MRはテレビをどう変える?拡張される未来の視聴体験

2019.03.05 10:00

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(左から)藤井彩人氏、須田和博氏、齋藤精一、落合陽一、草野絵美

「拡張される未来の視聴体験」をテーマに行われたSENSORSサロン。ゲストに迎えたのは、須田和博氏(株式会社博報堂)と、藤井彩人氏(日本テレビ放送網株式会社)だ。

全3回にわたってお届けする第1弾記事では、「VR」「AR」と並び注目が集まる「MR」について、基礎知識を深めていく。「MRの最終ゴールは、現実と仮想の相互関係をつくること」だと話す藤井氏によると、その活用幅の広さに期待が寄せられているという。

さらに須田氏は自身が手掛けた、国宝「風神雷神図屏風」とMR技術を組み合わせたプロジェクトを例に挙げながら、「VRとMRの違い」を説明した。

「MRコンテンツを製作する機会が多い」と話す落合・齋藤と共に、MRの可能性を探っていく。

草野 絵美(以下、草野):こんにちは、番組アシスタントの草野絵美です。そしてMCは、日本を代表するクリエイター集団、ライゾマティクス代表の齋藤精一さんと、メディアアーティストの落合陽一さんです。

前回は体調を崩してお休みをいただき、すみませんでした。 お2人はどうやって体調管理されているんですか?

落合 陽一(以下、落合):齋藤さんに影響されて鼻うがい始めましたよ。

齋藤 精一(以下、齋藤):めちゃめちゃいいですよね。

草野:鼻うがいするのに何か道具が必要なんですか?

齋藤:ボトルに生理食塩水みたいな液体を入れてグチュグチュってやるんですよ。

落合:鼻うがい始めてから、風邪引かないですね。

草野:私も早速やりたいと思います。

MR技術は、現実を拡張する。VR技術との明確な違いとは

草野:今回SENSORSが注目したテーマは「拡張される未来の視聴体験」です。VRやARなどの技術が身近になってきているなかで、新しい仮想空間「MR」を楽しむための技術にも注目が集まっています。 そんなMRを実際に体験しながら、今後の生活がどのように変わるのかを深掘りします。MCのお二人は、仕事でMRを活用されることも多いのではないでしょうか?

落合:MR・VR・ARに関する研究はよくやっていますね。仕事では、MRコンテンツの製作依頼を受けることが多いです。

齋藤:うちも、コンテンツ製作をすることが多いですね。今日は、MRが今後どのように社会に実装されていくのかを聞けるということで、楽しみにしています。

草野:それではゲストをご紹介します。今回お越しいただいたのは、株式会社博報堂の須田 和博さんと日本テレビ放送網株式会社の藤井 彩人さんです。

お二人の簡単なプロフィールをご紹介させていただきます。須田さんは株式会社博報堂でアートディレクター・CMプラナーを経て、2005年からインタラクティブ領域へ。2014年に同社内で新しい広告の発明を目指す自主実験チーム「スダラボ™」を発足。同ラボで発明された「田んぼアート」を活用した「RICE CODE」でCannes Lions 2014【アウトドア部門】【PR部門】Goldを受賞されました。去年からアドミュージアム東京にて開催されている 「20 世紀広告研究会」のプロデュースも務めていらっしゃいます。藤井さんは日本テレビのチーフアートディレクターとして、SENSORS ゙をはじめ数多くのバラエティ番組などのタイトルデザインやCG制作を手掛けていらっしゃいます。近年では、VR・AR・MR などの分野にも挑戦されており、同社内のMRプロジェクトのリーダーを務めていらっしゃいます。よろしくお願いします。

一同:よろしくお願いします。

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草野:MCのお二人は、ゲストの方々と面識はありますか?

落合:須田さんと齋藤さんと三人で仕事をする機会が多いですね。

齋藤:須田さんが広告賞の委員長をやっていらっしゃるので...。

須田和博氏(以下、須田):お世話になってます。

齋藤:もちろん藤井さんにも、いつもお世話になってます。

草野:SENSORSのロゴは、藤井さんが作られたんですよね。

藤井彩人氏(以下、藤井):そうですね。番組開始時から変わっていないので、もう4年半以上使ってもらっています。

草野:あのロゴ、すごくかっこいいですよね。

藤井:ありがとうございます。

草野:さて、本日のテーマ「MR」ですが、博報堂、博報堂DYメディアパートナーズと日本テレビの3社で共同開発しているMRコンテンツがあると伺っています。こちらについて、詳しくお話を聞いていきたいと思います。まず、MRとはどのような技術なのでしょうか。藤井さん、解説をお願いします。

藤井:MRとは「Mixed Reality」の略語で、日本語に訳すと「複合現実」です。サングラス型のスマートグラスなどを装着して楽しむもので、現実世界に3DCGを重ねて楽しむことができるんです。最近では3Dスキャンをした人物も投影できるようになり、今後活用の幅が広がると期待されている技術です。

草野:将来的に背景は現実世界だけど、CGで作られた人物と会話ができるようになったりするんでしょうか。

藤井:MRの最終ゴールは、まさに現実と仮想の相互関係をつくることです。そこにはまだまだ至ってはいませんが、今後挑戦していきたいです。

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齋藤:VRとMRの大きな違いはどのようなところにあるのでしょうか?

藤井:VRはコンテンツの背景も仮想世界なのですが、MRはあくまでも現実世界と仮想世界がミックスされたものです。そこが一番の違いですね。

須田:1年くらい前に、京都の建仁寺でHoloLensを使って国宝の「風神雷神図屏風」を見るプロジェクトを実施したんですよ。実際に京都に足を運び、「風神雷神図屏風」を前にして3Dを出現させるという点が、100%仮想空間を楽しむVRとの違いだと思います。

草野:落合さんは、MRでしかできないことってなんだと思いますか?

落合:現実の解像度って、ナチュラルコンピテーションがかかっているんですよ。つまり、光が空中に飛んで物体に当たって跳ね返ってくるまでの時間は、コンピューターで正確に計算できます。だから、仮想空間に何かを出現させるよりも簡単なんです。肉眼を通して見る映像は、識別可能な信号の最小値と最大値の比率が非常に高いので、その比率に合わせてCGを出現させるといいかと思いますね。

草野:MRは「複合現実」と言われていますが、文字通り現実と仮想がミックスされる感覚は生まれるのでしょうか?

齋藤:現実世界の座標に合わせて仮想コンテンツが表示されるので、感じられると思いますよ。

藤井:VRとMRそれぞれにいいところがあるので、用途に応じて使い分けることが大事だと思いますね。どうしても「どっちが優れているのか」といった議論に発展しがちですが...。VRは「没入」がキーワードになっていますが、MRは没入よりも現実世界を「拡張」するといった役割の方が大きいんですよね。

草野:同時に複数のコンテンツを見ることができるんですね。

藤井:そうですね。

須田:MR技術の面白いところは「施工が必要」となることです。現実世界にCGを重ねるから、現実側での建て込みが必要になってくるんです。そこが今までのCG製作とは大きく違う点ですね。

齋藤:情報補完もできますしね。そういえば昔、拡張現実ソフトウェアの「セカイカメラ」ってありましたよね。あれもMRではありましたが、デバイスがiPhoneだったので技術に追いつけなかったんです。その後にスマートグラスの「Google Glass」が出てきて。MRはどんどん進化しているんですよね。

「初めての仮想現実は、小学生」落合陽一の原点となった体験とは

草野:ゲストのお二人は、もちろんMR体験をされたことがあると思いますが、初めて仮想現実を体験されたのはいつですか?

落合:ソニーが販売していたヘッドマウントディスプレイ「グラストロン」を買ってもらった時かなぁ。父親か母親がビンゴの景品で当ててきたんですよ。

草野:何歳の頃のお話ですか?

落合:Windows95が出た頃なので、8歳とか9歳とかだと思います。

齋藤:僕が初めてグラストロンに触れたのは、六本木ヒルズができる前にあった建物「THINK ZONE」の中ですね。当時そこでグラストロンのイベントが行われていて。

落合:1998年とかですかね。僕は小学生でした。

草野:そこに落合さんの原点があるんですね。

落合:でもHoloLensとは比べ物にならないほど、チープなものでしたよ。画面も小さかったですし。

草野:グラストロンもメガネ型なんですか?

齋藤:そうですね。基本構造はHoloLensと同じです。

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草野:最近はMR体験をすることが増えていますか? 落合:HoloLensを持っているので、たまにかけますけど...。やっぱり初めてHoloLensをかけた時は衝撃的でしたね。周りに「ホロ馬鹿」がすごい増えました。HoloLensを首から下げたおじさん達(笑)。HoloLensかけながらルノアールでパソコン触ったりしていたのですが、流石に3ヶ月が限界でしたね。HoloLensは大画面で楽しめるし、もうちょっとかっこよく持ち運べるものだったら、日常的に使いたいんですけど。

齋藤:グラストロンよりもHoloLensの方が解像度が高いので、より近くで映像を楽しめるんですよね。でもテレビ業界は、早い段階で最新の映像合成技術を取り入れていましたよね。CGの背景がカメラワークと合わせて動く「マッチムーブ」とか。

藤井:スタジオ技術は早かったですね。でも一般視聴者が実際にMRを楽しむためには、HoloLensのようなものが必要だと思います。

草野:HoloLensっていくらぐらいで買えるものなんですか?

落合:40万円くらいじゃない?

草野:現状、MRが楽しめるのはHoloLensだけなのでしょうか?

落合:いや、kick starterとか見れば色々な種類がありますよ。

藤井:Magic Leapとか。

草野:VRだと段ボール製のデバイス「ハコスコ」もありますよね。VRはだいぶ身近に楽しめるようになっていますが、MRデバイスは価格が高すぎて、手が届かない人も多いと思います。デバイスの価格も普及の鍵なのではないでしょうか。

齋藤:そうですね。

続く第2弾記事の前半では、博報堂、博報堂DYメディアパートナーズと日本テレビが共同制作した、MRCMが発表された。テレビ画面から飛び出したモデルと同じ空間にいる感覚を味わえる"未来のCM"を、落合、齋藤、草野が楽しんだ。

後半は、須田氏の信念「最古×最新=新しい普遍」をキーワードにトークが展開。須田氏は「どんなに技術が進化しても、人間の基本仕様は変わらない」と話す。クリエイターでもある齋藤も同意を示し「人びとを感動させるものは、形を変えても多くの人の心に響く 」と話した。

今や当たり前に存在するテレビをアップデートするために、MRはどのように活用されていくべきなのか。そのヒントを探っていく。

執筆:いげたあずさ

株式会社モメンタム・ホース所属のライター/編集者。ビジネス・テクノロジー領域をはじめ複数媒体で取材・執筆。 アパレル販売・WEBマーケターを経て現職。 映画と音楽が好き。未来の被服の在り方、民族学、伝統文化などに興味があります。
Twitter:@azuuuta0630



編集:小池真幸

ビジネス・テクノロジー領域を中心に取材・執筆・編集を重ねる。東京大学で思想・哲学を学んだのち、AIスタートアップのマーケター・事業開発を経て、現職。1993年、神奈川県生まれ。「人文知とビジネス・テクノロジーの架橋」に関心があります。
Twitter:@masakik512

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