江戸時代の人は、MRCMに驚かない。テレビに"慣れた"時代に必要な、表現の拡張

2019.03.12 10:00

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(左から)草野絵美、齋藤精一、落合陽一

「拡張される未来の視聴体験」をテーマに行われたSENSORSサロン。ゲストに迎えたのは、須田和博氏(株式会社博報堂)と、藤井彩人氏(日本テレビ放送網株式会社)だ。

全3回にわたってお届けする第2弾記事の前半では、博報堂と日本テレビが共同制作した、MRCMが発表された。テレビ画面から飛び出したモデルと同じ空間にいる感覚を味わえる"未来のCM"を、落合、齋藤、草野が楽しんだ。

後半は、須田氏の信念「最古×最新=新しい普遍」をキーワードにトークが展開。須田氏は「どんなに技術が進化しても、人間の基本仕様は変わらない」と話す。クリエイターでもある齋藤も同意を示し「人びとを感動させるものは、形を変えても多くの人の心に響く 」と話した。

今や当たり前に存在するテレビをアップデートするために、MRはどのように活用されていくべきなのか。そのヒントを探っていく。

「続きはMRで」テレビ画面からモデルが飛び出す、未来のCM

草野絵美(以下、草野):博報堂のMRチームと日本テレビのMRチームが、共同でMR用のCMを制作されたんですよね。

藤井彩人氏(以下、藤井):「MRを使ったテレビの拡張」を目指して、博報堂さんと研究開発を進めています。

当初我々は、プロ野球中継や音楽番組などの拡張を目指していたのですが、「テレビCMを拡張したらどのようになるのだろう」と考えるようになったんです。まさに須田さんの「スダラボ」がテレビCMの拡張に取り組んでいたので、ラブコールを送らせていただきました。

須田和博氏(以下、須田):お話をいただいた時、ハッとしたんです。「国宝は拡張したことがあるけど、博報堂の本職であるCMを拡張することは忘れてた!」と(笑)。半年ほどコツコツ開発してきたコンテンツを、今日お二人に体験していただきたいと思います。

草野 :それでは、早速完成したばかりののデモCMを゙体験してみましょう。本邦初公開ということなので、楽しみですね。それではよろしくお願いします。

(一同、スマートグラスを装着)

草野:はい。今装置を装着しましたが、これは何でしょうか?

須田:これは、Microsoftの「HoloLens」です。Mixed Realityデバイスですね。

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落合陽一(以下、落合):草野さん、超似合いますね。

草野:これをつけてライブしたいですね(笑)

藤井 :3Dディスプレイを搭載した一体型のデバイスで、この中にノートパソコンが一台入っているようなイメージです。いわゆるプロセッサやセンサーなどが全てこの装置の中に入っています。

草野:ここにすべてインストールされているんですね。それでは、実際に体験してみましょう。

(一同、ビールのデモCMを視聴)

草野:すごいですね。画面から人が飛び出してきたんですけど、ちゃんとこの部屋の床に座っていたし、立ち上がった時の身長もリアルでした。

須田:実際に本当の人物を三次元撮影しているので。「二次元のCMから、三次元の人が飛び出てくる」のが、このCMの肝になっています。

齋藤精一(以下、齋藤):30秒CMの続きを、MRで楽しめるんですね。

藤井:そうですね。「続きはWebで」の発展系とも言えるかもしれません。

齋藤:「続きはMRで」みたいな。

草野:落合さん、齋藤さん、いかがでしたか?

落合:モデルさんが、微妙に空中に浮いていましたね。

齋藤:MRの正当な使い方だと思います。いち消費者として視聴していたのですが、モデルさんが画面から出てくる瞬間は、やはりドキドキしますね。

須田:「CMの中に入りたい」と思っている方や「タレントが家に来たらいいな」と思っている方の気持ちに応えることができるコンテンツなんですよね。

草野:VRとはまた違う没入感を楽しめますね。

須田:すぐ側にタレントがいる感覚を楽しめるのは、新鮮ですよね。MRコンテンツの第一号としては、シンプルな企画ではあるのですが...。

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(左から)須田和博氏、藤井彩人氏

草野:これは、どうやって制作されたんですか?

藤井:「3Dスキャン」の技術を使っています。32台のカメラで動画を撮影すると、立体造形ができるんです。

須田:円筒形のスタジオの真ん中に、被写体となるモデルさんに入ってもらって撮影すると、動く人物が立体像としてキャプチャされるんです。

草野:私はそのスタジオを見たことがあるのですが、あの中でモデルさんに動いてもらうということですか?

須田:はい。円筒形のスタジオの中は白い床になっていて、そこで芝居をしてもらいました。

齋藤:これって、今視聴者の方にはどのように見えているんですかね。今、商品であるビールが目の前で回っているんですけど。

落合:なんかね、モデルさんの質感がテレビの画面にいた時と三次元に出てきた時で、微妙に違うんですよね。現実空間にいる割に軽いというか。

草野:ゴーストみたいでしたね。

落合:そうそう。あの軽さがいい感じなんですけど。浮いてる。

須田:色や明るさの濃淡の段階数が微妙に省略されているからですね。

落合:あの感じは第三者的でいいなと思います。ドキドキするけれど、あんまりエッチな気分にならないというか。

齋藤:リアルすぎない。

草野:一緒にロクロを回したくなりますね。

落合:それ、映画の『ゴースト』じゃん(笑)

草野:先ほどは座りながら視聴しましたが、次は動き回りながら自由視点で視聴してみましょうか。

(一同、自由視点で再度視聴)

草野:テレビ画面の近くに寄り過ぎると、モデルさんの全身が見えなくなっちゃいますね。

落合:確かに。画面に近づくと解像度が破綻するな。

須田:ちなみにHoloLensを縦にすると、全身が見えますよ。

齋藤:あ、壁に消えていった...。

草野:これは楽しいですね。

落合:「画面の中から人が出ない」と思って観ていると、驚きますよね。江戸時代の人が観たら、意外と普通の反応を見せるかもしれない。

草野:それはどうしてですか?

落合:「画面の中に人が入っている」と思うだろうから。そうしたら、人が出てきても驚かないじゃないですか。

草野:なるほど。

須田:その考え方はとても面白いですね。テレビって本当はすごい技術なのに、みんな慣れてしまって、麻痺しているんですよね。MRも、誕生当時のテレビみたいな感じなのかなと思います。

草野:今、ムーディーな照明の下で光り輝く人が出てきているからすごく綺麗なんですけど、もしも明るい蛍光灯の下だったらどういう風に見えていたのでしょうか?

藤井:明るくなると、若干人物像が薄れて見えます。

齋藤:暗めの照明の方が、3D映像が見えやすいんですよね。

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藤井:先ほど、MRは現実を拡張するものだとお話ししましたが、今回のCMをつくるためのディスカッションを重ねるなかで「何を拡張するか」が議題に上がりました。そこで挙がったのが、時間軸です。次に空間。そして表現です。MRを使えば、今までテレビだけではできなかった表現が実現できるだろうと話していたんです。まずはコンテンツをつくってみて、そこからブラッシュアップをしていこうと話していて、その第一弾が今回のCMです。

須田:色々な企画を考えたのですが、まずはいくつかつくってみて、体験してみようと。

草野:今後、MRCMは普及すると思いますか?

落合:HoloLensをかけながら、別のアプリケーションを使っている時にこのCMが流れたら、ビール買っちゃいそうですね。ただ、テレビを観ている時にHoloLensをかけているかはわからないですけど。

草野:齋藤さんはどうですか?

齋藤:本来CMって、コンテンツの合間に入るものじゃないですか。だから映画やゲームなど、他のMRコンテンツの合間にこういうCMが流れたらいいですよね。HoloLensはテレビほど熟成していないので、今後もっと小さくなったり、価格が下がったりすれば、もっと普及するのではないでしょうか。

落合:僕はHoloLensをかけながらNetflixを観ることが多いのですが、その途中でさっきのモデルさんが出てきて、ビールを宣伝されたら買っちゃうかもしれないですね。

草野:亡くなった俳優さんが出てきたりしても、グッときますよね。

齋藤:あと、Netflixで観ているドラマに出演している俳優さんがMRCMに登場したら「おっ」って思いますよね。

落合:たしかに。

クリエイターは「素朴さ」を忘れてはいけない。コンテクストを練りすぎると、一過性のブームで終わってしまう

草野:続いてはゲストのお二人を深掘りするため、それぞれが大切にしている思想や信念などを伺いたいと思います。まずは須田さんの信念「最古×最新=新しい普遍」についてお聞かせください。

須田:これは10年前から自分の中で大事にしているキーワードですね。今回制作したMRCMも古いものと新しいものを掛け合わせています。お酒のCMに女の人が出てくるのは、昔から使われているベタな演出じゃないですか。そこに最新技術であるMRを掛け合わせることで、人々の普遍的な欲求を満たすことができる。新しい技術は積極的に使っていきたいと思っているのですが、古典的な要素と組み合わせた方が、絶対に大勢の人に受け入れられると確信しています。MCのお二人も同じような考えを持っていらっしゃるのではないでしょうか?

草野:先ほど落合さんも、「江戸時代の人がMRCMを観たら、驚かない」と仰っていましたもんね。

落合:映像技術が発明されたのは1891年なので、江戸時代のずっと後です。映像技術がなかった時代の人がテレビを観たら「箱の中に人が入っている」と感じるでしょう。そういう人たちがMRCMを観たら、人が飛び出してきても驚くことはないと思いますね。我々は、映像作品を「カメラで撮影されたもの」と認識しているから、驚くんです。

須田:今や当たり前のようにテレビがあるから、「テレビが異物である」こと自体、忘れ去られていますよね。その概念を取り払うことで、まったく違う発想を持てるのだと思います。

落合:「テレビのリモコンを押してモニターをオンにする」といった行動様式がすでに決まっていますよね。だから、行動様式が定まらないようなコンテンツができたら面白いと思います。

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草野:須田さんの仰る「最古」には、伝統的な芸術や技術なども含まれるのでしょうか?

須田:そうですね。だから「国宝×MR」として「風神雷神図屏風」のプロジェクトを実施しました。あと、「原始人でも喜ぶことがしたい」と常に思っています。人間の根本的な部分は古代から変わっていないと思うので。

草野:MCのお二人も、古いものからヒントを得る機会は多いですか?

齋藤:いくら技術が進化しても人の形はそこまで変わらないじゃないですか。時代が変わって環境が変化しても、眼球の大きさや指の長さ、脳の作りなどはさほど変わっていない。昔、人びとを感動させたものは今でも多くの人の心に響くと思うんですよ。たとえば仏像鑑賞をする際に、語り部の方が話してくれる情報をMRで「見える化」することも、価値があると思いますね。「声の情報」をビジュアルに変換するというか。

須田:「手の仕様」も変わらないから、手に関するツールの仕様も変わらないと思いますね。

齋藤:特にクリエイターは「人間の仕様が変わらない」ことを前提にして、表現を考えなくてはいけないと思いますね。

落合:僕は、素朴さを忘れてはいけないと思っています。コンテクストを練りまくった後に出てくるコンテンツって、流行性を孕むんですよね。逆に素朴さを大事にすることで、普遍的なものをつくることができる。

齋藤:同感です。色々なコンテクストがつきまとうと、一過性のブームで終わってしまうんですよね。

落合:現代アートでも、素朴に撮影されたビデオアートはあまり古くならないけれど、とにかくコンテキストが盛られたアートは「ああ、今の時代っぽい」で終わっちゃう。時代性を孕むコンテンツも面白いんですけどね。

草野:その「素朴さ」とはまさに須田さんの仰る「最古」ですよね。

須田:そうですね。「誰でも分かる」ことが実はすごく大事なのだと思います。70年代の名作CMの中でも、今の若い人にも通じるものと通じないものがあるんです。通じるものは、誰でもわかるアイディアをもとにつくられているんですよね。

続く第2弾記事の前半では、藤井氏の信念「わかりやすい・効果的・特徴的のすべてを満たせ!」をもとに、トークが展開。長年に渡り、テレビ番組に関わるデザインを手がけてきた藤井氏が、大勢の人に好まれるデザインのあり方を明かす。須田氏は「テレビ業界も広告業界も、情報をわかりやすく伝えることが得意」だと話し、メディア業界における、MR活用に期待を寄せた。

後半は、須田氏が「さっぽろ雪まつり」で手がけたARコンテンツを紹介しながら、屋外でのAR活用の効果を説明した。初音ミク扮する「雪ミク」のARライブを鑑賞した落合は「懐かしい未来感がある」と絶賛。さらに多くの人間の心を動かす「ノスタルジー」についても議論が展開。最新技術でノスタルジーを引き起こす、次世代メディアのあり方を探る。

執筆:いげたあずさ

株式会社モメンタム・ホース所属のライター/編集者。ビジネス・テクノロジー領域をはじめ複数媒体で取材・執筆。 アパレル販売・WEBマーケターを経て現職。 映画と音楽が好き。未来の被服の在り方、民族学、伝統文化などに興味があります。
Twitter:@azuuuta0630



編集:小池真幸

ビジネス・テクノロジー領域を中心に取材・執筆・編集を重ねる。東京大学で思想・哲学を学んだのち、AIスタートアップのマーケター・事業開発を経て、現職。1993年、神奈川県生まれ。「人文知とビジネス・テクノロジーの架橋」に関心があります。
Twitter:@masakik512

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