「意図的な変化」が未来をつくる〜『ひるね姫』『攻殻機動隊』神山健治監督×Niantic, Inc. 川島優志

2017.04.19 15:30

イチローや三浦知良を例に企業や個人が「変わらない」ためには意図的に変化する必要があると語る神山健治監督の言葉をはじめ、クリエイターやビジネスマンに刺さる言葉が多く交わされた対談記事。『ひるね姫』はもちろん『攻殻機動隊』『東のエデン』と『INGRESS』『ポケモンGO』の関連も読み解く。

夢と現実、世代間の境界を超越する作品『ひるね姫』に挑んだ神山監督と、『INGRESS』、『ポケモン GO』により現実とバーチャルの境界を溶かしたNiantic, Inc. の川島氏によるスペシャル対談。 変化の激しい不透明な時代に"変わらない存在"で居続けるためには人も、会社も、国も、「意図的な変化を生み出す必要がある」と語る神山監督と、人や作品との出会いを紡ぐことにより大きな未来につながると語る川島氏。映画とARゲームのトップランナーの言葉から、混沌とした時代のなかで、一歩一歩未来に進むためのヒントを読み解く。

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Niantic, Inc. 川島優志(右)がGoogle在籍時代のイベントで神山健治監督(左)と一緒に登壇して依頼、国内外で仕事を一緒にすることもあったという二人。取材は終始リラックスした雰囲気で進行した。

■インタラクティブ性のある映画づくりに挑む

--まず、神山監督に伺います。最新作『ひるね姫』を作る上で気をつけたことを教えてください。

神山:
311以降、私のなかで物語を描くことの意味が大きく変わりました。 いままでのヒーロー像、政治的なメッセージやアクションを描くことが受け入れられた時代とは変わって来ている、と感じていまして。その変化は、ファンの方にも、作り手にも、日本を動かしているもののなかにも感じています。同時に、若い世代が上の世代がつくってきたルールと全く別のものを見ていて、若い世代独自ルールで動かしているものも感じていて。その若い世代を描いてみることで何かが見えてくるのではないか?と思いながら『ひるね姫』は作りました。結論有りきではなく、ある意味手探りなアプローチで進めたのですが、結果として、ココネ(主人公、高校生)というキャラクターは描いてとても楽しかったです。

作品を作る時って不思議なもので、自分の中でカチっとゴールが見えている場合もあれば、作り終えてみて初めて自分が何を作っていたか?気づくこともあるんです。 いままでもTVシリーズだと、途中で観た方の反応が返ってくると結論に影響することもありインタラクティブ性が少なからずあるのですが、映画でもインタラクティブ性が出てきていることを今回感じました。公開から3週くらいたって、『ひるね姫』は自動運転車を作ろうとしたエンジニアとプログラマーの夫婦の話でもあるんだけど、あの夫婦がきせずして作った一番の自動運転車はココネだったのかと、お客さんの反応から再認識するという発見もありました。 映画の最終完成系はお客さんの反応次第で決まってくる。そういう意味で映画にもインタラクティブ性っていうのはあるんですよ。『ひるね姫』そのものにフィードバックされなかったとしても、今後自分が作って行く作品にはフィードバックされるだろうなぁとか。『攻殻機動隊』とは違う、新しい試みで作品を作ってみて気がついたことはそんなことだったりします。
川島:
ココネが"自動運転車"という視点は凄く面白いですね。語り聞かせた物語がプログラムになっている、というような。物語の途中で巨大ロボものに突然なるじゃないですか。唐突だと思いましたが、あれもエンジニアの父親がココネに語り聞かせた話ならば、すっと腑に落ちて逆にリアリティがある。私自身も子供が寝る時に作り話を聞かせていると、最初は昔話のように始まったのに、いつのまにか自分の好きな話や得意分野の話になってしまう。それを聞いて、あるいはそのプログラムから、子供は自分の中で新たな世界を膨らませていくんだろうな、と。『ひるね姫』のココネとお父さんのやりとりにはリアリティを感じました。

■子育てのように映画やゲームを作る

--今後、映画もゲームもサービスも、結論有りきで進めるのではなく、子育てのようにインタラクティブで、何が起こるかわからないという想定で作るのが主流になっていくのでしょうか?

神山:
映画を作っている人間としてはゲームのようにユーザーとのインタラクティブ性があるジャンルへの憧れはあります。映画のいいところは「これ以上いいものはありません」と、作り手の欲求を強く押し出せるメディアであることなのですが、ゲームが登場したときに、プレイヤー毎にストーリーを遊べるインタラクティブ性は羨ましいと思いました。映画って「決められた時間軸のなかに作り手の任意のスピードでストーリーを閉じ込めたものをお客さんにみてもらって判断してもらう」もので、ものすごく難しいし、私自身が映画の完成形ってどういうものか?をいまだ追い求めていているところがあるのですが、ただどこかで意図的な余白を作ってあげないと、映画って完成しないなぁってのは昔から思っています。つまり、最後にお客さんというファクターが加わって完成する体験にしなきゃいけないな、と。
川島:
『ポケモン GO』、『INGRESS』も間口を広くして色んな人が楽しめるように作っています。"ユーザーが加わることにより完成する体験"とするために、ゲームの中にシナリオをあえて提供していないんです。これはARG(Alternate Reality Game:代替現実ゲーム)というゲームジャンルなのですが、YouTubeなどの外部で展開するストーリーからプレイヤーが暗号を読み取って楽しみ方を知ったり、現実世界で起こった出来事でストーリーが変わっていったりする。ゲームのプラットフォームであるアプリの中では何も起こって無いのに、外部にいる人間がシナリオを作り上げるというユニークなゲームデザインなんです。
神山:
ワクワクする話ですよね。みんながストーリーを補完してつくりあげていくのは。
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『ポケモンGO』を見た時に『東のエデン』で描きたかったARの世界はこれだったんだ、と実感したと語る神山健治監督。

■フィクションとノンフィクションの相互作用

--映画とゲーム、どちらもユーザーが参加できる余白が大事であることを伺いました。さて、今後お二人で一緒にお仕事するとしたらどのような作品を作られたいですか?

川島:
そもそも『INGRESS』のアートディレクターであるデニス・ホワンは『攻殻機動隊』の世界観にデザインに影響を受けているとインタビューなどでも公言していて、もう既に「共作」させていただいているような認識なんです。デニスも僕も神山監督と交流をさせていただいたり、神山監督エッセンスを享受しているんです。
神山:
我々ももらう部分があるんですよ。『ポケモンGO』のインターフェイスを見た時に、『東のエデン』という作品で「現実世界の上にある、若い人が携帯越しにしか見えないレイヤー」という概念を、どのようにビジュアル化していこうか考えていたことを思い出しました。まだスマホがない時代の作品だったのですが、『ポケモンGO』を見た時に「あ、こういうことなんだろうなぁ」って理解したんです。
川島:
現実が神山監督の思考に追いついたんですね。
神山:
現実を背景にARとしてポケモンが出現しているのを見て「あ、私が描きたかった世界感はこういうことなんだな」と再認識しました。 アニメだと、現実世界もレイヤーを重ねた上の世界もどちらもアニメだから現実にレイヤーがかかっているという表現が難しかったのですが「これだ!」って思いましたよね。作品を作って10年も経ってないのに、ついにここまで出来るようになっちゃったんだなぁって。
川島:
『ポケモンGO』以前と『ポケモンGO』以後では、スマホを通して「ここに何かいる」というAR体験の理解の具合が変わったと思っています。夢の世界と言ってもいいかもしれませんがスマホを通して現実とバーチャルが混ざり合って"何かを感じる"という体験をコンセプトとして理解できるようになった大きな一歩だったと思っています。このコンセプトはスマホゲームだけではなく、映画やほかにも引き継がれるものではないか?とも思っています。
神山:
「VRが来る」と言われていた2016年に『ポケモンGO』がARの可能性を広げちゃいましたよね。いまはスマホで現実の上にポケモンを見ていますが、ヘッドマウントディスプレイの方が楽だとなるとデバイスの進化も起きると考えています。「この先はヘッドマウントディスプレイが来ると思っていたよ」って言う方もいらっしゃるとは思うのですが、実際に『ポケモンGO』をやるまでは皆んなが忘れていたところを見事に表現されていたので、あらためてARの良さだったり、スマホを持って歩くと危ないと言われるのであれば、危なくないようなデバイスを考えるなど、『ポケモンGO』以外でもARを利用したサービスがもっと広がっていく可能性をまざまざと見せつけられた感じです。 すごく羨ましいなぁって思ったんですよね。映画のストーリーだけで伝えていく際にはうまくいくときといかないときがありますが、『ポケモンGO』は見事に新たな価値観を多くの人に定着させています。
川島:
そこに至るまではいろんなことがあったんですよね。でも神山監督が居たおかげで『攻殻機動隊』にインスピレーションを得た『INGRESS』のユーザーインターフェイスが出来て、その『INGRESS』から『ポケモン GO』へとつながっている。いろんな人の出会いやつながりがあるお陰なんです。神山監督が『東のエデン』を作っている時には未来に『ポケモン GO』が現れて、神山監督自身が『ポケモン GO』や『INGRESS』のキッカケになっているとは思ってなかったと思うんですけど、実際はいろんなことがつながっているんですよね。

一見、なにも関係ないと思われるものが未来につながっていく。
何が影響するのか、は振り返ってみないとわからない、これは面白いことですよね。いまはこれが未来にどう影響するかわからない、というものも何かをキッカケに全然違うものに変化することがある。なので、現在進行系のプロジェクトから何かをかならず一個残していく、というのを常にやっていくのが大事だな、と『ひるね姫』を見てあらためて感じました。

『ひるね姫』が観る人によって感想が違うのも凄く理解できます。深い強いメッセージがいくつか散りばめられていて受け取る人の状況や心境により受け止められるものが違うんですよね。
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『INGRESS』のインターフェイスデザインは神山健治監督が手がけた『攻殻機動隊SAC』に影響を受けていると語るNiantic, Inc. 川島優志氏。川島氏が20代に在籍していたLAのデザイン事務所では『GHOST IN THE SHELL』(米国版『攻殻機動隊』)のwebサイトを手掛けていたという。

--多面的な作品ですよね。玉手箱的な作品。しかも神山監督が最初からゴールを作らないで作り上げたプロセスから考えると面白いです。

神山:
一つの明確なメッセージを伝えたい、という作品の時もあるんですが、『ひるね姫』は伝えたいメッセージがいくつかあったというのが、いままでと違う作品に仕上がった背景にもあります。映画って本当は尺的にも複数のメッセージをいれちゃいけないんだと思うんです。ですが、『ひるね姫』は最終的には一個のメッセージに集約されるかなと思いながら作っていたものが結果的にはいくつかのメッセージが残り、観る人によって違う感想を導くことになったんですよね。

■既存の成功体験、ルールを壊していく姿勢が大事

--『ひるね姫』以降、映画のスタイルが変わるかもしれませんね。複数テーマを伝えて、お客様のための余白を残すというスタイルに。

神山:
変わる良さってありますからね。ある一定のルールは必要だけど、成熟してきたらそのルールを壊していく姿勢も大事で。以前、携帯を見ながら映画を観るという企画を作ったことがあるのですが、それが主流になるんだったら映画のスクリーンの右下とかにQRコードを出しておいて、観客が検索しながらストーリーを展開できるようにする必要が出てきますよね。お客さん参加型になるとストーリーの作り方も進行もガラッと変わってくると思っています。
川島:
ロケーションベースのゲームは昔からあったのですが、多くの人がGPSを正確に捉えられるスマホをもっているというタイミングで出たたからこそ『ポケモン GO』が世界中でヒットしたんですよ。時代の変化のタイミングを捉えるのも大事なんですよね。

■守るべき信念を明確にしつつ、意図的に変化を受け入れる

--最後に、エンターテインメントビジネスに関わる作り手の皆様にメッセージをいただけますか?

川島:
自分が「何がしたいのか?」という強い確信が大切です。どうやって世界を変えたいのか?をとことん考える事。例えばNiantic, Inc. 代表のジョン・ハンケは、自分の子供が家でずっとゲームをやっているのを見て、どうにかして外で遊ばせたいと考えてはじめたのが「Adventures on foot(自らの足で歩いて冒険する)」で、Nianticのコアミッションになっているんですよ。『INGRESS』でも『ポケモン GO』でも「我々が世界を変えていくのはここだ!」という強い信念があると、複雑化し変化が激しい時代でも自分の作りたいものを作っていけると考えています。
神山:
ある程度ものづくりを続けて来ると、迷いが生じるところもあるし、思いもずれてくる瞬間もあります。自分自身の変化だけではなく、時代やまわりが変わってしまうことも要因となります。例えば311のタイミングで私もチェンジが起きたし、お客さんである受け手の方にもチェンジが起きた。その際に自分を変える必要があると認識するのですが、自分はそう簡単に大きく変えられないんですよね。

そこで「変化に対応するとはどういうことか?」と考えている時に気がついたのですが「あの人変わらないよね」と言われる人、例えばイチロー選手とかサッカーのカズ選手とか、ずっと変わらないと言われている人たちは、実はずっと変わってきている人なんだな、と。だからこそ周りからは変わってないって思われる。逆説的に言うと「あの人、変わってしまったよね」と言われる人は実はなにもしてなかった人なんじゃないかな、って。この変化の仕方について、作り手はあがいていかないと行けない部分だなぁと強く感じています。媚びたり追いかけたりではなく自分の信念を貫き続けるためには、環境のチェンジが起きる瞬間に対し、意図的に自分を変えていく部分を見極めるのも大事だな、と。その、守るべき信念と意図的に変化させるところを作っていくことが結果として「変わらない」人になると考えています。どこを変化させていくポイントとするのかは人によって違うと思いますが、意図的に変化させていかないと結果として時代に流されていってしまうので、作り手はあがいていかないといけないと思うんですよね。 これは、クリエイターだけではなく企業にも当てはまる話です。日本は20世紀の成功が大きかった分、それを維持しようとして、なんとなくうまくいかなくなっている部分があると思うんです。でも日本が「以前と変わらずテクノロジー大国だ」と諸外国から思われたいのであれば、変わらないといけない部分があるはずです。『ひるね姫』にはそういうメッセージも含めています。 色んなテーマがある『ひるね姫』ですが、一番語りたかった部分はこの「変わらないと言われるためには意図的に変えていこう」という姿勢なんです。

変わらない人って、実はチェンジしていった人 というのを作り手も日本全体も大事にしていくべきだと考えています。特に20世紀に成功した体験をもっている人や企業に対してその姿勢が大事じゃないか、と考えています。
川島:
ココロネを変える必要もありますね。ココロネって簡単には変わらないと思われるかもしれないけど、前をゆく人がいるところっと変わったりするんですよね。なので、我々が作るものがココロネを変えていくんだ、と信じながら作り続けるのも大事だと思います。 そして、人を動かす作品とそこから人がつながっていくことも意識しながらプロジェクトに取り組むことも大切だと思っています。『ひるね姫』も、過去から未来、夢と現実、のつながりの物語だとおもうので、「自分の行動が未来につながる」「誰かのストーリーをつないでプロジェクトを起こす」という"つながりの視点"を『ひるね姫』を通して気づくのも大事なのではないでしょうか。
神山:
一番大事なのは、今出来ることを一生懸命やっていくことなのかもしれませんね。

--『ひるね姫』の主人公ココネちゃんも今目の前にある問題を素直に解決していったからこそ、のストーリー展開があったことをお二人の会話から思い出しました。本日はありがとうございました。

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『ひるね姫』劇中の言葉「ココロネ一つで空も飛べる」は複雑化する時代に生きる我々すべてに必要なメッセージではないか?と語る神山健治監督(左)とNiantic, Inc.川島優志氏(右)。

対談は終始和やかで雰囲気で進行した。それは映画とゲームという別ジャンルでの挑戦をしつつも、テクノロジーを活用し、社会を冷静に見据え、未来をどのように作り上げれば良いか?親として、クリエイターとして葛藤し、ものづくりを続ける両者がお互いをリスペクトしあっているからだろう。 神山監督が言うように不変で居続けるためには意図的に変化を起こしていく必要がある。対談記事を書き終え、さて、私はどこを意図的に変化させるべきか?自身に問いかける機会ともなった。もしも私のように心当たりのある方は自身の、組織の「意図的に変化させるべきところはどこか?」考えるキッカケとしていただけたら嬉しい。

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ライター:西村真里子

SENSORS.jp 編集長
国際基督教大学(ICU)卒。エンジニアとしてキャリアをスタートし、その後外資系企業のフィールドマーケティングマネージャー、デジタルクリエイティブ会社のプロデューサーを経て2014年株式会社HEART CATCH設立。 テクノロジー×デザイン×マーケティングを強みにプロデュース業や編集、ベンチャー向けのメンターを行う。Mistletoe株式会社フェロー。

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