タテの魅力は"等身大"感 〜 倖田來未×AOI Pro. MV制作からひも解く、縦型動画の活用法

2016.02.05 09:45

1月20日に発売された倖田來未さんのニューアルバム「WINTER of LOVE」に収録された新曲「On And On」。通常"横型"が一般的なミュージックビデオ(以下MV)だが、この楽曲ではスマホ向けのMVとして"縦型"バージョンが制作された。

このMVは縦型の構図を活かし、高層ビルに囲まれた都心のシーンや、まるで倖田さん自らビデオ通話をしているようなシーンなどで構成。縦型でビデオを販売出来るフォーマットはまだ多くはないが、今回は(DVD/ Blu-rayパッケージ商品の購入者向け動画配信サービス)「スマプラムービー」を導入し、商品化が実現。エイベックスによると、2014年のOculus Riftで楽しめる世界初360°MV「Dance In The Rain」など、倖田さんは新しい施策に対して関心が高く、まだ前例の少ない縦型MVについても「これだけ綺麗に撮れるなんて」と完成度にとても満足しているそうだ。

スマホの普及による縦型動画の活用法は、MVはもちろん、様々なシチュエーションでこれから議論にのぼるはず。ディレクションを担当したAOI Pro. 企画演出部 ディレクター 太田慧さんに、このMVの制作秘話と、制作を通して見えた縦型動画の活用法について、お話を伺った。

■縦型動画で、自撮りのような「等身大」感を訴求

--まず今回のMVを拝見して印象に残ったのが、高層ビル街やエスカレーターなど、縦型であることを活かしたシーンが多いことでした。今回のMV制作にあたってこだわられた点をお聞かせ頂けますか?

太田:
縦型で映像の奥行きをどう表現するかという点を、すごく考えました。横型の動画はテレビや映画など完成されたフォーマットがあるので、研究されつくしていて、演出面でのノウハウも横型の方がもちろん蓄積されているんですよね。
また、横型は被写体が中心にいて、周りの広がりがあって演出がしやすいんです。映像の奥行きを被写体の左右のスペースで表現するという横型の考え方で作ると縦型映像では背景がスッカラカンになってしまうので、縦だからこそ意味のある、縦で奥行きが表現出来る場所を考えビルの屋上や高架下、エスカレーターなどのシチュエーションを選びました。その点でロケーションはすごく大事でした。

--全身のカットや、まるで自撮りのようなアップのカットも多いですよね。

太田:
縦の文化、つまり手の中(スマホ)で映像や写真を見るという文化は最近台頭してきたものだと思います。横は演出された映像であることが多いですが、縦で写るものが何かと考えると、FaceTimeやSkypeといったツールや自撮りの写真など撮影者のありのままの姿、つまり「等身大」のシーンが多いなと。
そこで、等身大の倖田さんを手のひらのスマホの中で見ることが出来ると面白いのではと思いました。「ちょっと揺れている」位のほうが、自分で撮っている感じが出て面白かったり、そのような等身大感が縦型には相性がよいですね。

--ロケーションについては、都内のビル街など、日頃生活している中で見覚えのある場所が沢山ありますが...この点もやはり「等身大」感を意識されたのでしょうか?

太田:
そうですね、いろんな街中で倖田さんがあなた(MVを見ている方)が生活しているような街中で、あなたに向けて歌っているよというニュアンスを出したいと思い、街中でのカットを多く盛り込みました。
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自撮り風、エスカレーター、全身カットなど、縦型の構図を活かした「On and On」MV

--今回のMV制作にあたって、インスピレーションを受けた事例などはありますか?

太田:
「写真」から入りました。今回「なぜ縦がいいか」ということを探るべく、本当にいろんな縦の写真を集めて、それぞれの構図を見て「これは縦だからいい写真だ・意味がある写真だ」という基準で見直していく作業をしたんです。その時に思ったのはスチールのカメラマンは縦の構図に慣れていて「凄いな」と率直に思いました。映像に関わっていると横の構図が基本なので。

■ヒントは、ツアーで全国を回る中での「友人・家族とのビデオ通話」

エイベックスによると、今回縦型動画に取り組むことになったのは「On And On」が人と人との繋がり・絆がテーマの曲であり、見ている方との近さを映像でも表現出来ればという発想がきっかけ。その「近さ」を表現する際ヒントになったのが、倖田さん本人のスマホでのビデオ通話だったという。ツアーをはじめ仕事で各都市を回っている倖田さんにとっては、友人や家族とのコミュニケーションツールとして、ビデオ通話は不可欠なものだそうだ。
また、昨年実施のデビュー15周年記念のライブツアーの会場モニターが縦型であったことを活かし、ここで一足早くMVを公開。すると、ファンの方からもその自撮りのような映像から伝わる「近さ」から大きな歓声が起こったという。

--撮影時のエピソードもお聞かせ頂けますか。

太田:
MVに登場する自撮りカットの部分は、倖田さんご本人に撮って頂いているのですが、「慣れてるな」と(笑)。僕らじゃ絶対思いつかないようなスマホのリアルな動きがあったりして、すごく有難かったですね。
(自撮り以外のシーンの)機材の部分では、元々カメラ自体から縦にして撮りたいなとも思っていました。ただ、大きいカメラを固定するのもすごく大変だったり、編集についても縦で編集するワークフローがまだなかったりという障壁もあり、画角は普段通り横位置で、左右を切るサイドカットの方法で撮影・編集フローで進めました。その方が期限のリスクも含めて良いかなと。横型のモニターを見ながらも、縦になるとこういうカットになるということがわかるような仕切りを作ったりと、色々工夫をしながら進めました。

■縦型動画と相性がいい活用シーンは?

--今回いち早く制作に関わられてみて、これから縦型動画はどのような活用が想定されると感じましたか?

太田:
スマホでの閲覧が多い、SNSと相性が良いということを考えると「コミュニケーションになる映像」としての可能性があると思います。リアルなもの、等身大なものが見たいというニーズに応える動画ですね。縦と横を見比べた時に、横型の動画は「作ったもの」に見えすぎて視聴者と距離感がある気もします。一方、縦の方はよりリアルに物を買いたくなったりする身近な動画になり得るのかもしれません。
ただ、縦型のコンテンツだけを展開するというシチュエーションはまだまだ多くは無いですから、縦でも横でもマルチフォーマットで見ることが出来るように考えておく、ということが実は大事なのかもしれません。

制作の観点からは「デザイン」との相性が良い点も印象に残りました。今回のMVでも冒頭に曲名をデザインして入れましたが、ポスターに縦が多いので、デザイナーは縦だとデザインがしやすい、締まりが良いんです。文字をデザインしやすいという観点でいうと、横だと字幕で入り切らない文字要素も上下を使って入れる事が出来る通販的な映像にも使いやすそうです。
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AOI Pro. 企画演出部 ディレクター 太田慧さん(MVメイキング映像より)

--最後に「音楽をクリエイティブの力で盛り上げる」という視点からのお話もお聞かせ下さい。

太田:
音楽はもっと面白くなるなと思っています。僕は小さい頃ずっとケーブルテレビの音楽専門チャンネルでMVを見ていましたし、ミシェル・ゴンドリーやジョナサン・グレイザーといった著名な映像作家はMVも沢山手がけていて、格好いいなと思っていました。ただ、今はMVをYouTubeで音源を聴くためだけに開いたり「正座をしてじっくり楽しむ」という感じでなくなってきているのでは、と。そんな中では普通のMVではユーザーも物足りなくなっているのかもしれませんから、そこにクリエイティブの力で風穴を開けられたらいいなと思っています。

MV制作の舞台裏を切り口に、縦型動画の活用法について伺った今回のインタビュー。MVはもちろん、広告など、様々な動画の活用が想定されるシーンにも活きそうな体験談が飛び出した。この「On And On」MVは、複数形態で発売された「WINTER of LOVE」の一部形態(CD+DVD/CD+Blu-ray)購入者への特典として発表されている。また、YouTubeチャンネルでもショートバージョンが閲覧可能だ。縦型動画の強みとなり得る"等身大"感を体感すべく、チェックしてみてはいかがだろうか。

取材・文:市來孝人

SENSORS Managing Editor
PR会社勤務ののち、かねてより旅行でよく訪れていたロサンゼルスに在住。帰国後、福岡やシンガポールのラジオDJ、東京でのMC・ナレーター、ライターとして等の活動を経てメディアプランナーとして活動中。また、タレント・企業トップなど個人に特化したPR・ブランディングにも携わっている。

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