Licaxxx × 武蔵美クリエイター 鼎談 -- "芸祭"フィナーレ企画の舞台裏

2016.12.02 17:00

10月29日から31日にかけて開催された武蔵野美術大学 芸術祭。日本有数のクリエイターを輩出する美大の学園祭で、LicaxxxがDJとして29日のフィナーレを飾った。クリエイターやアーティストを志す若者が集う美大の学園祭において、現代の若者文化の中心を担うLicaxxxは何を想うのか。

武蔵野美術大学 芸術祭、通称芸祭は毎年3万人の来場者数を誇り、国内の美大の学園祭の中では最大規模となる。近年では珍しい飲酒の出来る屋台が多く連なる「武蔵美一丁目」や、学生が自主制作した作品を販売するフリーマーケット、学生の作品展示など、ものづくりに特化した様々な催しを楽しむことができる。

15mを超える巨大なファサードに圧巻の映像が投影される。
毎年のテーマに沿った映像がクリエイターの指揮のもとに制作され、今年のテーマは「まうかくし」。

そんな武蔵美芸祭の初日である29日には、LicaxxxをゲストDJに15m近い武蔵野美術大学内の美術館のファサードにプロジェクションされた大迫力の映像によってフィナーレを飾る企画が用意された。この企画はプロジェクションマッピング黎明期の6年前から始まり、いまでは武蔵美芸祭の最大の目玉となっている。
Licaxxxはサカナクションのボーカル山口一郎が主催するクラブイベント「NF」などで活躍する女性DJであり、若者文化を発信するメディア「シグマファット」の編集長を務めるなど、ユースカルチャーの中心を担う存在として話題を集めている。
(SENSORSではかねてより彼女の活動に注目している。彼女のパーソナリティに迫った記事はこちら。)
そもそも慶應義塾大学出身のクリエイターLicaxxxが今回ゲストとして呼ばれた経緯には、Licaxxx本人と武蔵美との切っても切れない縁があった。

ディレクターを務めた市川稜氏(左)と澁谷たける氏(右)

今回は企画のリーダーを務めた市川稜氏と、プロジェクションする映像制作の指揮をとった澁谷たける氏という、武蔵美で現在進行形で学ぶ若手クリエイターとLicaxxxの鼎談という形で、これからの日本のクリエイティヴを担う世代のエネルギーの源泉について解き明かしていく。

■若きクリエイターたちが学園祭に向けるものづくりの熱量

--Licaxxxさんが武蔵美芸祭の目玉とも言えるプロジェクションマッピング企画においてDJを務めることになった経緯について教えて下さい。

DJ Licaxxx

市川(以下 市):
以前からLicaxxxさんのDJをクラブでよく見ていて、その格好よさに惚れ込んでお願いをしたというのが大まかな経緯です。武蔵美の先輩を通じて仲良くなるきっかけがあって、初めて話したのはLoungeNEOという渋谷にあるクラブでした。
Licaxxx(以下 L):
実は実家が武蔵美からほど近いところにあるということもあり、大学生だった頃から武蔵美にはよく遊びに行っていました。芸祭は毎年来ていたし、授業に潜ったりすることもよくありました。クラブで自分がDJをするときに、背景の映像を映し出すVJをやってくれる人たちは大抵武蔵美か多摩美などの美大生で、クラブで仲良くなったそういった人たちに会いに家からすぐの武蔵美に遊びに行くということをしていましたね。

--それでは、武蔵美の芸祭に出演するというのは自然な流れだったわけですね。

市:
僕たちとしても、Licaxxxさんが慣れ親しんだ場所である武蔵美にお呼びして出演してもらうのは願ってもないことなので、快諾を頂けてよかった。
L:
ついにきたか、という気持ちですね。純粋にとても嬉しいですし、いちクリエイターとして社会の中で活動する中ではまだなかなか出会うことのできない機会というか、音楽以外の分野でものづくりをする人と意思疎通を図りながら大きなプロジェクトを動かすことができる場に加わることができて楽しかったです。

--そんなLicaxxxさんはすでに5年以上武蔵美の学園祭を見続けているということになると思うのですが、あえて外の人間として、武蔵美の学園祭はどんな特徴がありますか。

L:
屋台を建築学科で学んでいる人が作ったり、ポスターもデザインを学んでいる人が作っているので、学園祭とは思えないほどの作り込みだったりするところが面白いです。本当のものづくりができるひとが作っているんだと圧倒されます。若くて荒々しいところもありながらそれぞれの本気が見えてきて、一般的な大学に通っていた身からすると楽しくてしょうがない空間でした。
市:
Licaxxxさんは大学でメディアアートをやっていましたよね。
L:
そうだね。社会の役に立ってきちんとお金になることを研究したりすることの多い慶應SFCの中でも、割と遠回りなアプローチである社会とアートを研究するという美大っぽい立ち位置の勉強をしていたというのもあって、肌感にあっていたというのもあると思います。いくらいても飽きない楽しさがある。

--武蔵美の中で勉強をしている人からすると、学園祭というのはどんな立ち位置なんでしょうか。

澁谷(以下 澁):
単純にかっこいいところを見せたいという気持ちが強いです。自分の場合は映像制作ができるので、それを一番大きなスクリーンで見せることができるという機会として芸祭が一番大きいものになるんです。気持ち良さという意味ではこれ以上ないですね。
澁谷氏が制作している作品はVimeoで見ることができる。
市:
学生のうちからすでに外で活動している人を除くと、学園祭が1年の中で一番大きなイベントになるので、そこに向けて本当の意味で全力投球します。学園祭は学園祭なので、そこで売れようと思っているわけではないんだけど、普段一緒に勉強をしている友達みんなが表現者なので、ふつふつと燃える競争意識みたいなものがあると思います。
L:
自由度も高いよね。ものづくりをしている人にとって、社会に一度出てしまうと100%の力を出してものを作る機会ってなかなか得ることができないけど、芸祭は本当に作りたいものを作ることができるし、実際にそういう作品たちをいくらでも見ることができる。
市:
100%の力を出して作ったものがどれだけ多くの人を喜ばせることができるのか、というところまで顕著に見えるので余計に燃えるというのもあるのかもしれません。自分で作ったものを売ることができるフリーマーケットでも、誰がどれくらい売れているのかということが明確にわかってしまうので、その意味でも面白い。
L:
武蔵美をはじめとして、美大って高校生のときから何か作りたいものがあって選んで入っている人が多いから、そういった人たちが手がける作品やお祭りが、他にはない迫真性があるんだろうね。

■"クリエイターのまとめ役"になるために必要なこととは?

--今回の学園祭企画においては、市川さんが主体となって人集めなどをしていますよね。美大生の中にもそういった立ち位置の人がいるのですね。

市:
ものづくりを学んでいる中で、自分はまとめ役で、作るというよりは人を集めて、そのチームがどこに向かっていくかの指針作りをしていくという役割の方が向いているということに気がついたんです。例えば映像を統括してくれた渋谷くんは根っからのクリエイター気質で、そういった人たちが本当にやりたいことをできる場作りをするというのが本分として自分にあっている。その意味では渋谷くんは非常に美大生っぽいなと思います。
澁:
作りたいものずっと作っていたいという気持ちは確かに強いです。市川くんは今回のようにLicaxxxさんを連れてきてくれたりなど、人を集めることが得意で、その意味で非常に助かっています。
市:
今回はプレイヤーとしてのLicaxxxさんに惚れ込んで出演をお願いしたのですが、実はもう一つ聞きたいことがあって、まとめ役のポジションのあり方について。Licaxxxさんがホストを務めるイベントは本当に楽しそうなんですよね。
美大生の中で生活していると出会うことのできないインテリジェンスというか。社会の中でアーティストやクリエイターと呼ばれる人たちをまとめ、より多くの人に紹介するということがいち観客としてみていてもすごいと思えるし、実際に知り合って話をしていても美大生にはない一貫した姿勢を感じるんです。
L:
ものを作る時と、ものを考えるときで自分の中できちんとした線引きがあります。プレイヤーとしてはDJという表現手法を選びとっていて、自分で作るものは外からの影響を受けることなく作る。でもそうやって作られたものを多くの人に伝えるということにも大きな価値があると思っていて、その意味では技術者や製作者といった第一義的な立ち位置だけでなく、プロデュース、広告的な視点を別に持っている。
自分の得手不得手を考えても、市川くんと同じようにまとめ役というのが向いているんです。一流の製作者の人たちのように速攻でプログラミングができるわけではないし、曲も時間をかけて作るので、その意味ではビハインドを持っているんだ、という自負があります。その自負を前提にして、あえて人をまとめる位置に自分を置くと言うことをしているんです。
市:
不思議なのが、自分で面白いと思える人を見つけることもそうだし、自然に面白い人がLicaxxxさんの周りに集まってくる。この人の近くにいれば面白いことが起こるんだ!と思えてしまう。その嗅覚の秘訣ってなんなんでしょうか。
L:
"好き"を明確に自分の中に持つっていうことかな。100%ポジティブな気持ちを信じて好きな音楽を鳴らす人、好きな映像を作る人、好きなファッションをしている人、それぞれに会いに行って話をしてみる。すると自然と自分と似通った感性を持っていたりする。
"好き"さえブレなければ、流行っていようといまいと、その人たちの間で強いつながりが生まれて楽しくなってくる。中心にいる人たちが楽しそうにしていれば周りからみて「盛り上がっているな」という印象を与えることができるんだと思うよ。

--実際に市川くんとLicaxxxさんが出会ったのは音楽が鳴るクラブだと聞きました。インターネットがあれば繋がれる今の時代に、あえてクラブという場所でその強いつながりが生まれるのが面白いなと感じます。

L:
インターネットって情報がありすぎるじゃないですか。膨大な情報の中から本当に面白い人を探そうとしても、体力が要るし続かないんです。自分の場合は音楽が表現手段だったから、音楽で面白い人に会おうと思ったらクラブまで足を運んで、実際に自分の目でパフォーマンスを見て、さらに喋ってみて初めて似た感性をもっていることがわかる。インターネットがあるからこそ、クラブやライブハウスといった現場で出会った人とのつながりを継続することができるし、今回のように気軽に武蔵美の芸祭に呼んでもらうことができるんだと思います。

--クラブなどのリアルな空間があって初めてインターネットが効果を発揮するということですね。

市:
音楽イベントのホストなどをするときに、一番のセンスを発揮しているんです。よく言われるのは音楽にはルーツがあるから、その系譜に沿ったアーティストを揃えるという定石がイベントのブッキングにはあると思うのですが、Licaxxxさんはこれまでになかった系譜を見つけ出すことが得意なんです。それは計画してできているのでしょうか。
L:
流行りの音楽のルーツをなぞることはもちろん必要なんだけど、あまり重視はしていなくて、どちらかというと音楽に対する姿勢を尊重していますね。自分達の追求する音楽をちゃんとやっている大好きなバンドたちを例をあげると、SuchmosやSANABAGUNのような、スター性溢れる圧巻のステージを魅せるタイプと、D.A.N.のような、バンド形式ではあるが前を見るより自由に躍ってくれ!という踊りを曲間で辞めさせないタイプのバンドがいて、後者の方がどちらかというとクラブミュージックのスタンスに近いと感じるので、自分の今やりたいようなクラブイベントにブッキングさせてもらったりしています。もちろんSuchmosやSANABAGUNの音楽も大好きなので、ライブは行ける限り足繁く見に行っていますが(笑)。

ただそのアーティストが好きだし人気だからブッキングしているのではなくて、他の出演者など全体の音楽が切れ目なく、そこもDJ的にイベントを組むことでかっちりとハマると、お客さんもアクト単位ではなくイベントごと楽しむことができるし、自分でも知らないところで話題になったりして、結果として盛り上がっていくんだと思うんです。

--Licaxxxとしての自分と、イベントプロデューサーとしての自分と、ひいてはメディアの編集長としての自分をうまく分けて考えているんですね。

L:
そうですね。シグマファットは本当に好きだと思える人たちをテキストベースで捉えて、いろんな人に伝えるメディアだったりする。DJにしろ、イベントにしろ、何かしらのプロジェクトにしろ、誰が見ても心地よいと感じられる選曲、ブッキング、人選というところに気を配るということが秘訣だったりするのかもしれないですね。

--Licaxxxさんの話を受けて、少し下の世代になる市川さんや澁谷さんはこれからどうしていきたいですか。

市:
Licaxxxさんは音楽という歴史ある表現方法に身を置いているけど、僕たちはどちらかというと歴史の浅い映像表現を駆使して戦わなければいけないんですよね。50年かそこらの歴史の中で、技術の進歩で最近になって僕たちのような学生でもローコストで映像を作ることができるようになった。まずはいち表現者として、その意味をうまく捉えることが必要になってくるんだと思います。プロデュース的な部分はその後に考えていくことになる。映像は音楽と比べても撮影技術や編集技術といったテクノロジーが多層的に関わってきます。そんなテクノロジーにとらわれることなく、それでいて使えるテクノロジーを存分に使って表現をすることから初めていきたいですね。
その意味だと澁谷くんはすごい面白いクリエイターですよ。映像作家だけどヒップホップにどっぷり浸かったラッパーなんです。
澁:
高校の時からPUNPEEや5lackといったラッパーがけん引するヒップホップの文化に強く惹かれて、大学のラップバトル選手権に出場したりしました(笑)。
市:
映像以外にもルーツをもっている映像作家って僕らの世代だと実はそんなに多くなくて、その意味で澁谷くんの作る映像は端々にヒップホップの魂が感じられてかっこいいんです。 澁谷くんの"好き"は明確に見えてくる。
L:
確かに、雰囲気が映像作家っぽくないよね(笑)。

--最後に今回のプロジェクトでは一番年上にあたるLicaxxxさんから見て、後輩の世代たちの活動はどう思いますか。

L:
分が学生の頃にやっていたような、より大きな場を求めて動き回ると言うことをしていていいなと思います。
今私と同じ世代のSuchmosやSANABAGUN、D.A.N.が人気な理由として、音楽をちゃんとやること、それがどう広げていくかかんがえていることが今を生きる人たちの目に魅力的に映っているということがあるんです。オリンピックのある4年後を見据えた大きな目標もありながら、どちらかというと目の前の好きなことにのめり込む姿勢がどんな音楽を鳴らす人たちであれ共通している。
同じようにやれとは言わないけれど、自分たちのスタイルを見つけることができるような手助けをしてあげたいなと思います。可愛い後輩たちなので(笑)。
市:
僕らもLicaxxxさんと並べるように、オリンピックまでに今ある差をガンガン縮めていきたいです。

--ありがとうございました。

芸祭当日、市川、澁谷両氏が駆るVJを背に行われたLicaxxxのDJパフォーマンスに合わせた見た学生から「DJときいて思い浮かぶイメージを大きく変えてくれた」という声が上がるなど、Licaxxxが作り出す場の力はクリエイター、観客双方に着実に広がっている。
「オリンピックまでの4年間で追いつけるように頑張りたい」と意気込む二人の若きクリエイターが見るのはLicaxxxが切り開いた境地か、あるいはそれを超えて邁進することになるのか。

取材・文:兵藤 友哉

1995年生まれ。フリーライター。早稲田大学文化構想学部表象メディア論系在籍。専らの興味は「メディアテクノロジーの進歩による人間の認知の更新」。卒論のテーマは「2016年時点のインターネットコミュニケーションにおけるGIF画像の果たす/果たした役割」。
Twitter @do_do_tom

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