「"書く・読む"に集中出来る、シンプルなプラットフォームを目指す」Medium Japan代表 坂田一倫

2016.03.08 18:30

BloggerやTwitterの創業者として知られるエヴァン・ウィリアムズが2012年に立ち上げたパブリッシングプラットフォーム「Medium」。起業家や編集者といったアーリーアダプターの間で愛用されているが、日本においてもストーリーやアイデアをシェアするためのプラットフォームとして人気に火がついてきた。「ブログではなくネットワーク」であることを志向する設計思想、華美な装飾を一切排除し、書き手に"集中"を促す独特のライティング・エクスペリエンス。Medium Japanのアンバサダーを務める坂田一倫氏に日本における現況と今後の展開について話を聞いた。

「Medium」のトップページ。「考えを前進させる-Mediumは読者と書き手に大小のアイデアへユニークな視点を提供する」

年間で最も面白かったWebコンテンツを決めるアワード「ハイパーリンクチャレンジ2015」でもプラットフォームとして挙げられることが多かった「Medium」。華美な装飾が一切ない、徹底的にシンプルなユーザーインターフェイスは書き手・読み手双方にとって良質なコンテンツと出会うためのストレスフリーな空間となっている。日本でも人気に火がついてきた印象のあるMedium Japanのアンバサダーを務める、坂田氏は現在の状況をどう見ているのだろうか。参画のきっかけから話を伺った。

■Medium Japanが立ち上がった経緯と、10カ国で展開中のアンバサダー制度

ーーそもそも、どういった経緯でMedium Japanに参画したのですか?

坂田一倫氏:Medium Japanアンバサダー。ブラジル生まれ、アメリカ育ち。普段はリクルートテクノロジーズでUXデザイナー。

坂田:
もともと二年くらい前にMedium上に英語でアイディアやストーリーを書き始めたのがきっかけです。いくつか書いているうちに、Medium Internationalのプロジェクトチームを率いている方から「良いこと書くね。良かったら一緒にやらない?」と声をかけてもらったんです。そこから具体的に話を詰めていき、昨年の1月にMedium Japanを立ち上げました。

ーー立ち上げから1年が経つということですが、現在はどういった体制になっているのでしょうか?

Medium Japan のエコシステム

坂田:
Medium Japanのエコシステムは大きく別けて4つのレイヤーで考えていて、立ち上げから携わっているコアとなるメンバー、それを囲むように Medium Japan のオフィシャルサポーター兼エディター。この2層で運営をしている形です。それをさらに取り囲むようにユーザーがいます。

ーー具体的にどういった活動をされているのでしょうか?

Medium 公式の日本語専用パブリケーション。

坂田:
まず、Medium Japanは法人ではなくバーチャル組織なのでローカライズは完全にはしていません。それは他の国も同様です(現在、10カ国で展開中)。各国にブランドアンバサダーが一人ずつ計10名います。そこでやってることは主に3つ。1つは顧客開発とグロース。マーケティングを行うことでブランド価値を向上させ、認知度も高める。もう一つが公式パブリケーション。海外で流通している有益な情報をまずは翻訳し、あとはオフィシャル・エディターがMediumの使い方や世界観を体現するために記事を寄稿する。三つ目が将来的なローカライズに向けた施策検討。技術的、デザイン的なローカライズをどう行っていくのか。各アンバサダーが密に連携を取りながら、意見交換をしています。

■書き手を選別するような独特の雰囲気が漂う、そのキーワードは「集中」

ーーMedium自体の話もお聞かせください。Mediumと言えばプレーンでシンプルなデザインが特徴で、ライターや編集者の中でも好きな方が多いプラットフォームだと思います。坂田さんはMediumのUI/UXのキモはどこだと捉えられていますか?

Medium Japan が運営するパブリケーション「for Shirusu」ではMedium の機能や世界観を発信している。

坂田:
キーワードを挙げるとすれば「集中」。Mediumがプラットフォームの世界観として力点を置いているのは書くこと、読むことに集中すること。無駄な装飾が一切なく、書き手は本文と見出しを分けるくらいなんです。
というのも、創業者のエヴァン・ウィリアムズは文字を書くことに非常に強いこだわりを持っている。彼はWordなどのライティング・ツールで書く場合でもどのフォントを使うか、フォントサイズはどうするか、行間はどれくらいか。1〜2時間平気で費やしていたというのです。そうしたことを一切気にせずに書くことだけに集中し、自然と書けるプラットフォームを作るべく、「Medium」を立ち上げたんですね。

ーー以前、編集者の佐藤慶一さんにインタビューをしたときに「(Mediumは)洗練されたプラットフォームであり、良質なコンテンツが集まっている。書き手を選別するような一種の"緊張感"もある」とおっしゃっていました。華美な装飾ができないからこそ、コンテンツそのものの本質が問われる。だからこそ、あの独特な雰囲気が成り立っているんですよね。

坂田:
そこはまさに狙っているところで、良くも悪くも書くことに覚悟が必要だと思っています。本来、Webで流通する情報の本質は表層の見た目ではなく、コンテンツ(中身)だと思うんです。誰が書いた、いつ書いた、ではなく何が書かれているのかが本来評価されるべき価値だと考えています。最近は瞬間風速的価値が求められている風潮があります。現行の広告モデルではどうしてもコンテンツの評価軸に時間が入ってきてしまう。Mediumには一切広告がありません。もし自分が知りたい情報だったら極端な話、10年前のものでも良いわけですよね。価値があるコンテンツを人や時間に左右されずに流通させ、評価されるようなネットワークを作るのがMediumの趣旨です。

ーー華美な装飾を排したインターフェースは書き手に一種の覚悟を求めるということですが、読者にとってはどうですか?

坂田:
ライティング・エクスペリエンスとリーディング・エクスペリエンスはほぼイコールだと考えています。WYSIWYG(ウィジウィグ)と呼ばれるものですが、書き手は読み手と同じ構成でライティングを行うので、書かれたものがそのまま読み手にも伝わりやすい。つまり読者の視点で書けるというのが一つの特徴になっているのです。

■「書く・読む」シンプルなコミュニケーションを促し、コンテンツそのものが評価される世界観を作っていきたい

ーー起業家や編集者、いわゆるインフルエンサーと呼ばれる方々もMediumで執筆するケースが増えてきました。現在の状況をどう見られていますか?

坂田:
家入一真さんやけんすうさんのようなアーリーアダプター気質の起業家の方たちが注目されがちですが、この一年で日本における登録者数は3倍に伸びているんです。毎日更新される記事に目を通しているのですが、最近では日本酒の伝道師の方が書かれたストーリーや、お灸のお店を運営されている人だったり様々な方がMediumで自身の思想やアイディア、そしてストーリーを書き始めています。

ーー先日ピースオブケイク・加藤さんにインタビューを行った時に、「noteはクリエイターにフォーカスしているのに対して、Mediumはコンテンツにフォーカスしているのではないか」とおっしゃっていました。UIのシンプルさは共通するところがあるにしても、設計思想はやはり異なりますか?

LGBTの公平性をフィーチャーしたパブリケーション「LGBT Equality」にはMediumのコンテンツ開発の責任者ケイト・リー(Kate Lee)らがエディターとして名を連ねる。

坂田:
まず、そこに正解はないと思います。でもMediumはコンテンツに重きを置いています。昨年、アメリカで同性結婚が認められる法律が可決されました。そのときにMediumは真っ先に支持を表明したんです。ロゴを変えたり、LGBTの方々が書かれた記事をプロモーションする施策を行ったりしました。日本でも LGBT の方によるストーリーが記されています。全ての人が発言できる"公平性"をMediumは大事にしています。

ーー最後に今後、Medium Japanとして取り組んでいきたいことがあれば教えて下さい。

坂田:
現状のWebコンテンツは誰が書いたのか、どれだけの読まれているのかが重視される風潮があります。書き手にもまだその文化が残っていて、どれだけのPVを稼いだのか、どれだけブックマークされたのかを気にしますよね。Medium ないしはMedium Japanとしてはそこを脱却していきたい。書きたいときに書く。読みたいときに読む。こういうシンプルなコミュニケーションを促していきたいんです。僕がMediumに参画したのもこのフィロソフィーに共感したからなんですね。

最近、5700万ドル規模の大型資金調達を行った「Medium」。PVではなくTTR(Total Time Reading)という読者がコンテンツに費やした時間を指標に置く。真のライティング/リーディング・エクスペリエンスを追求するフィロソフィーに共感が集まるからこそ、支持が集まるのではないかと坂田氏は語る。
気付かれている方もいると思うが、Mediumのページにはソーシャルでのシェア数が表記されていない。コンテンツの価値は誰が書いているのか、どれだけ読まれているのかに左右されないという彼らの思想が表れている。ニュースアプリのようなプッシュ型の情報が横溢する中で、Mediumの様なプルとのバランスが取れた言論空間の価値は今後増していくのではないだろうか。

取材・文:長谷川リョー

SENSORS Senior Editor
1990年生まれ。『SENSORS』や『WIRED.jp』などで編集者/ライター。これまで『週刊プレイボーイ』『GQ JAPAN』WEBなどで執筆。東京大学大学院学際情報学府にてメディア論を研究。最近は「人工知能」にアンテナを張っています。将来の夢は馬主になることです。
Twitter:@_ryh

最新記事