「わかりあう」は難しい。でも、"脈打つ"インターネットで人と人をつなぎたい--ミラティブ赤川隼一の思索

2018.08.13 08:00

mirrativ01_01.png

スマホ単体でのゲーム実況を可能にしたライブ配信アプリMirrativ。機材を準備せずに誰でも「数タップ」で配信を始められる。高度なゲームプレーやトークスキルが求められるイメージの強い「配信」を、"好き"を軸につながれる場として進化させたサービスだ。

スマホゲーム配信数・配信者数ともに日本一を誇るMirrativ。その最大の特長は「ゲームの配信を通じて友達ができること」であり、ゲーム体験を豊かにする設計により作品へのリテンションを高める効果もある。

Mirrativを運営する株式会社ミラティブ代表取締役の赤川隼一氏は、現代を「プロダクトの時代」と表現する。最年少で株式会社ディー・エヌ・エーの執行役員まで登りつめるも、自らその立場を降りて事業をスタート。MirrativをDeNAの社内新規事業からMBO(マネジメント・バイアウト)する形で、会社を立ち上げた。

赤川氏の創業経緯の背景には「スマホ用配信アプリのニーズ」への確信と「コミュニティの分断をつなぐ」という願いがあった。

「腕が錆びていく感覚があった」執行役員を退任し、事業立ち上げに挑む

mirrativ01_02.png

スマートフォン向けのライブ配信アプリ「Mirrativ」。スマホ画面をわずか数タップで生配信・録画でき、ゲーム実況を中心に10代から20代のユーザーに支持されているサービスだ。8月には、スマホだけでVTuber(バーチャルYouTuber)のようにアバターを着て配信ができ、ゲーム実況とも融合する新機能「エモモ」をリリースした。

そんなMirrativのAndroid版がリリースされたのは、2015年8月。当時、DeNAで執行役員を務めていた赤川氏が、役員を退任する形で事業立ち上げに挑んだ。Yahoo!モバゲーや韓国事業の立ち上げを経て、"最年少"で役員まで上り詰めた赤川氏は、なぜ再びプロダクトづくりに向き合おうと考えたのか。現代を「プロダクトの時代」と形容する同氏の考え方が浮かび上がってくる。

mirrativ01_03.png

株式会社ミラティブ代表取締役 赤川隼一氏

赤川:僕たちが生きている2010年代は、プロダクトの時代だと考えています。アメリカの時価総額ランキングで上位になったGoogleやFacebook、Apple、Amazonはマーケティングの上手さで良くない製品を競合より売るのではなく、優れた顧客体験のプロダクトが全ての基点になっている。それが価値を生み、企業の競争優位につながる時代なんです。

プロダクトの時代において、赤川氏はある危機感を抱いていた。赤川氏が最後にプロダクトづくりに直接ゼロから関わったのは、『Yahoo!モバゲー』を立ち上げた2010年頃。「現場というよりもマネジメントの執行役員に留まることで自分の腕が錆びていく感覚があり、新たな挑戦を始めたい欲求が日に日に強くなっていった」と、Mirrativリリース前夜を振り返る。

「Why you?(なぜあなたがその事業をやるのか)」。起業家に対して、こう問う投資家も多い。議論の余地はあるにしろ、強い原体験は、事業を成長させる力になる。赤川氏にとって、自身が取り組むべき事業とは何だったのか。

それは、「インターネットのコミュニティ作り」であった。

学生時代の原体験と、事業領域への自信を胸に創業へ。目指したのは"好き"を軸に接点を持てるプロダクト

一般的なゲーム実況サービスとは異なり、Mirrativはユーザーによるコミュニティが生まれやすい設計になっている。赤川氏の学生時代の体験が、色濃く反映された形だ。

赤川:音楽が好きでたまらなかった高校時代、チャットルームで出会った見知らぬ大人たちに、色んな音楽を教えてもらったんです。インターネットを介せば、性別や年齢、職業なども関係なく、同じ趣味の人とつながって自分の知らなかった世界を知ることができる。そんな嬉しさが、今でも記憶に残っています。

インターネットを通じて人と人が接点を持てるプロダクトを開発したいーー。新事業に取り組む上で赤川氏が注目したのは、ゲームの領域だった。DeNAを長年支えてきたのは、モバゲーを中心とするゲーム事業であり、その領域にアイデンティティを持ちつつも、赤川氏が注目したのはゲーム実況の市場成長だ。

2014年、Amazonに約1000億円で買収されたPCゲーム向けの実況サービス『Twitch』を筆頭に、ゲーム実況サービスが市場に登場していた。「PCゲームの実況サービスが伸びているのだから、さらに人口が多いモバイルゲーム実況にも必ず同じ波が来る」それが赤川氏の読みだった。

mirrativ01_04.png

ゲーム実況の領域で事業を模索するなかで、スマホ単体での画面プロジェクションができる技術を発見したときに、「この機能を使えば新たなサービスを作れるはず」と感じたという。

赤川:当時、スマホゲームの配信はとにかく骨の折れる作業でした。ややこしい機材をセッティングし、配信中もPCの前に居続けなければいけない。スマホ単体で手軽にゲームの配信ができるサービスには、ニーズがあると確信していました。

「ユーザーが主役になれるサービスを」Mirrativの設計思想

ニーズを確信したとしても、事業の立ち上げは困難の連続だ。起業家にはさまざまなHARD THINGSが降りかかる。Mirrativを立ち上げたばかりの頃、配信しているコンテンツがなければ視聴者は訪れない。アプリを起動してもライブ配信が一つも行われていない当時の状況を、赤川氏は「まるで荒野のようだった」と振り返る。

赤川氏は自身でカスタマーサポートを担当し、一日中TwitterなどのSNSに張り付いてひたすらユーザーとコミュニケーションをとった。Mirrativを利用してくれる配信者を見つければ、すぐに運営アカウントから挨拶し、配信の拡散を行った。

mirrativ01_05.png

1ヶ月ほど続けると、変化が起きはじめた。まったく未知の状態から配信をスタートしたユーザーが、運営を媒介にして他のユーザーとつながりはじめる。それは、Mirrativが人と人をつなげ、新たな交流を生み出した瞬間であった。

Mirrativでは、視聴していたユーザーが配信する側にまわることも多い。その循環が回ることで、配信ユーザー数が増えていく。

赤川:ユーザーが主役となり、気軽に配信できるサービス設計を心がけています。有名な方に声をかけサービスを利用してもらえれば、一時的な視聴者数は増えるかもしれない。でも、それでは"無名"の配信ユーザーが萎縮してしまう可能性もある。Mirrativは再生数やチャンネル登録数を増やすことだけが目的となるのではなく、ひとりでも共鳴できる友だちを見つけられる場所でありたい。

ゲームプレイやトークがうまくなくていい。ゲームの配信を通じて人と人をつないでいきたい。そんな赤川氏の願いどおり、Mirrativは「ゲームを通じて友達ができる」点が支持され、着々とアクティブユーザーを増やしている。

「友達ん家でドラクエやっている感じ。」

赤川氏はMirrativでのゲーム配信体験を「友達ん家でドラクエやっている感じ。」と表現する。

mirrativ01_06.png

赤川:『ドラクエ』は一人用のゲームであるにも関わらず、友達の家に集まって、それを誰かがプレイするのを見るのも楽しかったですよね。プレイするのが一人でも、ドラクエがその場にいる人と人との交流を生み出している。

ゲームは本来的にソーシャル性の高いコンテンツであり、作品というよりは体験として消費されるものだと捉えています。しかし、ゲームにまつわるコミュニケーションは年々無機質化している感覚がある。ソーシャルゲームの時代になり、逆にソーシャル性が失われたのではないかとも思います。Mirrativで実況配信を支援することで、ゲームにソーシャル性を取り戻したい。


赤川氏がソーシャル性の高いコミュニティとして挙げたのが、mixiコミュニティだ。自分の趣味や興味、関心に基づいてコミュニティに入り、そこのメンバーがまた違う分野の趣味について熱く語る場所だった。だが、FacebookやTwitterの登場ととも、mixiは廃れていってしまった。

赤川:mixiからFacebookの時代になり、趣味で人とつながる機会が減ってしまったんです。Facebookはリアルの友人とつながるツールであり、"ソーシャル性"の高いメディアではあるのですが、僕が求めていたのは、好きなものでつながれるコミュニティだったんです。

"脈打つ"インターネットの時代を撃ち抜く

「Mirrativで出会ったユーザー同士って、すぐに仲良くなるんですよ」

赤川氏にユーザーの特徴を聞くと、こう答えてくれた。配信者とユーザーが共通の趣味であるゲームをきっかけに仲良くなり、その翌日には雑談配信をしていることもあるという。なぜユーザー同士のつながりが促進されやすいのか。「情報量の増加」と「双方向のコミュニケーション」が影響を与えていると、赤川氏は考察する。

mirrativ01_07.png

赤川:インターネットでのコミュニケーション手段は、テキスト、画像、そして動画と、歴史を経るごとに徐々に情報量が増えていきます。Mirrativはリアルタイムでの動画共有なので、配信者が生々しい感情を表現しやすく、その人柄が伝わりやすい。

また、双方向のコミュニケーションを取れることも要因のひとつ。Mirrativは一方通行の「ゲーム実況」ではなく、ゲームを通じてコミュニケーションを生みだすサービスなので、お互いが自身のことを共有し、仲良くなりやすいんですよ。


赤川氏はこのような状況を「エモい」と表現し、「インターネットでエモさを伝えられる時代になってきた」と述べる。SENSORSにてMCを務める落合陽一氏もたびたび口にする「エモい」というキーワード。赤川氏は自身の会社を当初「エモモ」と名付けたように、この言葉には特別な思い入れがある。

赤川:インターネットの本質は、個のエンパワーメントにあると考えています。テキストから画像や動画のコミュニケーションが主体になり、そこに載せられる個人の感情や熱量が増えていく。自分の好きや偏愛を発信でき、それに共鳴してくれる人とつながりやすくなった。インターネットがエモく変化していることに他なりません。"脈打つ"インターネットとよく表現するのですが、Mirrativはその感覚を拡張するサービスでありたいですね。

個のエンパワーメントは、インターネットの根本思想として受け継がれてきた考え方だ。1970年代に「POWER TO THE PEOPLE」と歌ったのはジョン・レノンだが、シリコンバレーを中心としたテクノロジー企業の源流をたどれば、1960年から70年代のヒッピーカルチャーに行き着く。当時から掲げられてきた理想をMirrativは継承しようとしている、エモく進化したインターネットとともに。

社会の分断を食い止め、人々の「わかりあい」を促したい

2018年4月、DeNAから事業をMBO(マネジメント・バイアウト)し、株式会社ミラティブを設立した。同タイミングで、グロービス・キャピタル・パートナーズらから10億円越の資金調達を発表した。

DeNAというメガベンチャーのいち事業から、スタートアップへ。驚くことにプロジェクトに関わるすべてのメンバーがミラティブへの移籍を決めた。DeNA時代にも「プロダクトに強く共感してくれる人と働きたい」と、赤川氏は人事部から"降ってきた"人材ではなく直接メンバーを採用していた。

DeNAに比べれば、スタートアップは不安定な環境になる。けれども、同じ目標を掲げて邁進していたチームは、さらに大きなビジョンを描き、前に進もうとしている。MBOに際して、ミラティブは新たなミッションとして「わかりあう願いをつなごう」を定めた。

mirrativ01_08.png

赤川:僕は「わかりあうことの難しさ」を人類の根源的課題の一つだと捉えていて。人間が会話をしたり組織を作ったりするのも、結局のところ自分や相手のことを理解したいからではないでしょうか。

フィルターバブル現象がBrexitやアメリカの大統領選に影響を与えたと言われているように、インターネットの進化と反比例して起こっている分断もある。その分断をいかに食い止め、世の中の「わかりあい」を進められるのか。ミラティブではゲームを媒介として、そんな世界を目指したいんです。


「わかりあえない」ことが、社会でさまざまな問題を引き起こしている。ソーシャルメディアが引き起こしたエコーチェンバー現象や、フェイクニュースの蔓延で、価値観や信条が異なる者同士の対立は進んでいる。そこには、他者に不寛容な社会が立ち現れている。

インターネットが人と人をつなぎ、世界をよりならめらかにしたはずなのに、悲しいことにそれは壊れてしまった。だが、赤川氏はインターネットの持つ可能性を諦めていない。Mirrativを通じて、人と人の「わかりあい」を促進していく。

mirrativ01_09.png

公式キャラクターのミラビット(左)、ブル太(右)

現在スマホの普及率は世界中で増加傾向にあり、日本では人口の7割近くが利用している。テクノロジーの進化は不可逆であり、ますます常時接続の時代に向かうことは明らかだろう。そんな時代の流れに対して「スマホなしで生活できないなら、スマホに触れている時間をより豊かなものにしていけばいい」と赤川氏は考える。

赤川:ゲーム実況をするからといって、すごいプレーを見せつけたり面白いトークを展開する必要はありません。友達の家でドラクエで遊ぶように、気負わず配信すればいいんです。どうせゲームするなら、誰かとプレーする体験として消費したほうが楽しいですよね。スマホの画面が常時共有され、ゲームを通じて人と人のコミュニケーションが加速する。そんな未来を目指したいんです。

構成:岡島たくみ

95年生まれのライター。神戸大学経済学部在学中。ビジネス・テクノロジー領域を中心に執筆しています。
Twitter:@tkmokjm



編集:岡田弘太郎

1994年生まれの編集者 / DJ。『SENSORS』シニアエディター。大学在学時に『greenz.jp』や『SENSORS』で執筆、複数のウェブメディアで編集を経験し、現在は編集デザインファーム「inquire」に所属。関心領域はビジネス、カルチャー、テクノロジー、デザインなどを横断的に。慶應義塾大学でデザイン思考/サービスデザインを専攻。
Twitter:@ktrokd

最新記事