と「夢の世界」の2つの世界があり、「夢の世界」がちょっと暗くて不穏な気がしました。これは「夢の世界」がココネや若い人たちの不安とかを表していたりするのでしょうか?

神山:
どちらかと言うと、僕らが勝手に若い人たちが不安を感じているんじゃないかとか、辛いんじゃないかと思っているだけで、意外と若い人たちは若い人たちでちゃんとハッピーに自分たちの楽しさというものを見付けているんだなと思っていて、むしろその逆なのかなと思うんです。

--だから「夢の世界」よりも「現実の世界」の方が明るい感じがするのでしょうか?

神山:
「夢の世界」はお父さんが話して聞かせてくれた、お父さんが東京という街に感じていたイメージだから、どちらかと言うと殺伐としているし、皮肉めいた部分もある。ココネが受け止めた印象としてはそうなのだと。だから鉄とコンクリートで出来ているわけです。

--テクノロジーに人が働かされているような......

神山:
だけど、お姫様自体はもっと自由に出来るのになんで縛られているんだろうな?と思っている。だから閉じ込められているけど、しょっちゅう自由に逃げ出しています。そこはお父さんの感じたイメージを物語に入れているのだからこそ、その影響は受けていて、見た目は殺伐としているんだけれど、本人としてはそれを殺伐とした世界とはあんまり受け止めていないんです。
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■「縛られちゃダメ」という「縛り」を若い人たちに強いていたのかも

--そうした2つの世界を描くことで、これまで監督が描いてこられた「何かと戦うことで世界を救う」というのとは違う、現実との向き合い方を今回描かれているのかなと思ったのですが。

神山:
そこは凄く意識したところです。僕がこれまでずっと描いてきたのは、ヒーロー不在の時代に世界を救っていくようなヒーローってどういうものだろうか?という部分なのだけれども...... 今の時代、特に若い世代はそんなに助けて欲しいとも思ってないかもしれない、むしろ助けてもらわなくても良いと思っているかもしれない。結果、そういうヒーローが救わなければと思っていたような人の方が、世界を救うかもしれないと思ったわけです。

--だからココネの行動っていうのは、事態を深刻に受け止めるのではなく、明るく前向きに人からも助けられながら、良い方向に進んでいくのでしょうか?

神山:
やりたいコトをやるですらなくてね、たぶん何も考えてない子なんですよ。高校3年で大丈夫か?と思うくらい、彼女は何も考えてないですよね(笑)。

--そうなんですね(笑)。

神山:
だけど、いま思ったコトをやろうというのが、今の時代の正解じゃないかな?と思っていて。勝手に考え過ぎて、若い人の行く末まで心配しているのがオッサンで、本人たちは多分そんなコト思ってないよと。それで幸せだし、逆にそういうコトが、大人が勝手に引くレールになっていたのではないかなと思うんです。僕らも縛られたくないとか言って、そういうものを作ってきた世代なのだけども、「縛られちゃダメなんだよ!」っていう「縛り」を若い人たちに強いているのかもしれない。
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©2017 ひるね姫製作委員会

--そうしたコトって監督が今ご家族を持たれて、お嬢さんがいるというコトから影響があったりするのでしょうか?

神山:
あると思います。親と反対のコトをやろうと思って、自分が親になると親とそっくりなコトをやっているという、どういう作品でも毎回作りながらそういうコトは気付いていくんです。

最近、トランプ大統領が就任した時に、かつてのロックスター達が反対したじゃないですか? でも、トランプ大統領の方がある意味ロックだなと思うんですよ。ロックをやって成功してお金持ちになった人の方が、自分たちの生活を脅かすのかもしれないと思って反対しているじゃないかと思うと、ロックスターの声よりも、トランプ大統領の声の方が革命的なんじゃないかと思う側面がある。

それと一緒で、我々の世代も、過去の世代が作ったものを壊してきたし、自由を獲得してきた。その上でクリエイティブをやってきて、それをみんなに伝えたいと思っていたけど、それこそがもはや保守で、「アレ?」と気が付いてみたら立場が逆になっているような気がする。ココネのキャラクター造形をしているうちに段々自分でも気付いたんです。

どういう世界を描けば、今の若い人たちが感じてくれる世界になるだろう? というコトは、僕は考え抜いてはいたのですけど、決してそれがディストピア=今の時代が不幸なのだとかを伝えるコトではない感じがしていて、僕たちが感じたものをそのまま主観にするというコトが、必ずしも彼らに届かないだろうという思いもあって、自分もそれを模索しながら今回は作ったという感覚なんですよね。そうなった時に、偶然なんだけどもうちの子なんかを見ていて思うのが、心配するぐらいポワ〜ンとしているんですよ。

--ココネの要素の何割かはお嬢さんの要素なのでしょうか?

神山:
あるかもしれませんけど...... 「そうなんです」という答えを多分、求められるんだけど(笑)、必ずしもそうではないし、そうではないのだけど多少はあるとは思います。僕らが思うほど本人は心配してないというか、そこが結果的にココネのキャラクターがああいうふうになったりとか、描き方が決まっていったんだと思うんですよ。

■ 若い世代がどう反応するのか楽しみ

--最後に、これから『ひるね姫』を見るココネと同世代の人たちやもう少し若い人たちにメッセージはありますか?

神山:
いや、もうメッセージとかは無いんですよ。

--むしろ、無いんですね!

神山:
どこに自分たちの主観を置いて見てくれるのかなというのを楽しみにしています。自分の視点というのはお父さんが考えた世界であり、見てきたものだと思うんです。それに対して、若い世代がどういう風に考えるか?というか、そこは作品から強要したくないというか......

--見た方がどう反応するのか?楽しみにしてらっしゃるというコトでしょうか?

神山:
そうですね。

--お話を聞いて、もう一度作品を見るのが非常に楽しみです! ありがとうございました。

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「現実」と「夢」の2つの世界を描くことで神山監督が表現した、震災以降の日本での「何も起きないこと」の得難さ、「世代の格差」。現代の社会に対する問題意識を持ち続けてきた、そんな監督自身をも俯瞰しつつ、新たな視点からテクノロジーと若い世代が行こうとしている未来を描いている。今回の『ひるね姫』で、若い世代に託された希望とは何なのか? 是非、映画館でご覧になって感じて欲しい。

取材・文:サイトウタカシ

TV番組リサーチ会社を経て、現在フリーランスのリサーチャー&ライター。映画・アニメとものすごくうるさい音楽とものすごく静かな音楽が好き。
WEBSITE : suburbangraphics.jp

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