人間をつなげるためにテクノロジーをハックする〜 モーメントファクトリー×ライゾマ齋藤精一 対談

2017.02.11 11:15

2017年1月28日〜5月21日まで東京 日本橋茅場町特設会場で開催される「食神さまの不思議なレストラン」展は、カナダ モントリオールの世界最高峰デジタルアート集団 『モーメントファクトリー』による日本初展覧会だ。マドンナ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのライブ演出や、バルセロナのサグラダ・ファミリアへのプロジェクションマッピングなどの大掛かりなスペクタクルショーから、森を舞台にしたイリュージョン『フォレスタ・ルミナ』などを手掛ける。"We do it in public"を掲げ、公共空間で来場者が参加できるエンターテインメントを開拓し続け、そして今年、東京オフィスの開設を予定しているという。

今回、モーメントファクトリーのファウンダーの1人でありチーフ イノベーションオフィサーのドミニク・オーデット氏と、ライゾマティクス・アーキテクチャー 齋藤精一氏による対談が行われ、メディアアートが地域の社会で果たすことができる役割が語られた。

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「食神さまの不思議なレストラン」展より

■ モーメントファクトリーが日本支社を開設する理由

--まず、お互いの会社に対する印象を教えてください。

ドミニク:
ライゾマティクスの作品は見たことがありますし、大ファンです。私のチームメンバーもあなた方に会えること、コラボを通して親しくなれることを楽しみにしています。インタラクティブデザイナーたちも齋藤さんと(真鍋)大度さんにすごく会いたがっています。あなた方はとても有名なんですよ。
齋藤  :
モーメントファクトリーも日本でとても有名です。最初にモーメントファクトリーの存在を知ったプロジェクトは、森を題材にしたパーティーだったのですが、素晴らしいと思いました。東京に支社を開設するとは思っていなかったので、今後が本当に楽しみです。
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モーメントファクトリー ドミニク・オーデット氏(左)、ライゾマティクス 齋藤精一氏(右)

--何故、この時期に日本に支社を出そうと思ったんですか?

ドミニク:
まず、モーメントファクトリーの社風として多様な文化要素を取り入れて行くというが根本にあります。そして最近アジアからの依頼が増えていて、アジア拠点を作ることを考えた時に、日本が非常に魅力的だったので、日本を拠点にすることに決めました。我々のしごとに必要な芸術面や技術面で日本は魅力的だからです。初めて日本に来たのは二年前ですが、日本人の思いやり、繊細さ、クリエイティブな面にとても感動したことも加えておきます。
齋藤  :
なぜ日本人や日本文化にそれほどインスパイアされているのでしょうか?
ドミニク:
日本は子どもの頃のファンタジーの一部なんです。世界中の子ども達の想像力をインスパイアした日本アニメの世界そのもので、例えばスタジオジブリ作品などとてもユニークなものがあると思うんです。私は『ウルトラマン』や『鉄腕アトム』、『もののけ姫』を見て育ちました。アニメやニンジャムービーやヒーロー達は、私たちのイマジネーションの一部になっています。それが私や私の彼女や、私の周りのみんなの興味をとてもそそるのです。

■ 森の中でのワークショップから生まれたルミナプロジェクト

齋藤  :
ルミナプロジェクトについて紹介してくれますか?
ドミニク:
モーメントファクトリーでは年2回、イノベーションと研究開発で新しいテクノロジーをテストするために、敷地内の森でキャンピングパーティーを行っています。森の中にテクノロジーを導入することはインスピレーションが刺激され、新しい物語が生まれてくるのです。ある時、そうしたパーティーを行った2週間後に、ケベック州の人里離れた街からアトラクションを作って欲しいという依頼の電話がありました。恐らく彼らは、プロジェクションマッピングとか、インタラクティブなものを期待していたと思うのですが、現地に行ってみると、そこには大きな森とつり橋があったのです。それを見て「ここでやるしかない」と思い、新しいタイプの、インスパイアされる遊園地のような体験でありながら、何か根源的なものをこの森でやろうということになりました。

そこでまず私たちがやったことは、地元の人たちを呼んで彼らの都市伝説や森の伝説、例えばモンスターがいるとか、その土地の物語などについてヒアリングしました。そのストーリーが素晴らしく、森の中でワークショップを行ないながらクリエイティブプロセスをスタートさせました。技術エンジニアやクリエイター達がみんなで夢中になって、森の中でライトやエフェクトを試し、「ルミナプロジェクト」はまさに、現地の自然から生まれたクリエイティブなプロジェクトになったのです。

予算には限界がありましたが、うちのアーティストたちも必ず成功すると信じていたので、我々が投資をしました。その結果、とても成功した「デスティネーション(※)」での事例になり、地域の経済発展や文化的成長を促し、街はルミナで盛り上がっています。

そこで、私たちはこのルミナのフォーマットを作りました。それで、日本の何処かでそこに暮らす人々とコラボできればと思っています。

※ モーメントファクトリーでは、作品(WORK)を「ショー(SHOWS)」と「デスティネーション(DESTINATIONS)」の2つのカテゴリーに分けており、デスティネーションには、公園、レクリエーション、公共の場所、アリーナ、スタジアム、リゾート、カジノ、店舗などでの作品がカテゴライズされており、その作品がある場所や施設が「デスティネーション」と呼ばれています。

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モーメントファクトリー「フォレスタ・ルミナ」より

■ ルミナをきっかけに地域の雇用や文化が生まれることは予想していなかった

齋藤  :
モーメントファクトリーは、地域住民や地方自治体と一緒に仕事をしていますが、必ず経済的な問題があると思います。ルミナには自ら投資をしたと言っていましたが、資金的には成功していますか?
ドミニク:
ルミナの一年目の夏は、一晩300人のつもりでの計画だったですが、実際には毎晩、約1,700人が訪れて、投資金額は直ぐに回収出来ました。なので、それからも新しいルミナに投資をしています。

ビジネスモデルの期間は最長5年間で、出資者は、プロジェクトによって政府、地方自治体や、「デスティネーション」自体、例えば動物園のような既にアトラクションを持っている組織が投資を行う場合もあります。それぞれの場所にそれぞれの出資者がプロジェクトに関わっていることになります。
齋藤  :
そうしたフレームワークは、観光客がたくさん来ない地方都市を実際にインキュベート出来るという点で、本当に良いですね。地域経済全体が盛り上がり、地元の人たちも喜んでいるんですよね。
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モーメントファクトリー チーフ イノベーションオフィサー ドミニク・オーデット氏

ドミニク:
予想していなかった副産物なのですが、ルミナをキッカケに人々が団結して、新しいホテルやレストランなど雇用や文化を創出できたのです。流出に悩んでいた地域も人が戻ってきたり。モーメントファクトリーにとって嬉しい驚きでした。エンターテインメントを提供している我々が、エンターテインメント以上の大きなものを創り出すことが出来ることに気が付いたのですから。単に人々が楽しみながら繋がりを持つことができるエンターテインメントというだけでなく、コミュニティに本当のインパクトを与えることが出来たんです。

その際に大事なことは、我々のチームの"内側から溢れる衝動"なんです。どうすればコミュニティ単位での持続可能なモデルにできるのか? 手助けをしたいという想い、そうした想いもプランの一部なのです。現地の人たちと繋がりを持つことはその大切な衝動を起こす大事なプロセスなのです。なので我々は毎回プロジェクトスタート時には1週間の地元の方とのワークショップを行ないます。
齋藤  :
スタート時には2、3年後にルミナが世界的に大きくなると思っていましたか?
ドミニク:
いえ。私たちや皆が大好きなプロジェクトに過ぎず、とにかく出来るだけ素晴らしいプロジェクトにしようと思っていただけでした。まさかこのような大々的に世界中を引きつける力を持ち、メディアで取り上げられるとは思ってもみませんでした。でも、森が引き起こす何か...... 例えば、森の中でキャンドルを灯すと、みんな「おーー!」と言って、入り込んでいく感覚がとても独特で、本当に素晴らしいと思います。なので、私たちはその面においてもとてもラッキーです。

また我々はとても根源的なものを作り上げたと思っています。自然という揺るがないルーツとつながることで、投資家が大きなビルを建設して人工的な「デスティーション」を作り上げるよりも、大きな価値と本質的な成長に繋げられたのだと思います。最初の閃きでルミナに相応しいDNAを与えることができたと思っています。
齋藤  :
フィロソフィーの面で、モーメントファクトリーとライゾマティクスは凄く似ていると思います。私が今でも信じていることがあって、私たちが楽しめることを他の人と共有すれば、その人たちも楽しめると信じているんです。
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ライゾマティクス・アーキテクチャー 齋藤精一氏

■ アーティストがぶつかる財政的な問題をどう解決するのか?

--お二人とも同僚の方がアーティストだと思うのですが、ビジネスや財政面において、どのように組織を運営していくのでしょうか?

齋藤  :
それは世界中のアーティストが悩んでいることですが、どうやって収益化するかということだと思います。アーティストにとってはお金が得られるかどうかはどうでも良いことでしょうけれど......

私たちライゾマティクスのルーツをひとつお話します。私は昔、建築の学校を卒業した後にランドスケープアートを製作していました。(真鍋)大度はサウンドアートと、ヴィジュアルアートを手掛けていましたが、当然、私たちはアートでお金を得ることは出来ませんでした。そこで、テクノロジーや技法、理論を使って商業的なものを作ろうと決心しました。しかし、アーティストだった私たちには、そのような学習プロセスもなく、教育も受けておらず、10年前はそんな感じで、開業したのでビジネス面では悩むことが多かったです。

そして3年ほど経って、アートプロジェクトと商業目的のプロジェクトがかなりシンクロしているということに気が付いたんです。これは嬉しい発見でした。ただ、そのプロジェクトの社会的意義、経済的意義を考えるのはよくても「ビジネス」として考える事が適切ではない、ということにも気が付きました。
ドミニク:
モーメントファクトリーは、どちらかと言うとアートよりもエンターテインメント色の方が強く、アートはとても尊敬をしていますが、カナダでは政府がアーティストのための基盤を築いているので、モーメントファクトリーとしては、その基盤はアーティストの方々のためにあるべきで関わるべきでないと考えています。

なので「アート&エンターテインメントスタジオ」と呼んでいますが、実際はエンターテインメントスタジオですね。我々の人材の多くは、アーティストで、彼らがインスピレーションを受け、それを実現するために私たちが支援を行うのです。それこそが、エンターテインメント企業であるモーメントファクトリーの気持ちであり、魂なのです。
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--モーメントファクトリーでは"We do it in public"と掲げていて、そういったパブリックな場所でプロジェクトを行う意義はなんでしょうか?

ドミニク:
モーメントファクトリーを始めて2、3年経った時、自分たちの目的が分かり、よりニッチでパーティーの雰囲気があるライブエンターテインメントに絞ることに決めたんです。当時の私達にとっては、人々が楽しい環境でお互いに繋がりを持つこと、社会での生活のほうが、より重要と考えていたからです。

そして15年ほど経った今、これまでよりもさらにそれが重要になっていると思います。人々はFacebookなどでヴァーチャルライフを楽しんでいますし、ヴァーチャルなソーシャルイベント等もあります。でも、それらはデジタルな世界での話です。

当初は、内なる直感だった我々の狙いが、将来どれほど現実の問題に直結していくのかは分かっていませんでしたが、結果として非常に関連性があったのです。今では、我々が" We do it in public"という、人々を集めて感情が伴った人間らしい方法で繋がるというその目的を掲げ、非常に関連性を持つ様になりました。

選ぶことができる道はたくさんありましたが、この道を選んだことをうれしく思っています。
齋藤  :
全く同感です。そうしたことは本当に重要で、かなり深くメディアアートの本質に関わっています。実は追求しているメディアアートの一部として、実は2回ほど試験的にやってみたんです。しかし、実施する際はいつでも......

例えば、スタジアムでのライブや、ストリートパーティーやお祭りをやったりしても、街で日本人を見かけると、みんな自分の携帯端末を見ています。
ドミニク:
それが今の世の中ですよ、日本だけに限らずそれは世界中どこも一緒です。本当におかしなことですよね。
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「食神さまの不思議なレストラン」展より

■ 人間同士のつながりや実体験に対する評価が戻ってきている

ドミニク:
今はそうしたことに立ち向かうために、テクノロジーをハッキングしてるような感じです。VRは我々にとって敵なので、VRを買うことを決心するまでに時間がかかりました。しかし、テクノロジーを修得する必要があったので買いましたよ。なぜなら、その次にはARが来て、そしてMR(ミックスド・リアリティ)が来ます。まだ戦いを挑む必要はなく、受け入れてテクノロジーを修得することで、ハックできるようになれば、人々をまた集めることができるんです。

我々にとってスマートフォンは、中心がないリモコンやセンサーなのです。しかし大事なことは、人間のつながりを優先することです。それを見失わないことはとても大切なことです。だから、我々の会社はそうしたテクノロジーの利用のバランスをとることの手助けをしていると思っています。
齋藤  :
実は、私がアートをやっていた時に、アートがお祭りに勝てるのか?と、自問したことがあるんです。そこで、アートとお祭りをミックスしてみたのですが、もちろん私たちが負けました。だからこそ、人々は一緒に集まるだけのパワーを持っているんです。同じことを感じ、同じ方向に向かうことに幸せを感じる心はまだ皆持っているんですよね。
ドミニク:
ええ、今の人々は様々なデバイスやインターフェイスをたくさん持っています。でも、いつかバランスが元に戻ることを願っていますし、それを確信しています。バランスが戻れば、本当の人間のつながりの価値が大きくなって、ビジネス的にも良いと思うんです。

アメリカのコーチェラ・フェスティバルなどのお祭りのチケットはとても高額ですが、みんな半年前からお祭りに行く準備を始めるのです。人間同士のつながりや実体験に対する評価が戻ってきているんです。それはビジネス的にオーガナイザーにとっても良いことですが、この道で仕事をしているアーティスト達とっても良いことだと思います。人々にとってもね。

--最後に、これから日本でも、今回の『食べ神様』やライブエンターテインメントなど、モーメントファクトリーの作品を見る機会が増えると思うのですが、見る人にはどういったことを感じて欲しいでしょうか?

ドミニク:
日本に来た一番の目的は、日本人同士の人々の繋がりを生み出したいという所にあります。イベントの大小やテクノロジーの新旧に関わらず、私たちが作るものを通してみんなで共に楽しんでもらう、Facebookやスマホやビデオから離れて公共の場でみんなで共に楽しんでもらう、というが私が一番目指したい部分です。
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共にレイブやクラブのパーティーカルチャーにルーツを二人。我々を魅了するスペクタクルやイリュージョンを生み出すその背景には、人々を集わせ、共に楽しみ、互いに繋がりを生み出したいという強い想いと願いがあった。モーメントファクトリーは5月に東京のオフィスをオープンさせ、今後、日本でも彼らが手掛けたものを直接目にする機会はさらに増えることだろう。そこでの新たな繋がりから、我々の社会により良い循環が生み出されていくのかもしれない。

取材・文:サイトウタカシ

TV番組リサーチ会社を経て、現在フリーランスのリサーチャー&ライター。映画・アニメとものすごくうるさい音楽とものすごく静かな音楽が好き。
WEBSITE : suburbangraphics.jp

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