kz(livetune)が語る、"テクノロジー"+"人"の力で生まれるイノベーションとは

2015.11.05 10:00

10月14日、「未来の都市とライフスタイルをつくるイノベーション」をテーマに、六本木ヒルズアリーナで行われたオープンイベント「INNOVATION TOKYO 2015」。今回は音楽とITの新たな未来を考え、発信するプロジェクト「THE BIG PARADE」協力の元、ここのイベントでライブパフォーマンスを披露した音楽クリエイター・kz(livetune)氏。イベント終了直後のkz(livetune)氏に、デジタル音楽ブロガーとして活躍しているジェイ・コウガミ氏(以下ジェイ)がインタビューを行った。後編では、音楽クリエイターという立場から見た音楽業界という広い視点からお話を伺っていきたい。

前編では、kz(livetune)氏に関する様々な"きっかけ"について伺った。音楽クリエイターとして業界の先頭を走っているkz(livetune)氏(以下kz)だが、その立場だからこそ業界全体の趨勢の変化にはひときわ敏感なはず。サブスクリプションの音楽サービスが主流になりつつある現在において、インターネット発の音楽人は何を考え、どこを目指しているのだろうか。

■人間の不均一感が愛おしい

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ジェイ:
INNOVATION TOKYO 2015のトークショーで「歌に対する思い入れ、歌に対するストーリーを感じるときに人は歌を聴きたくなる」という言葉にとても興味を惹かれました。
kz:
人間の声は一人一人違うし、声はコンディションによっても変わってきます。体調の悪い時の歌声の方が相手に伝わるものが大きい時もあるし、その逆も然り。コンディションが良い時が一番良いわけではないというところが面白いと思っています。これは自分が初音ミクを使い始めて改めて考えたことですが、初音ミクのようなボーカロイドは一度オーディオ化してしまうと100%同じにしかならないんです。まぁ当然なんですが。それに対して人間には、ボーカロイドのような質の均一性は生まれない、ここがとても愛おしい部分なんですよね。本人が良いと思っていなくても聴く人によって異なる感情を覚えるというところで、歌はやっぱり面白いなって思います。
ジェイ:
kzさんはネット時代を代表するクリエイターさんだと思うのですが、デジタル世代から生まれてきた最近のクリエイターさん達は、打ち込みやソフトウェアを使って音源を作る方が慣れていますよね。あまり"声"に対する思い入れがないのかな?と。
kz:
実は僕、バンド出身なんですよ。ロックのバンドサウンドが好きというところもあって、昔からライブとかをよく観に行っていたりしていたんです。そういう影響もあるのか、僕の打ち込みって結構雑なんですよね(笑)。 弾いたものをあとから手直しすることが多いんですが、けっこう修正もアバウトでこぼれている音や不協和音なども普通にあったりします。でもかえってその方が面白いなと。そういうファジーさは打ち込みの音楽をやっているからこそ感じるなと思っています。あまりにもジャストなものを聴いていると、人間どこかで飽きちゃうと思っていて。

■インターネット時代におけるライブの重要性

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INNOVATION TOKYOで行われたkz(livetune)氏のライブパフォーマンス

ジェイ:
ライブ感を大事にするというところは、kzさんがクリエイターとして持っているこだわりと言ってもよいでしょうか?
kz:
そうですね。でも実は、今まで気づいてたようで気づいてなかったところなんです。これからlivetune+という新しいプロジェクトを始めるんですが、そこに行き着いたのも結局ライブが重要だと再確認したからなんですね。ライブの現場をもう一度大切にしていこうということは、一昨年くらいから思い始めてきたことでした。
ジェイ:
ソーシャルネットワークとkzさんとの繋がりについてお聞きします。ソーシャルネットワーク上にいるファンとクリエイターが作品を媒介にしてコミュニケーションをとるというのは、凄く現代的で今のクリエイターとファンの形を象徴するものだと思います。そこに関してはどう感じていますか?
kz:
Twitterやニコニコ動画のコメントを通じて、自分の作品にダイレクトにレスポンスが来る世界なんて今まで無かったわけです。いまはそれがあるからこそ、お客さんと面と向き合っているように感じることが出来るし、そこがソーシャルメディアのいいところではあると思います。しかし、実際ライブなどに足を運んで心地よい疲労や高揚感などの体験というところに結び付かないとやっぱり長続きしないのではないか、とも思っています。ネットから出てきたクリエイター、例えばtofubeatsなどは現場を大切にするというところにきちんと行きついてる。僕らはソーシャルネットワークを土壌にして世の中に出てきた人間ですが、だからこそちゃんとリアルな場所を用意しないと最終的なコミュニケーションは図れないですよね。だからこそソーシャルメディアの使い方には工夫しなければいけないと思います。

■思い出や記憶に残るような音楽を

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ジェイ:
話をさらに広げて、kzさんは今の日本の音楽業界をどのようにご覧になってますか?
kz:
売り上げ自体は落ちていることは自明だし、僕自身もCDを買う機会は少なくなっていますね。音楽業界としては悪い状況には違いないとは思うのですが、インターネットから出てきた僕らとしては下剋上が可能になったというところは正直あります。今までの仕組みだと、どうしても大資本による洗練されたプロダクションに僕らが努力しても勝てない部分はあったんですよ。ただ、今の時代はその状況がワンアイデアでひっくり返せる時代になってきている。個人でできる力の限界っていうのがどんどん上がってきてると思うので、僕らとしては十分戦える状況に変化していると思っています。
ジェイ:
音楽ストリーミングサービスはどうご覧になってますか?
kz:
僕も使ってみましたけど、すごく便利だと思います。やっぱりiPhoneに入っていないけど聴きたい音楽はたくさんあるなと思いますし、聴きたい時にぱっと聞けるのはすごくいい。けれど音楽の作り手として考えると、音楽を苦労してリリースをしている感覚が全く無くなるので、そこは単純に寂しいとは思いますね。
ストリーミングになることによって、今まで買ってきた自分のCDというライブラリが一つに召集され、形のない巨大なライブラリーになってしまう。その時に、「この音楽を買うためにバイト頑張ったな」というような"記憶"ってすごく重要だと思うんですよ。ちょっと古いかもしれないですけど(笑)。けど何かしら苦労して得たものは人間の記憶に残りやすいもので、その当時の様々な記憶があるからこそ音楽との結び付きも強くなると思います。ストリーミングサービスは、そのような人間らしさを全てフラットにしてしまう側面もあるので、思い出とつながりにくくなるなり、心には残りにくくなると思いますね。ただ大きな可能性を秘めていて面白いものではあるので、今まだ整備されてないだけで、これから思い出が残りやすくなるようなイノベーションが起こればすごく楽しい未来になるなとは考えています。

■音楽のイノベーションは人が起こす

ジェイ:
kzさんが考える、音楽のイノベーションとは?
kz:
音楽のイノベーションを考えるとつい音楽を主体にして考えたくなるんですが、何か革新を起こすためにはまず人が中心になる必要があります。現在はこれまで歴史上になかったソーシャルメディアの発達が背景としてあるので、これからは人を中心にしたイノベーションというものが一番重要になってくると思います。テクノロジーという音楽に直結するものではなくて、それを取り巻く環境が音楽のイノベーションに繋がっていくのではないでしょうか。
ジェイ:
最後に、ライブを取り巻く音楽のクリエーションの可能性は明るいと思いますか?
kz:
そう思いますね。CDや音源の売り上げはどんどん落ちて行くと思いますけど、ライブっていうものは変わらないんじゃないでしょうか。それはやっぱりフェスがいま非常に盛り上がってるっていうニュースが出るくらいお客さんの数は増えていると思いますし、むしろそこにいきたいから音源を買い控えて行くという人も多いと思います。そもそも音楽のスタートはライブだったし、そこは変化しないのではないでしょうか。むしろどんどん大きくなっていくかもしれない。音楽のクリエーションは明るいと思います。

「音楽のクリエーションの可能性は明るい」そうきっぱりと答えたkz(livetune)の姿勢は、イチ音楽ファンとしてとても頼もしく響いた。CDが売れないこの時代において、やはり多くのアーティストが口を揃えて"ライブの可能性"について言及している。インターネット発の音楽クリエーターとして「音楽のイノベーションは音楽やテクノロジーでなく人が起こすものであり、そのヒントはライブにある。」と語る彼の目には、一点の曇りもなかった。

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取材・文:石原龍太郎(いしはら りゅうたろう)


ライター・編集者。 テクノロジー・ファッション・グルメを中心に、雑誌やウェブにて執筆。本と音楽とインターネットが好き。@RtIs09

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