佐々木俊尚が探求する21世紀型"メディア・シェア・ライフスタイル"コミュニティ「LIFE MAKERS」

2016.02.17 10:00

情報・メディア・テクノロジーを中心に時代の最先端を読み解き発信してきた作家・ジャーナリストの佐々木俊尚氏。Twitterで毎朝、45万人以上のフォロワーに向けて情報をキュレーションを行うことでも有名だが、今回SENSORSは佐々木氏が昨年より開始した有料会員制コミュニティ「LIFE MAKERS」に注目した。

『電子書籍の衝撃』(2010年)、『キュレーションの時代』(2011年)『ウェアラブルは何を変えるのか?』など、佐々木氏はジャーナリストとして情報技術を中心に先端のトピックにいち早く注目し、概念や趨勢を整理してきた仕事で知られる。
『レイヤー化する世界』(2013年)を一読すれば分かるように、一連の著作にみられるテクノロジー観は技術決定論に偏ることなく、歴史・社会的な思想に裏づけされている。

一方で早くから「ノマド」に着目したり、ヨガや断食を実践するなど新しいライフスタイルの形にも注目してきた。一昨年発刊された『簡単、なのに美味い! 家めしこそ、最高のごちそうである。』などの料理本もその表れの一つである。

"メディア・シェア・ライフスタイル"を三本柱に据え、展開する「LIFE MAKERS」はこれまでの佐々木氏の取り組みを包含したプロジェクトであると言える。なぜ今、"コミュニティ"なのか?LIFE MAKERSを通して何をやろうとしているのか話を伺った。

佐々木俊尚氏:作家・ジャーナリスト。 TABI LABO創業メンバー。メディアとライフスタイルの議論コミュニティLIFE MAKERS主宰。

■21世紀型の"メディア・シェア・ライフスタイル"を志向する"LIFE MAKERS"

本の出版、雑誌への寄稿、メルマガの発刊など、執筆を中心にこれまでのキャリアを歩んできた佐々木氏。出版業界の縮小が叫ばれてから久しいが、ジャーナリズムもその影響を確実に受けている。事実、ジャーナリズムの主な受け皿であった総合雑誌、『月刊現代』、『論座』、『諸君!』などは現在いずれも廃刊もしくは休刊となっているのだ。

佐々木:
リーマンショック(2008~2009年)を境に、ジャーナリズムの活動の場が激減しました。本の部数も下降の一途を辿る中で、もう一度ゼロからジャーナリズムのあり方を見直す必要が出てきたわけです。
この10年で当然、ジャーナリズムの内容自体も変わってきている。例えば、昔は反権力を追及することが多かったけれど、最近では社会の在り様やビジョンをデザインすることにジャーナリズムの意義があるのでないかというシフトが起こりつつある。

佐々木氏が取材やイベントを通じ、多くの人と出会い、対話を重ねる中で浮かび上がったのが"リアルの場"を求める声だったという。
現代社会に悩みや不安を抱えた人が自己啓発本やスピリチュアルに逃げるのではなく、自らが主体となって時代の在り様を考え、作っていくことができる場が必要なのではないか。LIFE MAKERSの三本柱となっている"メディア・シェア・ライフスタイル"にはそうしたメッセージも込められている。

佐々木俊尚氏が主催する主宰する有料会員制コミュニティ「LIFE MAKERS」。コンセプトは「高速で流動していく時代を受けとめていくための「知」と「力」を身につける。」

佐々木:
昔はメディアと言えば、テレビや新聞のように情報を流す企業というイメージしかなかった。今はメディア環境がすごい勢いで変わっていて、FacebookやTwitterのようなSNSもすっかりメディアになっている。メディアの定義自体が変わってきていて、我々が生きている空間そのものがメディアになってきたような感覚さえあるわけです。

加えて、"シェアリングエコノミー"という大きな潮流も無視できない。かつては、高級ブランドを身に着けることが一つのステータスだったり、自己表現だった時代がある。今は家でも車でも、あるいは旅行でさえも全て共有する方向になってきていますよね。モノを作って、売って、利潤を得るという資本主義の根幹が変わるのではないかという議論さえ世界では行われているわけです。
メディアが変わり、"シェア"という文化が醸成されていくと、不可避的にライフスタイルも変わっていくわけです。

一昨年、佐々木氏が出した料理本もこうした背景の中で出版されたものである。テクノロジーに通暁した氏であるからこそ、自然とライフスタイルにも目が向くのかもしれない。

佐々木:
以前から言っている、オフィスを持たずに仕事をする「ノマド」や最近流行りのモノを極力持たない生活態度「ミニマリズム」。非所有的な21世紀型の新しいライフスタイルを考えなくてはならない時期にきている気がしています。当然、「食」もその一つ。高級レストランに行くことがカッコいいわけではないし、無農薬有機野菜原理主義もどこか違う。かといって、コンビニでもない、というその中間のところにもう少し健全な食生活があり得るのではないか。そうした21世紀型のライフスタイルについてLIFE MAKERSで考えていきたいんです。

■テクノロジーは"文房具"ではない、社会や人間にも変容をもたらす

ーー「トークイベント」と「コンパスカレッジ」月に約2回イベントを開かれているそうですが、去年最も印象に残っている方はどなたでしょうか?

これまでLIFE MAKERSに登壇したゲストの一部。基本的には佐々木氏が今会いたい人が登場するのだとか。

佐々木:
参加者も含めて一番衝撃を受けたのは、日立製作所のデータサイエンティスト・矢野和男さんでしょうか。『データの見えざる手』著者の方なのですが、私たちの幸福や、定量化が難しいとされている成果の数値化できるというのです。営業マンは売上という分かりやすい成果指標がある一方で、総務のような縁の下の力持ちの仕事って成果が見えにくいですよね。矢野さんによれば、誰がどういう行動をしたのかは身分証明書型のウェアラブルデバイスを装着することで可視化できるそうなんです。
データって一見すると非人間的な感じがするのですが、うまく用いることで初めて我々の目では見えない人間の隠れた裏側みたいなものが見えてくる。そこにすごく感銘を受けました。

ーー佐々木さんはこれまでテクノロジーをメインフィールドに執筆活動をなされてきたわけですが、本質的に"テクノロジー"をどのように捉えていますか?

佐々木:
日本人ってテクノロジーを"文房具"だと思っている気がします。例えば、エクセルなんかは人間が読めると同時に機械が読める、つまり構造化ということに一番意味がありますよね。だけど、日本人がエクセルを使うと方眼紙にしてしまう。だから、テクノロジーと聞いた瞬間にそれは小手先の技術であって、人間の本質とは関係ないんだという拒否反応を示す人が少なくないですよね。

ーーたしかに最近の「人工知能」の盛り上がりを見ていても、一部で同じような反応が見受けられる気がします。

佐々木:
そうそう。みんながすぐに「怖い」と言いたがる。テクノロジーというのは人間社会の重要な基盤なんですよね。農業という技術が発明されて、人間社会がものすごく変わって、都市文明が生まれました。産業革命が起こり、その技術によって人間が都市に住めるようになったとかですね。なので、常に技術が進化することによって社会のあり方や、人間関係のあり方が大きく変容していくという発想が大事になる。

ーーいまだと人工知能のほかに、VRやドローンも盛り上がっています。特に注目されている分野はありますか?

佐々木:
やはり"ディープラーニング"でしょう。例えば、Googleの量子コンピューター開発によるディープラーニングの進化はものすごい勢いで進んでいますよね。つい先日、プロ棋士にAIが勝利したというニュースもありました。ARやVRももちろん面白いんだけど、AIに比べるとまだ想像できてしまうレベルの途中段階。シンギュラリティの議論にしても、その先がどうなるのか想像もつかないじゃないですか。
未来のビジョンって非常に重要だと思っていて、例えば50年後の世界なんて漠然としか見えないわけですよね。深い霧に包まれた森の中を少しずつ前進していくイメージ。全然先行きは分からないんだけど、少しずつ進んでいくと、木の幹肌が見えてきたり、葉っぱの形が分かってくる。さらに木の幹にこんな昆虫や蝶がいるだとか、そういう全容が見えてきた段階で一冊の本になるんです。

■もはやSNSだけでは完結しない、リアルな人間関係が情報の質を左右する

ーー最近感じることとして、佐々木さんをはじめ、堀江貴文さん、佐渡島庸平さんなど情報発信を積極的にされている方々に良質な情報が集まっている印象があります。以前まではスマホを持っている、持っていないが情報格差を生んでいたのですが、最近ではデバイスは持っている前提、別次元で情報格差が起こりつつありますよね。LIFE MAKERSはそうした良質な情報を得る場という狙いもあるのでしょうか?

佐々木:
"ソーシャル格差"ということを僕は以前から言っているのですが、要するにどこから情報を得るかということ。Googleの検索スキルなんて別に大した話ではないので、誰でもある程度の情報は手にできる。ところが今は、SNSとか人間関係経由で情報が入るようになっていますよね。そうなると、良い人と繋がっているかどうかによって情報の質が全く違うんです。
例えば僕は以前から「READYFOR?」のCEO・米良はるかさんと仲がいいのですが、彼女に加え、トークイベントで出会った熱海で町おこしを行う人、Googleの社員で被災者支援をしている人、あるいは池袋でマンション経営を行う人、個性豊かな人々と一緒に熱海に行ってきました。そこでまた質屋をやっている女性に出会ったり、面白い人や情報に芋づる方式で出会えるんですね。

ーー一つの場所に閉じないで、自分自身で動いて情報を得るということですよね。

佐々木:
情報のあり方が人間関係を経由するようになってきたので、もうSNSだけでも完結しない。SNSの外側の人間関係が重要になってくる。もちろんSNSは関係をサポートはしてくれるわけですが、こうしたリアルとSNSの相互作用が輪を作って、その渦中に身をおくことで情報も入るし、新しい出会いもあるんじゃないですかね。

■中間共同体が空洞化した現在の日本、コミュニティは必ず再興していく

ーー最後に、佐々木さんはそもそも"コミュニティ"をどのように捉えられていますか?

佐々木:
やっぱり今って、帰属する場所がなくなってきていると思うんです。大きな社会と自分の間にもう一個中間的な帰属実感があるコミュニティ、つまり"中間共同体"が必要だということは昔から社会学で言われてきたことです。日本で言えば、江戸時代から戦前に至る社会構造の中では農村みたいなものが中間共同体ですよね。戦後、農村が衰退していく中で、企業へと帰属意識の中心軸が移っていった。ところが、2000年代に一気に非正規雇用化が進み、終身雇用も崩れていきました。拠り所となる中間共同体がなくなりつつあるわけですが、もう一度中間共同体的なものの自律的な復興が必ず起こると思うんです。
おそらく20~30年経つと、今のシェアハウスがもっと多様化して、子供から老人が一緒に暮らすことだってあり得るかもしれない。日本のビジョンと併せて、どういったコミュニティがあり得るのかというのを見ていくことがすごく大事だと思います。

佐々木氏はインタビューの最後で、「未来を信じる感覚を持つこと」をミレニアルズ世代へのメッセージとして送った。悲観的になりがちなジャーナリズム。それでも巨視的に見れば徐々に世の中は良くなっているし、テクノロジーは我々の生活をより利便的なものへと向上させてくれている。常に最先端の技術をウォッチし、発信してきた佐々木氏は技術を盲信するのではなく、我々のライフスタイルや社会をいかに変容させていくのかという発想・視点を持つことが肝要だと説く。LIFE MAKERSという新たなコミュニティはそれ自体が"知"のシェアリングエコノミーを体現するものであるとは言えないだろうか。

近日公開予定の後編ではインタビュー同日にBuzzFeed Japan創刊編集長の古田大輔氏を迎えて行われたLIFE MAKERSのトークイベントの模様をお届けする。

取材・文:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。『SENSORS』や『WIRED.jp』などで編集者/ライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。東京大学大学院学際情報学府にてメディア論を研究。最近は「人工知能」にアンテナを張っています。将来の夢は馬主になることです。
Twitter:@_ryh

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