映画に没入感はいらない。女子大生映画監督 松本花奈が、"ちょうどいい客観性"にこだわる理由

2018.11.08 18:00

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「これを新たなるパラダイムとして若い君たちが映画を作り始めたら確実に将来の映画界は変わる。という意味でこの作品は既に事件だ」

2016年、映画界の巨匠・岩井俊二は、1人の"女子高生"映画監督に称賛の声を送った。それから2年。20歳になった彼女は、大学に通いながら映画やドラマ、ミュージックビデオなどの監督を務め、多忙な日々を過ごしている。

彼女の名前は、松本花奈。1998年生まれのジェネレーションZである彼女は、物心ついた頃から、インターネットやデジタルデバイスを使いこなしてきた。VRやAR、4Dなどの新しい表現が日々誕生する今の時代、彼女はなぜ、アナログ表現ともいえる映画を撮り続けているのだろうか。「映画の良さは、客観性があること」だと話す女子大生映画監督・松本氏に、今の時代に映画をつくり続ける理由を聞いた。

明日には消えてしまう"今の気持ち"を、映画の中に閉じ込めたい

「いま心にあることも、明日になると忘れているかもしれない。それがすごく怖いんです。だから、ちゃんと形にして残しておきたいと思って」

日々生まれては消えていく刹那的な感情を"形あるもの"として残すため---それが、松本氏が映画を撮る理由だという。

松本花奈氏(以下、松本):昔、誰かにもらったプレゼントを見ると、当時の記憶が蘇ることがありますよね。形あるものには、記憶が閉じ込められる。後日見返したときに、過去の自分が考えていたことが思い出せるような作品がつくりたいんです。

そんな想いを胸に映画を撮り続ける松本氏は、なぜ映画監督を志したのだろうか。今でこそカメラの"後ろ側"で撮影現場の指揮を行う彼女だが、かつてはカメラの前に立っていたという。幼少の頃は劇団に所属して、子役として映画やドラマに出演していた。

松本:元々文化祭など、皆で一つのものを創造する作業が好きだったんです。監督という仕事は物語を生み出すところから、現場が終わった後の仕上げ、そしてそれを届けるところまで他者と関わりながら綿密に創り出すことが出来る。そこに魅力を感じました。

そんな想いを抱いていた中学生のとき、撮影の休憩時間に共演者の子達と"お遊び"で映像を撮ってみたら、それがすごく楽しくて。その時に「映画監督になりたい」という気持ちが芽生えたんです。「自分の作品」を残すために、監督になりたいと思ったんですよね。

映画は誰でも制作できる。でも、観客がいなければ意味がない

14歳から独学で映像制作をはじめた松本氏は、自主製作映画の登竜門とも言われる映画祭「ぴあフィルムフェスティバル」に短編の映像作品を出品した。しかし、結果は落選。そのときに感じた悔しさが、「プロの映画監督になりたい」という気持ちにつながった。

松本:「せっかく映画をつくっても、誰にも観てもらえなければ意味がない」と痛感しました。まずは見てもらうためにはどうしたら良いか、ということを考え始めたんです。

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松本花奈氏

高校に進学した松本氏は、高校生のための映画祭「NPO法人映画甲子園」の過去受賞作品を見漁った。そのなかで知ったのが、10代の映画制作チーム「KIKIFILM」だ。彼らの作品を観て「一緒に映画をつくりたい」と思った松本氏は、SNSを通じて連絡をとった。そして2014年、彼らと共に制作し、松本氏が監督・脚本・編集を手がけた『真夏の夢』は、NPO法人映画甲子園主催「eiga worldcup」の最優秀作品賞を受賞した。

松本:KIKIFILMのメンバーに映像の専門学校に通っている人がいたので、その人に編集技術を教えてもらいました。最初は編集ソフトの使い方が難しくて苦戦しましたが、撮影した映像の色味を変えるだけで、作品の印象がガラリと変わることが面白くて、編集の楽しさに目覚めたんです。

さらに翌年、17歳になった松本氏がメガホンをとった『脱脱脱脱17』は「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2016」で審査員特別賞、観客賞を受賞。このときに、岩井俊二氏から寄せられたのが、冒頭のコメントだ。松本氏はこの受賞を機に、"新進気鋭の若手映画監督"として、一躍注目を浴びることになる。本作がヒットした背景には、松本氏の貪欲な姿勢があった。

松本:『脱脱脱脱17』は、"17歳の女子高生と34歳のおじさん"が織りなす青春ロードムービーです。「17歳の女子高生と34歳のおじさん」というフレーズだけで、人びとの興味を惹きますよね。

デジタルツールやカメラ機材が気軽に手に入る今の時代、少しの知識とやる気さえあれば誰でも映画を制作できます。世の中にはあらゆるコンテンツが氾濫しているんですよね。だからこそ、まずは「観たい」と思ってもらわなくては意味がない。以前、コピーライターの方が「1秒間で人を惹きつけるコピーを考えている」という話を聞いて、すごく面白いと思ったんです。それ以来、私も「いかにして人の興味を引くか」を重視するようになりました。

未経験ながら14歳で映像制作を始め、高校3年間で2本の映画を制作し、実力が認められた松本氏。精力的にチャレンジを続けた背景には、当時彼女が周囲に対して感じていた、ある想いがあった。

松本:周りに、批評ばかりして行動に起こさない人がたくさんいたんです。「あれは良くない。これは良い」と言うわりに、何もしていない。そうはなりたくないと思い、「とりあえずやってみる」姿勢を心がけていました。映画づくりは未経験でしたが、実践してみないとできるかどうかはわかりません。「失敗しても、次に活かせばいい」と思っていました。

キャストが転んでも、カメラは止めない

漁村に住む男子高校生三人組と、東京から来た美少女の"一夏の思い出"を描いた『真夏の夢』や『脱脱脱脱17』など、松本氏が手がけた作品の中には「日常」と「非日常」が入り乱れている。登場人物はどこまでも生々しく、人間らしく描かれているが、繰り広げられるストーリーは、どこか夢の中の出来事のようなのだ。そうした作風の裏には、松本氏のこだわりがある。

松本:撮影は、台本通りに進めないようにしています。アドリブもとり入れるし、キャストの方が転んでも、そのまま演技を続けてもらう。できるだけ"人間らしさ"を出して、日常性を高めたいんです。

その上で、美術や衣装で"非日常"を盛り込むようにしています。たとえば、生活感溢れる部屋の中に綺麗なドレスを着た女の子が現れたり...。そうやって「日常の中で起きる夢のような出来事」を描くことで、その映像を見てくれた人の日常の風景が、少しワクワクするものに見えるようになると良いなと思います。


さらに松本氏は「普遍的な表現に挑戦したい」と続ける。

松本:時代性に左右されない作品が撮りたいんです。だから私のこれまでの作品では時代を特定できるようなものを極力映さないようにしています。『脱脱脱脱17』は高校生が主役の話ですが、敢えてスマホを登場させていません。

松本氏の活動は、映画制作だけにとどまらない。近年は、アイドルグループの「HKT48」やロックバンド「おとぎ話」などのミュージックビデオ(以下、MV)の監督も務めているのだ。そんな松本氏は、「MVと映画はまったく違う」という。あくまでも音楽が主役であるMVの制作は、映画制作とは異なる緊張感がある。

松本:MVの魅力は、まず絶対的な主役に楽曲があること。音楽は、非常に余白が多い芸術だと思っているので、そこに映像をのせるというのは良くも悪くもリスクのあることだと考えます。だからこそ面白いんでしょうけどね。

14歳から映画づくりと向き合ってきた松本氏は、今年1月に20歳になったばかり。20歳の節目を迎えたとき、大きな心境の変化があった。

松本:20歳になった瞬間「青春の終わり」を感じたんです。10代の頃は毎日を必死に生きていましたが、20代になって"なんとかする"術が身につきました。極端な話ですが、10代は「終電逃したら死ぬ」と焦っていたけど今は「タクシーで帰れるから大丈夫」と思ってしまう。そんな余裕が生まれたことは、少し切ない気もしますね。これからはもう少し広い視野で作品づくりをしていきたいです。

没入感は必要ない。映画に取り入れたいのは、"ちょうどいい客観性"

テクノロジーが加速度的に進化するなかで、映画と人の関係は徐々に変わりつつある。3Dや4Dシアターも登場し、今後はVRヘッドセットで映画鑑賞をする人も増えていくだろう。松本氏は、「そんな時代だからこそ、映画ならではの表現を追求したい」のだと話す。

松本:3Dや4D、VRで映画を観れば、没入感は高まります。まるで自分が実際に映画の中にいるような感覚で、主観的に映画を鑑賞することができる。しかし映画の良さは「客観性」を持っていることだと思っています。映画を通して、過去に起きたことや遠く離れた国の日常を知ることができる。客観的に観ることで、思考を巡らせることができますから。だから作品の中に「客観的な視点」を取り入れるように努めています。

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時代と共に、映画鑑賞の場所も変化した。NetflixやAmazonプライムなどのVODサービスが普及したことで、自宅で名作を鑑賞することもできる。自身もNetflixを利用しているという松本氏は、自宅で映画を観るメリットをあげながらも、「自分の作品は、映画館で観てもらいたい」と話す。

松本:自宅と映画館の大きな違いは、音です。テレビやパソコンなど、自宅にあるデバイスで体感できる音に限界がある。だからこそ、作品に対しての客観性がより高まるんですよね。なので、ライトな気持ちで映画が観たい時は、自宅で観るのもいいと思います。

しかし私の作品は、できれば映画館で観てほしい。臨場感あるサウンドで作品の世界に浸ってほしいんです。さらに映画館に行くまでの道のり、一緒に観た人との会話など、付随する体験含めて、作品と共に記憶に残してほしいと思っています。


VRやARなどの最新テクノロジーによって、没入感の高いエンターテイメント体験が可能になった。立体的なサウンドと高い解像度の映像によって、擬似的に現実と空想の境目が融解されるのだ。そうした体験は刺激的な体験として、記憶に残る。

一方で、テーマや演出によって作品の世界観に引き込まれながらも、客観的な視点で楽しむことができる映画は、私たちに"考える"余裕を与えてくれる。映画鑑賞という体験は、一過性のものとして消化されず、じんわりと体内に焼き付けられるものなのだ。

そんな映画の魅力を伝えるために、日々"人を惹きつける表現"を模索する松本氏は、取材の最後、「これからも絶対に映画を撮り続けたい」と熱く語る。VODサービスの普及で、映画業界は衰退が危ぶまれている。だからこそ、映画の可能性を信じ、ひたむきな情熱を捧げる彼女のような監督が、業界の未来を切り拓いていくのではないだろうか。

執筆:いげたあずさ

株式会社モメンタム・ホース所属のライター/編集者。ビジネス・テクノロジー領域をはじめ複数媒体で取材・執筆。 アパレル販売・WEBマーケターを経て現職。 映画と音楽が好き。未来の被服の在り方、民族学、伝統文化などに興味があります。
Twitter:@azuuuta0630



編集:小池真幸

ビジネス・テクノロジー領域を中心に取材・執筆・編集を重ねる。東京大学で思想・哲学を学んだのち、AIスタートアップのマーケター・事業開発を経て、現職。1993年、神奈川県生まれ。「人文知とビジネス・テクノロジーの架橋」に関心があります。
Twitter:@masakik512



撮影:萩野格

広告プランナー/フォトグラファー。
instagram:@itaru_ha_2

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