【ロボット×ファッション】軽やかに、日常に寄り添う"メカ服"を。 きゅんくん新作『METCALF clione』

2016.03.29 09:00

ロボティクスファッションクリエイターとして活躍するきゅんくんが、ISIDイノラボから新作ウェアラブルロボット『METCALF clione(メカフ クリオネ)』を発表しました。 新作発表会は品川にあるISIDイノラボオフィスにて行われ、きゅんくんの他にISIDイノラボでプロデューサーを務めた鈴木淳一さん、グラフィックデザイナーのRei Nakanishiさんが登壇。新作に込められたコンセプトについて語りました。

◼︎日常に寄り添うウェアラブルロボットは3つの要素が新しい。

まずは、こちらの動画をご覧ください。

コンセプトビデオはsuzuki kenta監督。
BGMはMartine Records Tomgggの楽曲『Farmers Market』。

ファッションデザイナーの鈴木淳也さんが展開するポスト・インターネットを代表するファッションブランド『chloma』をフィーチャーし、アルミの合金を前面に押し出し非現実的な世界観を表現した『METCALF』に対し、今作ではどこにでもいるような制服を着た女子高生が透明感あふれる『METCALF clione』を着用し、日常の風景の中で登校している爽やかなコンセプトムービーで世界観が表現されています。

『METCALF』のコンセプトイメージ。
近未来SFに登場するキャラクターが現実に現れたかのよう。

新作『METCALF clione』のコンセプトイメージ。
より"日常"らしさを感じさせる。ローファーを履いた普通の女子高生がメカ服を着ている。
撮影:萩原楽太郎

より"リアルクローズ"らしいシチュエーションでの着用を意図した今作は、

1.軽量化
2.グラフィックペイント
3.スマホから挙動を操作可能

という3つの特長が、日常での着用を可能にしています。それぞれ詳しく見ていきましょう。

1.軽量化

前作『METCALF』に比べ重さが約半分になったという『clione』。背負っていてもあまり重さが気にならないため、長時間の着用も苦にはなりません。サイズも150cmの女性が着用する前提で設計されているため、全体のシルエットが小さくまとまり、モデルを務める近衛りこさんのキャラクターを損なわない印象を受けます。 また、ロボットの駆動を司るサーボモーターの位置を根元に置くことで、リュックのサイズに折りたたむことが可能。電車や街中のドアを難なく通り抜けることができます。

2.グラフィックペイント

きゅんくんと同世代のグラフィックデザイナーで、きゅんくんのアーティストロゴも手がけるRei Nakanishiさんが、『clione』に特長的なアクリル板の外装にグラフィックペイントを施し、より清涼感あふれる見た目に仕上げられています。アルミの質感を前面に押し出し、「ロボット」然としていた『METCALF』と比べ、より海洋生物的な、まさしく「クリオネ」のような透明感は、本体の骨組みとなるアルミとグラフィックの施されたアクリル板の間を数mm浮かせた設計により実現。軽やかな、ファッションの延長としての「メカ服」を目指したと言います。

「リアルクローズ」を意識し、グラフィックを施すことを前提にロボットの設計を始めたというきゅんくんと、グラフィックという平面の表現からロボットという動く「モノ」のデザインに挑戦したRei Nakanishiさん、それぞれのクリエイティビティが共鳴しあって『METCALF clione』のイメージが作り上げられています。

お互いにインスピレーションを与えあいながら製作することができたと語る、
Rei Nakanishiさん(左)ときゅんくん(右)。

3.スマホから挙動を操作可能

様々なロボットのオペレーティングシステムに利用される「V-Sido OS」を開発するアスラテック株式会社が『clione』専用のコントローラアプリを開発。グラフィカルユーザーインターフェースによって直感的に『clione』の動きを制御することができます。 前作から引き続き、ユーザーの愛着を誘う生き物のような動きに加え、クラシックバレエの動きを取り入れたという開閉モーションを追加。左右各3自由度の合計6自由度の挙動をスマホから簡単に操作できます。

ワンタップで開閉度合い、各アームの動きを制御できる。背面の青いパターンによって『clione』の海洋生物らしさが引き立てられている。

通常ロボット工学においてアームが持つ関節の数を表す「自由度」という言葉は、きゅんくんのロボティクスファッションにおいて、あらゆる場面で人間の振る舞いを規定するファッションの「自由度」とリンクする重要な概念です。ウェアラブルロボットが持つ「自由度」が増え進化していくことは、既成概念の多いファッションの世界にインパクトを与え、これまでにない「自由度」を持つ多様なオシャレを生み出していくことになるのかもしれません。

◼︎ロボットを「着る」ことが当たり前になる未来。

これまで人々の生活の利便性を高めることをミッションとして発展してきたIT技術は、現在「ウェアラブルデバイス」という形をとって人間の身体により近い形で浸透し始めています。そこでは健康状態をモニターしたり、コミュニケーションをより円滑にするというような、やはり利便性に基づいた発想が前提となっています。 たしかに、ファッションの歴史を紐解いてみれば、元はその機能性、利便性から生み出された衣服が、日常のファッションの中に取り入れられてきた例は多く見られます。近いうちには、ウェアラブルデバイスもその大きな流れに取り込まれることになるでしょう。

しかし、きゅんくんが取り組むロボティクスファッションにはそういった「役に立つため」という段階をはるかに超えて、「自らの魅力を高めるため」のファッション表現としてのロボット工学、IT技術が存在しています。 究極的には「人間が人間の形にとらわれていることが勿体無い」と語るきゅんくんの極大射程のアプローチは、人間の身体という制限された領域にとらわれ続けるファッションの根幹を揺さぶり、世界に多様性をインストールしていくことになるのかもしれません。「ロボット」が私たちにとってのファッションの選択肢として現れる未来は実はもう目の前に迫っています。『METCALF clione』は、そんな日常に寄り添うロボティクスファッションに対する私たちの想像力をより具体的にしてくれる第一歩と言えるのではないでしょうか。

6月にはフランスの国際メディアアートフェスティバル「bains numeriques(バン・ニューメリック)」での展示、限定少数販売を予定しているそう。 今後は『METCALF』の自由度(=関節の数)を増やしてより表情を豊かにしたり、肩に装着するタイプ以外のウェアラブルロボットを製作していきたいと語っていました。きゅんくんがリードするロボティクスファッションの動向から目が離せません。

取材・文:兵藤 友哉

1995年生まれ。フリーライター。早稲田大学文化構想学部表象メディア論系在籍。専らの興味は「メディアテクノロジーの進歩による人間の認知の更新」。SENSORSでは「VR」「ドローン」の記事を担当。
Twitter @do_do_tom

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