「記者出身の若手が作る新しいメディアがトレンド」Web編集者・佐藤慶一 オランダ視察での発見

2015.12.18 10:00

海外メディアの動向をウォッチし続け、最新情報を伝えるブログ「メディアの輪郭」。運営するのは講談社「現代ビジネス」の編集者でもある佐藤慶一氏だ。今年夏、オランダのメディア事情を調べるべく単独で現地取材を行ったという佐藤氏。世界のメディア動向を伺いつつ、2015年を振り返ってもらった。

まずは、佐藤慶一氏のこれまでの経歴を簡単にご紹介する。
獨協大学英語学科に所属し、国際関係を専攻していたという佐藤氏はミャンマーの難民問題を研究していた。現地でのフィールドワークを通じ、日本で得られる情報と現地で得られる情報の差を痛感したという。その後、NPO・NGOに関わるようになり、社会課題を伝える難しさにぶつかった。加えて、新潟県・佐渡島出身の佐藤氏が上京した際に感じたのは同じく地方と東京の"情報ギャップ"だった。こうした3つの情報ギャップに窮屈さを感じたのがメディアに携わろうと思ったきっかけだったのだとか。

学生時代にライター/編集者として初めて関わったのがNPOメディア「greenz.jp」。ライターとして一年の活動を経たのち、より広い読者層に記事を届けたいという思いから講談社「現代ビジネス」へと移った。筆者(SENSORSでシニアライターを務める長谷川リョー)も佐藤氏と同じ90年生まれの25歳。同世代としても注目すべきメディア人だ。 佐藤氏はゆくゆくは地元・佐渡島へ帰郷し、メディアを立ち上げようと考えている。また、編集者として紙媒体へ軸足を移していくことを念頭においているそうだ。実際、紙の媒体への寄稿も行う佐藤氏だが、Webと紙で執筆することの違いで最も感じるのが"反響"の違いなのだという。

■紙は「読者」Webは「ユーザー」という構造はまだ変わっていない

佐藤慶一氏(ブログ「メディアの輪郭」を運営。講談社「現代ビジネス」エディター)

佐藤:
Webより紙の方が届く読者の母数は少ないのですが、反響は紙の方が大きいのが不思議というか、面白いですね。例えば、今年5月に『G2』というノンフィクション誌の最終号に巻頭で載せていただいたのですが、反響が大きかったです。6,000部ほどしか発行されていないはずなんですが、新聞3社、雑誌2社から追加の取材依頼が来ました。休刊という話題もあったためか、部数は少なくとも深いところに届いているという実感を持ちました。

--Web記事はなんとなくタイムラインに流れてきたものをダラダラ読むのに対して、紙の記事は"購買"というワンアクションが必要なので、そもそも読者が相当濃いはず。そこに生まれる"能動性"の差が反響の源かもしれないですね。

佐藤:
まさしく紙には"読者"という言葉があるように読む人が購入するものなのですが、Webは読者というよりは"ユーザー"と言った方が正しい。"スマホユーザー"というくらいなので、純粋な読者を発見し、獲得するのが難しい。これはWebメディア全体の課題だという気がします。最近流行りの兆しを見せているオンラインサロンは、純粋な読者でありファンである人を獲得する一つの答えになるのかもしれません。

■オランダへの単独現地取材−新興メディア「Blendle」と「De Correspondent」

今年の夏、1週間かけてオランダのメディア事情を探るべく単身現地取材を敢行した佐藤氏。オランダ最大のローカルメディア「Dichtbij(ディッヒバイ)」、記事を1本単位で購入できる新興プラットフォーム「Blendle(ブレンドル)」、国が出資する「オランダジャーナリズム財団」、そしてデータジャーナリズムのプラットフォーム「LocalFocus(ローカルフォーカス)」をそれぞれ周り、取材を行った中からとりわけ印象深かったもの、感じた世界の潮流を聞いた。

佐藤:
そもそもオランダに行こうと思ったのは、ブログや現代ビジネスのほうで、アメリカの動向を中心に追っていました。影響力のあるジャーナリストが次々移籍したり、新興メディアへの巨額投資があったり、同時に動画や広告が盛り上がっていたり......なんというか主要なトレンドを押さえることはできていたのですが、これが日本に応用できるかというと、マーケットの大きさや人材流動性、ソーシャルプラットフォームの少なさなどからむずかしい部分も大きいと思っていました。そんなときに、オランダの新興メディアが盛り上がっていることを知り、かつ、最初から有料モデルでのメディア構築をしていて、純粋にかっこいいと感じ、実際に行こうと考えました。

取材のなかで一番印象的だったのは、創業者のバックグラウンドが基本的に記者やジャーナリストだったことです。アメリカだとハフィントン・ポストやバズフィードをはじめ、新興メディアはテクノロジー先行な印象があります。テクノロジーによって検索やソーシャルでのトラフィックを集めてサイトの規模を大きくし、優位性を持った後に、有名なジャーナリストが移籍してくるパターンが一つの勝ち方だったのですが、オランダはその逆。ジャーナリストや記者がビジョンを打ち上げた後に、エンジニアが入ってきて、テクノロジーの面からバックアップしていく。オランダ国内約90の主要な新聞・雑誌媒体が全て参加している「Blendle」はまさにその象徴です。

Blendleのトップページ。記事を1本単位で購入できる。
https://launch.blendle.com/

昨年4月にローンチされたBlendleは一年で40万人のユーザーを抱え、国内の主要媒体全てが参加している。40万人と聞けばそれほど目立つ数字ではないかと思うが、オランダの人口が1700万人弱ということを鑑みればそのインパクトが窺い知れる。
その最大の特徴は「iTunes for Journalism」というコンセプトに表れているようにユーザーが記事を1本単位(1本あたり平均20〜30セント)で購入できるということだ(パッケージでも購入可能)。
ビジネスモデルはレベニューシェア型で紙媒体が7割、Blendleが3割という比率。ワンクリックで容易に記事が買えるというユーザービリティの高さも魅力の一つだという。極め付けは購入した記事が気に入らなかった場合、返品ができるという仕組みになっていること。順調に利用者数を増やしているというBlendleだが、オランダでは何をメディアとしての成長の指標においているのだろうか?

佐藤:
今回取材したところはどこもマネタイズモデルが課金や有料モデルのため、PVだけを重要指標と置いていることはないと思います。なぜかと言えば、欧米では"広告ブロック"が広く普及している状況とフリーミアムのモデルがそれほどうまくいっていない現状があります。今回は取材に行けなかったのですが、「De Correspondent(コレスポンデント)」というBlendleと並んでオランダで成功している新興メディアも有料課金モデルです。年間約60ユーロ(日本円で約8,000円)で、有料読者が4万人以上います。日本だと日経デジタルが40万人くらいの読者なので、それに近い数字を1年で叩き出したのは注目です。
「De Correspondent」の紹介ムービー。
https://vimeo.com/75394481
佐藤:
どちらにも共通しているのはジャーナリズムをバックグラウンドにもつカリスマ的な若者が作っているということです。「De Correspondent」は創業者が1982年生まれで編集長が1986年生まれ。「Blendle」は創業者の二人が共に1986年生まれ。27〜28歳の若者かつ元新聞記者が作っているということで注目を集めていますし、業界全体から信頼も厚かったことが好循環の主要因かもしれません。

どちらのメディアもオランダだけでなく、世界に進出しようと考えているようです。De Correspondentはオランダ語の記事を少しずつ英訳し、Blendleはドイツでも主要媒体がすべて参加し、来年初めにはアメリカでも展開がはじまります。広告でマネタイズしない特徴的なメディアが英語圏でも通用するのかは個人的に注目しているところです。

後編:「FacebookやAppleらで起こる"ニュース争奪戦"」Web編集者・佐藤慶一が振り返る2015年のメディア動向 では、"動画元年"の実態、キュレーションメディアの行方など2015年のメディアトレンドを振り返って頂きながら、現在行っている取り組みについて話を聞いた。

取材・文:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。最近は「人工知能」にアンテナを張っています。将来の夢は馬主になることです。
Twitter:@_ryh

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