「ジモコロ」徳谷柿次郎×「灯台もと暮らし」鳥井弘文〜Webメディアが"地方"に対してできること

2016.03.24 13:00

どこでも地元メディア「ジモコロ」の編集長・徳谷柿次郎氏とこれからの暮らしを考えるウェブメディア「灯台もと暮らし」を運営する鳥井弘文氏による対談。「地方」にスポットライトを当てた2つのメディアには、名は知られていなくとも生き生きとした暮らしを送る人々が数多く登場します。地方を盛り上げるためにWebメディアができることとは何でしょうか?色は違えど、向かう方向性に共通点が見えるお二方にお話を伺いました。

「灯台もと暮らし」では徳島県・神山町島根県・海士町岩手県・遠野市といった日本の地方にある町や村に密着した濃密なコンテンツが展開されています。各特集は単発記事ではなく10〜30程の記事から構成され、そこに住む人々十人十色の瑞々しい姿をうかがい知ることができるのです。

一方の「ジモコロ」も徳島高知、さらには東京から最も近い離島・初島に出かけて行き、土地に根付く"地元愛"を発信しているわけですが、読者として最も楽しみなものの一つが登場する地元の"人"。一番有名なものだとクワガタとタケノコでフェラーリを買ってしまったという静岡の伝説の農家・風岡直宏さんでしょう。

【左】徳谷柿次郎氏【右】鳥井弘文氏

二人はなぜ地方に焦点を当てるのでしょうか。また、Webメディアは地方の市町村に対して何ができるのでしょうか。お二人にお話を伺いました。

■東京のバイラル・キュレーションメディアに対するカウンターの感覚

ーーお二人はお互いのメディアをそれぞれどう見られていますか?

鳥井:
一番印象に残っているのはやっぱりクワガタでフェラーリを買った話ですかね。現地に入ってから取材する人を見つけて話を聞いて、どんどん掘っていく立て付けがすごいなと。あの感じは新しいですよね。
やっぱりローカルメディアというと読者が見たい世界観みたいなものが明確にあって、それに寄せていこうとしてしまいがちです。そうすると途端に胡散臭くなってしまうというか、"丁寧な暮らし"みたいな...。「でも、それだけじゃないよね」っていう話は社内でもよくします。
柿次郎:
僕は何も知らないから、型がないんですよ。だからそういうやり方にたどり着いたのかもしれない。例えば、急に『BRUTUS』を任せられたら、『BRUTUS』っぽくなるじゃないですか。僕の中には何もローカルメディア像がなかったので、おそらく根っこにあったのはテレビ番組みたいなもの。世代的にもテレビっ子ですからね。
クワガタの記事はたまたま見つけて、そのままのテンションで書いて、実際に届けたことが一つの成功体験になっています。今はこの路線がメディアにとって一つの要になると思っていますね。
鳥井:
分かります。東京にいながらにして地方に取材するものはすでに手垢が付いているものや、あちら側が見せたいものだったりするわけですよね。それはつまらないというか、新しくもないし、本来僕達が見せたいものではない。
僕らのメディアは2015年の1月1日にオープンして神山町の特集から始めたのですが、1月8日に広岡早紀子さんという方の記事を出しました。
地元の住民と移住者の方々の間にある溝に対しての違和感を赤裸々に語ってくれた記事なのですが、広岡さんはもともと僕らが取材しようと思っていたわけではないんです。たまたまうちの編集部が取材していた先に居合わせただけなのですが、話がすごく面白かったので記事にさせてもらったんですよね。
柿次郎:
「ジモコロ」には東京のバイラルメディア、キュレーションメディアに対してのカウンターみたいな感覚があって、リソースの多くを地方につぎ込んでいます。雑誌とかではわりと普通の感覚かもしれないのですが、"脱Web"みたいな感覚は持っていますね。
鳥井:
僕らもどんなメディアをやろうかメンバーと喧々諤々の議論を交わしている時に、バイラルメディアの対極をやっていきたいというのはありました。そもそも今やっているメンバーは雑誌が好きで、Webにそれほどこだわりがない。後々は紙で「灯台もと暮らし」を展開することもあり得ると思っています。そうしたこともあって、現地に入って1次コンテンツを作る現在のやり方になっていますね。

■取材における人との出会いが"ドライブ感"を生む

ーー「灯台もと暮らし」の一つの特徴として"特集感"がありますよね。一つの地域に対して記事が10〜30本と豊富に用意されている。ここはやはりこだわっている部分ですか?

例えば徳島県・神山町の特集には24本の記事がラインナップされている。

鳥井:
そこはこだわっていますね。現地にいるまだあまり名の知られていない人々へインタビューをさせてもらうことで、その地域を多面的に見せたいという思いが強いんです。テレビや雑誌だとどうしても尺や紙面の制限がありますが、それを考えなくていいのがWebメディアの特性ですよね。
あと、僕達が作った地域特集が意外と現地の人たちにとっても有益な情報にもなったりする。うちのメディアを見て、同じ地域内に暮らす人々が「あの人は、こんなこと考えていたのか」という発見があったりするんです。現地の人同士が理解し合える一方で、現地に入って情報収集したい人にとってはガイドブックのようにもなる。必ずしもバズる必要はないんです。
柿次郎:
最近、取材の流れの中でネタが見つかって次の取材につながっていく"ドライブ感"を覚える瞬間があります。例えば島根取材の後、島根県人が集まる都内のイベントに出ることになって、そこで島根県・海士町へ移住直前の男性の方に会うことができました。移住後の話はあっても、移住直前って珍しいじゃないですか。その場で話を聞いて、海士町へ向かう羽田のフライトの直前にインタビューをお願いすることができたんです。また半年後もしくは1年後に追加インタビューができたら素敵かなと。

鳥井弘文氏(株式会社Wasei代表、『灯台もと暮らし』を運営)

鳥井:
わかります。"ドライブ感"が出ると、自分自身がすごく楽しくなってくるんですよね。仕事をしているというよりは、RPGをやっているような感覚というか。

ーーその"ドライブ感"というのは、やはり取材における人との出会いがフックになるんですか?

柿次郎:
出会いもそうですが、まずは自分の背景や個性が伝わっていないと受けてもらえないというのはありますね。島根に滞在した3日間で体験したことを現地で行われた小規模のトークイベントで話したら、聞いてくれた人も面白がってくれて、そこから良い関係ができました。
有名じゃなくても面白い人はたくさんいます。面白い人の面白い話を引き出せたときが、取材をする側にとって一番アドレナリンが出る瞬間ですね。

■ローカルを取材する場合は、ライターのキャラを出すべき

ーー"面白い人"とは具体的にどういったタイプの人たちなのでしょうか?

柿次郎:
自己犠牲ができて利他的というか、自分のためよりも誰かのために動き続けられる人。マグロみたいに「止まれない」という状態の人に出会うと、すぐに巻き込まれていくんですよね。
鳥井:
そういうタイプの人は前に出たがらないのですが、内に秘めているものがすごくアツい。それを引き出すことができれば、どんな場合でも面白くなるんですよね。
「この読者にウケそうだから」という下心で記事を作るのではなく、「実際に取材をする編集者が本当に面白いと思うかどうか」。編集者が読みたいと思う記事なら、刺さる人にはちゃんと刺さるはずだと思います。

徳谷柿次郎氏(『ジモコロ』編集長)

柿次郎:
旧来のライター編集の考え方だと自分の個を出さず、俯瞰したところから記事を書く、そんな流儀があったと思いますが、ジモコロを運営するバーグハンバーグバーグは会社の成り立ちから個を際立たせてきました。個を突き詰めた方が、「この人が言うから面白い」とファンもついてきてくれます。ファンが付きすぎても怖いんですけどね。
鳥井:
個人がそのキャラクターを際立たせて書くということは、ローカルとすごく相性が良いと思うんです。東京で取材する場合は取材対象者が有名なケースが多いので、ライターは一歩下がった方がいいのかもしれない。しかし、ローカルの場合はまだ名は知られてないけどキラリと光るものはあるという中で、ライターが個を出してそれを引き出すというのは理にかなっていますよね。まさに、鬼に金棒だと思います。
柿次郎:
個人のキャラクターができていると良いですよね。
正直メディアのブランドが効くとも思っていないので、個人のコミュニケーション能力と普段作っているもので判断してもらうしかないと思ってます。

後編「"地方"に目覚めた原体験とこれからの関わり方」では二人がそれぞれのメディアを運営する上で大事にしているKPIについて、鳥井さんは「リアルな声」を挙げ、柿次郎さんは「PVは素直で良いやつだ」と語ります。メディア、地方、それぞれの文化が醸し出す"独自性"の源泉、二人が"ローカル"に目覚めた原体験、そして二人が目指す先にあるものとは?

取材・文:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。『SENSORS』や『WIRED.jp』などで編集者/ライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。東京大学大学院学際情報学府にてメディア論を研究。最近は「人工知能」にアンテナを張っています。将来の夢は馬主になることです。
Twitter:@_ryh

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