「アート」で企業価値を高めるには--猪子寿之× 小橋賢児ライブエンタメ対談

2017.08.09 15:00

「ライブエンターテインメント」をテーマに行われたSENSORSサロン。ゲストにチームラボ代表の猪子寿之氏とULTRA JAPANやSTAR ISLANDのプロデューサーを務める小橋賢児氏を迎え、MCの落合陽一×齋藤精一がライブエンターテインメントの現在と展望をディスカッションした。

4回にわたってお届けする第3弾記事では、実際にアイデアを形にする際の具体的な交渉作業、そしてスポンサー集めに話題が及んだ。 企業がライブエンターテインメントに投資すべき理由とは。

■交渉は一つ一つの積み重ねから「行政の中のリベロ」を探せ

齋藤精一
(以下、齋藤):
先進的なイベントを行う際には、地元の人や行政への交渉が大変ですよね。小橋さんは、どのように説得されてきましたか?
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(左から)猪子寿之氏、小橋賢児氏(右から)落合陽一氏、齋藤精一氏

小橋賢児
(以下、小橋):
STAR ISLAND」の際には、最初に格好良いPVを作りました。これを見せたところ、感度の高い人たちは「面白そうじゃん」と言ってくれた一方で、そうではない方々に「プロジェクションマッピングでしょ」などと言われ、リアルな花火のイベントだと思ってもらえませんでした。
落合陽一
(以下、落合):
規制は言語で記述されているから、イメージできない人に説明するの難しいですよね。
小橋:
前例のないイベントを説明する際は、世界の似たような事例をつなぎ合わせて説明するしかありません。言葉と絵と映像を使って必死に説得します。しかし、「こんなのできないですよ」、「いや、僕らのイベントはこうじゃなくて、こうなんですよ...」といったやり取りが日常茶飯事で、役所をたらい回しに合うことも少なくありませんでした。十人十色の考え方があり、十人を十人同じように説得するのは難しい。

でもそうやって一つ一つ積み重ねていくうちに、あるときに助っ人みたいな方が現れて助けてくれたりします。
齋藤:
いますよね、行政の中で世話をしてくれる人が。僕はそんな人たちを、「行政の中のリベロ」と呼んでいます。
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齋藤:
アイデアは最初に構想したものが一番良い状態だと思っています。スポンサーとの調整、法や条例との兼ね合い、会場の設備といった現実的な問題をクリアしていく過程で、最初の発想をどれだけ残せるかが重要です。
小橋:
そうですね。でも、逆に規制のおかげで発想が転換できてより良いものが生まれることもあります。たとえば、規制の緩い海外ではビルから火を出せる都市もありますが、日本の消防法ではできません。

世界とのギャップをどう埋めるかを考えていく中で、3Dサウンドやライティングのアイデアが生まれました。日本の規制の中でどう実現するかを考えていくうちに、逆に日本独自の発想が生まれてくることもあるのではないでしょうか。

■スポンサー探しの鍵は、「未来の共有」

齋藤:
「スポンサー集め」も気になります。泥臭い話ですが、イベントも予算によってできることが大きく変わる。小橋さんはどのようにされていますか?
小橋:
僕はもともと映画畑の人間です。役者もやっていましたし、監督として映画を作ったこともあります。だから、実行委員会形式で一緒に協力していただける人や企業さんと組んで作り上げていくのが性に合っています。「ULTRA JAPAN」ではエイベックスさんと組んで、スポンサー集めをしていきました。

ポイントは、企業の方と「未来の共有」ができるかどうか。企業さんは、前例のないものにはなかなか乗ってくれません。相手側の立場に寄り添って提案していくのが重要です。
齋藤:
チームラボの「資生堂 presents チームラボ かみさまがすまう森のアート展」では、どのようにして企業の方にスポンサーになっていただいたんですか?
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猪子寿之
(以下、猪子):
「かみさまのすまう森のアート展」の場合は、気づいたら創りはじめていて、スポンサーなどが決まる前から御船山楽園さんと準備しはじめていました。御船山の森にいるうちに、作品も増えていって「このままだとまたとんでもない赤字になってしまう...」と(笑)。そんな時期に、たまたま企業の社長さんがチームラボに遊びに来てくれました。奇跡的なことです。

■グローバル×長期で考えれば、アートは合理的

猪子:
長い歴史をかけて生まれた、自然や人の営みの集積である「ヘリテージ」は絶対にいくらお金があってもつくれないものだと思っています。それを支援し借りることこそが、企業にとって本質的なグローバルブランドの向上になるのではないでしょうか。

商品を売り込んだり、有名人にCMに出てもらうことも効果があると思います。しかし、それはグローバルでブランドができていくことではない。ヘリテージを大事にし、その力を借りている企業がグローバルブランドになっていくんだと思うのです。
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猪子:
長期的かつグローバルな視点で考えている国際都市の人たちにとって、アートは非常に合理的な手段です。それに対して、日本はローカルで短期的に物事を考えるから「アートは非合理だ」となってしまう。
落合:
既存の広告産業の体系に乗ってしまうと、短期的な目線でしか経済指標を計れない。しかし、100年スパンで考えれば合理的な選択になり得ます。
猪子:
たとえば台湾では、大企業が無価値な土地を買ってそこにオフィスを引っ越したりします。そこに、膨大な金額で巨大なアートを作るんです。アートによって、場所の価値が上がっていく。やがてその土地の不動産価値が5%でも上がれば、数十年スパンで考えればめちゃくちゃ安上がりなはずです。
落合:
誰も価値だと思わなかったものを価値あるものに変える。これが実は経済活動の中で最もお金になります。その手段としてアートが合理的な選択なのは間違いない。 日本でも 「大企業はこのままだとやばい」と言われているなか、グローバル×長期のシナリオに舵を切っている企業が増えているように思います。
齋藤:
猪子さんや小橋さんのイベントは「文化を創るもの」じゃないですか。それに対してのスポンサードにはすごく効果があると思っています。企業にとって、CSRだけでなく、宣伝や広報として取られるべき戦略ですよね。
小橋:
最近はクラウドファウンディング等で、個人が特定のプロジェクトを支援をする動きもありますよね。皆さんはクラウドファウンディングについてどうお考えですか ?
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落合:
お金持ちになると、「100万円出すから、全然見たことのないものを見せて」という欲求が高まると堀江貴文さんと話したことがあります。そういう人の支援をいかにもらうかも大事ですよね。
齋藤:
1フォー・アーツ」という制度があります。公共建築物を建てた際、その費用の1を建物に関連するパブリックアートに割かなければいけない制度です。欧米だけでなく、韓国や台湾でも導入され始めています。寄付金控除などもそうですが、企業や個人がアートに投資するインセンティブを持てる制度をいかに作っていくかも重要ですよね。

続く「世界は変えられる-参加型エンタメと教育の未来」では、「街アート」「参加型エンターテインメント」「教育」といったキーワードでライブエンターテインメントの未来を考える。 日本が「街アート」に向いている理由とは。 そして、参加型エンターテインメントから発想されるこれからの教育のあり方についてディスカッションを深めていく。

【ライブエンターテインメント--猪子寿之×小橋賢児対談】
テクノロジーで「歴史」を可視化、ライブエンタメ最前線
伝統の価値をテクノロジーで未来に紡ぐ
「アート」で企業価値を高めるには
④世界は変えられる-参加型エンタメと教育の未来

構成:原光樹

1995年生まれのライター/編集者。慶應義塾大学総合政策学部で社会学を専攻。関心は、テクノロジー、カルチャー、哲学、思想など。Twitter:@chanco_key
Mail: koki.hara.7[アット]gmail.com

編集:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。修士(東京大学 学際情報学)。Twitter:@_ryh
Mail: ry.h0508[アット]gmail.com

写真:延原優樹

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