【ローカルメディア対談】「ジモコロ」徳谷柿次郎×「灯台もと暮らし」鳥井弘文〜"地方"に目覚めた原体験とこれからの関わり方

2016.03.25 11:00

どこでも地元メディア「ジモコロ」の編集長・徳谷柿次郎氏とこれからの暮らしを考えるウェブメディア「灯台もと暮らし」を運営する鳥井弘文氏による対談。日本の地方にスポットライトを当てた2つのメディアには、名は知られていなくとも生き生きとした暮らしを送る人々が数多く登場します。地方を盛り上げるためにWebメディアができることとは何でしょうか?色は違えど、向かう方向性に共通点が見えるお二方にお話を伺いました。

前編「Webメディアが"地方"に対してできること」では二人が持つ東京のバイラル・キュレーションメディアに対するカウンターの感覚、取材における人との出会いが生む"ドライブ感"、ローカルメディアにおけるライターのキャラを出すべきといった点が語られました。

【左】徳谷柿次郎氏【右】鳥井弘文氏

■二人のメディアのKPI:「リアルの声」と「PV」

ーーよく聞かれると思うので恐縮ですが、お二人のメディアにおけるKPIは何になるんでしょうか?

鳥井:
いつも困りながら答えるのですが、まずPVなどではないです。うちはイベントもよく開催します。そこで直接お会いした方に話を聞いて「あの記事が良かったです」みたいな声を聞いて、何が刺さっているのかを確認することはすごく意識しますね。またそのイベントにどれくらいの人が集まるのかというのも一つのKPIになる。なので、もしこの質問にお答えするとすれば「リアルの声」ということになるでしょうか。
柿次郎:
僕は鳥井さんと少し違っていて、よりネット寄りの考え方かもしれないです。KPIはまだそれほど気にしていないですが、PVの目安はわりと大事にしています。
僕はPVを素直で良いやつだと思っているんですよ。切り口と企画性があって、しっかり丁寧に記事を作れば、正当な評価が数字に表れる。丁寧に作る前提でのPVは信頼できると思っているので、煽らず釣らずの温度感でタイトルや構成を熟考して、はてなブックマークがどれだけ押されるのかは気にしてますね。
鳥井:
ジモコロさんの記事ははてなブックマークと相性がいいですもんね。

徳谷柿次郎氏(『ジモコロ』編集長)

柿次郎:
そこはインターネット育ちとして大事にしている文化です。ライターのモチベーションにもなりますしね。鳥井さんのようにリアルイベントもやりたいと思っていますが、現状リソースが足りてない部分もあるので、とにかく今僕は色んな人と会って、仲良くする。一回掴んだ縁を連鎖させて、記事にしていく。とはいえ、このままでは個人の力に依存しているので、組織として再現性のあるものに変えていかないといけません。

ーー今はどういった体制になっているんですか?

柿次郎:
一応、社内は僕含めて3人。社員の大半が記事を書くような状況ではあるのですが、外部ライター10〜15人にも月イチペースぐらいでお願いしています。悩みとしては、地方取材に2泊3日で行ったとしたら、その他の仕事はほとんど止まってしまう。そのツケを東京に戻ってきてから自分で取り戻さないといけない。これが体力的にも精神的にも大変ですね。いかんせん現場が好きすぎるので止められませんが(笑)。

ーー鳥井さんはどういった動き方をされていますか?

鳥井:
うちの編集部は4人。僕はディレクションが中心でコンテンツを編集する部分は一切やっていないので、実際に書いているのは3名です。外部の人はほぼいないですね。
柿次郎:
あのコンテンツ量を3人で回すのはすごいですね。

■メディア、地方の文化それぞれの独自性の源泉とは

鳥井弘文氏(株式会社Wasei代表、『灯台もと暮らし』を運営)

鳥井:
外部ライターを入れるという話もあったのですが、そうするとメディアの色が失われてしまう危機感もあったので、どうしても最初の一年間は自分たちだけで内製したかったんです。今は徐々にうまく回り始めているので、もし「『もとくら』で記事を書きたい」という人がいれば、ぜひ入ってほしいなと思いますね。
柿次郎:
メディアも出自によるところが大きいのではないかと思います。地方もそこにどんな資源があるかで文化は変わってくると思いますが、バーグハンバーグバーグにも元々『オモコロ』という資源があった。その中で、お笑い的な面白さだけではない、好奇心的な面白さを売りにした『ジモコロ』は少し異質かもしれないです。
鳥井:
持っているものからスタートするからこそ、独自性が生まれてくるんだと思うんですよね。そもそもなぜローカルが面白いかというと、そのローカルの独自性が衣食住に表れるからではないでしょうか。。そして衣食住は気候・風土によるところが大きい。海に面して港がある街だからこういう魚が獲れてこういうおみやげが生まれたとか、山奥の盆地にある村だから葡萄が採れてワインが作られるようになったとか。ただ、グローバル基準に従って皆が東京のような都市を目指そうとすると、その土地の独自性を無視して一個の正解に向けて進んでしまい同じところに帰結してしまいがち。逆にボトムアップで、今あるものをどうしたら面白くできるのかという部分が重要で、それを上手く考えられている地方が今おもしろくなってきていると思います。
地方の独自性と、バーグさんの記事づくりの独自性がうまくかみ合っている要因もここにあるのではないかと、なんだか腑に落ちました。
柿次郎:
うまくまとめてもらってありがとうございます(笑)。「僕は公私混同でやっている」とよく言うのですが、自分で選んだ土地に行けば、気になった人と出会えるし、美味しいものも食べれる。取材をした人とそのまま仲良くなることも珍しくありません。人生を豊かにする意味では、こんなにもやり甲斐のあることはないですよね。
鳥井:
そういうつながりが生まれることによって、たとえ金銭的には儲かってはいなくとも、豊かさみたいなものは感じますよね。ローカルメディアには読者や集材対象者の方々とダイレクトでつながっている、手触り感がある。
「東京のために」とはなかなか思えないけど、「地方のため」だったら住むことで何かを変えられるかもしれない。規模感が小さいがゆえに、自分がダイレクトにその地方に貢献している感覚が生まれてきて、それが僕らの世代からすると新鮮なんでしょうね。上の世代の方々からすると「青いな」と言われる部分だとは思いますが。(笑)

■二人がローカルに目覚めた原体験・瞬間

ーーお二人が「ローカル」に目覚めた原体験のようなものはあるんですか?

「ローカル」に目覚めるきっかけの一つとなった、長野での薪割り体験

柿次郎:
30歳までほとんど旅行もしたことがなくて、海外へ行ったのも30歳を過ぎてから。30歳になってからローカルに魅せられて、ワァーっと行くようになったんです。
インドアからアウトドアになったきっかけが長野での蒔割り体験。Facebookで「蒔割りやってみたい」と言ったら見ず知らずの人が家に招いてくれることになったんです。2日間で7時間くらい蒔割りをしていたのですが、それがむちゃくちゃ楽しかった。合間で水分補給のために食べたトマトやキュウリも本当に美味しい。東京にいるときに気になってた虫も全く目に入らないくらい夢中になってました。見ず知らずの人の家に滞在するということ自体が自分にとっては踏み込んだ瞬間だったんです。
そのままローカル線に乗って白馬の方まで流れて、ラフティングとか今までにやったこともないことも体験できた。ローカルの原風景を一人で眺めながら、EVISBEATSの大好きな曲『いい時間』を聴いたときにハッとなったんです。
EVISBEATS【PV】いい時間

ーー鳥井さんはいかがですか?

鳥井:
僕も同じようなものですね。大学を卒業してすぐに中国の北京で働いて、そこから東南アジア8カ国を周りました。そこですごく感じたのは市街地は目指している方向性が同じだということ。ショッピングモールの形や鉄道、みんな同じようなモノを欲しがる。でもそこから離れてローカルに目を向けてみると、まだまだ昔のものが残っていたりして、そっちの方が魅力的に見えるんですよ。
日本に帰ってきてからもこの感覚を持っていて、奈良県の天川村を一人旅したときに感じた気候風土と衣食住の関係性に気が付き、ブログで言語化することができたので、この一連の経験が原体験になっているかもしれません。

■ローカルメディアが目指す先にあるもの

ーー今後メディアとしてやっていきたいことはありますか?

鳥井:
地域特集を作っている中で、その地域に根付いた企業が多いなと感じていて、ちょうど島根県石見銀山に本社を構える群言堂さんの記事を最近出しました。こうした「地域×企業」の特集に力を入れていきたいです。
柿次郎:
うーん。内側(社内)の三角体制はできつつあるので、外の三角体制を作るためにもう一人ライターが欲しいですね。昨年12月に元々知り合いだったフリーライターの根岸達朗さんに参加してもらったんですが、一気に組織力が強くなりました。ライティング・編集の両方ができるし、ローカルにも強い興味がある。もう一人近い属性の人がいれば、ジモコロでやれることがもっと増えると思います。
鳥井:
女性の方がいいんじゃないですかね?この1年間地方を取材してみて強く感じたのは、地方でもコミュニティを作っているのは女性なんですよ。そんな女性たちの話を聞いて、うまく記事を書けるのもやっぱり女性のような気がします。女性だからこそ共感力も強くて、自分目線の記事を書けるからなのでしょうね。
『灯台もと暮らし』の編集長も佐野知美という女性ですが、今までのウェブにはなかった女性目線からの記事を作れている自負があります。ローカルはコミュニティが大切な要素だからこそ、男性だけでなく女性目線を入れることでジモコロさんにも新しい風を吹かせることができると思いますよ。
柿次郎:
ハッとしました、会社が男子校みたいなノリなので考えてもなかったです。たしかにそれはそうかもしれませんね...。もし興味がある人がいれば連絡ください(笑)。

ーーそれぞれの目指す先にあるものとは何でしょうか?

鳥井:
取材する地域や企業、人と伴走しながら一緒に大きくなっていくことじゃないですかね。一緒に積み重ねていくことができるかどうか。
柿次郎:
僕は47都道府県に故郷を作るという壮大な夢があります。大阪の狭い世界で育ったこともあって、より多くの選択肢を自分の中に持っていたいんです。変な考え方かもしれませんが、自分でもなく、子供の代でもなく、孫の代で徳谷柿次郎の血を大成させたいんですよね。ロマンシングサガみたいに能力を継承していってもらって...。

ーーどういうことですか?

柿次郎:
ジモコロの地方取材で得た知識や経験、人の繋がりが財産なんですよね。今後どこに住んでいるのか分かりませんが、もし子供が生まれて大きくなったときに「ほら、どの土地に住んでもおもしろいぞ」って言いたいんです。選択肢は何通りもあるんだぞって。で、子供に強すぎる価値観を押しつけても反発しそうじゃないですか。 だから、子供の代にはなんとなく受け継がせるぐらいに留めておいて...孫の代でその環境を生かして大成してくれたらいいなーって思ってます。

実際に地域へ足を運び、住民の人の声に傾けながら地方のリアルな声を伝え続ける二人。メディアの色は異なれど、同じ方向に向かって走り続ける二人の会話はいつまでも尽きることがありませんでした。
「どんな人の人生にも映画のようなストーリーがある」お二方が運営するメディアの記事を読んでいるとつくづくそう思わされます。個人的には二つのメディアが取材で出会った人々を呼び合い、共催して行われるリアルイベントを期待したいです。

取材・文:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。『SENSORS』や『WIRED.jp』などで編集者/ライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。東京大学大学院学際情報学府にてメディア論を研究。最近は「人工知能」にアンテナを張っています。将来の夢は馬主になることです。
Twitter:@_ryh

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