「FacebookやAppleらで起こる"ニュース争奪戦"」Web編集者・佐藤慶一が振り返る2015年のメディア動向

2015.12.21 10:00

海外メディアの動向をウォッチし続け、最新情報を伝えるブログ「メディアの輪郭」。運営するのは講談社「現代ビジネス」の編集者でもある佐藤慶一氏だ。SENSORSでシニアライターを務める筆者(長谷川リョー)も佐藤氏と同じ90年生まれの25歳。今年夏、オランダのメディア事情を調べるべく単独で現地取材を行った佐藤氏に、世界のメディア動向を伺いつつ、2015年を振り返ってもらった。

前編:「記者出身の若手が作る新しいメディアがトレンド」Web編集者・佐藤慶一 オランダ視察での発見 では佐藤氏がメディアに関わるようになったきっかけと、一週間にわたるオランダへの現地メディア取材の話を伺った。
後編となる今回は2015年のメディア動向を振り返ってもらいながら、"動画元年"の実態、キュレーションメディアの行方、現在行っている取り組みについて話を聞いた。

■FacebookやTwitter、プラットフォーム間で繰り広げられる"ニュース争奪戦"

ブログやTwitterを通じて海外メディアの動向を伝え続けている佐藤氏。普段、どのように情報収集を行っているのだろうか。

佐藤慶一氏(ブログ「メディアの輪郭」を運営。講談社「現代ビジネス」エディター)

佐藤:
基本は毎日夜中の3時くらいに寝ているのですが、その少し前に海外の最新情報が流れてくるんですね。300個前後のWebメディアアカウントをリストにしているので、それをザッとみます。その中から面白そうなトピックのものを読みますね。「Nieman Journalism Lab」や「Digiday」なんかがおすすめです。あとはGoogle Alertを使っていて、「BuzzFeed」「Snapchat」など気になるワード30, 40個をかけているので、送られてきたものを暇な時間に目を通したりしています。

佐藤氏が作成したスライド「BuzzFeed、Upworthyのこれまでと現在からみるバイラル/キュレーションメディア」はこれまでに10万回以上閲覧されている。


佐藤:
2015年のメディア業界を振り返ると「ニュースの争奪戦」が起こってきていると感じています。Facebookであれば「Instant Articles」、Snapchatの「discover」、Twitterもそれこそ日本だと「ニュース」っていうタブができたり、「Moments」というキュレーション機能が発表されたり。あとはAppleもiOS9からニュースアプリを出しましたよね。
これまでジャーナリズム側が考えていたニュースの意義みたいなものが、プラットフォーム側からするとユーザーの滞在時間を伸ばすためだけの道具になりかねない気がしています。これが加速するのは将来的に問題になるというか、重要な議論になると思います。

--これは多くのWebメディアが悩んでいる問題ですよね。メディアとしてのブランド価値を守るためには配信はしたくないけど、数が稼げない。どう乗り越えていけばいいのでしょうか。

佐藤:
Facebookの場合は広告のレベニューシェアが100%媒体側に返ってくるようなモデルなので、媒体側としては不参加という選択肢が選びにくい。果たしてメディア側が事前に意図していたニュースの価値や意義がプラットフォーム側でみたときにしっかり反映されているのか、あるいはプラットフォーム側のユーザー施策の一つで終わってしまう危険性はすごく感じます。そのため、数を稼がなくてもいいモデルを築くこともひとつです。課金制やコミュニティ、イベントなどを主要なマネタイズの軸にしていくメディアはプラットフォームに乗るメリットはそれほどありません。今後は、広告を前提としないメディアを考える必要性が高まっていくと思います。

■「動画元年」の実態:Facebookにも増して、Snapchatの勢いが驚異的である

--今年の振り返りでいうと、"動画"が話題にのぼることが多かったですが、実際はどのように見られていますか?

佐藤:
海外の方が"動画"の波は明らかに来ていますよね。それこそFacebookの動画が1日80億回再生されていて、Snapchatが1日60億回再生されているのを考えると、確実に動画との接点は増えてきています。プラットフォーム側だけではなく、媒体側でもBuzzFeedやTastemadeといったメディアでも動画が目立っています。BuzzFeedといえば昔は猫が有名でしたが、最近はライフスタイル分野と相性が良くなってきていて、上位に並ぶのは"食"なんですね。

Here's how to make ~PIZZA DIP~

Posted by BuzzFeed Food on Saturday, June 27, 2015


--「フードポルノ」という料理の早回しですよね。動画も長すぎないので、流れていると思わず見てしまいます。

佐藤:
映像という意味だと分かりませんが、"短い動画"という意味では来ていますね。FacebookもSnapchatも伸び方がすごくて、前者は今年の春で再生回数が40億回、後者が20億回くらい。この半年でFacebookは2倍、Snapchatは3倍になっています。ただ、どちらかというと僕はSnapchatの方がすごいと思っていて、Facebookにはユーザーが15億人いる一方で、Snapchatは約2億人。Facebookの1/10〜1/15のユーザー数でこれだけ動画が再生されているのは驚異的です。しかも主要ユーザーが10代なので、広告出稿側としても魅力的に映っていそうです。
Eagles of Death Metal Speak Out for the First Time: Clip

Eagles Of Death Metal speak out for the first time since the Paris attacks next week on VICE: http://bit.ly/1I6zj0y

Posted by VICE on Saturday, November 21, 2015


佐藤:
一方で最近、Viceがテレビに進出したというものすごく大きなニュースがありました。Webメディアがテレビにいくというスケール感、海外では夢があるなと感じましたし、ミレニアル世代の読者を獲得したところがどんどんそういう方向に進出していく雰囲気はありますね。BuzzFeedやVoxが今年に入って、NBCユニバーサルから巨額の投資を受けたことを考えると、Viceと似た動きはこれからどんどん出てくるのかもしれません。

■キュレーションメディアの行方、Mediumがライターに好かれるワケ


--佐藤さんは2年ほど前からバイラルメディアにもかなりアンテナを張られていましたよね。最近日本ではDeNAが4つの特化型キュレーションメディアを提供開始するなど集約化の流れが起こりつつあります。この件に関しコルクの佐渡島庸平さんが「マンガも小説も抑えていることを考えると、DeNAは、現代版総合出版社になろうとしている気が」と仰られていたのが印象的でした。こうした流れは日本特有なんでしょうか?

佐藤:
日本が特殊な気がしますね。日本では大手メディアがバイラルやソーシャルを意識した取り組みをほとんどやらなかったことで、若い人やスタートアップがどんどん始めて月間UUが500〜1,000万規模のものができました。アメリカでは出版や編集の人もわりかし早く合流したのでBuzzFeedやUpworthyなどにすぐに収斂していった印象があります。でも、スマホ時代のメディアとしては完成されつつあるものの、全体として質はまだ高いとは言えませんよね。このままフリーで読ませてネイティブ広告とセットでずっとやっていけるのか、マネタイズの部分も個人的に気になるところではあります。

--また話が変わってしまうのですが、Mediumについてはどう思われますか?Barack ObamaやKevin Kellyなど大統領から著名ジャーナリストまで有力な情報発信者たちが利用するプラットフォームという印象があります。

ツイッターの共同創業者、エヴァン・ウィリアムズが作ったオンラインプラットフォーム「Medium(ミディアム)」
https://medium.com/より)

佐藤:
一つはすごく洗練されているということですよね。白っぽい余白が多い空間で文字を書くことができるということで、文字を書く人が好きな人が使いたくなるプラットフォームだと思います。かつ上がっているものが良質なものが多いので、良い意味で緊張感がある。Twitterやブログサービスのように「今日こんなことがありました」と気軽に書けないですよね。ある種、ユーザーを選別する雰囲気が醸し出されているのがすごく魅力的で、これは雑誌に似ているかもしれないですね。
一つ良いコンテンツを集めるためにMediumがやっていることで面白いのが海外の場合、普通の書き手に数%お金を払っていることがあるんです。ここまで考えて言論空間を構築しているのはさすがだと思います。また、人材についても、テックメディアをMedium内で立ち上げる際、元WIREDの著名ジャーナリストであるスティーブン・レヴィを獲得していて、それはいいメディアになるよなあ、と思いました。

■"編集者"として最も刺激を受けるのは同い年のアーティスト・tofubeats

ここまで国内外のメディア環境について佐藤氏にお話を伺ってきたが、そんな彼は、果たしてどんな方を"ロールモデル"として捉えているのだろうか?

同年代で注目している人物として小説家・朝井リョウの名前も挙がった。歌人・加藤千恵と毎週金曜深夜3時から放送する「オールナイトニッポン0」は毎週欠かさず聴いているのだとか。

佐藤:
Web編集だといないんですよね。マネタイズのモデルにも関わってくるのですが、紙に比べWebは1本にかけられるコストが限られていることで、思い切った企画がやりずらいというのが一つ。もう一つはWebにおける良いコンテンツが評価される仕組みや制度がないですよね。エコシステムとしてまだまだ不完全で、一人一人が孤軍奮闘しているイメージ。

ちょうど先月末から、クラシコムの長谷川賢人さん、サイボウズ式の藤村能光さん、ブログ「隠居系男子」の鳥井弘文さんと「Hyperlinkchallenge2015」という、この1年で印象に残った記事をバトンでまわしていく取り組みをはじめました。すでに150人以上が参加してくださっていて、結果が楽しみです。アワードという意味では、「はてなブログ大賞」などプラットフォーム側も記事の評価をはじめているので、今年以降、そのような動きはもっと盛んになっていくと思います。

ロールモデルの話にもどると、同世代の"編集者として"刺激を受けるのはtofubeatsさんですね。マイナーからメジャーに行って、その時代のことをどう考えていて、どういう人をキャスティングしてアルバムを作るか。同い年なのにすごく考えていて、突き抜けている。彼のインタビューは紙もWebも全て読んでいます。

同い年であり、同じ"編集"に関わる身として佐藤慶一氏から感じるのはメディアに対する圧倒的な"ストイックさ"だ。難民問題を研究していたことから気づいた「海外と日本」「地方と都心」という二つの情報ギャップに対する違和感が根底にあるというのは今回の取材を通じて初めて知った。Web編集におけるロールモデルが不在という話も共感しつつ、佐藤氏がそうした存在になりつつあるのではないかとも個人的には感じている。彼が将来の目標に掲げている地元・佐渡島でのメディア作り。それが紙になるのか、Webになるのか、それともまた新たな媒体なのか...ともに平成生まれの編集者として新たなメディアの形を探っていきたい。

(前編:「記者出身の若手が作る新しいメディアがトレンド」Web編集者・佐藤慶一 オランダ視察での発見

取材・文:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。フリーライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。「BOSCA」編集長。東京大学大学院学際情報学府在籍。最近は「人工知能」にアンテナを張っています。将来の夢は馬主になることです。
Twitter:@_ryh

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