「地域×デザイン」日本をもっと楽しくする挑戦者〜ライゾマ齋藤精一×ロフトワーク林千晶×エムテド田子學

2016.03.09 20:00

2月26日(金)虎ノ門ヒルズにて開催された「SENSORS IGNITION 2016」トップバッターパネルセッション「地域×デザイン 日本はもっと楽しくなる!」。デザイン業界で活躍する登壇者がデザインとテクノロジーの力を使い、どのように地域の価値を高めているのか?各地域におけるイノベーティブな取り組みの数々が紹介された。

登壇者は、株式会社ライゾマティクス代表取締役/クリエイティブディレクター・齋藤精一氏、株式会社ロフトワーク代表取締役・林千晶氏、株式会社エムテド代表取締役・田子學氏。モデレーターは、株式会社HEART CATCH 代表取締役 / SENSORS.jp編集長・西村真里子が務めた。

■「街×ハック」「林業の再定義」「みえるまち」地域の課題に沿ってデザインされる取組紹介

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西村:
まずは皆さんのお取り組みについて、ご紹介をお願いします。
齋藤:
僕はバックグラウドが建築なので、「デジタルを通して街に貢献したい」という想いがあり、街とテクノロジーの融合というテーマで様々な取り組みを行っています。ライゾマというとデジタル、広告の会社という側面が強いと思われることが多いのですが、2012年に実施した「FULL CONTROL TOKYO」をキッカケにデジタル×空間、体験を作る機会が増えてきました。
このプロジェクトでは「スマホで街をハックしたらどうなるか?」という観点でムービーを作りました。最終的にミラーボール上の気球が出てきてパーティーになるというオチがついています。公開と同時に、「この作品を街で実際にできないか」というお声がけをいくつか頂いたことから、デジタルを活かした街づくりができるのではないかと考えはじめました。
現在は、参加型のアートフェスティバル「六本木アートナイト」や、アートで街を繋ぐ「Media Ambition Tokyo」、都市に暮らす多様な人々を対象に公共空間を使ったプロジェクト等を展開する「Playable City」などを展開しています。
地方でいうと、2015年12月仙台に新開通した「仙台市地下鉄東西線WE」の市民参加プロジェクトを行いました。
「FULL CONTROL TOKYO」
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​株式会社ライゾマティクス代表取締役/クリエイティブディレクター・齋藤精一氏

林:
「飛騨の森でクマは踊る(通称・ヒダクマ)」という官民共同の企業をたち上げ、クリエイティブな視点で飛騨の森に新しい価値を生み出す事業を行っています。日本が抱える林業の問題は深刻で、戦後に経済性を優先しすぎた結果、いま日本の多くの森は手入れがあまり行き渡っていません。すると森の治水力が落ち、例えば動物たちの餌が減ったり、災害の起きやすい環境になってしまいます。ヒダクマは、事業を通じて飛騨の森林を健やかにすることで、生態系のバランスを保ち、地域の暮らしも支えていきたいと考えています。また日本の課題である林業にテクノロジーを駆使して向き合い、クリエイティブな解決を図り、伝統の知恵や技の伝承のため、データをオープンにして世界中のクリエイターたちと共有し、新しいかたちやプロダクトをつくり出すことを目指しています。
建造物や家具など、木材は私たちの身近にありますが、誰がどこでどう造っているか生産のプロセスを可視化し、木材を選ぶことが生活の一部になりえれば、日本の林業も変わるかもしれないと思っています。
今後の展開としては、飛騨の地に江戸時代から受け継がれてきた大きな古民家をリノベーションして、「FabCafe Hida」を2016年4月16日にオープンします。「FabCafe Hida」では、デジタル工作機器を使いながら地域の職人や建築家、デザイナーと交流したり、組木をデータベース化して作品を試作したり、宿泊もできるというスペースを運営します。
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​株式会社ロフトワーク代表取締役・林千晶氏

田子:
京都府与謝郡与謝野町で、クリエイティブディレクターとしてデザインを用いて町づくりをしています。私に声がけくださった若い町長(就任当時は日本最年少の町長)がかつてフランスで建築を学んでいた時に、故郷のグランドデザインの必要性を感じていたのがきっかけでした。
その一つの政策が、ビールの原産である「クラフトビール醸造事業」です。これまで国産ホップ農家は大手ビール会社と契約していることから、国内の小規模ビール醸造所が国産ホップを入手することは困難でした。そこで与謝野町ではフリーランスの生産者組合で試験栽培に着手したのです。昨年無事に収穫されたフレッシュホップは小規模醸造所に提供され、無事にビールが完成しました。中にはなんと3時間で完売してしまったケースもあります。
与謝野町のブランドコンセプトは「みえるまち」です。与謝野町の持つ山・川・海、全ての自然をグランドデザインに取り入れました。
例えば、天橋立をのぞむ阿蘇海は、穏やかな内海なのに誰も入っておらず、護岸には柵がかかっていて景観もだいなし。せっかくの環境なのに活かされず非常にもったいない。その美しさを発信するためそこに船を浮かせ、人が入れるようにしたらどうかと提案しています。
このように阿蘇ベイリアの再構築を図るプロジェクトが町づくりの主要施策になっています。他にも、地元の方に起業する働きかけを行うべく、テストマーケットを3日限定で実施し、期間限定でオープンしたカフェには述べ600人ほどの来場者がありました。
平成27年度に練り上げた様々な企画は、まさに今春から新しい一歩を踏み出します。
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​株式会社エムテド代表取締役・田子學氏

■地域の価値を再デザインする--デザイナーが貢献できることとは?

西村:
次のテーマは、「デザイン」の力は「地域」にどのように影響を与えるか、です。皆様の取り組みの中で、デザインの力でどのような化学反応を起こしたのか?教えていただけますか?
林:
地域には、都会とは異なる価値観があります。たとえば東京では経済性や合理性を基準に判断することが多くありますが、地方ではそういった数字や規模ではなく、柔軟性やたくましさといった「強度」の高さが感じられるんです。
100年300年と続いてきた土着の文化や伝統に寄り添いながら、都会的な感性やテクノロジー、クリエイティビティを混ぜ合わせ、そこから生まれる新たな価値に出会いたい、と思っています。
デザインとは、ものごとの本質を捉え、何と何が繋がれば新しい価値をうみだすことができるのかを思考することでもあります。地域でいまも大切にされている伝統的な価値観をどうデザインし、そして今もう一度私たちの暮らしと結びつけるかが大切ですよね。
田子:
今こそ「デザイン」という言葉が使われますが、「デザイン」を正確に理解している人は少ないのが現状です。デザインとは、全体をシステムとしてとらえ、どう循環させていくかを設計する事。地域で「デザイン」というとお土産物のパッケージをどうするか?というような狭義のデザインの話になることが多く、この「デザイン」の認識のギャップが凄く大きいです。個別最適化にとらわれない広義での「デザイン」を地方にも浸透させることが、トリガーになると思っています。なので、僕たちが「デザイン」の本質的意義を実践を通して伝えることが、今後の大きなインパクトに繋がります。
西村:
まさに皆様「デザイン」は問題解決というマインドで取り組んでいらっしゃると思いますが、林さんの感じている課題は何でしょうか?
林:
高度成長期は、ものを生産する国とそれを買う国という需要と供給が成り立つ仕組みで、ものをどんどん作っても売れる時代でした。しかし現在、ものづくりをする国の人口は、買う国の人口の2倍。ものが溢れすぎる時代の中で、今までと同様のスキームでものづくりをしていてもかつてのような需要と供給のバランスは保てません。
未来を見据えて、この後なにが起こるかというと、インターネットやテクノロジーの発展で、世界中で移動する人・旅行する人たちは「体験」を求め、より深く味わいたいという時代になります。そして、豊かな体験を提供する動きが加速すると考えています。地域は、単純に伝統や歴史や文化を守るというよりも、より意味のある文脈で語られるようになると思います。
齋藤:
僕は、地域独自のオペレーションシステムを創ればいいのではないかと思っています。現在デジタルの必要性が叫ばれていますが、根本は「人と人がつながる」という人間くさい部分で成り立っていますよね。その上で、例えば地域の商品をグローバルに発信したり、多くのことがデジタルによって可視化できますよね。こうして、実空間とデジタルをつないでなにが出来て、その結果、人がどう繋がるかを形にすることが大事だと思います。
また、逆に、地域で余っているものを地域内で分け合ったり、スキル・リソースを地域内でシェアしたり、地域独自のエコシステムを設計するのも可能ではないでしょうか。
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林:
私は、物々交換の経済システムが復活しないかと期待しています。この前とあるカンファレンスのチケットを販売した際、桃農家の方から、チケットを桃100個で交換できないかという相談をされました。もちろん交換しましたよ(笑)。数万円をもらうよりも桃農家から美味しい桃が100個も届くのかと考えるととてもワクワクします。この世界観を、テクノロジーの力で実現できないか考えています。
齋藤:
物々交換がそれこそ地域で実現できないかと思いますよね。CMやネットサービスなど、広いターゲットで行うと個人情報の問題でハードルがあがりますが、地域展開だと、「となりのご夫婦のベビーカー」など、使っていた人のストーリーも含めて商品価値になるのではないでしょうか。
西村:
与謝野町のカフェは物々交換だったんですか?
田子:
与謝野町のカフェは残念ながら金銭でした(笑)。しかし面白い事に、カフェの価格設定はあの地域でいうと高めだったのですが、空間やおもてなしを気に入って頂き、お客様はとても満足して払ってくださいます。その価値はその土地だからこそ出せるという体験でした。
林:
「安い」「高い」の概念って、とても不思議ですよね。例えば、電車の切符を40円間違えるとすごく損した気分になるけれど、レストランで美味しい食事をするときは40円の差額はあまり気にしないですよね。つまり、私たちは何が欲しいのかという欲求をベースに価格設定をしているんですよね。今までの価格設定の概念を変えることがデザインのができることだと思います。その意味では、地域で埋もれている、実際は価値あるものの市場価値を再定義するのが、デザイナーの大事な仕事かもしれません。
田子:
たしかにその通りですが、僕は、個別最適化目的のデザイン、つまり「商品にお化粧をして価値をつける」という方法は今後課題になるのではないかと感じています。
一方で与謝野町が面白いのは、商品うんぬんではなく、「与謝野町をどうにかしないといけない」と感じている地域のプレイヤーが集まっていることです。彼らがつくるお米や品物は、クオリティーがとても高いんですよ。僕らの仕事はそんな人・ものに気づき、引き出すことではないでしょうか?

■面白い地域デザイン事例を作るには地方が有利?

西村:
「東京は大企業・地域はベンチャー」という構図での考え方はどう思われますか?
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​株式会社HEART CATCH 代表取締役 / SENSORS.jp編集長・西村真里子

林:
その通りだと思います。東京など都会は、経済性を重視しグローバルな市場で戦う場所であるという側面もありますが、地方は小さな挑戦をたくさんするべきだと思いますしできると思います。しかしこの二つは繋がっていないと意味がない。
地域で起こった新たなイノベーションを都会が必要とした時、その瞬間地域側に求められる量や質が変わるはずで、その関係の中には、新たな「東京と地域の繋がり方」が必要ではないでしょうか。
田子:
僕も「大企業・ベンチャー」と、「東京・地域」の関係はとても似ていると思います。東京は大規模で中身が見えにくいですが、地域は各キャラクターがあり、熱しやすく動きやすい。地域にロールモデルができたら、東京が注目するし、東京と地方が連携することで経済的にもいい関係が生まれるという可能性もあります。それを理解した上での僕の結論は、「東京のオーダーには応えない」こと。応えると今までと同様、生産に無理が生じ、産業構造がおかしくなります。市場論理に流されることなく、我慢して応えないことも、一つの解だと思います。

■「地域×デザイン」の取り組みを目指すクリエイターへ

西村:
最後に「地域×デザイン」に興味のある方々にメッセージをお願いします。
齋藤:
僕はずっとことあるごとに「デジタルで町づくりに貢献したい」という話をしており、仕事の繋がりできっかけを頂きました。
地方には多くの問題があり、その問題に対して、今なら分かりやすく貢献できるチャンスがあります。この課題に取り組む人が増えれば、日本のシステムも変化するのではないでしょうか。
林:
地域にある古き良き価値を再定義し、デザインをしなおして未来に繋げることが、この分野の大事な役割だと思います。
地域の取り組みに関わるためには、とにかくいろいろな場所に行くのが一番です。足を運んで素敵だなと感じた所からプロジェクトが始まると思いますよ。
田子:
不思議と「想い」があると勝手に繋がるものです。
僕自身も、与謝野町の想いを受け取り関わるようになると、おもしろい出会いやチャレンジが湧き出てくるんですよね。想いがすべてを繋げると思います。しかし、地域での取り組みとは地道な作業で、1見せるためには、100の地道な努力が伴います。信念を持ち続け、根気よく続けることが必要です。

インターネットが世の中を網羅したおかげで 地域の強さを世界に発信しやすくなった 時代、日本の各地域をデザインし、強みを発信し、小規模コミュニティで経済活動を回していくことが次世代を作るキーワードではないか?と考えさせられたセッションでした。自分の住む街、生まれた街を自治体だけに任せず自分ごととして捉えることにより日本はもっともっと楽しくなる、と考えます。

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取材・文:石根ゆりえ

広島生まれのストーリーテラー。大手IT企業〜スタートアップにて、webマーケティング・PR・広報経験を経て、独立。アジア圏の「スタートアップ/イノベーティブなものづくり/伝統×新しさの融合」をテーマに、調査・執筆。 好きな言葉は諸行無常。
Twitter : @yurieru1115 / Facebook : yurie.ishine

写真:延原優樹

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