イノベーションを起こすリーダーの思考・視点--朝倉祐介×前田裕二 リーダーズトーク

2018.01.16 15:00

「人生100年時代の次世代リーダー」をテーマに行われたSENSORSサロン。ゲストはシニフィアン株式会社共同代表 朝倉祐介氏と、SHOWROOM株式会社代表取締役 前田裕二氏だ。

4回にわたってお届けする第3弾記事では、ゲスト二人とMCがリーダーに求められる「具体と抽象を行き来する思考」について語った。
前田氏は能を引き合いに出し、「三つの視点」の重要性について言及する。また最後には、「テレビの未来に必要な次世代リーダー」についても意見が交わされた。

■ リーダーには、抽象概念を言語化するスキルがある

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(左より)齋藤精一、落合陽一

--続いて、次のテーマ「一流」についてお話しいただければと思います。

落合陽一(以下、落合):
アートに長い期間携わっていて、ある作品が雑に作られたものなのか、もしくは精巧に作られたものなのかを見極められるようになります。これはアートに限ったことではないと思っていて、ビジネスでも同じことが言えると思うんです。
齋藤精一(以下、齋藤):
広告も同じですね。電車で吊り広告を見ていて「なぜこんなコピーやグラフィックなんだろう?」と疑問を持つことも少なくありません。学生時代に建築を専攻していたときに、友人が「この建築は素晴らしい」と言っている一方で、僕は全く共感できない経験をしました。

しかしいつからか、「なぜ共感できないのか」をしっかりと言語化するようになりました。すると頭の中がクリアになり、物の見方や自分の志向性が分かってくるんです。
落合:
僕も同じです。学生時代は、展覧会で作品を一通り見た後に、構図を真似して描く訓練をしていました。すると、どうしても思い出せない構図が出てきます。
要するに、興味のない作品は思い出せないんです。

そうしたことを繰り返しているうちに自分の好みが明確になりました。作品の審査員を務めるようになってからは、見る作品の数が数千倍に増え、その傾向が顕著です。手を抜いているのか、一生懸命つくったのかが一瞬にして見分けられるんです。
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朝倉祐介氏

朝倉祐介(以下、朝倉):
個人的な話をすると、会社員時代は「言われたことをこなす」ことに徹していました。与えられた仕事をとにかくやることが正しいと信じ、それを果たさなければいけないというマインドセットだったんです。ただ、そうした働き方には楽しさを見出せなかった。

しかし、自分で小さな会社を経営するようになってから、誰がどう言おうと自分が正しいと思うことを貫き通すようになってから、物事の捉え方が変わりました。組織のリーダーになり、誰も助けてくれない環境に身を置くと、自分の頭で考えざるを得ません。

■ 日常を抽象化して捉える「我見、離見、離見の見」

前田裕二(以下、前田):
僕は学生時代から「抽象化ゲーム」をしていました。目に見えている事象の中で自分の琴線に触れるもの、あるいは社会が認めているものをピックアップし、なぜそう感じるのか、認められているのかを考えるんです。
人を説得する作業は、抽象的な命題を置いて、それに紐づく具体例を挙げることだと思うのですが、この具体例の引き出しの多さは、逆に具体例から抽象化した回数の多さで決まります。

たとえばイチローさんは一流の選手ですが、「すごいから」では抽象化できていません。「何がどのようにすごいのか」をまず具体的に言語化することが抽象化に結びつきます。こうした訓練を繰り返すことが自分の頭で考えるということだと思います。
落合:
会食でよくあることなのですが、「全部美味しいです」と言う方がよくいるんですね。「何が一番美味しかった?」と尋ねると「いや、全部美味しかったです」と言う。
前田:
一流の人ほど、「一流って何ですか?」って聞かれるアウトプットの機会が多いんですよね。「抽象的には一流とはこういうことです。具体的にはこういうことだと思います」と答える機会を意図的に増やすと、一流に近づけるんじゃないかと思っています。
具体的な事象を抽象化して、命題を解く機会が何度も求められるので。食事の感想が単調なのが分かりやすい例で、日本人はアウトプットする機会が少なすぎるので、インプットの質が上がらない。
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齋藤精一

齋藤:
僕は抽象と具体を行き来する...つまりミクロとマクロの行き来の速い人を尊敬しています。
学生によく言うのは「万里の長城のレンガを組んでいながら、何のためにレンガを組んでいるのかが理解できる人になれ」。小さな作業を積み重ねながら、それが大きな意味をなすことまで考えられると、世の中の見え方が変わってきます。
前田:
能には3つの眼、視点があるといわれていますよね。一つは自分視点の「我見」。二つ目がお客さん視点の「離見」。そして最も重要なのが「我見」と「離見」を俯瞰する「離見の見」。

何かを売るときも同じで、「我見」だけではいけない。お客さん視点の「離見」、自分の振る舞いがお客さんにどう映るかを見る「離見の見」が求められます。
落合:
以前ピアニストの方と対談をした際に、「ピアノは一人称の楽器になりやすい」とおっしゃっていました。指揮者とお客さんを意識しても、演奏中はどうしてもピアノから離れられないのだそうです。

今お話を聞いていて、「我見」と「離見」、「離見の見」に共通すると感じました。世阿弥からもグランドピアノからも同じ事例が出てくるということは、一流の人材は「3つの眼がある」のではないでしょうか。

■ 次世代リーダーは"自己破壊的イノベーション"で生まれ変わる

--続いて、最後のキーワード「テレビの未来に必要な次世代リーダー」についてお話しいただければと思います。テレビ業界に求められる次世代リーダーとは、どのような人物なのでしょうか?

落合:
「視聴率を気にするな」という声が聞こえた人ではないでしょうか。視聴率はテレビの価値を図る1つの指標ですが、「それよりも重要な尺度があります」と声を上げる人材が、業界内にもっと必要だと思います。
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前田裕二氏

前田:
「10万人が見ている」という数ではなく、その番組に対する興味や関心、つまり"深さ"にフォーカスしたほうが価値は明確になるはずです。

経済学において、景気の波の中で、もっとも長い景気のサイクルを「コンドラチェフの波」といいます。コンドラチェフの波は50年に一度起こるのですが、なぜそのスパンで発生するのかは分かっていません。そこで僕は、人が死ぬから50年に一度なのではないかと仮説を立てました。

20代や30代で成功事例を作ってしまうと、その成功事例を余生で打ち砕く自己否定的なイノベーションを起こすのが難しくなってしまう。ルールを作った世代の人たちは当然、そのルールを守りたいと思います。
ルールがルールを作った人たちとともに衰退してくのが50年くらいなので、「コンドラチェフの波」のような現象が起こるんだ思います。テレビ業界が変化しようと思ったら、現在テレビを作っている人材が今、現在やっていることを否定しないといけないんです。心理的に難しいことですよね。
落合:
ずっと続けてきたことを否定するのは困難なので、もっと短い期間で変え続けることが重要です。僕の座右の銘は「変わり続けることを変えない」。常に変化することを前提としていなければ、いざ行き詰まったときに手遅れになってしまうのです。
朝倉:
会社経営に例えて話をすると、番組の魅力を伝えることは、いわばIRに近いのかなと思っています。IRは投資家から得たお金をどう使うのかを説明する機能ですよね。投資家に対して目先の業績数値以外の尺度で事業の価値を説明できる起業家は強いんです。すぐには利益を生み出しそうにない事業に投資をお願いする際は、その意義をうまく伝えなければいけません。
今や世界のトップをひた走るAmazonは、会社の存在意義を語り続けることで成長しました。「利益率が低い」と言われながらも、彼らが築いている事業の価値を訴え続けたんです。
番組を視聴率という数字以外の尺度で訴え、訴えるだけではなく説得できる人が必要なんだと思います。

また「我見」に加えて「離見」を持っている人が必要という意味では、ひょっとするとテレビとは無縁の場所に次世代のリーダーがいるのではないかとも思います。
齋藤:
最近、日本テレビのプロデューサー・土屋敏男さんが監督を務めた映画『We Love Television?』を観ました。作中で萩本欽一さんが「テレビがつまらなくなったわけではない。全てのチャンネルが同じになってしまったんだ」とおっしゃっていました。Webニュースを取り上げたり、新聞の情報を放送したり、どこのテレビ局も情報の焼き直しをしているというのです。

テレビが再び面白くなるには、もっと「こういう内容をやるべきだ」と説く新たな旗振り役が必要なのだと思います。変革を恐れない勇気と度胸を持ったリーダーシップがなければいけないのではないでしょうか。

続く「テレビに求められる"イノベーションのテクニカルチャレンジ"」では、本記事に引き続き、テレビの未来に必要なイノベーションについて議論した。
MC落合はテレビの「ながら視聴」について指摘し、前田氏は自身が手がける「SHOWROOM」を引き合いに出し、能動的メディアと受動的メディアの戦略の違いを語る。

構成:オバラミツフミ

秋田県湯沢市出身。趣味は商店街を歩くことと喫茶店を巡ること。
Twitter:@ObaraMitsufumi
Mail: obaramitsufumi[アット]gmail.com


編集:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
編集者・ライター。リクルートホールディングスを経て、独立。修士(東京大学 学際情報学)
Twitter:@_ryh
Mail: ry.h0508[アット]gmail.com

カメラマン︰松平伊織

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